結羽〜青い風にふかれて

ゆらめく心 きらめく心 うたかたの夢

ミッション(後編)

2021-10-19 13:00:42 | ショートショート

 

車はとても静かだった。不思議なことにエンジン音がまったくしなかった。

目隠しのせいでよく分からないが、どうやら首都高速に乗ったようだ。カーブが多い。

そのうち、無言のドライバーは一定のハイスピードですっ飛ばし始めた。東名か中央か、どちらかの高速道路だろう。

どのくらい走っただろうか。未舗装らしい道路の感触が、ゴトゴトと車体に伝わってきてしばらくすると、車は停まった。

オレは剥ぎ取るように、アイマスクを外すと車から降りた。

 

目に入ったのは、高くそびえる木々の連なり。一帯は広葉樹の原生林のようだった。場所は山梨か、静岡か。

道らしい道は見えない。

よく車でここまで来られたな、そう思って振り返ると、黒い大型車はいつの間にか消えていて、ただ木々がうっそうと生い茂っているだけだった。

オレは少し気味が悪くなって、ぶるっと身震いをした。

 

目の前には、周りの風景とはあまりにも不釣り合いな、三階建てぐらいの白い円錐形の物体が、ちょうどタケノコが生えているように直立しているのが見えた。

その建物らしきものには出口も入口も窓もなかった。

恐る恐る手を出すと、壁に触ながらのっぺりとした物体の周りをぐるりと歩いてみた。

ひやりとした金属の感触と吸い付くような感覚が皮膚に伝わり、ひとりでに手が震えた。

「へへへ……いくらお調べなっても無駄よ。出入口はここだね、ほれ」

メルドが足元に積もった落ち葉を足で掻くと、縦横50センチばかりの厚い木の板が現れた。

それを持ち上げるとぽっかりと穴が口を開けていた。やつはそこへ飛び降り、オレを見上げた。

「蓋をする前に、落ち葉をこうやって板の上に乗せろよ。そしてそっーとお閉めください。

ほら、もう出入口がどこかわからんちん。

ほらほら、今度はあなた様の番でございまーす。ここから先はおひとりで行く」

なるほど、出入り口はこの落ち葉の下に隠れているというわけか。

オレは納得し、言われたとおり穴に身体を入れ、身を乗り出した。落ち葉を板の上に搔き集めると、慎重に板を元に戻した。

穴の中は真っ暗で狭苦しかった。人ひとりがかろうじて通れる暗闇のスペースが続く。

手探りしながらしばらく行くと、穴は昇り勾配になって、かつんと指先が硬いものに当たった。

どうやら行き止まりのようだ。オレは両手に力を込めて、蓋のようなものをぐっと押し上げた。

カタン……。

エントランスは簡単に上へ開いた。縁に両手をかけて、穴から抜け出す。

 

そこは外観と同じ真っ白な部屋だった。

中央に、掌くらいもある赤いボタンが一つだけ設置されたデスクがあり、ほかには椅子が一脚とソファベッドがあるだけだ。

今まで嗅いだことがないような臭いが、わずかに漂っていた。

オレがあたりをキョロキョロ見回していると、どこからともなくメルドではない別の声が聞こえてきた。

こちらはえらそうな言い方の男の声だが、言葉遣いはいくらかましだ。

「あー、マイクはこれでいいのか? よし、では始めるとしよう。

えー、私はこの重大ミッションの総責任者、モードンだ。

さて、山口くん、君はなぜここに連れてこられたのか不思議に思っていることだろう。それを今から説明しよう。

目の前にボタンがあるのが分かるか? そうその赤いボタンだ。

おっとダメだ、触るな! 絶対に触ってはいかん。押すなんてもってのほかだ! 

もしそれを押すと、大変なことが起こる。一瞬にしてすべてが無に帰す恐怖のボタン、危険極まりないものなのだ。

君の国、つまり日本の国全体、いや丸ごと地球をふっとばすほどの威力がある。いわゆる最終兵器だな。

だから絶対に触ってはならん!

だが、困ったことにそれを押そうとしているやつらがいるのだ。君らの言葉で言えば、宇宙人ということになる。

このとんでもない兵器を作り、密かにここの地下に埋めたのもやつらだ。

しかし幸いにも、我々はそのことに気づき、連中をたたき出して、恐怖のボタンをこの部屋に移した。

うん? なにっ? 意味が分からんだと」

モードンと名乗ったやつは大きくため息をつくと、やれやれという口調で、また話し始めた。

「だからー、とにかくこの赤いボタンが押されてはダメなのだ。押されないよう、がんばるのだ! 

