後付け再構成
先日の文化勲章で、情報科学の甘利氏が受勲された。
本屋に行って情報科学関係のコーナーに行くと、この方がこの分野の権威(情報幾何学だそうだ)である事が良く分かる。だけど、どんな業績があるのか知らなかったのでネットで検索してみた。
すると、インタビュー記事から、人工知能関連の業績があり、主にニューラルネットワークと機械学習の話をされていた。
ただ、その中でとても興味深いトピックスを見つけた。今回はそれを紹介します。
ポストディクション
prediction(予測)という言葉は多くの方が知っておられるだろう。
プレ(pre)は「前」の意味であり、その反対がポスト(post)「後」の意味だ。
そこからの造語でポストディクション(postdiction)という言葉があるそうです。
以下、インタビュー記事からの引用です。
【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(5)情報幾何学の創始者、甘利俊一氏が見るAIの世界
https://www.sankeibiz.jp/aireport/news/160529/aia1605290700001-n4.htm
簡単に言うと、後付けで自分の行動や認識の意味を書き換え、再構成する機能が脳にはあるというものです。
脳が再構成してしまうので、本人は錯覚したり、時には本当のことをしゃべっているつもりで嘘をついたりもするのです」
(インタビュワーの説明です)
ポストディクションとはプレディクションからの造語である。まだ辞書には載っていないが、「後付け再構成」と日本語訳されることがある。
感覚知覚系の非常に短い時間スケールでの反応から意識レベルの大きい時間スケールにおいてもポストディクションが起きているという。
ポストディクションの例として、選択盲があり、次のような実験がある。
男性に二人の女性の顔写真を見せ、好みの女性の写真を選ばせる。
写真を返してもらい、男性の目の前で男性に分からないように写真をすり替え、選んでない方の女性の写真を見せて、なぜこの女性が好みなのかを質問する。
そうすると、多くの男性は、今見ている写真の女性(選ばなかった方の女性)の魅力(選んだ理由)を語ったり、矛盾を無視して最初に選んだ女性の魅力を語るのだ。
好みの女性の写真を選ぶ、写真を返す、自分が選んだ写真(実はすり替えられた写真)を見せられる、選んだ理由を質問される、この一連のプロセスに疑いを抱いていないため、最初に選んだ女性のイメージの上に目の前にある写真の女性イメージを上書きして、再構成しているのである。
脳の整合性を担保しようとするメカニズムに起因するというような話もあるが、いずれにせよ、意志決定機能は結構曖昧なものらしい。
(ここからが甘利氏の話です)
「それとも関連するのですが、自由意志について、自由意志自体の議論は哲学的な解釈も絡んでくるので難しい話なのですが、1980年代にアメリカの神経生理学者であるリベットが実験をしているのです。
実験内容は、被験者に時計の針を見てもらって、任意のタイミングでボタンを押してもらうのですが、押そうと思った時と押した時の針の位置を計測するものです。
その時の手の運動や、脳活動の電位変化も計測します。その結果分かったことは、ボタンを押そうと意識するよりも先に脳が押すことを決めていたのです」
(またインタビュワーの説明文です)
自由意志とは、哲学の概念や定義は難しいので、直観的に言うと、自分の行動や判断は自分の意志で自由に自発的に決めることが出来る、という当たり前のことである。
その当然と考えられていたことを、ベンジャミン・リベットが実験で反証したのである。
頭や心の中で「ボタンを押そう」という意志が生まれる前に、既に脳神経活動が起こっていて、ボタンを押す準備をしているというのだ。ただし、この実験結果の解釈は様々にされていて、未だに結論には至っていない。
引用終わり
感想
後半部分は、他の記事を読むと、「ボタンを押す行為の0.35秒前に脳ではすでにボタンを押すという決定をしている」のだそうである。
だから誰でも、自分で意思決定しているつもりなのに、実は、自分が決める前に、もう既に脳が決めているという結論になるそうだ。
難しいので、なかなかコメントを書き辛いのだが、2つほど意見を書いておこう。
この実験結果と関連するのかどうか分からないが、自分はほぼ毎日小さなノートに毎日、日記を書いている。
たまに、それを読み返すのだが、「あの時、どう考えて、あんなに大事が決断が出来たのだろうか?」と思って、その出来事について、その日の前後の日記を読み返すことがある。
すると、いつも大事な決断前後のあたりは、どう考えたとかいう記載が全くなくて、突然、ポツンと何々をした、という記載があるだけである。
文中に「意思決定機能は案外いい加減なものだ」と書いてある。
そう考えると、ブログを書く事で自分の考えをまとめておくと、アホな間違いを犯してしまう抑止効果があるのではないだろうか。
誰でも、「また、やってしまった!」と同じ間違いを繰り返すのも、意識の再構成が不十分だからなのだろうか?
これから先、ポストディクションの研究が進めば、どんな事が明らかになるのか、とても興味深い。
次に、「物事は気がついた時に間髪入れずにそれを実行するのが一番効率が良い」と言われている。
これは神様が気がつかせてくれたと言う人もいる。
だから、気がついた時点で「脳はこれをしようと決断している」のだ。
それを、自分の意思で面倒くさいから、また今度と、次々と先延ばしにしてしまうと、自分が自分を騙したようになって、脳への負荷が大きくなり色々と悪影響を及ぼすのではないだろうか。
昔の人がよく言うように、「気がついた時に物事を片付けてしまうのが一番効率がいい」という意見は、脳科学的に見ても有効なのかなと思う。
もっと言うと、ひょっとして「あ、こうしたらいいのかな」と気づくのも実は「脳が決定したことが意識にのぼっただけ」なのかも、と思うと、ちょっとゾッとしてしまう。