ゴールデンウィークの出来事からかなりの日数が過ぎ、教室のカレンダーは
もう既に7月である表面の紙が壁に画鋲で押さえられている。
寛一は、相変わらず何か楽しいでも無く、かといって不快という訳でも無く
ただ黙々とスマホを操作している。
無論、ゲームでも無ければLINEでも無い。
では何をやっているのかというと、証券会社にログインしてデイトレードにうつつを抜かし
毎日のように元手の三パーセントを算出していた。
心なしか季節は梅雨時を向かえ、そして蒸し暑い時期を迎えている。
寛一の証券口座における買い付け可能金額は遂に二千万円を超過した。
スマホを使って、授業と授業時間の合間の休憩時間や
昼間の時間を利用してのデイトレードで売買取引による
一日平均二パーセント余りだとしても、小学生高学年としてはかなりの収益である。
とあるまだ梅雨も明けぬ土曜日の昼下がりの事である。
寛一は、昼飯を食べた後、ネット掲示板に昨日の帰り際に
自分に対してカツアゲを試みようと金の無心に来た街のワルを
徹底的に筆舌に尽くし難い憂き目に遭わせたのを自慢する書き込みしてから
パソコンの電源を切ったあと携帯ゲームをしていて何時の間にか眠り込んでいたである。
夢の中で何処かから、寛一に対する怒声とも罵声とも受け取れる声が聞こえてくる。
(一体、何だ?誰がオレに問いかけてるんだ?)
寛一は、足元に霧が立ち込める周りが真っ暗闇の中で、辺りを見回すが
声の主は見つからない。
――尾場寛一よ、思い上がるな!
「な、何だとコノヤローッ!?このオレがいつ、思い上がったッ!!」
思わず声のして来る方向に対して、声を荒げる。
だが、姿を見せぬ声の主は遠慮することなく寛一に対して
年端も行かぬ子供にあるまじき生意気の数々を詰る。
――では、言わせて貰おう。
声の主は、寛一に対してお前には文句が山ほどあるんだと言いたげに、
少し呼吸を整えるかのようにしばらく間を置く。
――お前は父親の勘吉から、母子ともども同居は何で一緒に暮らすことを
認められないのかお前は、そのことを考えたことはあるのか?
いきなり、核心を突かれ寛一は動揺する。だが、寛一の方とて負けはしない。
「そんなの知ったこっちゃないね。大体オレは屋敷に居る腹違いの兄貴たちと違い、
もともと戸籍上は認められてない男なんだよ。それでも苗字だけ名乗らせてやったのは
向こうとしてはこれが慈悲ってヤツなのさ。
ホントの所はあのジジイにしか判らねえよ。まあ、このオレの
推測かつ憶測で良ければ答えてやるよ。てめえが、もし天の神様だとしたら
あのジジイの職業は何なのか、もういちいち他人に教えられなくても知ってるだろ?
てめえがあのジジイの立場だったら、いくらてめえの女房亡くした寂しさと
抱く女の居ない退屈さはだからって、てめえの屋敷にどこぞの判らん女と子供を
抱え込むを出来ると思うか?おまけに
屋敷にゃ、てめえの息子すなわちオレにとっちゃ腹違いに当る兄貴たちも居るんだ。
ましてや、てめえの職業はこの街じゃ泣く子も黙る街の名士だ。
こういう手の立場にとっちゃ、金にまつわる醜聞だけでも自分を危うくさせるには充分なのに
どっかで素性の判らん女を孕ませた上に、その子供が居るって判れば
世間はどう思うかてめえが世間の人々の声が聞こえない訳じゃねえのなら理解出来るだろーが?」
これに対して、声の主も引き下がらない。
――じゃあ、お前は今の住んでいる家において世帯主の名前が皆村加奈子で
お前の名前が尾場寛一という、歪であるという現状に関しては疑問に思わないのか?
お前の家の周囲の家々を見ろ。何処の家庭の表札によっては、家主とそこに
暮らしている家族の苗字は異なっているだろうか?お前はそれに関して疑問に感じないのか?