やつらは機会を窺ってボタンを押しに来るに違いない。君はそれを阻止するのだ。

いいか、よく聞け、赤いボタンを有効期限までの3日間、なんとしても守り抜け。それが君に与えられたミッションだ。

このミッションは、厄介な危険物を持ち込まれてしまった国の人間がやらなければならない。残念だが、我々は手出しできない。

何度も言うようだが、決して、赤いボタンを押されてはならんぞ。そんなことになれば、地球は宇宙の藻屑だ!」

モードンは、一気にまくしたてた後、取って付けたように「なにか質問は?」と問いかけてきた。

オレはそれを待っていた。

「こんな重大なミッションに、なぜオレが選ばれたんですか? 武道をやっていたわけでも、銃の使い手でもないし…

ごくごく普通の男ですよ」

「普通! それがいいんだよ。普通のやつが相手だと知ったら油断する。それが狙いなんだ。

だが、そんなことより、スーパーコンピュータが、何億というデーターの中から、君が最適だとはじき出したことこそが重要なんだよ。

君もそれを認めるべきだ。君は選ばれし者、このミッションのために生まれてきた人間なのだ!」

モードンの言葉がオレの自尊心を大いにくすぐった。選ばれし者……だってさ。

ああ、なんていい響きなんだ。

身体の奥から沸々と湧き上がる使命感。

オレにこの地球の運命がかかっている。

そう思っただけで、なんともいえない優越感と幸福感に包まれた。オレが何年も待ち焦がれていたのはこれだったんだ!

「あの、もうひとつだけ…。メルドとかいう黒づくめの人、あの人が報酬がどうとか言ってたんですが…」

「おおそうだった。肝心のことを話していなかったな。

このミッションが無事完了した暁には、君には大きな報酬を支払おう。嘘ではないぞ。

完了の瞬間、君は今まで見たこともないような素晴らしいお土産に埋まって、最高の気分で目を覚ますことになる。

君のベッドでな」

「大きな報酬、最高の気分で…」

オレはうっとりとして宙を見つめた。

だが、次の瞬間、我に返った。

「失敗したら…、失敗したら、オレはどうなるんですか?」

「地球が消滅するってときに、そんな心配したってしょうがないだろう」

「そうですね…ああ、もうこうなったら破れかぶれだ。で、一体全体何をしたらいいんでしょう?」

「何もしなくていい」

「えっ、えっ? どういうことですか」

「君のやるべきことは、赤いボタンを押されないようにする、ただそれだけだ」

「ええ、それは分かってます。で、そのために何か特殊な訓練とか武器はないんですか?」

「ない。そんなものは一切ない!

君は敵が襲来したときに、君の持てる力すべてで、赤いボタンを守るんだ。簡単だろう。分かったか?

では、間もなくカウントダウンのタイマーをセットする。ブザーが鳴ったら任務完了だ。健闘を祈る!」

それだけ言うと、モードンの声はぷつりと途絶えた。

 

武器も持たずに、どう戦えっていうんだ。相手は得体の知れない宇宙人なんだぞ。

オレは急に腹立たしくなって、ボタンのあるデスクを思いっきり蹴っ飛ばした。

その衝撃で机が大きく揺れた。オレは慌てて押さえた。

もしも机が倒れ、ボタンが床と接触したら…そう思っただけで冷や汗が流れた。

震える手でゆっくりと椅子を引き、そっと座った。 

 

オレは腕を組み、目を閉じて、静かに考えた。

この建物、おいそれと侵入されることはないだろう。

だが万が一、やつらが入ってきたらどうする? 

こっちは丸腰だ。武器は一切ない。

しかし、モードンはそれが狙いだと言っていた。

どういう意味なんだろう。オレを囮にして、宇宙人をおびき寄せるつもりなんじゃないか…まさか…。

いや違うな、そんなことをして、もしボタンを押されでもしたら…。

そう、モードンたちも木っ葉微塵に吹き飛んでしまう。それは余りにもリスクが大きすぎる。

では、なぜだ?

まさか、最初から宇宙人なんか攻めてこないと分かっているとか…。

だけど、それなら多額の報酬を支払う約束までして、オレをこんなところに連れて来るか?

考えろ、考えるんだ。オレには出来るはずだ。何と言っても選ばれし者なんだから。

 

 1日目

オレは、もしもに備えて身体を鍛えることにした。

腕立て伏せ、腹筋、スクワット。その他思いつくままに身体を動かし続けた。

じっとしているのが耐えられなかったからだ。なんでもいい、何かしていないとおかしくなってしまいそうだった。

オレは一睡もせず真っ白い部屋で赤いボタンを守り続けた。

不思議なことに、眠くならないばかりか、空腹感もなく、排泄の欲求すら起きない。

部屋に入ったときにわずかに感じたあの臭い…あれは特殊な薬物かなにかだったのかもしれない。

 

2日目

閉鎖された白い部屋が、じわじわとオレを蝕み、正常な判断を奪っていった。

気の遠くなるような遅い時間の流れの中、オレは見えない敵の侵入を察知し、架空の戦いを挑み続けた。

それを、何度も何度も繰り返し、そのたびに勝利した。

やがて幻想と現実の境があいまいになり、時間の観念すらなくなっていった。

しかし、気分だけは高揚の極に達していた。今ならどんな敵も倒せる気がした。

 

