カメラを持って出掛けよう

仕事と音楽の合間に一眼レフとコンデジで撮った写真を掲載しています。

音楽と日本人

2021年03月28日 | 音楽
YouTubeで音楽を見るようになってから音楽に接する聴衆の反応が浮き彫りに見えるようになって来ました。
その一例ですが京都の橘高校がアメリカでマーチングをしている動画を見て海外の聴衆の反応が素晴らしく、演奏者にとっても大いにやりがいがあると思います。
反面、日本でのマーチング動画を見ても聴衆は能面のような表情で演奏をどう感じているのかが演奏者には伝わりにくいという国民性が顕著に表れているような気がします。


ローズパレード2018 京都橘高校吹奏楽部 Kyoto Tachibana SHS Band






小説「Obralmの風」

 

数日後石田進から電話があり、岳はその夜大阪まで足を伸ばして梅田界隈の居酒屋で彼と会った。
「突然呼び出してすみません」
進は丁重に詫びた。
岳は彼が明子を伴って来るのではないかと淡い期待を抱いていたが、それは相手のことを考えない身勝手な空想であった。
「いや久しぶりに再開出来てうれしいよ」
岳は率直に明子の様子を聞きたかったが、しばらくは昔話や互いに住んでいた所の今昔に話が集中していた。
「ところで進君、先日電車の中で明子ちゃんのことを改めて話すと言ってたけど、よかったら聞かせてくれへん?」
「ええ、確かにそう言いましたけど、あの後余計なことを言ってかえってご心配をかけたと反省してるんです。それより久保さんの方こそ『死支度』なんて穏やかでないことをおっしゃって、僕はその方が気がかりですわ」
「いやあすまん、こちらの方こそ言わんでもええことを言うてもて余計な心配させたなあ」
岳は手を拭ったオシボリを丁寧に巻き直しながら言った。
「言わんでもええことって何ですか?余計なことやないですよ」
進はこのまま話がはぐらかされるのではないかと不安な色を漂わせた。
「実は僕こんなに元気そうに見えるけど医者から末期癌を宣告されてるねん」
「えーっ!?」
進は自分の声の大きさに驚き、思わず廻りの客の反応を見ると、改めて声を落として訴えるような表情で言った。
「末期癌?とてもそうは見えませんけど何処が悪いんですか?」
「膵臓や、今現在は痛みもないし外見もそんなに痩せてはいないし、何処から見ても健常者に見えるやろ」
岳は進むに余計な心配をさせまいと笑ってみせた。
「失礼ですけど、末期って医者はどう話をしてるんですか?」
「さあ、暢気な話やけど医者はそこのところをはっきり言わへんねん」
岳はビールを上手そうにひとくち飲んだ。
「ところで入院はいつからされます?」
進はビールを飲もうとはせず、両手にもったジョッキーの結露を親指で拭きながら岳の返答を待っている。
「病院に入ったところで遅かれ早かれ死ぬんやから、自力で動ける間はこのままで好きな事しようと思てるんや」
「でもそうは言うても治療すれば延命につながる可能性もある訳やし・・・治療をして下さいよ。せっかく再会できた訳やから、いつか姉も一緒に昔話をしながら飲みましょうよ」
「ありがとう、う言って励ましてくれるのは嬉しいけど、どうせ駄目なんやから与えられた時間を精一杯味わうわ」
「そうですか、それに比べると姉はまだ幸せなのかも知れませんね」
進は自分の言葉に納得したように軽くうなずくとビールを飲んだ。
「そうや、オレのことより明子ちゃんのことが気になるわ」
「姉は小学校の教諭なんですよ」
「そうなん、学校の先生か。彼女勉強が好きやったからなあ。それにしても君の顔色が冴えへんけど何かあるんか?」
「実は・・・、姉は現在休職してて家に引きこもりっきりなんですよ」
「引きこもり?何でや?」
「学校で父兄とのトラブルが相次いで、姉もその渦中に引き込まれて神経をすりへらしたらしいです」
進は何かを思いつめたように宙を睨み、悔しそうにため息をついた。
「噂には聞くけど今の教育現場って大変みたいやね」
「そうです、我々達子供の頃では考えられないことが起こってみたいです」
「こんな状況の僕が言うのも何やけど明子ちゃんの力になって上げたいなあ」
「ありがとうございます、そしたら近々機会を設けますんで姉に会って下れはりますか?姉も喜ぶと思います」
「ああ喜んで」
「ところでトラブルってどんな内容なん?」
「それは普通では考えられへん話の数々ですわ」
進はジョッキーを置いて話始めた。
「例えば・・・、学校側から保護者宛の行事案内をプリントにして生徒に手渡したことがあったそうで、たまたま一人の生徒がカバンに仕舞い込んでいて親に渡すのを忘れていたそうです」
「そりゃありがちなやな」
「そしたらその子の保護者は、学校へ文句を言いに来たそうです」
「何やそれ、文句の矛先が違うやん」
進は手振りを交えながら、少し苛立った口調になった。
「大事な行事予定の連絡方法を考え直せって苦情を述べたそうです。たまたまその日は校長が居なくて代わりの教諭が聞いたそうですが、その対応に満足出来ひんかったんか保護者はその足で市の教育委員会に乗り込んだそうです」
「へえ、信じられないようなクレーマーやなあ。その前に自分の子どもを叱れば済むことと違うん。アホみたいやなあ」
進は苦笑しながら横に首を振った。
「今はそれが当たり前らしいですよ。言ったもの勝ちってことです」
「そんな馬鹿げたことがあってええんか?増してや多感な子供等の教育現場で。誰が悪いやのうて親や学校の大人等が連携しあってこそ教育や思うけど」
岳は急にやり場の無い怒りが込み上げてくるのを覚えた。
「そうか・・・、明子ちゃんはそんな現実と向かい合ってるんか」
進は岳の表情を見て申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すんません、姉のことで余計なことを言うてしもて」
「ハハハ、ええんや」
岳は笑うことで心を平静に戻そうとしたが、標的のない怒りの種は消えなかった。
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