goo流・キャラネタブログ

ニュースなどを扱います。
あと場合によっては小説というかお話を書く事もあるでしょう。

青春の嵐 第10話「ゴールデンウィーク最終日の騒乱」

2015年11月19日 20時46分39秒 | 青春の嵐
迎えたゴールデンウィーク。この年のゴールデンウィークは例年としては珍しく
十日間にも及ぶ。敬二の方も最初の数日は気を揉んだ。だが、日数が経つにつれ
半ば安心していた。これならもう連休明けは大丈夫である。・・・そう思った矢先
ゴールデンウィークも最終日を迎えた日の昼前の事である。
実家の自室でネットでもやりながら過ごしていると、
突然自分のスマホに警察署から電話がかかってきたのである。
(これは、よもや!?)
敬二は悪い予感を感じつつ、スマホを手に取り液晶画面越しのスイッチを押して耳に当てる
すると、予感は的中だった。警察署の職員が言う事には
尾場寛一が、年が自分より上の高校生ひとりをリーダー格とする少年グループ数名と
やり合ったというのである。それを聞いて驚いた敬二は直ちに車に乗り警察署に向かった。

敬二の中では思った。寛一が目上の少年グループとやり合ったと聞いたのだ。
流石にボロボロの姿では無いだろうかと考えた。
あれこれ考えながら警察署に辿り着く。
そこで受付の職員に尋ねる。
「貴方が尾場寛一くんの通ってる学校の先生なんですね?」
「はい。私は新潟市立豊栄小学校の石原敬二です。それで尾場は何処に!?」
職員に案内されて行くとそこに寛一は居た。寛一は特に何処にも怪我した形跡は見られない。
「尾場っ!一体これはどういう事だッ!?何でこういう事になったッ!?」
怒鳴る敬二に対して、寛一は、忌々し気な表情で呟くように返答する。
「あいつらが、オレがショッピングセンター内を歩いてたら突如やって来て刃物をチラつかせて
"金を出せ""金を出さないと痛い目に遭うぞ"って囲んで来たんだよ。
だから、ボコボコにしてやっただけだよ。なのに、この無能で税金泥棒なこのオッサンは
強盗やった向こうを罰せずに、こっちを悪者扱いしやがったんだよ。」
それを聞いて、トレンチコートを羽織った如何にも漫画やアニメに出てそうな
ステレオタイプの格好の警部と思われる中年の男性が思わず気色ばんで声を荒げる。
「無能で税金泥棒のオッサンとは誰の事だ、こんガキが!」
寛一も負けじと逆に相手を舐め切った態度で、すかしたように言う。
「お前が駆けつけるのが遅いのが悪いんだから仕方無かろうが?
文句あるならその弛んだ腹を何とかしろや。オレの通ってる学校の石原なんか
アンタのような不健康な体型とは間逆に位置するぜ。
まったく、強盗と被害者のこっちの区別もつかんとはココの警察署長も
さぞ苦労が耐えんだろう。こんな給料泥棒じゃあ。」
「なんだと、コノヤロー!」
このやりとりを聞いて周囲は、思わず呆然としある者は笑いを堪えるので精一杯だ。
敬二は、二人の言い争いを聞いて唖然としながら、事の真相を警察の関係者に訊く。
事の発端は、寛一の言うとおり向こうの少年グループがナイフを片手に
寛一に金の無心をして強盗を試みた事が原因だし、その事は
店内の防犯カメラにも一部始終が録画されているし、その日の店内に居た
客の一部と従業員からの目撃証言も得られている。
ただ問題なのは寛一がそれで怯むどころか、彼らを全員その場で
虫の息になるほど完全に叩きのめした事だ。
そして店内に警察の関係者が駆けつけたのが寛一に少年グループが全員
叩きのめされて随分経ってからの事である。
では、その間にお店の者とか警備の者とかは何をやってたかというと
遠巻きに様子を見ているだけで止めに入るとか少年グループを力ずくで店外に追い出すなり
警備室に連行するなりする訳でも無く、寛一からすれば一向に頼りにならないようだった。
無論、これも防犯カメラには録画の証拠となっている。
結局、この防犯カメラ映像が日が経つにつれ、なまじ記憶が曖昧になりやすくなり
証言が二転三転しやすい人間より顛末を見届けた真の証言者という皮肉となり
加害者の少年グループを刑事起訴に追い込み、店内で起こった事件において
何もやろうとしなかった防犯カメラ映像内の店の従業員と警備員が
後日、店と店と警備員の派遣契約を請け負っている警備会社から解雇通知を受け取る結果となった。

そしてこの警部はというと、何で現場への到着が遅かったのかという寛一の質問に対し
当初は新潟駅前で起きた事件に対処したから遅れたと言ったが
すぐに若い女性職員から「貴方は、今日朝から病院に健康診断に行ってたのでは?」と
言われ、すぐに答えに窮した。やがて寛一に対する返答が二転三転した挙句、
朝、行きつけの病院での健康診断を受けてからそのまま職場の警察署に行くはずだったのに
途中で喫茶店に寄りそこで砂糖を沢山入れた紅茶を飲んでくつろいでて、
その店を出た所で寛一の件の報せを警察署のオペレーターから受けた事がバレる事態に陥った。
要するに、本当は朝、定期健診に行ってそのまま職場に行けば良かったモノを
途中で寄り道してサボりをした挙句、起きてもいない新潟駅前での事件をでっち上げて
折角、店内に居合わせた他の客か従業員と思われる通報で
ショッピングセンター内で少年グループに囲まれていた寛一への救援に間に合わなかった言い訳に
しようとしたのである。それだけでも遺憾な事なのに素直に非を認めず
言を二転三転させるという、本来、ペテン師を逮捕するべき立場にある者がペテン師まがいのような
舌先三寸で寛一の事を言い包めようとしたのである。
寛一はもはや怒る気も失せ苦笑いし、早くから警察署内に居た母加奈子は呆れ
他の職員は、ある者は軽蔑しある者は詰る。
敬二に至っては、大いに憤慨する。
(こんなヤツなんかと同じ公務員とは思いたくない)
結局、この警部はこのあと諭旨免職処分へと追い込まれて行ったのである。