 3日目(最終日)

オレはいつ現れるかも知れない敵に恐れを抱くようになる。

一度恐怖が芽生えると、それはすぐに大きく育ち、あっという間に心も身体も支配していった。

波のように押し寄せる不安と絶望の中、何もする気が起きず、気力も失せ、オレは膝を抱えて、白い部屋の隅で震えていた。

自分の吐く息にすら怯え、敵が来たのかと錯覚するほどだった。

精神は極限まですり減っていた。

 

ついにその時が来た。

チリチリチリーン…。

なんとも可愛らしい音が鳴り始めたのだ。任務完了を告げるブザーだ。

椅子に座っていたオレは心底ほっとした。今までの緊張から解き放たれて、無事ミッションを完遂したことに安堵した。

そして、受け取るはずの報酬に胸躍らせたその瞬間、ふと赤いボタンに目が留まった。

そして、ああ、なんということだろうか、こともあろうにオレは赤いボタンを押してしまったのだ。

右の人差し指が自分の意思とは逆に、まるでスローモーションのように動いた。

あっ、まずいと思ったときには、もう手遅れだった。オレの人差し指はボタンの上にあった。

シューッという音と共に、床から白いガスが吹き出てきて、たちまち強烈な眠気がオレを襲った。

身を削る思いで守ってきたボタンなのに、自分で押してしまうなんて…なぜだ、なぜなんだ…。

薄れゆく意識の中、いとおしい恵理の笑顔と、物悲しげな永田の顔が脳裏に浮かんだ。

 

 

モニターを見つめていた、ふたつの影がぞわりと動いた。

「あーあっ、モードン様、残念! やっぱりダメかぁ。クリア寸前やったのにぃ」

メルドが、真っ黒な口を大きく開け、赤い舌をだらしなく垂らしながら、ガフガフと残念そうに叫んだ。

「いや、なかなか良かった、十分楽しませてもらったよ。山口くんはいい被検者だった。

いまごろ、ぐっすり眠り込んでいるだろう。自分のベッドでな。

我々の推測どおり、地球人は脳からの決定に逆らうことができずにボタンを押した。

これは、被験者のそれまでの経験から、ボタンは押すものだと、脳が勝手に認識しているためだ。

だから『押せ!』という命令が下ったのだ。

これで、『自由意思は幻想である』ということの証明が一歩進んだな。

地球の連中が自分の意思決定でおこなっていると思い込んでいることが、

実は『無意識下で形成された脳の科学プロセス』によるもので、そこには自分の意思など存在しない。

いや…ちょっと違うな。

正確には、脳から命令が下り実行に移すまでには、ほんのわずかな、0・2秒ばかりの隙間がある。

そこでボタンを押すなと意識できれば、踏みとどまることができ、また違う結果が出たのかも知れない」

「ひぇ…、メルドはちーんぷんかんちん。ただ地球人、おばか。それはメルドもわかる」

「そのとおり、地球人は、愚かな生き物だ。脳の作りなんて、お粗末としか言いようがない。

脳からの信号を避けることが出来ないことが致命的だ。

ましてそれを、あたかも自分の意思でおこなったと勘違いする。まったくもって下等生物だな。

これで、我々のミッションは完了だ。帰還したら、この実験結果を大々的に公表することにしよう。

さあ、早いとこ帰って、久しぶりにうまい硫黄酒でも飲むことにしようや」

モードンは上機嫌で、身体を大きく揺らしながら操縦席に座った。

スペースシップの発進ボタンを押せば、今回のミッションは成功裡に完了したも同然だ。

ところが、次の瞬間、なぜか隣の赤いボタンがモードンの目にクローズアップされた。

まるで吸い込まれるように左の触手が伸びていく。

「あっ、モードン様、だめだ! それは消滅の…」

メルドが大声で怒鳴った次の刹那、白い円錐形の宇宙船はぐらりと揺れて崩れ落ち、跡形もなく消え去ってしまった。

 

同じころ、遥か彼方の惑星でのちょっとした出来事。

巨大宇宙カジノの大型スクリーンにわずかな時間差で映し出されていたのは、 深い山の中に立つ白いスペースシップの画像だった。

それを固唾を飲んで見つめていた数千の群集から、大きなどよめきが起こった。

 

白い宇宙船は目の前で消滅してしまった。

 

乗組員には知らされていなかったが、今回の地球派遣の真のミッションは、単なる「地球往復、地球人に接触」ということだった。

まず間違いなく任務は完遂されるだろうとの下馬評だったが、案に相違して宇宙船自体が消え去ってしまったのだ。

「帰還失敗」に賭けた少数の者たちは、当たり券を手にガッツポーズを決め、肩を抱き合い喜びの雄叫びを上げた。

一方、「帰還成功」に賭けた大多数からは大きなブーイングが巻き起こった。

 

