もし私がカエルかアヒルだったらあなたは私に気づいた?
「なんでそんなこと聞くの?」
夏の暑い午後だった。大学の同級生で、かつ僕の彼女は突然そう聞いてきた。
朔実は、際立って美しいタイプではないが、愛嬌があり、普段そんな問いを抱くようには見えなかった。
その問いの答えは、どこかから聞こえる時計台の十二時の鐘の音と共にどこかへ飛んでいってしまった。その頃の僕は、ただ少しちやほやされる朔実に憧れて付き合ってみたいと思い朔実に告白しただけだった。僕が好きだと言ったら、少し彼女は黙り答えをくれた。
だけど僕らは、月と太陽のようなものだった。朔実が笑ったら僕も笑ったが、本当はどうだったんだろう。その当時、ぼくにはそれが分からなかった。結局、僕らは愛し合うことはできなかった。
太陽、なに考えてるの?と明美が聞いてきた。社会人になって、付き合い始めた彼女。美人でみんなに自慢して回れる女。
ふとベットの上で寝転んでいると彼女の潤った髪が俺の頬に触れる。
静かな時間が流れる。
時折、俺みたいな男にお前みたいな女が彼女だって誇らしく思う、なんて言ってみようと思うが、それじゃあ男が廃る。美しい女と自負している女ゆえ、そういう扱いは御法度だ。
突然、ラインが届いた。大学の同級生の聡からだ。今度、久しぶりに会おうとのこと。大学を卒業して3年経った。同窓会ってことね。了解とだけ返信した。
同窓会当日、朔実は現れなかった。というより誰も連絡が取れなかったらしい。
「朔実は今頃どこで何してるんだろうね」とビールを注ぎながら聡。
俺は、沈黙しながら遺影を眺めるような目つきで空白の席を見つめた。
朔実はきっと死んでしまったんだ。ふとそう感じた。
俺たちは生きてるが、朔実にはそんな力はない。俺たちは社会に汚れたが、朔実は綺麗なままだ。朔実は、、。そこまで考えていると、智が声をかけてきた。ちょっと外でねぇ?
月がでていた。智は切り出す。
実は、朔実来月結婚するんだって。
「、、へぇーめでたいね。そりゃ」
「いいのか」
「何が?」
「、、お前はバカだよ」「朔実は、お前しか愛せなかったし、今だって、、」
そう言って、聡は店へ戻った。
月が空に浮かんでいる。
「「もし私がカエルかアヒルだったらあなたは私に気づいた?」」
、、朔実の求めていたのは、大学生の頃の俺じゃ受け止めきれないものだった。
今は。
今でも。
今でも?
本当に?
それでもどうしようもないじゃないか。
もう朔実は、結婚するのだから。
携帯の連絡先には朔実の番号とアドレス。
朔実に無性に会いたくなった。
その時、月は雲に隠れ風が吹いた。
秋の気配。
カエル?アヒル?そんなことどうだつていい。
朔実は朔実だ。朔実がどんな姿であれ、生まれ変わったって朔実を愛する。朔実の子供が欲しい、、そう俺だって、、俺だって、
つーっと涙が出た。
後ろからコツコツとヒールの音。
朔実だった。
少し微笑んで、彼女はそこにいたんだ。