12月も主に図書館本をよみました。
鈴木るりかという著者には驚かされました。
トップリーグ (ハルキ文庫)の感想
あまり身近に感じられない国の政治のお話。小説で読んだのは「民王」くらいのものです。記者という仕事の世界も初めて覗かせてもらいました。私は既に新聞を手にしなくなっていますが、政治、経済、生活など分野により取り組む対象は異なれど、真実を読者に伝えるという気持ちは放棄しないでほしいと感じました。何度も「誤報」というワードが出てきましたが、「虚偽」を報道する場合もあるので国民は様々な情報を比較してみることが必要なのかもしれません。それにしても70年代のロッキード事件から、これだけの物語に広げた手腕に感激です。
読了日:12月02日 著者:相場 英雄
愛なき世界 (単行本)の感想
舞台は東大理学系研究科生物化学専攻松田研究室。この描写がすごい。試験のメソッド、プロセディア、設備の表現まで実に丁寧になされていて、分野は異なるものの学生時代の卒研を思い出しました。松田研究室の面々の紹介や近くの洋食屋「円服亭」の描き方も上手に表現されています。調理専門学校を出て円服亭に勤める藤丸陽太は「艷福家」の意味も、東大紛争も知らないが、松田研究室でひたすらシロイヌナズナと向かい合う本村紗英を好ましく感じるところから物語が進みます。「顕微鏡を覗けばそこに求める全てが広がっている」では愛はいらないな。
読了日:12月05日 著者:三浦 しをん
【文庫】 隠蔽病棟 (文芸社文庫)の感想
今回のテーマの一つは政治的有力者である能力の低い精神科医師が引き起こした医療ミスの実態とそれを暴く過程であり、もう一つは作家ご本人の経験のもとに描かれたであろう壮絶なブラジル貧民層の実態です。また、死に至るような副作用を持った統合失調症治療薬のことや、エイズ治療薬の開発やジェネリック薬のあり方など、医薬品に関する知識には驚きました。そして、あまりにも軽く描かれた貧民街の住民の命にも思いを寄せざるを得ませんでした。国境のない医師団の話もアフガンで銃撃された中村哲医師のことを考えると心が休まりません。祈冥福。
読了日:12月05日 著者:麻野 涼
幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日 (幻冬舎新書)の感想
病院である患者さんがおっしゃるのです。「ある日吐血して病院に来たら検査の結果胃がんでステージ4だと言われた。胃は全摘したがその後抗がん剤や放射線の治療をすることもなく、痛み止めだけを処方してもらっている。明日は猫の様子を見に一時外出する予定だ。」と。びっくりです。そうなったときにどう対処するか、この本はそのヒントを与えてくれたように思います。
読了日:12月07日 著者:中山 祐次郎
運命のコイン(上) (新潮文庫)の感想
レニングラードから不法出国して向かった先は、ニューヨークなのかロンドンなのか。不思議な始まり方だか、アーチャーの筆に翻弄されて独特の世界にどっぷりと浸かってしまいました。才能ある二人?の天才の見えてこない未来が楽しみです。
読了日:12月09日 著者:ジェフリー・アーチャー
運命のコイン(下) (新潮文庫)の感想
1968年から1999年にかけてのロシア、UK、USAの政治経済活動を題材にしています。美術についてもそれなりの言及があるのがまたアーチャーらしい点です。KGBに翻弄されるロシアの家族がアメリカでまたはイギリスでの成功を成し遂げ、さらなる高みを目指して生まれ故郷に戻るのだが・・・。上下二巻を一気読みしました。
読了日:12月10日 著者:ジェフリー アーチャー
【文庫】 死の臓器2 闇移植 (文芸社文庫)の感想