青春の嵐 第9話「担任教諭の憂鬱」

2015年11月17日 19時05分27秒 | 青春の嵐
寛一が自宅ではパソコン、学校ではスマホを使ったデイトレードとアフィリエイト他ネットを使った
ビジネスで莫大な収益を上げていた頃。

ここで、担任教諭の視点に移る。
教諭(といっても寛一のために逮捕され実刑判決を受けて現在、刑務所に収監されているヤツではない)は思った。
この際、判り易く表記するために、この教諭の前任で寛一のために
現在、刑務所に服役している方を藤井伸、それで現在ここに居る方の教諭の姓は石原、名は敬二としよう。
この石原はゴールデンウィークを翌日に控えるというのに、心が晴れなかった。
それというのも、彼にとって悩みの根拠であるのは、他ならない尾場寛一の事である。

彼はかつて大学を卒業はしたものの就職活動は惨憺たる結果だった。
それで事実上の自宅待機状態であったのだ。
この状況を懸念した親が大学時代に掛け合ったところ大学が
教育委員会と交渉したら、小学校教諭に一人欠員が出たという情報が得られた。
すると大学の方も石原が自校で教員免許を取得している事を挙げたため
教育委員会の方も渡りに船とばかりに快諾し、すぐ石原に面接に来るよう電話させた。
翌日に彼は教育委員会に赴き、面接した。
教育委員会の方は、もう最初から採用ありきのようでわずかな面接したあと
石原の教師採用を即日決定した。そして石原を前任者を欠いた小学校へ着任させる手続きに入り
現地の小学校校長に彼を推挙した。校長の方も欠員を今すぐにでも埋めたいのか
石原に対して基本的には任せるが、尾場寛一にはくれぐれも注意するよう念を押した。
そして彼は寛一の居る教室の担任となった。
これが寛一にとって小学三年生のときの出来事、すなわち今より二年半前の出来事である。
実際、自分が着任してからの尾場寛一は、噂に違わずかなりの問題児だ。
自分が着任してからのほぼ一年の間に、同学年との喧嘩は日常茶飯事、
上級生に対しても数々の悪態ぶりも著しく、下級生でも自分に対して舐めた言動や振る舞いをする者には
容赦なく憂き目に遭わすという。当然、喧嘩だけでは無い。
街では拾った物を売って金に換えるなど、到底小学生のやるような事とは思えないような事を
繰り返していた。それをやったかと思えば、小学四年生を迎えると一転して
風の無い日の瀬戸内の海の如く穏やかになった。その代わりあちこちでバイトして金稼ぎをやり出し
まるで何かに憑依されたかのようだ。そこへ来て追い討ちをかけるように
尾場寛一がどうもスマホを使ってデイトレードしているという噂があるらしい。
学校の校則では生徒がスマホとか携帯を持つ事自体は別に禁止はしてないし
むしろ、それを正しく使うことを推奨する教育をしている。
だが寛一、この男に関しては別だ。この男はスマホの使い方が他の児童とは違い
まるで何かに執着しているかのようにスマホを使ったネットトレードとネット収入方法をやり出し
その歳入金額は、小学生の稼ぎ方にあるまじき巨額だ。

敬二は、ときどき寛一を呼びこの件で話をした。だが寛一は明確な回答を与えるはずも無かった。
これを警戒したのか、これ以降寛一はこの件に関してまともに取り合わないばかりか
はぐらかしが多くなった。
無論、敬二としてはこれで断念する訳には行かず、時には母親の加奈子にも
寛一に生徒としての本分を守るよう説得して見るが、加奈子も言葉を濁すに止まった。

敬二としては周囲の安堵とは裏腹に、このほぼ二年半の間の平穏に対してどこか胸騒ぎを覚えて
ならないのである。まるで寛一のいる学年の卒業式までに何か大きな好ましくない出来事が
起こるまでの束の間の平和であるかのように。
(願わくばせめて、このゴールデンウィークの間だけでも平穏であって欲しい。)
敬二はそう願う。だけど、そんなの三十をあと数年に控えた一介の青年教諭の願いなど
果たして、現実の前に届いてくれるものだろうか?
結局、その答えは現実だけしかご存じないのだろう。

青春の嵐 第8話「金融ブギ」

2015年11月15日 20時32分55秒 | 青春の嵐
そして春になり、寛一は小学校生活最後の学年を迎えた。
多くの同世代が中学に上がったらどんな事をしようとか
どんな部活に入ろうかとか、中学に上がったら必ず彼女を作ろうとか
それぞれが大きな夢を膨らませているなど
小学校生活生後の青春を謳歌せんとしている中、寛一はただひとり
証券口座を開設し、一日での売買注文を繰り返しどれだけのお金が手に入るか
要するにスマホを片手にデイトレードで血道を上げていた。

(くくく。もうすぐゴールデンウィーク前の段階でもう八百万円を軽く突破出来たか。)