悔し紛れに引きちぎられた外れ券は、花吹雪のように宙を舞い、そして風に乗って消えた。

 

                                              了

 

 

☆「ミッション」後編をお読みいただき、ありがとうございます。

 まだまだ未熟者ですので、みなさまの忌憚ないご意見、ご感想をいただけるとありがたいです。

 「面白くないぞ~」「意味が分からない」等々、どんなことでも構いません。

 これからの創作に活かしていきたいと思いますので、どしどしお寄せ下さい。

 よろしくお願いします。


ミッション(前編)

2021-10-17 21:21:11 | ショートショート

ミッション

 

絶対やってはいけない、ダメだ、と分かっているのに、ついやってしまう。

そんな経験のひとつやふたつ、誰にでもあるだろう。

「配偶者がいる異性を愛してしまう」とか「医者から飲酒を禁じられているのに、こっそり呑んでしまう」とかいう話ではない。

もっと身近な単純な行為のことだ。

そんな自分自身の愚かすぎる行為が、実は脳のメカニズムの仕業だとしたら、あなたは幾分救われるだろうか。

何かの行為をしようとする時、意識的な決定をする前に、すでに脳が無意識的な決断を下していることがあるのだという。

そして、それまでの経験により勝手に判断し、行為を導き出して命令を下す。

それにもかかわらず、行為者本人は、あたかも自分の意思でおこなったのだと思い込む。

これが本当ならば、「分かっている、分かっているのに…なぜ?」という意識と行動の矛盾が理解できるというものだ。

 

ここでは、ひとりの男に降って沸いた不思議な出来事と彼の行動について、記録しておくことにする。

男の名は、仮に山口としておこう。36歳になったばかりの元ホテルマン、独身だ。彼の独白を聞いてほしい。

 

 

 突然現れたそいつは、オレの人生を変えてくれるのかと思った。

 そいつは、途方もなく重大なミッション(任務)だと言った。

 選ばれし者だけが遂行出来る極秘任務なのだと強調した。

 なによりも驚いたことは、このオレがその任務遂行者に選ばれたということだった。

 

 オレは、山形県内の温泉リゾートにある、かなり大きなホテルのフロント支配人だった。

だった、というのは、ふた月ほど前、辞職願を総支配人にたたきつけ、生まれ育った東京・新宿の実家に舞い戻ってきたからだ。

それまでのオレは、いろんな事情で独り身のままだったが、さしたる悩みもない平穏な日々を過ごしていた。

それは言い換えれば、同じことを繰り返すだけの暮らしで、正直飽き飽きしていたといっても過言ではない。

もちろん、仕事柄、宿泊客からのクレームなど、さまざまなトラブルは毎日のように起こった。

だが、何が起きてもすっかり慣れっこになっていて、驚いたり悩んだりすることはなかった。

それでも、オレの退職のきっかけとなった或る出来事について、当の本人からいきさつを聞いた時には、オレは正直言って驚き、疑い、怪しんだ。

その出来事とは…。

 

