つらつら日暮らし

7月18日 道元禅師が大仏寺に移動

今日7月18日は、道元禅師が吉峰寺から大仏寺に移動した日として知られている。『永平広録』巻2冒頭には次のように記載されている。

師、寛元二年甲辰七月十八日に当山に徙る。明年乙巳、四方の学侶、座下に雲集す。

寛元2年は「1244年」であり、前年の7月に京都を出られた道元禅師は約1年の寓居生活(吉峰寺、禅師峰)を経て、この日大仏寺に移られた。ただしこれは、上記文章を見れば分かるように、直ちに修行を開始したという意味では無く、翌年から「四方の学侶」が集まってきたことを示すように、とりあえず、京都から連れてきた弟子達とともに大仏寺に移動した、という意味で捉えるべきである。逆にいえば、大仏寺は何人かの収容・生活が可能なくらいに伽藍の整備が進んだと理解すべきなのだろう。その上で、後代の記録ではあるが、次のようなことが行われたとされる。

同(寛元二年)七月十八日、和尚を奉請して、開堂説法せしむ。爾時、和尚云く、「今日従り此の山を吉祥山と名づけ、寺を大仏寺と号す」、則ち頌を作して云く、「諸仏如来大功徳、諸吉祥中最無上、諸仏倶に来たって此の処に入る、是の故に此の地最吉祥なり」。
    『建撕記


道元禅師は当初、現在の吉祥山永平寺を「傘松峰大仏寺」と名付けたともされたが、15世紀の伝記資料では「吉祥山大仏寺」であったと伝える。これは、『永平広録』巻2冒頭の記載と一致しており、後者が正しかったものと思われる。また、同じく『建撕記』では、何故この場所を「吉祥山」と名付けたかが示されている。

是を吉祥山と名づくることは、帝釈宮の名にして、又、仏成道の時、吉祥草を敷き給う。今、地を夷って、伽藍を建立する処、吉祥なり。
    『建撕記』


このようにある。上記内容が事実かどうか、他の著作などからは確認出来ないが、道元禅師が敢えて「吉祥」にこだわった様子は理解出来る。ところで、先に引いた「開堂説法」だが、実際にはまだ「法堂」は完成していない。整地して、上棟式までは済んでいたが、建立中であった。ただ、その中で行った開堂説法なのであろう。

さて、この日から道元禅師は、翌年の「開単」に向けて、伽藍の整備などに力を尽くされた。法堂は寛元2年の9月に完成し、また、僧堂も完成し、修行僧の受け入れ体制は整った。『建撕記』ではその最中でも、修行僧相手に、幾つかの口宣を行ったことが紹介されている。

 又た、衆僧に告げて云く、「食は須く知足を以て、衣は正に倹約なるべし」と、慇懃に示し給う。「是れ古今の道者の用心なり、従来の衲僧の眼睛なり」と宣べ給う。
 今、此の意を註するに、食は知足とは、葉蕗ばかり成とも食すべし。其にて其日の命を養はば満足すと思え、従此上の望を作す事なかれとなり。又た、衣は倹約なるべしとは、紙衣ばかりでも寒を防ぐべしとなり。
    『建撕記』


「今、此の意を註する」以下は、後人による註記だと思われるが、道元禅師は食事は常に満ち足りていると思うように、衣は倹約をもって旨とするべきことを示したという。正直、ここまで追い込まれていたかどうかは分からないし、これは『随聞記』的なノリに近すぎる気がするが、とはいえ、『正法眼蔵』「行持」巻で示されるように、大梅法常禅師や芙蓉道楷禅師の行実を道元禅師が慕っていた事実はあるので、その辺を示したものともいえるだろうか。

亦た示して云く、「今見るに、諸方に道心ある僧稀にして、名利を求むる僧多し。彼等は仏法を慕わず、一心に只だ朝請を希う。此の類は、誰か是れ仏祖、誰か是れ外道と云う事をも知らざるなり」と。
    『建撕記』


道元禅師は更に、道心の有無と、仏祖か仏祖ではないかを判別するように、修行僧に促している。特に、「名利心の否定」は、本当に強く思うべきである。最近では、名利心をむき出しにして修行し、住職となる人も珍しくないが、これは徹底して避けるべきなのである。

なお、ここで紹介した2つの口宣は、前者は後に『永平寺庫院制規』となり、後者は「大仏寺での晩間上堂」にまで通じていく内容だと思われる。ただ、前者については本当に道元禅師が説かれた内容か、微妙なところもある。拙僧などはかなり懐疑的なのですが、とにかく厳しいイメージを道元禅師に持ちたい人には、受けが良い内容である。ただ、当時の永平寺の経営状態は、科学的調査によって明らかにされる時期が来ているように思う。そして、その調査に基づいて、我々は当時の状況をイメージするべきなのである。

今日は、そんなことを思いながら、記事にしてみた。

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