証券口座を開設してからの寛一は非常に止まる事を知らぬ勢いであった。
バイトでもバイト先の店長からは頼もしい子と絶賛され、
店に来るお客さんの中には寛一にお小遣いだと称して、一人当たり平均五万円モノ
気前のいい金額をくれた。
――やはり同じ人に生まれるなら出来のいいヤツに生まれる方がやっぱり得だよな。
寛一はそう思える。世の中の人間は何だかんだ言ってもやはり自分より出来の悪いヤツは蔑む。
誰だって、出来のいい人間には生まれたいし、この世に生まれた者の多くだって
親も含めて他人から何かにつけて否定されるまでは、自分は少なくとも他者とは
同等だとは思いたかっただろうし、他人から否定されるほど自分は凡庸・暗愚だとは思いたくは無い。
けれども現実とは女子供をはじめとする弱者の命を路傍の草ほどにとも思わぬ悪逆非道な犯罪者の如く残酷だ。
体力が無くひ弱であればそれで見下され、頭の回転が鈍く思考力も記憶力も無いと馬鹿だと侮蔑される。
子供が言いたい事を言えば生意気だとされ、老人が言うべき事を言えば老いぼれめ片腹痛いと詰られる。
自分のような、母子家庭でしかも街の有力者の婚外子の分際で自分と同世代の
家庭が裕福なヤツと対等になろうというのなら、それこそ血のにじむ思いを顧みぬほどでなければならぬ。
そうでは無かろうか?寛一は我が身自身に語りかけるように心の中で呟く。
それから寛一は、小学四年の三学期からこの小学六年生の一学期になるまでの
バイト先での対価に加え、お客さんがいつもくれたお金を深夜、数えてみる。
数えてみたところ、何と二百万以上もの大金だ。
(そうかい。ならやるべき事はただひとつだぜ。)
翌日、寛一はそのお金を証券口座に多くを振り込んだ。
これで証券口座の寛一の残高は遂に一千万を超過した。

「さて。ここで少しはゴールデンウィークを利用して小休止とするか?」
寛一は手許に残した一万円札をざっと数えると財布に収めた。

青春の嵐 第7話「豊かさへの渇望」

2015年11月15日 18時13分39秒 | 青春の嵐
年が明けて、小学四年生の三学期を迎えてからの尾場寛一はこれまでと違い
まるで人が変わったかのようになった。勉学は勿論のことだが、特にバイトを
何かに憑依されたかのように始めだし、それに人一倍励んだ。
元々身体能力が同世代はおろか、大人の自衛隊員すら驚愕するほどなためか
バイト先の目上の先輩なら、もう既に音を上げるような激務を
問題にせず、バイトの終わった時間の段階でもまったく疲弊した顔を見せないため
バイト先の面々は、ただ驚くばかりだった。バイト先の先輩の中には彼女から
「あの子に負けてどうすんのよ?情けないと思わないの?少しは体を鍛えなさいよ!?」と
言われてしょげ返るほどである。

周囲の噂のことなど、まるで意に介さぬように寛一は必死に働き、
その受け取った対価を決して無駄遣いせず、むしろその受け取った対価を
如何に多く残せるかに心血を注いだ。
その思いは、決まっている。
一方その頃、母加奈子も何やら変わった事を成していた。
それというのも、自動車を新車で買ってはそれを短期間で下取りに出すというモノである。
新車を買って、それまで乗ってた車を下取りに出すくらいならこれは誰しもがやるのだけれど
加奈子の場合は、どうも不穏と思えなくも無かった。
それというのも、新車を買っては、それを下取りに出す期間がかなりの日数をかけて
よくよく観察して見ると、非常に短いのである。
それというのも、よくよく注意して調べて見るといくつか不審と思える点がある。
一・新車価格の高い軽自動車に意識して拘っているところ。
二・軽自動車を新車価格で売る際に出来るだけ購入価格を高くなるように努力していること。
  具体的に洗車や車の窓拭きを寛一とともにやり運転の際も傷ひとつつけないように注意していること。
三・新車を現金一括で買ってからそれを下取りに出すまでの期間が短いこと。
四・下取りに出して得た金はその多くが寛一名義の通帳に行ってること。
五・そして後の残りを寛一に年二~三回のご褒美として寛一に手渡していること。
無論、この事に気づいている者は当の本人しか知らないようだ。
多額の仕送りをしている勘吉は元より、自分名義の通帳を作られそれに大金を
振られている寛一も知る由も無い。

周囲はこの実態を知る訳も無く、一見してせいぜい
自動車をゲームソフト感覚で買い替える贅沢な暮らししてるオバサンとしか思わない。
何故なら車を買い替える頻度が年に三回もしているからだ。

そして、季節はめぐり小学五年生の二学期も後期を迎えた晩秋のこと。
寛一は、期末テストがいつもと同じように他の追随を認めぬほどの好結果だったことを機会に
母加奈子に、恐る恐る証券口座開設してもいいかと願い出た。
すると加奈子は二つ返事で了承した。それどころか寛一に対し
「これから長く付き合うのですから、自分に合った会社を選びなさい。」とまで言ってくれた。
母加奈子が寛一に金融取引をやるための証券口座開設を認めたのには
実は深い訳がある。自分はやがていつかは年老いて老衰で死ぬか、
認知症や寝たきりで寛一の人生を奪いかねない晩節の汚し方をしてしまうかもしれない。
もし、ここで寛一に証券口座開設を認めず、職場に勤める以外のお金の稼ぎ方を認めなかったら
果たしてどうなるのだろうか?自分の老衰やそれに伴う成人病による死か
自分の寝たきりや認知症が原因で寛一は働いてた職場を辞めなければならなくなり
自分の世話のために生活が乱れ、この子の人生を台無しにしてしまうのではないのか?
我が子の将来の仕合せを望むべき親が、我が子の人生を台無しにする本末転倒など
あってはいけない事なのである。又、最近の世の中の政治と社会の有り様を考えて
この子が成人を迎えるまでに世の中が、この子の事を受け入れる働き口など
本当にあるのだろうか?かつての自分でさえ、苦しんだほど。
ましてやこの子が成人になった時の社会は、尚の事この子を受け入れがたいほどのレベルだろう。
そうなってしまうくらいなら、この子には最初から他人からのお金を当てにしない
お金の稼ぎ方をこの子がした方が、いい意味でもこの子の将来の自立になる。
そう考えた結果が、寛一から証券口座開設の要請を願い出た際を機に加奈子の出した返答だ。