「なら、お前はオレに何をしろって言いたいんだ?言っておくが今のジジイにとって
オレもオフクロも異物でしか無いんだぜ?素直に受け入れるっていう
選択肢は向こうには元よりあるはずが無いぜ。」
寛一の持論も間違ってはいない。
ここで寛一の立場になって考えれば母子ともども勘吉の屋敷に寛一が成人になるまででいいから
屋敷に置いて貰えないかと頼み込んでも、断られるのは判りきってるし
仮に認められたとしてもその待遇というか屋敷内におけるカーストは
使用人とか居候よりも格下の最底辺層に位置するのである。
世の中において子供をダシに富裕層の夫人としての主導権を握れるなんて
考えはそう甘くは無いといういい事例であるし子も子で
既にそこに居る子供らより甘えさせてもらえる訳でも無いという事例である。
夢の中で声の主とやりとりしながら、悶々とした想いにかられつつ起き上がり
やがて夢の中での出来事を思い出すように心の中で呟く。
(思い出しても見ろよ。何でオフクロがこのオレが四年生のときに、過去に貰った
お年玉や田舎の農家の手伝いで貰った金やバイトなどで貯めた金で
株や外為をやりたいって言ったときに、反対しなかったばかりかむしろ、
『それらを上手く使って他人からのお金を当てにしない暮らしをしなさい』と言ったか。)
改めて寛一は思った。それというのも過去に優しかった母加奈子が珍しい事に激怒した事があった。
それというのも、寛一が小学三年のときだった。
お年玉と田舎の知り合いの農家の手伝いで得たお金でお菓子や玩具を買ったのが原因だからだ。
お菓子や玩具を買うのは、この歳の子供なら致し方ないモノなのだけど加奈子としては
それを認める訳には行かなかった。加奈子はお菓子や玩具を買ってきた寛一を
暗愚で救いようの無い出来損ないと口汚く罵った。
寛一としては何でそれがいけないのか判らず、ただ泣きじゃくるばかりだった。
そして泣き明かした翌日に加奈子は、寛一に対して打って変わっていつものように優しく穏やかな
笑顔で諭すように、自分が叱った理由を折角、自分も含めて周りの人たちが寛一が
将来、自分の器量と才覚だけで生きていけるために貯めてそれを運用するのを願って
あげてくれたのを寛一が目先の道楽のために使ったのが悪いからいけないのだと説明したのである。
その事を思い出すにつけ、改めて寛一はお金とは自分を助けるために貯めて
自分を援けるために運用するためにあるものなのだと感じるのであった。
もう既に7月である表面の紙が壁に画鋲で押さえられている。
寛一は、相変わらず何か楽しいでも無く、かといって不快という訳でも無く
ただ黙々とスマホを操作している。
無論、ゲームでも無ければLINEでも無い。
では何をやっているのかというと、証券会社にログインしてデイトレードにうつつを抜かし
毎日のように元手の三パーセントを算出していた。
心なしか季節は梅雨時を向かえ、そして蒸し暑い時期を迎えている。
寛一の証券口座における買い付け可能金額は遂に二千万円を超過した。
スマホを使って、授業と授業時間の合間の休憩時間や
昼間の時間を利用してのデイトレードで売買取引による
一日平均二パーセント余りだとしても、小学生高学年としてはかなりの収益である。
とあるまだ梅雨も明けぬ土曜日の昼下がりの事である。
寛一は、昼飯を食べた後、ネット掲示板に昨日の帰り際に
自分に対してカツアゲを試みようと金の無心に来た街のワルを
徹底的に筆舌に尽くし難い憂き目に遭わせたのを自慢する書き込みしてから
パソコンの電源を切ったあと携帯ゲームをしていて何時の間にか眠り込んでいたである。
夢の中で何処かから、寛一に対する怒声とも罵声とも受け取れる声が聞こえてくる。
(一体、何だ?誰がオレに問いかけてるんだ?)
寛一は、足元に霧が立ち込める周りが真っ暗闇の中で、辺りを見回すが
声の主は見つからない。
――尾場寛一よ、思い上がるな!
「な、何だとコノヤローッ!?このオレがいつ、思い上がったッ!!」
思わず声のして来る方向に対して、声を荒げる。
だが、姿を見せぬ声の主は遠慮することなく寛一に対して
年端も行かぬ子供にあるまじき生意気の数々を詰る。
――では、言わせて貰おう。
声の主は、寛一に対してお前には文句が山ほどあるんだと言いたげに、
少し呼吸を整えるかのようにしばらく間を置く。
――お前は父親の勘吉から、母子ともども同居は何で一緒に暮らすことを
認められないのかお前は、そのことを考えたことはあるのか?