あれは旧盆の花火大会のあった夜、日付を超えた夜中の3時前の事だったという。

12階建て200室もあるホテルの全館に「館内から出火しました。火事です。お客様はいますぐ避難を始めてください」

という火災報知の放送が大音量で繰り返し流れたというのだ。

火災を知らせるアラームがまずフロントで鳴るという段階を経ずに、避難しろという放送がいきなり流れるのは異常なことで、システム上あり得ない事態だった。

すぐ誤報とわかったらしく、間もなく訂正放送も流れたというが、着の身着のままで避難した泊まり客はもちろん、

室内に留まったものの熟睡中にたたき起こされた客たちの憤懣は当然ながら激しいものだったという。

毎夜、この時間帯はナイトフロントのスタッフが3人ですべてを担当している。

しかし、彼らは全員がパート従業員にすぎなかった。

そこで、何かあった場合に備え、責任ある正規の従業員がホテル内に泊まり込むことに決まっていた。

その夜は、オレが宿直の順番に当たっていて、10階の仮泊ルームで夜を過ごし、朝9時にはフロント事務所に顔を出すというスケジュールになっていた。

だがその夜、オレはホテル内にいなかった。大きな声では言えない事情があった。

午前零時過ぎだったか、オレはホテルのパーキング出入り口からこっそり抜け出し、歩いて10分ほどの女子従業員宿舎「ことぶき寮」に向かったからだ。

いつものように、寮の裏にある非常階段から入り込むと、パティシエの恵理の部屋で甘い時間を過ごしていたのだ。

朝になってスマホを見ると、夜中に6回もナイトフロントのベテランスタッフ永田から着信があるのに気がついた。

普段ではありえない事だ。

嫌な予感がよぎり、いつもより早めに出勤すると、チェックアウト手続きでフロントに並んでいる客たちは、

口々に昨夜の対応の悪さに文句を言い、ホテルを非難していた。オレは狼狽した。

事情がまったくわからないので、夜勤明けで帰ろうとしていた永田を慌てて捕まえた。

彼は緊急時に連絡がつかなかったオレを非難の眼でしばらく見つめたあと、短く言った。

「山口支配人、いったいどこにおられたんですか? 何度も連絡したのに…。

急で申し訳ないですが、私、今日付けで辞めさせていただきます」

オレは驚いた。それでは事態の収拾がつかない。

永田にすべての責任はオレにあると強調し、あれこれと、なだめたりすかしたりした。

すると、彼はようやくぽつりぽつりといきさつを話し始めた。

 

ナイトフロントは午前零時に早番が仮眠に入り、午前3時に交代で遅番が仮眠に入る。

この夜、遅番の永田が交代前の巡回で9階の機械設備室前を通りかかると、室内で何か異音が鳴り続けていた、というのだ。

そういえば午後10時を過ぎたころ、フロントでブザー音が鳴り響いたことを永田は思い出した。

2階の卓球・ビリヤードルームの一画にある、客用トイレ内のスタッフ呼び出しボタンが押されたのだ。

急いでスタッフが2階に駆けつけたが、悪戯だった。

このとき、連動している設備室内の受信装置でもトイレからの呼び出し音が鳴り始めていたのだ。

そして誰も気づかぬまま5時間以上も鳴り続けていたのだった。

永田はマスターキーで開錠し、設備室に入り、トイレからの通報アラームをなんなく停止させる。

なんのことはない、それですべて終わりのはずだった。

「そのまま機械設備室を出れば、なんの問題もなかったのですが…」

間もなく72歳になるはずの永田は、言いにくそうに目を宙に泳がせている。

「設備室にはいろんなボタンが並んでいますよね、勿論支配人もご存じだと思いますけど…。

その中で一番大きいのは、火事避難放送を開始する赤いボタンなんですよねぇ」

それだよ、それが問題なんだよ! オレは心の中で叫んだ。

「ずらっと並んでいるボタンを近くで眺めているうちに、うっかりその赤ボタンを押しちまったんですよ。

絶対押しちゃいかんというのは百も承知なのに。まるで、指が吸い込まれるように動いちゃったんです。

自分でも信じられないです」

オレは呆れて、しばらく何も言えなかった。本当にそんなことがあるのだろうか?

永田は大手の印刷会社を定年退職後、妻の故郷に家を新築して移り住んだ。その後10年近く、ナイトフロントの職場で働いている。

正規の従業員以上にすべての業務に精通し、後輩や新人の面倒を親身になってみてくれている。オレは心から信頼していた。

そんな永田がうっかりミスを? それもやってはならない重大なミスを。オレは信じられなかった。

 

誤報騒ぎは、オレの辞職ということで幕が引かれた。

待期期間無しで失業給付を受けられるよう、総務に頼み込んで「解雇」にしてもらった。

大元の原因は永田のミスプッシュで、彼には悪いがその部分についてはオレには責任がないと思った。

しかし、宿直時に職場を離れていたのは致命的だと言わざるを得ない。

総支配人は、ニヤニヤしながら、執拗にオレを攻めたてた。

「山口くん、きみぃ、いったいどこに行ってたんだね?」

それで、オレは面倒くさくなって辞めることにした。どうやら総支配人は、オレと恵理の仲をかぎつけていたようだ。

恵理と離れるのが唯一心残りだったが、当の恵理はあっさりしたものだった。

元々、総支配人とは事あるごとに意見が対立し、折り合いが悪かった。

だから負け惜しみではなく、むしろすっきりした気分で上りの東北新幹線に乗ることが出来た。

 

清々した気分で東京に帰ってはきたが、日を追って今度は暇、ひま、ヒマの毎日になっていった。

ハローワークに行くくらいしか用事が無いのだ。

新宿駅南口の大きなバスターミナルで、用もないのにベンチに座り続け、いろんな旅行客の姿を観察して暇をつぶすことさえあった。

ここ何年かは、もっとワクワクする生き方はないのか、血湧き肉躍るような出来事はないものか、などと妄想することががよくあった。

そして、そんな漠然とした思いと焦燥感に、さらに深く沈み込んでいる自分を感じていた。

だが、いざ自由になってみると何もすることがない。なんとも情けない話だ。オレは頭を垂れ深くため息をついた。

 

