西洋音楽が主流のヨーロッパではクラシックコンサートに正装で出掛ける人が大半で、まるで高級レストランで食事をするかのように思えます。
考えてみればレストランは空腹を満たし、コンサート会場は心の栄養を摂取する場なのかも知れません。
演目というメニューをコンダクターが音楽のシェフとして独自の味付けをして聴衆に提供するのではないでしょうか。
正当な食事とジャンクフードの相違が音楽にもあって、心の栄養か一時的な刺激かの相違が音楽にもあるような気がします。
賑わい始めた有馬温泉街
話は変わりますが、有馬温泉街にも観光客委が戻って来ました。
行儀作法の良くない近隣国のインバウンドを当てにするのではなく、本来の国内観光客に喜んでもらう生業に切磋琢磨してこそ日本の商業ではないでしょうか?
何だか上記の話につながるような気がします。
小説「Obralmの風」
岳はしばらく樹木に覆われた道を歩きながら考えてみた。
今まで自分が生きてきた中で、このように自由な時間を味わったことはなく常に時計に追われていたような気がする。
どうして自分をもっと大切に考えて来なかったのかが今更のように悔やまれ、気が付いた時は既に遅しで、生の望みを絶たれる病に罹ってしまった。
過ぎ去った時間をあれこれ悔やんでみても何も解決はしないことは百も承知のはずなのに救われたい気持ちがどこからか満ち溢れてくるのを覚えた。
標高が高いせいもあるのか陽が傾くと風は少し冷ややかになってきた。
木立の間に見え隠れしていた春の夕陽は宍道湖方面に落ちて行き、風がサワサワと木立の音を立て始めると野鳥は声を潜め、忍び寄る暗闇と静寂が辺りを支配し始めようとしていた。
ペンションに戻るとダイニングには夕餉の香りがほのかに漂っていた。
主人は厨房から手招きした。
「お待たせしました、どうぞ料理が冷めないうちに召し上がって下さい」
「ほな馳走になります」
宿泊客は岳だけなのかダイニングには誰も居ない。
「どうぞお好きな席にお掛け下さい。今日は二組だけのお泊りですから」
岳は厨房に近い席に着いた。
やがて奥さんが前菜をテーブルに置いた。
「山の中で何もございませんが自然の食材を主人が料理しましたのでゆっくりお過ごし下さい」
彼女はもう一組の客用に食器を用意した。
岳は夕方見たジーンズ姿の若い女性を想像していたが、セットされた食器は二人分であった。(もう一組はカップルかな・・・?)
期待に反して現実はどうやら見当違いのようである。
それもそうである、こんな山中で静かに時間を過ごすのは熟年カップルをおいて他にないだろうとやや失望をしながら、主人お勧めのワインを口にした。
昼間の景色もさることながら、ゆったりとした時間の中で味わう赤ワインは最高であった。
メインディッシュの子牛ステーキが運ばれて来た時、客がダイニングに現れた。
岳の想像に反して客はタクシーで乗りつけたジーンズの若い女性だった。
彼女は端正な小顔で亜麻色に染めた髪は肩すれすれに伸びている。
先程見た濃紺のジーンズに松葉色のトレーナーを着ている。
彼女は岳を見るなり軽く会釈して席に着いた。
待ち兼ねていた奥さんに小声で何かを説明している。
岳の推測ではどうやら相方の到着が遅れているようである。
岳のテーブルの斜め前にセッティングされた席に彼女は背を向ける格好で座っている。
年はまだ若く二十代前半であろうか。
ネールアートした指を器用に使って携帯電話でメールをしている。
メールを発信し終えると携帯をテーブルに置き、腕組みをしたまましばらく宙を見据えているように動かない。
やがて返信があったのか着信のバイブがテーブルを唸らせ、静かなダイニングに響き渡る。
彼女は慣れた手つきでメールを読み、再び返書を打ち始める。
岳は彼女の後姿を見ながらその生活形態を想像してみた。
どうみてもOLではない、もしかしてまだ大学生なのかも知れない。
まともに勉学もせず自らを着飾ることばかりにエネルギーを費やしているのだろうか。
それともファショナブルな職種、例えばヤング層をターゲットにした衣料店の売り子、もしくは携帯ショップの従業員。
まあそんなところだろう、メールの相手もおそらく茶髪の軟弱な男だろう。
こうなれば食事を終えてもこの席に居座って相手の顔をとくと拝ませて頂こうという少し邪悪感情が湧いてきた。
考えてみればレストランは空腹を満たし、コンサート会場は心の栄養を摂取する場なのかも知れません。
演目というメニューをコンダクターが音楽のシェフとして独自の味付けをして聴衆に提供するのではないでしょうか。
正当な食事とジャンクフードの相違が音楽にもあって、心の栄養か一時的な刺激かの相違が音楽にもあるような気がします。
賑わい始めた有馬温泉街
話は変わりますが、有馬温泉街にも観光客委が戻って来ました。
行儀作法の良くない近隣国のインバウンドを当てにするのではなく、本来の国内観光客に喜んでもらう生業に切磋琢磨してこそ日本の商業ではないでしょうか?