それから二学期が終わったクリスマスイブ、その日の朝、寛一にとって
サンタクロースのプレゼントであるかのようにネット証券会社から
口座開設の決定を知らせる郵便物が届いた。その中には
証券口座番号と、ログインするためのIDと仮パスワードだった。
終業式を終えた寛一は自宅に帰り、その郵便物にあるとうりの手続きに従って
上手くログインして見せた。仮パスワードを本格パスワードに設定し直して
それをロストしてもいいようにメモリースティックやパソコンのハードディスクと
それをプリントアウトした紙に分散して管理した。それを終えるとネット証券のマイページを
ログアウトしてパソコンの画面の左下の電源のシャットダウンを探しそれをクリックすると
電源が切れるのを確認すると、外出する支度をして外へ出ると銀行に向かって行った。
そして銀行のATMから証券口座番号宛に、高額の振込みを何度も繰り返した。
その金額は何と三百万以上モノ高額であった。


青春の嵐 第6話「貧者であることからの独立のための教え」

2015年11月15日 12時37分49秒 | 青春の嵐
一応ながら周囲との和解が成り立ってから少し経ち、二学期の終わりを告げようとしたある日。
家に帰って見ると家に見知らぬ男性が居た。しかも年齢は非常に若く、年の頃からして二十代半ば過ぎと
いったところだろうか。
「坊や、ただいま。」
「お兄さん、誰?」
「僕かい?僕は君のお母さんの知り合いなんだよ。ほら、こういうモノさ。」
そういうと、この青年は名刺を見せる。
その名刺は証券会社に所属している佐藤隆弘と明記してある。
この人の証券会社での仕事は、営業もさることながら
フィナンシャルプランナーの資格も持っている上に、所属している会社では
毎週の週末、普段働いてて株式市況を見る時間があまり取れない方向けに
来週の海外の為替と株価と日本の株式市場との因果関係の有無とか
海外の経済情勢が日本の経済に具体的に何をどう影響するのかという事を
自らが集めてきた情報を元に分析して今後の株式市場はどうなるのかという
解説をするアナリストという役職でもあるという。
そしてそれをメールマガジンを情報発信している。

このとき寛一は脳裏で何か閃いた。
「ねえ、お兄さん?」
「何だい?」
「どうしたら、相場に強くなれるのかな?」
「ははは。君はこういう世界に興味があるのかい?」
「うん。どうしたら、相場の流れに合わせられるのかなって。」
寛一は隆弘に、人懐っこく訊いてみる。
「そうだなぁ。まずはチャートってヤツを読めるようになる事だな?」
「チャート?図面の事だね?」
「さすがは頭がいい坊やだ。お母さんとしては、さぞ誉れ高いだろう。
だが、それだけではダメだぞ?チャートには色んな意味があるんだ。」
「へえ~。色んな意味があるんだ?例えば、どの図面のどの辺りを理解したら
いいのかな?」
寛一が訊ねると隆弘は鞄の中からとある東証一部上場企業のチャートが印刷された
一枚の紙を取り出して説明して見せる。
「例えば、これを見て。よく見ると黒いロウソクや白いロウソクがお互い上下に向くように
並んでいるだろ?」
「ホントだ。まるでロウソクで山と谷を描くように並べて楽しんでいるようだ。」
寛一はロウソクチャートというモノを理解した。
「でも、その中に手裏剣のような十字やキリスト教のシンボルのような十字架のような
モノがあるよ?中にはダガーナイフや西洋の剣にも見えるのもあるし。」
寛一は隆弘にこの点を訊いてみる。
「これは相場の転換点って言ってね?相場の価格が最底辺に近いと最低価格の更新の終わりを
知らせてくれるし、最高値に近づくと、もうすぐ頭打ちでもうすぐ下がるからねと
知らせてくれる役割をしてくれるんだよ。」
「そうなんだ。これを理解すればいいんだね?」
「これだけじゃダメだよ?テクニカルというモノもチャートの中にはあるんだよ。」
「テクニカル?」
「そう。例えばRSIっていう指標がここにあるとしよう?これが世間一般じゃ30以下では
この株価は二束三文で売られすぎているから、もう買い戻すべきだとされて
値上がりに転じる事になるんだ。逆に70以上になると、そろそろ潮時だとされて
売り時に転じて下がるようになるんだ。」
「そうなんだ?それを覚えれば大概は負ける事は無いんだね?」
「だけど、これはあくまでもチャートの上での流れであって、そうなりやすくなるには
その会社の四季報情報と日経平均株価と、外国との為替レートが日本にとってポジティブになれば
会社の株価にプラス補正が加わるしニュースによっても株価にプラス補正が加わるんだよ。」
「んじゃ、それを覚えれば大抵の役に立つんだね?」
「まあ、そうなるのだが君はもしかして将来、個人投資家になりたいのかな?」
「もし、それで貧しい生活を何とか出来て幸せな家庭に出来るのなら
どんなに高いお金が必要だろうが、そんなのバイトしてでも稼いでみるよ。」
「ははは。君って頼もしい男の子だね?ウチのニートしてばっかの弟に
君の爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいほどだ。」
こうして二人は、加奈子が家に戻ってくる二時間半の間に
すっかりと意気投合した。その間にも隆弘は寛一に個人投資家として大事な知識や教養は元より
お金に対する哲学とかいろいろ教えられた。