そんな或る日の午後、暇を持て余したオレは図書館にでも行ってみるかと、新宿御苑の側道を図書館に向かい歩いていたら、ふいに後ろから声をかけられた。

黒いトレンチコートに黒いズボン。先の尖った黒靴に黒い帽子とサングラス。

まるでモノクロのギャング映画から抜け出てきたような、怪しい男?が落葉の道に立っていた。 

そいつはいでたちも奇妙だったが、なぜか帽子の下に隠された顔が、ぼやけたようではっきりしない。

そのうえ、身体だってほんとに実体があるのかないのか分からないように見えた。なんとも妙なやつだった。

「おれはメルド。あなた様、お迎えはるばる来たよ」

お世辞にも流暢とは言えないしゃべり方、いや言葉遣いは小学生以下で、まったくなっちゃいなかった。

声もくぐもっていて、男なのか女なのか分からない機械的な声だった。

いったいどこからこんな声が出てくるのだろう。

「メルド? オレはあんたなんか知らない。人違いだと思うよ」

「人違いではなーい! あなた様を連れて来いや、そう申し付かって参った。

まあ、驚かれるのも当然でございますです。詳しいことはのちのち上の者がおっしゃいますけど、

あなた様は、ある重大なミッションのために選ばれた人。つまり選ばれし者でござまーす」

「重大なミッション? 選ばれし者だって?」

オレの頭の中で、疑問が渦を巻く。

こいつ何を言ってるんだ。意味不明なことばかり言いやがって、益々怪しいやつだ。

オレは警戒して後ずさりした。頭の中では危険信号が激しく点滅していた。

妙なやつには関わらないに越したことはない。

オレはくるりと背を向けると、足早に図書館のある大木戸門の方向へ歩き始めた。

すると、そいつは慌てたようにオレの腕をつかんでぶんぶん振り回し始めた。

やつの手の感触が服の上から伝わってきた。

それは驚くほど熱く、火傷でもするんじゃないかと思うほどだった。オレは大声で叫んだ。

「熱い、熱い! 離せ!」

「すまんです。ちびっと力、多かったね。ごめんさーい」

相変わらず妙な日本語で、ペコペコ頭を下げる姿がなんとも滑稽で、オレは思わず吹き出してしまった。

「お笑うのでございますか? あなた様、へんちくりん、おかしいことありゃせんよ。

メルド、あなた様、連れないと、困っちゃうでーす。これ、あなた様、いい話。ちょっとお聞き。

このミッションには、なーんとなんと、おまけがありまーす。ご褒美でーす」

「ご褒美? ご褒美ってなんだ」

思わず聞き返すと、メルドはニヤリと笑ったように見えた。

「知りかいた? ちゃう、知りたいか? 

ミッションに成功したら…お金、お金、お金。見たこともないお金、わんさか、わんさか!」

どこまでも怪しい話だったが、どうせ暇を持て余しているんだし、時間だけはたっぷりある。

なんと言っても、高額報酬というのが気になる。こいつの話にちょっとばかり乗ってみるのも面白いかもしれない。

「なんだかわからんけど、面白そうな話だな。メルドだっけ、あんたを信じてみよう」

メルドは嬉しそうにはぴょんと飛び上がると、待ってましたとばかりに、パチンと指を鳴らすような音をたてた。

すると、黒塗りのクラシカルな車がどこからともなくすーっと現れた。

メルドはオレを車中に押し込めると、トレンチコートから黒いアイマスクを取り出し手渡した。

「あのさあ、いくらなんでも目隠しはいらねえだろうが!」オレは声を荒げた。

「いやいや、しばらくの間、お願いね。極秘任務だから、秘密の場所がバレちゃうは困るのでございまーす。

向こうへ着くまでご辛抱しろや」

メルドが言い終わると同時に、黒塗りの車は静かに走り出した。

 

 

                                                

                                            〈つづく〉

 

☆「ミッション」前編をお読みいただきありがとうございます。

 後編へと続きますので、またお読みいただけると嬉しいです。


観覧車

2021-09-12 20:26:47 | ショートショート

観覧車

 

 今日こそは、今日こそは告白しなくては。

拓海は小さな箱をじっと見つめて自分に誓った。

 

