私は管楽器を演奏しておりますが、管楽器の命と言っても過言でない音色について色々と勉強して来ました。
以前は特にPP(ピアニッシモ)の高音域で悩んでいました、そんな中偶然出会えたのが声楽の発声法として知られているベルカント唱法を管楽器演奏に引用された奏法でした。
そこで何度も説明されているのは呼吸を含めた発声の仕方と地声の相違点でした。
そう言われればクラシックの管楽器音色とジャズ系音楽ではどの音域を問わず雲泥の差があります。
楽器を初めて手にして音を出したその延長で出す音と正しい息の流れを音に変える訓練をした結果とではあまりにも違い過ぎることを知りました。
以前音楽を食事に見立てて正統な食事とジャンクフードとの相違点を楽器演奏にも見出すことが出来ました。
近所属するアマチュアオーケストラでは年に数度声楽のプロに共演していただいた演奏会を催しております。
各年度ごとに団の運営側とソリストとの演目の打ち合わせが行われていますが、数年前に団側から「アナと雪の女王」を提案したところ『最近地声で歌われて人気のある曲はどうも・・・』と断られたそうです。
その点(地声)を意識して聴いてみると確かに国内外でもてはやされているのは地声での発声でした。
それ以来。発生の母音によっては聴くに耐えられない地声が受け入れられなくなってしまいました。
口先で歌うのは論外ですけど、特に高音域で喉を締め上げるような発声は駄目です。
最近のテレビでの歌番組は全てと言って過言でない程に地声で溢れています。
クラシックコンサートでの正統な声楽をもっと日常的に聴ける環境が欲しいと思う今日この頃です。
小説「Obralmの風」
新緑を揺らせる微風を感じながら岳はバス停までの坂道を下った。
鶯が道端の木立に居るのかまだ完璧ではない鳴き声で囀っている。
つかの間に得たスローライフも携帯の着信で現実の世界へと引き戻された。
それは顧客の保険トラブル発生で急遽神戸に戻らなくてはならなくなってしまったのだ。
仕事に従事している限りは仕方のないことなのだが、心の癒えを成さないままストレス社会へ戻らなければならないのは何とも言えない苦痛が心に広がる。
もうそんなに長くは生きられないのだから社会という組織に無理して従うこともないと、心の一部で抵抗する部分が生じて来たと同時に、退職して残された時間を悔いのないものにしたいというナチュナルな欲望が芽生え始めた。
(そうするか・・・)
岳は車窓から一昨日見た景色を反対に見つつ神戸に戻った。
トラブルと言えば胃に穴が開くほど痛くて重いのが常だが、人生の終焉を告げられた岳にとって大した問題ではなくなっていた。
もっと早くにこのような気持ちの切り替えが出来ていたのなら発病することもなかったかもしれないと岳は苦笑した。
失うものが無いような心境は大きな気持ちになり、ある種の開き直りを得たようでトラブルの交渉はそう難儀なことではなかった。
事情を知らない職場の仲間達は岳が急に悟りを開いたような空気を醸し出したことに少し戸惑っている。
トラブルが片付いた日の夕方、岳は部長の遠藤に退職の話をすることにした。
「部長、今夜少しお時間いただけませんか?」
「何や急に、ええよ。ほないつものレストランへ行こか」
こんな場合通常なら居酒屋なのだろうが、遠藤は近くの高層ビル一階にあるレストランが気に入っていた。
「じゃあ予約しときます」
岳は終業後予約しているレストランで遠藤を待った。
「やあ、待たせたな。今日はえらい強風やね」
そう言いながら薄くなった頭髪を手で整えた。
「君は何飲む?僕はいつものワインがええなあ」
遠藤は目を輝かせながらメニューを見た。
職場では決して見せない彼の一面である。
「部長はそのメニューを見てはる時が一番幸せそうですね」
「これで持病の痛風がなかったらこの世はパラダイスなんやけどなあ」
やがてボーイを呼んでお気に入りのワインを注文すると真顔に戻った。
「それで、改まって話しって何や?ようやく身を固める気になったんか?」
「いえ、そんな話やったらええんですが残念ながら別です」
「そうか、せっかく仲人を引き受けさせてもらうつもりやったのに」
「実は、今月で退職させて頂こうかなと考えてまして」
「なに!」