前作を踏襲しているのですんなりとストーリーに入れました。腎臓移植についで心臓移植をメインテーマとしております。患者さんから見ればまだまだ臓器移植の環境は整っていないと感じられるのかもしれませんが、運転免許証や健康保険証の裏側に臓器提供の意思を表明する欄ができているなど、環境は整いつつあるのではないかと思います。物語は命のかかる移植行為に対して、臓器売買という裏の姿を描いた形になっています。主人公の取材範囲もついに米国に及ぶことになりました。警察官の登場が都合良すぎるのがちょっと残念です。
読了日:12月11日 著者:麻野 涼
八丁堀吟味帳「鬼彦組」 顔なし勘兵衛 (文春文庫)の感想
ああ、完結巻でしたか。嫁も決まってめでたしめでたしです。でも、この先、八丁堀「鬼彦組」は激闘編として更に続くようなので、もう少し追いかけてみます。
読了日:12月12日 著者:鳥羽 亮
トップリーグ(2)アフターアワーズ (ハルキ文庫)の感想
松岡が政権取り込まれて5年、父親の過去が明らかとなり改めて松岡、酒井、大畑、灰原の4人が政権に挑む。現実の内閣の動きを踏襲して現実感を高めたエンターテインメント。しかし、どうやってもこの日本という国は変わらないのかと諦めに似た気持ちにもなる一作でした。
読了日:12月14日 著者:相場 英雄
八丁堀「鬼彦組」激闘篇 狼虎の剣 (文春文庫)の感想
きくが彦坂新十郎に嫁して二年が経過。未だ子供がなく、母親ふねの口癖は「孫はまだ」に変わりつつあるようです。道場の建替えを願う道場主に良かれと食客の浪人が、対抗することになる道場主、師範代、門弟を惨殺する事件。これは力で対抗しなければ解決できない。一刀流の名手倉田左之助に居合の柳瀬源之助が加わり、壮絶な戦いが繰り広げられる。
読了日:12月14日 著者:鳥羽 亮
がん外科医の本音 (SB新書)の感想
私にとって「お医者」は敬意を払うべき相手です。ごく一部の非道な、不勉強な、傲慢な医者をもって医師全体を語ってはいけないと常に思っています。一方で、巷にあふれる健康食品やグッズの数々。ある意味気持ちが上向きになることによって病状が良くなることはあるのでしょうから、全面的に否定はしないまでも、あまりのTVやネットでの露出の多さにうんざりいたします。本書のたくさんのおすすめにいちいち頷いている私は、10年以上続けてきた人間ドック受診をやめようと決意いたしました。この歳になれば保険でまかなえる検査で十分です。
読了日:12月15日 著者:中山 祐次郎
ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録の感想
生薬や漢方薬に関わる真葛を主人公とした六話が納められています。心打たれたのは第5話の初雪の坂。現代でも春になると山菜と誤って鳥兜を食べてしまう人が出ます。これを意図的に行うのは犯罪です。第6話では打撲に用いられる治打撲一方や実証の方の更年期障害に使われる桂枝茯苓丸が出てきましたが、桂枝茯苓丸を堕胎薬として用いるのは初めて聞きました。作家はよく調べるものですね。
読了日:12月17日 著者:澤田 瞳子
ずっしり、あんこ(おいしい文藝)の感想
歳が歳だけに糖質は積極的に摂らぬようにしているのですが、本書を読んで無性にぼた餅を食べたくなりました。つぶ餡とこし餡の戦いぶりはほほえましく読ませて頂きましたが、こし餡の製造行程のなんと大変なことか。今後はこし餡ももっとしっかり味わいたいと思いました。
読了日:12月20日 著者:安藤鶴夫,糸井重里,武田花,平松洋子,上野千鶴子,村松友視
14歳、明日の時間割の感想
第一章は一時間目「国語」で、父親の描き方など中学生らしいと思いながら読み進めたのですが、その先には驚きが隠れていました。語彙も数々の引用も一朝一夕にはできないことで、その知識と表現に度肝を抜かれました。とても愉しく一気に読み終えました。これからの作品も楽しみにしたいと思います。