青春の嵐 第5話「富める者は貧者の嫉妬を買い、貧者は富める者からの不快を買う」

2015年11月14日 14時42分53秒 | 青春の嵐
あれから経って。
尾場勘吉は加奈子・寛一母子を怒鳴りこそはしたものの
生活支援の打ち切り・削除などは特には考えてはいないようだ。
それどころか生活支援のお金を今までよりは増やしてくれたようだ。
それというのもあれから加奈子は勘吉と話し合った所、
寛一が小学校一年の晩秋から小学四年生になるまでの数年間の
学校や地域の他の子供たちとの諍いの原因は、
どうも寛一と争っている彼らの家庭の親の職業が、
公務員や高級ホテルの支配人、日本の精密機器に必要な部分を作っている
東証一部上場企業の経営者、大学病院の教授、請け負う案件が常に五件や十件は
当たり前の凄腕の弁護士。自衛隊の階級が米軍の基準でいえば大佐以上の者、
警察官僚、中堅芸能事務所の経営者など、いずれも皆、これまでの加奈子より
高所得家庭だ。それを鼻にかけているためか、それらの子供たちは
自らの家庭環境を笠に来て高慢になる一方で寛一の家庭の事を生活が苦しい母子家庭と嘲り
寛一の事を将来は年老いた加奈子ともども共倒れか、介護疲れで年老いた加奈子を
殺害、若しくは老衰死したのを機に年金を不正受給しまくった挙句、逮捕され
獄死するだろうと馬鹿にしたのが原因だ。

寛一としては、自分が馬鹿にされるのはいくらでも我慢出来るが
母加奈子の事を貶められたのだけは憤怒を堪えられないという。
更に、言ってしまえば自分らの恵まれた家庭環境と境遇を鼻にかけて寛一の
家庭環境が現在、事実上の母子家庭状況である事を見下すだけでも
寛一にとっては腹立たしいのに、勝手な憶測と想像で
"この母子家庭はあと十年か、遅くとも二十年後には滅びる"などと
こっちの将来を勝手に決め付けられ寛一としては、もはや我慢の限界に達したと言えよう。

この事が対立の起源であり、両者が相容れる余地は何処にも見当たらなかった。
波風が立たなかったのは最初だけで、その後の寛一と彼らとの対立ぶりは
アニメや漫画におけるお互い不仲で対立している二人のキャラに例えられるほどである。

彼らは寛一のことを父方の苗字の尾場をもじって「おバカ」と扱き下ろし
寛一も寛一で彼らの事を「親の七光り」「親に似ずな無能の子」と侮る。
両者の対立は教諭が投げつけた椅子で教育委員会と文科省のお偉いさんが二人
亡くなられた件に至るまでで丁度ピークに達していた。
その後、教諭が逮捕され刑事裁判で実刑は避けられそうにない情勢になると
一案を思いついた校長は彼らと寛一との和解をさせようと図った。
当然、難航はした。彼らは寛一の身の程知らずぶりが許せないと鼻息を荒げ
寛一は寛一で、彼らのこれまでの言動や振る舞いが招いた結果であり
こちらだけが先に謝罪させられ相手が謝罪もしなけれ相手に
何のお咎めも無いのは納得いかないと、顔を歪めて苦々しい表情を露にする。
校長もPTAら面々も、まるで本物の政治の世界、外交の世界というモノを教えられる思いを
禁じえないのである。もしも下手に日本人的な道徳裁き、例えば
『喧嘩両成敗』とか『向こうも悪いが、お前にも原因がある』などといった事をしたり
二人の異性と二股がけしているヤツみたいな処理を試みようものなら
両方を敵に回す事になり、彼らはもう二度と大人たちを信用しなくなり
それが原因で中学に進学して以降は非行に走られるリスクを自ら生み出しかねない。
かといって、このまま手をこまねいてる訳にも行かないのも
この両者の関係が許さない。こうしている間にも、この子らと寛一は
どちらか一方が手を出したのをきっかけに大乱闘になるは必定だ。
結局、警察署長や社会福祉協議会関係者代表も加わった結果、
・尾場寛一は、社会の一員として秩序を重んじ他の社会や地域の皆と協調する。
・学校や地域の方は人間関係のトラブルの原因となる安易な言動や振る舞いを控える。
 特に相手に対する暴言に注意。その事を各家庭の子弟にも徹底させる事。
という事で、寛一もその他も合意に至った。
これで、学校の皆も地域の皆も教諭ひとりの刑事処分と引き換えに
長きに亘る対立は一応の収束を見る事となった。

青春の嵐 第4話「正義とは誰がために」

2015年11月14日 12時41分15秒 | 青春の嵐
教諭が寛一に投げつけたはずの椅子が誤って教育委員会の関係者と文科省の役人の各一人の頭部に命中し
それによってメディアが連日のように騒ぎまくる事態に発展して、学校内の不穏な空気は
一層著しくなった。

無論、その教諭は寛一とともに既に警察署に連行されて行った。
その後、その文科省の役人と教育委員会の人が頭部の負傷が故で亡くなったという
事実が伝わり一層の騒ぎになった。

古きよき
日本家屋というべき造りを成した二階建ての広い木造の屋敷において
この件を事実を聞き知った一人の老人は、如何にも忌々しいと言わんばかりの
不快な表情で顔を歪めている。その理由も判り切ってる。
尾場勘吉にとって皆村加奈子のような子供をダシに金の無心をする悪女だけでも
腹立たしいのに、あろう事か目上の言う事を碌に聞かず常に反発しまくり
あまつさえ自分の気に入らない相手に対して日米開戦直前時の米国政権のような
謀略・策略を用いて相手を挑発し自分のやった蛮行の美化・正当化を企ててるという
悪行、乱行は元より最近では常識ある者にとって到底理解出来ない愚行・奇行ぶりも
堂に入っているらしい。