いきなり、核心を突かれ寛一は動揺する。だが、寛一の方とて負けはしない。
「そんなの知ったこっちゃないね。大体オレは屋敷に居る腹違いの兄貴たちと違い、
もともと戸籍上は認められてない男なんだよ。それでも苗字だけ名乗らせてやったのは
向こうとしてはこれが慈悲ってヤツなのさ。
ホントの所はあのジジイにしか判らねえよ。まあ、このオレの
推測かつ憶測で良ければ答えてやるよ。てめえが、もし天の神様だとしたら
あのジジイの職業は何なのか、もういちいち他人に教えられなくても知ってるだろ?
てめえがあのジジイの立場だったら、いくらてめえの女房亡くした寂しさと
抱く女の居ない退屈さはだからって、てめえの屋敷にどこぞの判らん女と子供を
抱え込むを出来ると思うか?おまけに
屋敷にゃ、てめえの息子すなわちオレにとっちゃ腹違いに当る兄貴たちも居るんだ。
ましてや、てめえの職業はこの街じゃ泣く子も黙る街の名士だ。
こういう手の立場にとっちゃ、金にまつわる醜聞だけでも自分を危うくさせるには充分なのに
どっかで素性の判らん女を孕ませた上に、その子供が居るって判れば
世間はどう思うかてめえが世間の人々の声が聞こえない訳じゃねえのなら理解出来るだろーが?」
これに対して、声の主も引き下がらない。
――じゃあ、お前は今の住んでいる家において世帯主の名前が皆村加奈子で
お前の名前が尾場寛一という、歪であるという現状に関しては疑問に思わないのか?
お前の家の周囲の家々を見ろ。何処の家庭の表札によっては、家主とそこに
暮らしている家族の苗字は異なっているだろうか?お前はそれに関して疑問に感じないのか?
「なら、お前はオレに何をしろって言いたいんだ?言っておくが今のジジイにとって
オレもオフクロも異物でしか無いんだぜ?素直に受け入れるっていう
選択肢は向こうには元よりあるはずが無いぜ。」
寛一の持論も間違ってはいない。
ここで寛一の立場になって考えれば母子ともども勘吉の屋敷に寛一が成人になるまででいいから
屋敷に置いて貰えないかと頼み込んでも、断られるのは判りきってるし
仮に認められたとしてもその待遇というか屋敷内におけるカーストは
使用人とか居候よりも格下の最底辺層に位置するのである。
世の中において子供をダシに富裕層の夫人としての主導権を握れるなんて
考えはそう甘くは無いといういい事例であるし子も子で
既にそこに居る子供らより甘えさせてもらえる訳でも無いという事例である。
夢の中で声の主とやりとりしながら、悶々とした想いにかられつつ起き上がり
やがて夢の中での出来事を思い出すように心の中で呟く。
(思い出しても見ろよ。何でオフクロがこのオレが四年生のときに、過去に貰った
お年玉や田舎の農家の手伝いで貰った金やバイトなどで貯めた金で
株や外為をやりたいって言ったときに、反対しなかったばかりかむしろ、
『それらを上手く使って他人からのお金を当てにしない暮らしをしなさい』と言ったか。)
改めて寛一は思った。それというのも過去に優しかった母加奈子が珍しい事に激怒した事があった。
それというのも、寛一が小学三年のときだった。
お年玉と田舎の知り合いの農家の手伝いで得たお金でお菓子や玩具を買ったのが原因だからだ。
お菓子や玩具を買うのは、この歳の子供なら致し方ないモノなのだけど加奈子としては
それを認める訳には行かなかった。加奈子はお菓子や玩具を買ってきた寛一を
暗愚で救いようの無い出来損ないと口汚く罵った。
寛一としては何でそれがいけないのか判らず、ただ泣きじゃくるばかりだった。
そして泣き明かした翌日に加奈子は、寛一に対して打って変わっていつものように優しく穏やかな
笑顔で諭すように、自分が叱った理由を折角、自分も含めて周りの人たちが寛一が
将来、自分の器量と才覚だけで生きていけるために貯めてそれを運用するのを願って
あげてくれたのを寛一が目先の道楽のために使ったのが悪いからいけないのだと説明したのである。
その事を思い出すにつけ、改めて寛一はお金とは自分を助けるために貯めて
自分を援けるために運用するためにあるものなのだと感じるのであった。
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