読了日:12月21日 著者:鈴木 るりか
さよなら、田中さんの感想
なんてこったい、と感じるのは作者がこのとき中学2年生だと知っているから。そんな前提なしに読んでも十分に楽しませてもらえます。大したもんだ。と思うのもまた上から目線ですね。さて、三上信也くん、死ななくてよかったね。田中さんはきっとたくましい女性になっていくことでしょう。
読了日:12月21日 著者:鈴木 るりか
きみはだれかのどうでもいい人の感想
人の関係が複雑であるうえに、必ずしも姓名を明らかにしない手法なのでこんがらがる部分があります。それは田邉陽子さんと同期の堀主任ともう一人人事部の元中沢環の上司の女性。この上昇志向の女性の名前が全く出てきません。稲葉さんかと思ったのですが、この名字は田邉陽子さんの旧姓のようですし。でも、肝心なところでうまい動きをさせています。堀主任の上司の課長も同期でしたね。複雑で何度も確認のためにページを行ったり来たり。あまり読み返すと私も暗い闇に引っ張り込まれるのではないかという気がして来ました。
読了日:12月23日 著者:伊藤 朱里
暗闘七人 八丁堀「鬼彦組」激闘篇 (文春文庫)の感想
Kindleではなく図書館の文春文庫版を読みました。激闘編になってからは武家が殺人者である事が増えてきました。廻船問屋松田屋をめぐり、番頭の宋兵衛と滝中藩の湯口留守居役が大金を私していたことから事件は起きた。倉田左之助と柳瀬源之助の戦いぶりが克明に描かれます。
読了日:12月23日 著者:鳥羽 亮
八丁堀「鬼彦組」激闘篇 蟷螂の男 (文春文庫)の感想
鎖鎌、少年漫画でその昔読んだような気がします。これが武芸18般の一つだっとは知りませんでした。倉田、ますます腕を上げたようです。
読了日:12月24日 著者:鳥羽 亮
老父よ、帰れの感想
認知症の父親を施設から引き取り介護するというストーリー。前半はその下の世話がどれほど大変かが綴られ、軽妙な文体にもかかわらず重い気持ちになり、なかなかページが進みませんでした。後半には終末医療について言及されますが、私も食欲がないにのに、無理に食事をさせたり、点滴で補ったり、胃瘻を行ったりはされたくありません。悲惨な延命治療を避けて、自宅で静かに看取ってもらえたらいいなぁと感じました。もっともこの作品で老父はまだまだお元気に過ごすようです。
読了日:12月28日 著者:久坂部羊
119の感想
題名は消防署への緊急通報用電話番号であり舞台を消防に据えた9篇のミステリー。消防関連の蘊蓄を絡めてあるので面白くはあるのですが、ミステリの構成が消防士の側に問題があるような作りなのでちょっと残念な気持ちになりました。だって大部分のメンバーは、毎日過酷な任務をこなしているのですから。一方「命の数字」ではとても上手に読者の心をつかんだように思えました。そのアイデアがとてもいいじゃありませんか。
読了日:12月30日 著者:長岡 弘樹
許されざる者 (創元推理文庫)の感想
北欧風の登場人物の名前には苦労しましたが、久しぶりに古典的な設定のミステリーに出会って楽しい時間を過ごしました。心房細動を原因とする脳塞栓症、70歳を越えると発生しやすくなると言われますが、120Kgの体重も問題ですよね。そんな安楽椅子探偵(実際は現場に行ったり行動的です)が時効を迎えた幼女殺人事件の謎に取り組みます。周りを固める人物もとても魅力的で、女性の地位も日本よりは平等であり、最近の難民問題などにも言及しており、北欧の匂いがニシンの酢漬けにとどまらず漂ってきます。おすすめの一冊です。
読了日:12月31日 著者:レイフ・GW・ペーション
読書メーター
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます