アラフォーじゃぱん

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【短編】飛んでく

2023-06-14 13:31:00 | 日記

しばらく降った雨が地面を濡らし、大気中には雑草の匂いが立ちこめる。

 ある日、テレビ番組を見ていたら、タレントが「蜘蛛は、自ら糸を出して空に浮遊する。そんな姿が羨ましい」と話していた。

わたしは、煎餅をぽりぽり食べながら蜘蛛の何が羨ましいんだろう。ついこの間、家に大きいのが二匹もでて大騒ぎしたのにと不満をたらした。

 わたしは、普段パイロットとして働いている。

女性のパイロットは珍しく、中堅にあたるわたしは後輩の世話役でもある。フライト時間は長く、腰痛持ちの頭痛持ちで薬はかかせない。最近では意見するようになってきた後輩を煙たくも思っている。

 今日は、珍しく夜から同僚達と飲み会。パイロットというイメージににつかわしくなく、こういうときは冷静さも緊張感も一切なくどんちゃん騒ぎになる。カラオケ機器もあり上司のオハコは、年不相応なBUMP OF CHICKENのスノースマイル。わたしは、歌があまり得意ではないので隅で酒を飲む。愚痴を言い合える同僚はいない。友達はみな結婚して時間が取れない。そして、空の楽しさなんてとうに忘れてしまった。

 夕方、外へ出、ターミナル駅につくと待ち合わせ場所に着いた。もう宴はすでに始まっており、上司のオハコが鳴り響いていた。ヒールを脱ぎ、座敷に上がると後輩の1人が「遅いっすよ、今何時だと思ってるんですか?今から俺歌うんで、盛り上がってくださいよー」と酔っ払いながら肩に触れてきた。

 普段、仕事もしっかりやり意見もしてくる◯◯が、わたしには煙たい存在であり、、素直なところまぶしすぎた。

 「Aさんは、パイロットなのに格好が地味ですねー。今日、なにしてたんすかー?」

 「関係ないでしょ、女性のプライベートを興味本位で聞かない」

「興味本位じゃないですよー、先輩いつもお世話になってます」と酌をつがれる。そこへ◯◯出番だぞ!と声がかかる。

イントロからわかった。あの曲だ、えーと、、

「空も飛べるはず!いきます!」


そうだ、大学の卒業時みんなで大合唱した。懐かしい。空なんて飛べるはずないのに、その時はもしかして本当に叶うかも、、と、そして願っていた。わたしはパイロットになって世界の空を飛び回るんだ、と。

 歌の最中、ぼーっとして空を眺めていた。それは頭の中でリフレインしていた。「蜘蛛は、自ら糸を出して空に浮遊する」「そんな姿が「蜘蛛は、自ら糸を出して空に浮遊する」そんな姿が羨ましい」


 翌朝、出勤のため外へ出ると空には太陽が出ていた。玄関先の紫陽花には蜘蛛の巣がはられていて、しずくをぽつぽつつけていた。風が吹き抜ける。なにかが通り抜けた気がした。