同い年の加奈とつきあい始めて3年。

拓海の中で加奈は日に日に大きな存在となり、結婚する相手は彼女しかないと思うまでになっていた。

しかし、肝心の加奈はどうだろう? ふたりでいても、それらしい話題が出たことはない。

それとなく、友人たちの結婚話をしても、さらっと受け流されてしまう。

思い余って親友に相談すると、サプライズでプロポーズすることを勧められた。

サプライズ? そんなの苦手中の苦手だ。照れくさくてたまらない。

出来ることならプロポーズなし、自然の成り行きで結婚…なんてのが理想だった。

そんな話をすると親友は呆れ、いかにプロポーズが大切かを説いた。

「いいか、もし仮にプロポーズせずに結婚してみろ

その後、ずーっと『プロポーズもされていない』と嫌みを言われ続けるぞ。それでもいいのか」なんて脅された。

そこまで言われたらプロポーズしない訳にはいかない。

拓海は加奈に内緒で指輪を買い、結婚を申し込む準備を始めた。

しかし、なかなか言い出すタイミングがない。というか、勇気がない。

いざプロポーズをして、断られたらどうしよう…

そんな弱気な心があと一歩を押しとどめ、渡せぬままの指輪は、小さな箱の中に入ったままだった。

そんな時、街から少し外れた所に大きな観覧車ができ、そこがデートスポットとしてなかなかいいと聞いた。

きっと夜景がきれいにみえるだろう、なんだかプロポーズにはうってつけの場所のように思えた。

ふたりで観覧車に乗り、ちょうどてっぺんに行った時にプロポーズしよう。拓海は決心を固めた。

そして今夜、加奈を誘ってそこへ行くことになっている。

 

約束の時間よりかなり早く着き、そわそわしながら加奈を待った。

落ち着け、落ち着け、落ち着かないと勘のいい加奈に見破られるぞ。そう自分に言い聞かせながら。

加奈は約束の時刻ぴったりにやってきた。

薄い水色のブラウスに紺色の水玉模様のスカート姿で手を振り、軽やかにこちらに走ってきた。

ふわりとスカートが揺れ、まるで少女のようだ。拓海はドキリとした。

「あれ? 今夜は随分早いのね。なんかあった?」

加奈はのぞき込むように拓海の目を見て言った。

「別に…いつもと変わらないけど」

拓海は平静を装った。

「それよりさ、今からあそこへ行こうと思ってるんだ」

「あそこ?」

「ほら、最近街外れに出来た観覧車。一度乗ってみたいと思ってたんだよね」

「あぁ、あそこね。ねえ知ってる? 噂で聞いたんだけど、ちょっと変わった観覧車なんだって。

なんだか面白そうだなって思ってたの」

そう言うと加奈は、拓海の手をぐいと引っ張り歩き始めた。

ちょっと変わった観覧車だって? そんな話聞いてないぞ。うーん、大丈夫かなぁ。

少し不安になったものの、このチャンスを逃したら、また決心がぐらついてしまう。

運を天に任せて、当たって砕けろだ! 

あっ、砕けたらダメじゃないか、なんて自分で自分に突っ込みを入れながら、頭の中で余計なことばかり考えていた。

加奈は手をつないだまま、拓海を引っ張るように歩いた。拓海は、加奈の髪が初夏の風に揺れるのを見ていた。

やがて、観覧車のアーチがビルの間から背伸びしているように見えてきた。

「ほら、見えた! もう少しだね」

嬉しそうな加奈に、拓海も微笑み返す。

 

小高い丘を登ると、目の前に青い観覧車が現れた。

思った以上に大きく、その迫力に圧倒される。ふたりは息をはずませて大きな観覧車を見上げた。

「こんばんは、観覧車にお乗りですか」

品のいい初老の男性が声をかけてきた。黒服のせいで、顔だけが闇に浮いたように見える。

「ええ」

「では、どうぞ」

その男性は、にこやかに観覧車のドアを開けた。

「えっと、チケットは?」

「チケットはこちらでございます」

背広の内ポケットから赤い紙を二枚取り出した。

「おいくらですか?」

拓海が財布を手に聞くと、その人はゆっくり首を振った。

「お代は結構です。満月の夜は特別サービスですので…その代わり、観覧車を降りた時、感想をお聞かせください。

さぁどうぞ、おふたりで素敵な時を過ごしてくださいね」

拓海と加奈は、言われるままに観覧車に乗り込んだ。

「特別サービスだって! 得しちゃったね」

加奈はくったくなく笑った。

 

観覧車はゆっくりと昇っていく。

一番上に着いたら、プロポーズしよう。そう思っただけで、拓海は落ち着かない気分になっていた。

そんな拓海の気持ちも知らず、加奈は窓から見える夜景に夢中だった。

「ねぇ見て、見て、ほら、お城が見える! ライトアップされてきれいね」

外を見ていた加奈が、拓海の方を向いたその時、少し違和感を覚えた。

なんだか加奈の様子が変だ。なんだろう、さっきまでと違う。

拓海がそう思いながら、加奈を見つめていると、加奈も不思議そうな顔をして拓海を見つめていた。

「拓海、ちょっと太った?」

「いや、変わらないよ。それよりさ、加奈、化粧変えた?」

「変えてないけど? やだ! 拓海なんだかおじさんみたい! 

