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寒さが一段と厳しく気温が落ち込み始めた12月11日。朝からどこからともなく猫が鳴く声が聞こえてきた。
何度も窓から見たり近所を見回ってもどこにも姿は見えない。だけど声は聞こえる。
「どこかの家で飼われてる子の声かしら?窓かなんか開いていて聞こえるだけかも」そう思って日長過ごしていた。
陽が陰り始め気温が落ちてきた夕方、大きな声で鳴く子猫の声がすぐ傍で聞こえた。急いで窓を開けると、隣の豪邸の高々そびえる塀の向こう側にいた!白黒のブチの小さな子猫がいた!
しかし、隣家は道路に面した部分はことごとく高い塀で囲まれており袋小路になっている。やむを得ず、隣家に直談判しに行った。奥さんが対応してくれ、逃がすことを約束しその晩は帰途についた。
二日後、またもやひときわ大きな鳴き声と別猫の威嚇する声が聞こえてきた。すでに日が落ち暗闇の中懐中電灯であちこち照らすと、前と同じ位置に身をすくめる子猫。対峙する成猫。
こりゃあかん!!…と再度隣家に訪問。なんと屋敷の背面側も正面ほどではないが高い塀で囲まれてるとのこと。どんだけ、世間から見られたくないのか…。しかし入れてもらうわけにもいかず、再度逃がす約束をして帰途…。
数日後の仕事から帰宅するとチャイムが鳴りインターホンには隣家のご主人。結果報告にきてくれたようだ。
一人ではどうすることもできず警察のご厄介になったと…。三日の逗留期限後、愛護センター行きとのことで土日は対応してなく平日は5時までと…。あのー今、金曜の18時過ぎなんですがーー!聞きしに勝る、ザ・お役所クオリティ!!!
もやもやする気持ちを抑えつつ、焦りまくる自分。悶々と週末を過ごしつつ、月曜の逗留期限に焦る。(土日対応してなくても三日間に含めるとかどうかしてるぜぇーーー!!怒)引き取り期限が迫ってることを考えるとグズグズしている時間はない。しかし、今仕事は休めない…。
意を決し区の保健所と連携し地域猫やTNR活動を長年精力的に活動されてるUさんへの連絡を考える。お願い事は全く持って苦手な私。また年の瀬ということもありUさんの負担になるのは歴然である。心臓漠々で経緯を書いたメールを送信した。なんと、こんな急なお願いにもかかわらず、快諾していただいた。人の優しさに、猫を思う人の温かさに触れた瞬間だった。涙
それからの二日間はあれよあれよと怒涛の時間に追われながらも連絡をマメに取り、無事引き取りも手術も検査も終了した。すべてUさんお一人で対応していただいた。状況に臆することなく、沈着冷静に物事を進めるUさんを改めて凄いと感じた。そして火曜の夕方、無事に小生宅へと引き取られたのである。
10日ほど前、たった壁一枚隔てた向こう側にいた、確かにいた小さな子猫が、多数の人間の手と思惑をくぐりながら我が家へたどり着いたのである。思えば不思議な巡り合わせだと思う。
今彼女は、ケージの中で少しかすれた小さな声で鳴いてごはんをせがむ。遊んでとせがむ。
――― この小さな体のどこからあんな大きな声がでたのか ―――
胸に迫るものがあった…。
抱っこもできスリスリもしてくる人馴れした可愛らしい子だ。捨てられたんだろうか…とぼんやり思いを巡らせながら彼女の要望に応える。一刻も早く良い家族を見つけてあげたい。いや、あげよう!
今から自分が子猫にできる精一杯のことだから。