遠藤が突然大声で叫んだので、ワインを運んできたボーイは目を丸くして驚いた。
以前は特にPP(ピアニッシモ)の高音域で悩んでいました、そんな中偶然出会えたのが声楽の発声法として知られているベルカント唱法を管楽器演奏に引用された奏法でした。
そこで何度も説明されているのは呼吸を含めた発声の仕方と地声の相違点でした。
そう言われればクラシックの管楽器音色とジャズ系音楽ではどの音域を問わず雲泥の差があります。
楽器を初めて手にして音を出したその延長で出す音と正しい息の流れを音に変える訓練をした結果とではあまりにも違い過ぎることを知りました。
以前音楽を食事に見立てて正統な食事とジャンクフードとの相違点を楽器演奏にも見出すことが出来ました。
近所属するアマチュアオーケストラでは年に数度声楽のプロに共演していただいた演奏会を催しております。
各年度ごとに団の運営側とソリストとの演目の打ち合わせが行われていますが、数年前に団側から「アナと雪の女王」を提案したところ『最近地声で歌われて人気のある曲はどうも・・・』と断られたそうです。
その点(地声)を意識して聴いてみると確かに国内外でもてはやされているのは地声での発声でした。
それ以来。発生の母音によっては聴くに耐えられない地声が受け入れられなくなってしまいました。
口先で歌うのは論外ですけど、特に高音域で喉を締め上げるような発声は駄目です。
最近のテレビでの歌番組は全てと言って過言でない程に地声で溢れています。
クラシックコンサートでの正統な声楽をもっと日常的に聴ける環境が欲しいと思う今日この頃です。
小説「Obralmの風」
新緑を揺らせる微風を感じながら岳はバス停までの坂道を下った。
鶯が道端の木立に居るのかまだ完璧ではない鳴き声で囀っている。
つかの間に得たスローライフも携帯の着信で現実の世界へと引き戻された。
それは顧客の保険トラブル発生で急遽神戸に戻らなくてはならなくなってしまったのだ。
仕事に従事している限りは仕方のないことなのだが、心の癒えを成さないままストレス社会へ戻らなければならないのは何とも言えない苦痛が心に広がる。
もうそんなに長くは生きられないのだから社会という組織に無理して従うこともないと、心の一部で抵抗する部分が生じて来たと同時に、退職して残された時間を悔いのないものにしたいというナチュナルな欲望が芽生え始めた。
(そうするか・・・)
岳は車窓から一昨日見た景色を反対に見つつ神戸に戻った。
トラブルと言えば胃に穴が開くほど痛くて重いのが常だが、人生の終焉を告げられた岳にとって大した問題ではなくなっていた。
もっと早くにこのような気持ちの切り替えが出来ていたのなら発病することもなかったかもしれないと岳は苦笑した。
失うものが無いような心境は大きな気持ちになり、ある種の開き直りを得たようでトラブルの交渉はそう難儀なことではなかった。
事情を知らない職場の仲間達は岳が急に悟りを開いたような空気を醸し出したことに少し戸惑っている。
トラブルが片付いた日の夕方、岳は部長の遠藤に退職の話をすることにした。
「部長、今夜少しお時間いただけませんか?」
「何や急に、ええよ。ほないつものレストランへ行こか」
こんな場合通常なら居酒屋なのだろうが、遠藤は近くの高層ビル一階にあるレストランが気に入っていた。
「じゃあ予約しときます」
岳は終業後予約しているレストランで遠藤を待った。
「やあ、待たせたな。今日はえらい強風やね」
そう言いながら薄くなった頭髪を手で整えた。
「君は何飲む?僕はいつものワインがええなあ」
遠藤は目を輝かせながらメニューを見た。
職場では決して見せない彼の一面である。
「部長はそのメニューを見てはる時が一番幸せそうですね」
「これで持病の痛風がなかったらこの世はパラダイスなんやけどなあ」
やがてボーイを呼んでお気に入りのワインを注文すると真顔に戻った。
「それで、改まって話しって何や?ようやく身を固める気になったんか?」
「いえ、そんな話やったらええんですが残念ながら別です」
「そうか、せっかく仲人を引き受けさせてもらうつもりやったのに」
「実は、今月で退職させて頂こうかなと考えてまして」
「なに!」
遠藤が突然大声で叫んだので、ワインを運んできたボーイは目を丸くして驚いた。