髪も薄くなったような気がする。 さっきはそんなふうに思わなかったのに…」

「オイオイ、ひどいな、そんな訳ないだろう」

苦笑いをしながら拓海は頭に手をやった。

あれっ、髪のさわり心地がいつもと違う。明らかに量が減っている。それにやけにズボンが窮屈だ。

視線を下に落とすと、今まで見たこともないようなでっぷりしたお腹が、ズボンの上に乗っかっていた。

「えっ! えーっ!」

驚いて大きな声を出した拓海は、次の瞬間、加奈の叫び声を聞いた。

「きゃー! やだ、やだ」

聞いたこともないような、悲痛な叫び声。拓海はあわてて加奈を見た。

加奈は両手で顔を覆い、小刻みに震えている。

「加奈!」

肩を掴むと、加奈は嫌々するように身体を振った。

「見ないで!」

何が起こったのか分からず、拓海は顔を覆っている加奈の両手を外した。

「!」

そこにいるのは、さっきまでの加奈ではなかった。

白髪まじりの髪。

目尻のしわ、垂れ下がった頬。

少女のような面影は完全に消え失せ、どこにでもいる中年のおばちゃんになっていた。

しばらく言葉をなくし、加奈の手を見つめていると、ぽっちゃりとした手が徐々にしぼみ始め、

かさかさになり、ぽつぽつとシミまで浮かんできたではないか!

ハッとした拓海は、恐る恐る自分の頭に手をやった。

な、なんと! 

さっきまでは薄くなったとはいえ、確かに髪はあった。

それがどうだ、今は直に頭皮に触れることが出来るじゃないか! 

これってもしかして、ハゲてるってこと?

確かに、じいちゃんも父さんも、お世辞にも髪がふさふさとは言えなかった。

だから、いつか自分もああなるのかと思っていたが、それが今って、早すぎるだろ!

拓海は加奈から小さなコンパクトを借りるとのぞき込んだ。

そこに映っていた男は、紛れもないおじさん。いやオッちゃんといった方がいいくらいの風貌だった。

おばちゃんとオッちゃんになったふたり。あっという間に30年の時が過ぎてしまったようだ。

ふたりの動揺をよそに、観覧車はゆっくりと昇っていく。

不思議なことに、それに合わせて拓海も加奈もどんどん年老いていった。

 

頂上はもうそこまで来ている。一番上まで昇りきったら、一体どうなってしまうんだろう。拓海は慌てた。

今夜、観覧車に乗って、プロポーズすると決めていた。

それが思ってもみないことが起こり、このままでは上に着くまでに、どちらかの寿命が尽きてしまうかもしれない。

まずい! てっぺんまであと少ししかない。

拓海は、急いでジャケットのポケットに手を突っ込むと、小さな箱を取り出した。

そしてとうに80歳を過ぎたと思われる加奈を見つめた。

すっかりおばあちゃんになった加奈は、打ちひしがれ、うなだれていた。

それでも紺色の水玉模様のスカートは不思議と似合っていた。

 

「加奈…ずいぶん待たせてしまったけど、加奈の残りの人生、オレに預けてくれないかな」

拓海は小さな箱を開け、中から真っ白なジュエリーケースを取り出した。

そこには加奈の誕生石、ムーンストーンをあしらった、かわいい指輪が入っていた。

加奈は驚いた顔で拓海を見つめて言った。

「こんなにおばあちゃんになっちゃったのに、いい、の?」

「それはお互い様だろう。いくつになっても加奈への気持ちは変わらないさ」

拓海は笑いながら加奈の手を取り、そっと薬指に指輪をはめた。年齢を重ね、しわを刻んだ手もいとおしいと思う。

「きれい…月の光を全部集めたみたい」

加奈は指輪をながめ、ため息をつくようにつぶやいた。

年老いたふたりの唇が静かに重なっていく。

ちょうどその時、観覧車は一番高い所に昇りつめた。窓からは、街の夜景が浮かび、空には大きな満月が輝いている。

あの光の下で、人びとは幸せな暮らしを営んでいるのだろう。

 

 ガタン。

 

頂上に着いた観覧車は、大きくひとつ揺れ、今度は下へと降り始めた。

それにつれ、またふたりの姿が変化していく。

老人から中年へ、そして観覧車へ乗る前へ。まるで時を巻き戻すように変わっていく。

観覧車が地上に着くころには、すっかり元の姿に戻っていた。

「いかがでしたか? お楽しみいただけたでしょうか」

観覧車のドアを開けながら、初老の男性は聞いた。

「ええ、とても素敵な時間を過ごせました、ありがとう」

拓海は微笑みながら答えた。加奈は、はにかむように左手を上げた。

その薬指には、ムーンストーンの指輪が神秘的な光を放っている。男性は満足そうに頷いた。

「そうですか、気に入っていただけて良かったです。どうぞ末永くお幸せに。

私もあなた方のようなカップルばかりだと嬉しいのですが…」

彼の目配せした先を見ると、観覧車から降り立った男女が呆然と立ち尽くしていた。

無言でそっぽを向いたままの男、女は泣きながら小走りに去った。

「あのように、お互いの姿に幻滅なさる方も少なくありません。

未来を目の当たりにすると、幻想の恋ははかなく消え去ります。そして真実の愛のみが残るのです」