何だか上記の話につながるような気がします。
小説「Obralmの風」
岳はしばらく樹木に覆われた道を歩きながら考えてみた。
今まで自分が生きてきた中で、このように自由な時間を味わったことはなく常に時計に追われていたような気がする。
どうして自分をもっと大切に考えて来なかったのかが今更のように悔やまれ、気が付いた時は既に遅しで、生の望みを絶たれる病に罹ってしまった。
過ぎ去った時間をあれこれ悔やんでみても何も解決はしないことは百も承知のはずなのに救われたい気持ちがどこからか満ち溢れてくるのを覚えた。
標高が高いせいもあるのか陽が傾くと風は少し冷ややかになってきた。
木立の間に見え隠れしていた春の夕陽は宍道湖方面に落ちて行き、風がサワサワと木立の音を立て始めると野鳥は声を潜め、忍び寄る暗闇と静寂が辺りを支配し始めようとしていた。
ペンションに戻るとダイニングには夕餉の香りがほのかに漂っていた。
主人は厨房から手招きした。
「お待たせしました、どうぞ料理が冷めないうちに召し上がって下さい」
「ほな馳走になります」
宿泊客は岳だけなのかダイニングには誰も居ない。
「どうぞお好きな席にお掛け下さい。今日は二組だけのお泊りですから」
岳は厨房に近い席に着いた。
やがて奥さんが前菜をテーブルに置いた。
「山の中で何もございませんが自然の食材を主人が料理しましたのでゆっくりお過ごし下さい」
彼女はもう一組の客用に食器を用意した。
岳は夕方見たジーンズ姿の若い女性を想像していたが、セットされた食器は二人分であった。(もう一組はカップルかな・・・?)
期待に反して現実はどうやら見当違いのようである。
それもそうである、こんな山中で静かに時間を過ごすのは熟年カップルをおいて他にないだろうとやや失望をしながら、主人お勧めのワインを口にした。
昼間の景色もさることながら、ゆったりとした時間の中で味わう赤ワインは最高であった。
メインディッシュの子牛ステーキが運ばれて来た時、客がダイニングに現れた。
岳の想像に反して客はタクシーで乗りつけたジーンズの若い女性だった。
彼女は端正な小顔で亜麻色に染めた髪は肩すれすれに伸びている。
先程見た濃紺のジーンズに松葉色のトレーナーを着ている。
彼女は岳を見るなり軽く会釈して席に着いた。
待ち兼ねていた奥さんに小声で何かを説明している。
岳の推測ではどうやら相方の到着が遅れているようである。
岳のテーブルの斜め前にセッティングされた席に彼女は背を向ける格好で座っている。
年はまだ若く二十代前半であろうか。
ネールアートした指を器用に使って携帯電話でメールをしている。
メールを発信し終えると携帯をテーブルに置き、腕組みをしたまましばらく宙を見据えているように動かない。
やがて返信があったのか着信のバイブがテーブルを唸らせ、静かなダイニングに響き渡る。
彼女は慣れた手つきでメールを読み、再び返書を打ち始める。
岳は彼女の後姿を見ながらその生活形態を想像してみた。
どうみてもOLではない、もしかしてまだ大学生なのかも知れない。
まともに勉学もせず自らを着飾ることばかりにエネルギーを費やしているのだろうか。
それともファショナブルな職種、例えばヤング層をターゲットにした衣料店の売り子、もしくは携帯ショップの従業員。
まあそんなところだろう、メールの相手もおそらく茶髪の軟弱な男だろう。
こうなれば食事を終えてもこの席に居座って相手の顔をとくと拝ませて頂こうという少し邪悪感情が湧いてきた。