ある日、勘吉は寛一が警察署から戻ってきたというのを知ると
すぐ翌日、加奈子とともに呼び出した。
そしてそこで寛一を詰った。
「寛一ッ!お前の数々の悪事はこのワシは聞いておるぞッ!?
何で悪さばかりするッ!何で相手の立場になってやる事が出来んのだッ!!?」
これに対して寛一は子供とはとても思えないような冷静かつ毅然とした姿勢で
臆することなく反論する。
「それは、あの人たちが自分に甘く他人に厳しい性格で、
オレやオヤジやオフクロのような性格とは水と油であるために
こうなるべくしてこうなったのであります!」
要するに、こうなったのも相手側のその性格が招いたのであって
こっちには何の非など無く向こうの思い通りにさせられる謂れは無いと言う事である。
これには加奈子も驚いた。
「正論を唱えるオレをどうしても罰するというのなら、この世の法律とは
一体誰のためにあるのでしょうか?」
それに対して勘吉は益々、耳まで真っ赤になって興奮状態になり
寛一に向かって、ありったけの罵声を浴びせ当たるを幸いに鉄拳と蹴りを見舞った。
これに驚いた、家政婦をはじめ多くの使用人が止めに入ると
寛一に唾を吐きかけ思いっ切り罵りまくる。
加奈子はもうこれ以上対話出来る状況には無いと判ると寛一を連れて退出する。

青春の嵐 第3話「露呈した決定的」

2015年11月14日 08時03分16秒 | 青春の嵐
それからというもの。
寛一と周囲と何かにつけて対立を重ねていた。
同世代からは"クソ生意気な野郎"だと詰られるのに対し、寛一も同世代に対して
"潰しの利かない能無しが何を偉そうに"とか"どうせ他人の足を引っ張るしか能が無い暗愚な、
てめえらの生涯年収なんざオヤジやオフクロの世代の七割にも及ばねえよ"と狭量ぶりを軽蔑する。
大人たちの多くからは"いちいち言う事が癪に障る生意気で可愛げの無いガキだ"と罵られるのに対し
寛一の方も"てめえらこそ見た目が年取っただけで中身はガキじゃねえか"と大人たちの
傲慢で粗野で無知無学で人として中身の伴ってない尊敬できない部分を嘲る。
そうして両者とのしこりが出来てから月日が経った
間もなく小学四年生迎えたとある日のことである。

今日も今日とて、寛一はクラスの女子と帰り際の教室の掃除の手順の事で言い合いになり
その結果、その女子が泣き出した件で教諭と激しく口論となった。
それで感情的になった教諭が、寛一の頬を叩いたのである。
これが並みの子供なら、そこで大泣きし始め出す所のはずである。
ところが寛一とて並みの子供では無い。
泣くどころか逆に教諭に対する怨嗟と軽蔑を倍加させて、教諭をこう詰った。
「口で負けたら、とうとう暴力に訴えるんですか?
それで教師とはボク笑っちゃいます!」
これに対して教諭は、もうほとんど乱心気味だ。
傍目から見て、もうすぐ五十にもなろうかといういい年した大の大人が
子供相手に半ば大人気ないことをしまくりだ。
丁度折りしも、その日は教育委員会に連れられた文科省の役人が学校を視察し
帰り際に職員室に挨拶に来て挨拶しようとしたときと重なっていた。
その際に、この教諭は何とも間が悪い事に
その役人に寛一に対して小学校教師にあるまじき罵声・暴言を浴びせた上に、
頬を叩いた一部始終を見られてしまったのだ。
それだけでも拙いのに、自分の立場や周囲の事などもはや一切お構いなしな上に
年端も行かない子供に生意気な口を聞かれ、目上に対する舐めた態度への激怒も手伝って
もはや感情は抑えられなかった。寛一に向けて教諭は椅子を力任せに投げつけたが
寛一はそれを軽く回避する。するとその投げつけられた椅子は寛一の真後ろに居た
文科省の役人とそれを連れていた教育委員会の人らに飛んで行く。
慌てて彼らは文科省の役人を守ろうとした。だが遅かった。
飛んで来た椅子は背もたれを支える金属製の骨の部分が
文科省の役人を守ろうとした紺色のスーツの初老の男性の右側頭部に当り、
そこで少し捻って椅子の金属製の足の部分が役人の頭部に命中した。
それによって二人とも頭から多くの血を流して倒れた。

これによって、その日の学校は救急車とパトカーと
各種メディアが集まるという、ある意味お祭り騒ぎとなってしまった。

そしてその日のテレビは地域版は元より全国版のニュースも
これを題材にしてしまったという。

翌日以降のワイドショー番組もニュース番組もつけたしのようにこの件を
まるで興味本位のように連日、取り扱ったようである。

青春の嵐 第2話「疎まれ童子 それから」

2015年11月12日 19時25分23秒 | 青春の嵐
それから少し経ち。

皆村良人から名を改めた尾場寛一は、幼稚園に上がった。
だが、この児童はこの時から既に同世代の児童は元より周りの大人たちにとって
驚愕すべき結果を乱発していた。
例えば、英語の学習授業において基本はおろか、文字の読み書きは元より
外国人の先生とは日常会話もこなせるレベルを三ヶ月足らずでマスターし、
日本に輸入される外国製品の英語表記も読めるほどだった。
それだけでは飽き足らず、他にはフランス語をはじめ十二ヶ国語にも手を出し
それらをわずか数ヶ月でマスターし、街の外国人に親しげに話しかけ
彼らたちから大いに可愛がられたという。

身体的な事では、各種競争において常に同世代の同年組は元より年長組にすら
圧勝を重ね、喧嘩では近所のガキ大将がわずか十数えるほどで泣きべそかくほど
やられてしまい、もはや街では天才か?はたまた怪童か?と噂されるほどの子供になった。

