朝、窓の外から漏れる光を体に感じながら目が覚めた。
着ていた服をカゴに放り投げ、シャワーを浴びる。
季節が夏に近づいたからか、叩きつける湯に少し嫌悪感を感じる。
手早く洗い終えて浴室から出ると、がらんどうな部屋が、割れたガラスを踏んだ時のような痛みを感じさせ、私の胸を少しばかり冷んやりとさせる。
ささいなことだが、季節の変わり目は私を敏感にさせ、いたたまれない気持ちにする。
寒いのも苦手だけど、暑いのはもっと苦手。
結局は、自分はわがままなのか、、そういう結論を安直に出そうとする自分にもげんなりしてしまう。
何か、もっと適切な表現はないだろうか。
ふと時計を見ると、もう会社へ行く時間。
急いで支度をし、家の鍵を閉める。
今日は、週初めの月曜日だからか、人の足取りが重く感じられる。駅に着くと、何やら男同士がいざこざをしていて、警察も来ている。それらを横目に見ながら、駅のホームにおり、混んでいる電車に乗り込んだ。すると、次の駅、ひとりの青年が乗り込んできた。
おそらく、20代初めか、10代後半。初めは、気づかなかったが目から涙を流している。それも、心の底から悲しんでる様子で。
狭い車内で、涙を出るがままに任せて、口を歪ませている顔にはじめぎょっとしたが、だんだんわたしは、なんとも感じなくなり、心が無になるのを感じた。
もしかすると、なにか不幸があって泣いてるのかもしれない。それとも別れだとか。けれど、私は見ず知らずの青年を、その時可愛そうだともなんとも思わなかった。
「わたしは、人間失格かな」
翌日、同じ電車、同じ車両に乗った。昨日の青年はいなかった。
そのかわり、混んでる車内に赤ん坊と母親が乗ってきた。赤ん坊が、ぐずり始めると車内に沈黙の予感が広がり、とうとう赤ん坊が鳴きだすと、文句をいうOLが現れた。それに反論するサラリーマン、それと困惑する母親。
余裕、の問題なのか。ふとその時思った。横目に彼らを見つつ、頭を抱えた。次の駅で、私は降りた。すると、母親と赤ん坊も下車していた。
「大丈夫ですか?」と私は、思わずかすれた声を出した。
母親は怯えた顔でこちらを見ると、赤ん坊と去っていった。
私は、ただ空を見つめ、だんだ?焦点を反対側のホームの階段に合わせると歩き出した。
どこへ行くともなく、ホームから改札、地上へ。いつの間にか、ヒールのかかとが欠けていたから、靴屋でスニーカーを買った。
空は青い。雨の降る気配は一ミリもない。
吐く息は、生ぬるいため息に近く、わたしの後ろには誰もいない。
さきほどの母親と赤ん坊が交差点を渡っている。私は、彼女たちを追い越すように横断歩道を走り抜けた。