小学校に上がってからも寛一の成長と大躍進ぶりは止まる事を知らなかった。
一年生になって最初の一学期にして常に成績は上位であり続け、
先生は元より上級生の如何なる質問に返答出来ぬ事は何ひとつ無かった。
しかも上は専門知識から下は下世話な雑学までと多岐多様である。

普通の人の感覚なら"我が国の我が街に非凡なる才能の子供現る"と歓迎すべきであろう。
ところが、である。周囲の多くは寛一のことを何かにつけ化け物扱いして毛嫌いする。
その原因は何故か?それは長年に亘る日本人社会がはぐくんだ国民性に由来する。
悲しいかな我が国日本の社会は、
「出る杭は打たれる」ということわざに見られるように、
自分より出来のいい者や、自分より境遇のいい者に対する妬みが著しいエゴイスト社会だ。
エゴイストは仕事もひっくるめて人生が自分より上手く行っている者が、面白くないし
他人の活躍ぶりがあまりにも不快で堪らない。

ましてや、惨めな境遇に位置する者であればあるほど
自分と対極に位置する立場の者への嫉妬と憎悪は余計に天井知らずになる。

寛一は思った。
最初は褒めてくれたのに、いつの間にか無視し始め、遂には嫌がらせをし出した。
これを非難し訴え出ても先生も周りの大人たちも取り合ってくれない。
それを訝って母親の加奈子にこの事を言ってみた。
加奈子としては、寛一があまりにも出来が良い子である事が彼らには面白くないからとしか説明できない。
いくら出来がいいといってもやはり寛一も小学校に上がり立ての幼い子供である。
寛一としては、他人の事を妬んで嫌がらせするだけの余裕と頭の良さがあるのなら
もっと勉強して、もっと世の中の役に立つ事をみんなで考えればいいのに何で
それをやろうとせず自分の気に入らない者を傷つけるしかやろうとしないのかと泣きながら憤る。
それを聞くにつけ、加奈子はただ目に涙を浮かべながら
寛一が受けてきた不条理を聞いてやるしか無かった。


青春の嵐 第1話「疎まれ童子」

2015年11月11日 22時00分34秒 | 青春の嵐
もうすぐ昼を迎えようとしていた如何にも古きよき
日本家屋というべき二階建てをしている広い木造の屋敷。
ひとりの年老いてはいるが表情からも凛とした感じが窺えるほど
立ち振る舞いはしっかりしている、かくしゃくとした男が
若いひとりの女性に連れられた一人の男児を見る。

けれど、その男の表情は何故かぜんぜん嬉しくは無さそうである。
嬉しそうなどころか、まるで
"朝っぱらから、この世で絶対に見たくないものを連れて来やがって"と言わんばかりの
不快さに満ちた怒りを漂わせている。これが並みの人なら
いくら鈍感なヤツでも、こういう手の修羅場になりかねない事は
流石に怒りを静めようと、とりあえずは謝罪の言葉とか
宥める姿勢とかに徹しようとかにするだろう。
何故なら、この老人はただの老人では無い。
この人の怒りを買ったら、この街での自分の将来は無い事を
この街の人ならば誰しもが、よく知っているし実際に彼の怒りを買うような事を
やらかして、彼による金と強権的な手段による制裁を受けて破滅したという事例もある。

なのにこの若い女性は、怖気づくどころか平然としている。
これは無知から来る身の程知らずなのか?それとも
高い地位にある男とあろう者が女である自分と、この子に手を上げられる訳が無かろうと
半ば舐めてかかった態度なのだろうか?

「この子は、貴方様の子です。どうか認知のほどを。」
女は言葉を発した。
「ふざけるな!」
男の方は声こそ小さいが唸るように憤怒を込めて反論する。
「何で認めてくれないのですか?」
女は抗弁する。
確かに、この男は丁度四年前ほどにこの女と知り合い抱いた事はある。
けれど、男の方ではキチンと避妊をしていたはずであったし
女の方も避妊薬を服用していたと思っていたのであった。
この男としてはこんな結果を招く根拠などあろうはずは無い。

女の方も引き下がらない。
遺伝子証明書を盾に要求する。
これ以上、この子を認知しなければ恥をかく結果を招くのはお前の方だと迫った。
結局の押し問答の結果、形式上の認知として苗字を名乗るのを認めた。
女の方はそれで喜んだ。だが、次の瞬間それはあまりにも非情だった。
それは、
・苗字を母方から父方の姓にする。但し戸籍上は婚外子。
・生活費・養育費も世間一般家庭と同水準しか与えぬし、その生活ぶりも
 世間一般と著しく乖離している場合、依存心を断ち切り自立を促すためにも
 生活費・養育費の供与は中止する。
・そのためにも生活費・養育費を何に使ったのか領収書の提供を要求する。
 これを拒否すれば支払わない。
というモノである。
普通の者なら、"こんなの納得出来るか"と激怒するだろうが
この女にはそういう事が出来ぬ状況にはない理由がある。
何故ならこの女は、元が暮らしのあまり芳しくない家庭の出身である上に
田舎でも取り分けに位置する所の生まれで彼女のような境遇下の身が
どうしても人並みの暮らしを考えるには
普通の境遇に生まれた者と同じ事をしていたらとても出来ない事である。
ましてやこの女が自分の頭を振り絞って考えた方法というのが
自らの美貌と容姿を上手く使って高収入の男に取り入るというのであった。
その結果、自らの子をこさえてこの老人の前に認知を迫り自分はこの子の母親として
この家の実権を掌握できるかもしれないだろうという考えだった。
ところが世間に言わせれば女子供の考えとは悲しいかな、
有名で優れた政治家や文化人、スポーツ選手、芸能人などと比べ
それほど深くは無く熟した上での判断では無いという。
この女としては自分自身、学生時代じゃマドンナと形容されるほどの美人だったし
頭のレベルも当時の同世代の女子たちは元より、男子も目を見張るほどの優秀だった。
要するに少なくとも自分は、世の中からバカにされる謂れは無いという
自信とその裏付けるだけの実力と結果は学生時代も学校外でも残してある。
それでも彼女にとって自分に必要というのは、やはり資金力と地位である。
そう、周囲に自分の悪口を言わせず蔑みの目で見させないだけの力の裏づけだ。
そこで彼女なりに考えたのが、自分より金と地位のある男に取り入るという事だ。
そのためには、あえて子を持つという方法をしたのだ。

「言っておくが皆村加奈子。確かにワシは今は妻には先立たれてはいる。
だからといって貴様ごときに、この尾場勘吉の目の黒い内は
この家を好き放題させられると思うな!」
尾場勘吉と自ら名乗った老人は、皆村加奈子と呼ばれた三十を少し回った若い女性に対し
半ば攻撃的かつ排他的な口調で言った。
言外に「お前のような子供をダシに、この家の財産を好きなようにしようという性悪女の
思い通りにさせてなるものか」という語っているのである。
下心を見抜かれたのか、加奈子は勘吉に対し
下唇を噛み締め歯をむき出しにして上目使いに睨む。

この大人たちのやりとりをこの幼い男児は、まるで生まれながらにして
もう既に精神的に大人としての片鱗を見せ始めているのか
何か同世代の他の者とは何か違う器の片鱗なのか
表情をほとんど動かさず、ただ黙って見守っている。
これが同世代の他の児童なら、勘吉のような強面な老人による
さっきから自分と自分の母親に対する大人気ない恫喝と罵声ぶりに思わず泣き出してしまうだろう。
けれどこの子供は、泣くどころか泰然とした姿勢で二人の様子を見守っている。
おもむろに勘吉はこの子供の方に向き直る。すると殊更、ますます不快な表情が顕著になる。
「まあいい。とりあえず名前だけは考えてやろう。おい、ガキ!?」
「はい。」
勘吉の半ば大人気ない怒号での問いかけに、子供の方も怖気づくことなく
加奈子にいつも言われている言いつけどおりの姿勢と態度で接する。
「お前の名前は何と、言う?」
「ちょっと、この子にそのような大人気ない態度は!?」
加奈子は思わず勘吉を咎めようとする。
「人の金で遊んで暮らそうと企んだ性悪女は、黙ってろッ!!」
勘吉は加奈子に対して甲高い声で怒鳴る。
そして、子供の方に向き直ってぶっきらぼうな口調で名前を問う。
「お前の名前は何だ?」
「みなむら よしとです。」
子供は素直に自分の名前をそう答える。
「皆村良人?」
これを聞いた勘吉は怪訝そうな顔で反応する。
これに加奈子が解説する。
「この子には、世の中のみんなのために役に立つ良い事をする
なりなさいという意味を込めて名づけたんです。」
だが勘吉としてはこれが気に入らないのか、少し思案したあと
「ふむ。・・・ならワシが認知してやるに当たって、新しい名前をつけてやろう。」
そう言って、少し笑みを浮かべる。
「新しい名前をですか?今のままでも構わないのでは?」
「いや、この家の苗字を名乗りワシの子である証をくれてやるんだ。
それに見合ったモノをあげないとなぁ?」
「それで何の新しい名前をつけるんですかこの子に?」
「もう決まってる。この子の名前は"寛一"とする。」
「か、かんいち?」
「そうだ。良人じゃ大きくなった際、名前負けした生き方しがちだ。
実際、ワシの知り合いの息子にも善人などと名前をもらったのに、
大学生になったにも拘らず遊び歩いた挙句、別れ話のもつれで付き合った女を
殺して刑務所に収監されおった。じゃから昔からああいう如何にも
和とか正とか義とか善とか良識とか言った正義や平和とか秩序とか道徳とかを題材にした
漢字を名前にすると得てしてそれとは逆に暴力や卑劣や陰険さや強欲や収奪などを
美化する生き方をしがちになり多くの人々を苦しめ社会を乱しまくった挙句、自滅して行くんじゃ。
それならばいっそ、このワシが決め付けた名前の"寛一"として生きた方がこの子の幸せだ。」
勘吉はかなり自分に酔った持論を展開している。
「そんな勝手な!?」
加奈子は思わず非難する。
「嫌なら、お前と交わした条件は無しじゃ。さっさとそのガキ連れて、とっとと帰れ。」
加奈子はもう、半ば泣き顔のようだ。
結局、彼女は断腸の思いで契約を交わす事となった。
この皆村良人という三歳の小児は尾場寛一と名を変える事になった。


青春の嵐 プロローグ

2015年11月09日 19時53分20秒 | 青春の嵐
ここは、とある研究室。

ひとりの所長と思われる白衣を羽織った年長の男性が同じ白衣を羽織ってる若い研究員に訊ねる。
「ガンバレルの中はどうなっている?」
「はい。上手く行ってます。順調ですよ。」
ガラス越しに伺うとそこにあるのは、ガンバレルと呼ばれた正しく砲身状をした
人工子宮装置がある。その中でひとつの塊だったのがやがて人間の赤子の形を形成して行く。

「くくく。この遺伝子操作とクローンをはじめ各種細胞バイオ技術を
組み合わせれば、天才的かつ優秀な能力を人工的に造れる。」
「そうですね。」
「そうだ。それにこの技術をもってすれば、ナチュラル(従来の母胎出産の人間)と違い
能力のバラつきは小さくなるし、身体や精神に障害を生まれながらに抱えてくることもなくなる。」
二人の科学者たちは、半ば喜んでいるようだ。

科学者たちがガラス越しに眺めている間にも。砲身状の人工子宮装置の中の生命は
そのシリンダー内でやがて世に出る時を待っている。