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冬のソナタに恋をして

懇願


サンヒョクは職場の収録スタジオで一人物思いにふけっていた。ミニョンとユジンのことを考えると全く仕事が手につかないのだ。すると突然携帯が鳴り響いた。マルシアンの受付嬢にミニョンが帰社したら連絡をくれるように名刺を渡してあったことを思い出した。サンヒョクは急いでマルシアンに向かった。


一方でミニョンはぼんやりと小舟が浮かぶ洋風画のパズルを眺めていた。ユジンと初めて会社で会ったとき、いやミニョンとして2度目に会ったとき、彼女はこのパズルを眺めていたっけ。思えばあの時、彼女はパズルの最後のピースを拾ってはめた後だったのだ。それがまるで今の自分の状況のように思える。しかし、パズルがはまったはずなのに、すっきりするはずが、ますます混乱するはめになった、、、。以前ユジンはこうも言っていた。「パズルが好きなのは覚えておきたい思い出がたくさんあるからで、それをひとつひとつはめているのだ。」と。今となってはチュンサンにとっては、それが妙に的を得たように感じられた。

すると、急にキム次長が入ってきて話しかけた。


「どこに行ってたんですか?」

「ちょっと人探しをしてました。」

「誰をですか?」

しかしミニョンは返事をしない。キム次長はため息をついていった。

「いいですか。人探しもいいですけど、自分を見失いそうじゃないですか。ほんとにひどい顔して。もういいですから、とりあえず急ぎの書類にサインをしてくださいよ。後で説明をするからサインだけ、ねっ。」そう言ってミニョンにペンと書類を差し出す。しかし、ミニョンは『イミニョン』と印字された名前を見て固まってしまった。自分が誰なのか混乱していたからだった。そして困惑するキム次長を置いて車で出かけてしまった。



サンヒョクは車で出かけるミニョンを目撃して急いで後を追いかけた。逃げられたら次にいつ会えるかわからない。サンヒョクは彼が常泊しているホテルに入っていくのを確認すると、先回りするために階段を使ってエレベーターから降りてくるミニョンを待ち伏せした。しかし、サンヒョクが声をかけたのにもかかわらず、一瞥した後、無視して歩き始めた。

「イミニョンさん、イミニョンさん、、、、、おいっカンジュンサン!」

するとミニョンはびくっと肩を震わせて止まった。

「、、、やっぱり。君はカンジュンサンなのか?」

二人はミニョンの部屋に行き、話をつづけた。といっても窓に背を向けるミニョンにサンヒョクが一方的に話しただけではあったが。

サンヒョクは冷たい目をして話した。


「やっぱり君も知っていたんだな。若い男が学校にカンジュンサンのことを調べに行ったと聞いて、きっと君だと思ったんだ。なんで自分がチュンサンだと知らなかったんだ?あの事故で記憶をなくしたのか?」

しかしミニョンは答えなかった。

「やっぱりな。」

ミニョンは途方に暮れたように言った。

「いったい僕はどうしたらいいんだ?」

そして向き直ってサンヒョクを見つめていった。その目は混乱と恐れと不安に満ちていた。

「サンヒョクさんは僕にどうしてほしいんですか?」

サンヒョクはミニョンの目をまっすぐに見つめてきっぱりといった。

「たとえあなたがチュンサンでも何も変わらない。僕は絶対にあなたにユジンを渡しません。もう二度とユジンの前に現れないでくれ」

予想通りの答えに、ミニョンは悲しそうな眼をした。

「ユジンをこれ以上苦しめないでください」

この言葉にはミニョンも驚いた。

「どうしてですか。僕はチュンサンで、チュンサンはあんなにユジンさんが会いたがっていた人じゃないですか。それなのにどうしてですか」

「あなたに、あんたなんかに、そんな資格はないんだ!ミニョンにもチュンサンにもどっちにもそんな資格はない。ユジンはあんたを本当に好きだっただろうが、あんたは違った。僕を大嫌いだったからユジンを利用したって僕に言ったんだ。本当に言ったんだ」

ミニョンは打ちひしがれていた。目に涙をためて言うしかなかった。

「思い出せないんです。本当にチュンサンがそう言ったんですか。僕は何も思い出せない、、、。僕がユジンさんを利用したんですか?」



すると驚いたことにサンヒョクは床に膝をついて懇願した。

「そっとしておいてください。どうぞユジンをこれ以上苦しめないでください。あなたは10年間もユジンを苦しめたんです。もう十分でしょう。どうぞほっておいてください。お願いします。どうぞ、ユジンをあきらめてください。」

それはユジンのためというよりも10年も待って自分を好きでもない女性と結婚できる、哀れな男の最後の願いにも見えた。

そんなサンヒョクを前に、ミニョンは何も言うことができずにただずんだ。その顔には苦悩の表情が浮かんでいた。ユジンのため、と言われると何もできない自分がいた。


そのころユジンとチンスクは近くの食堂で夕食を食べていた。チンスクは上機嫌でチャミスルを飲みながらおつまみを食べている。チンスクはチェリンがユジンに意地の悪いことを言ったのを気にして、夕食に誘ったのだった。しかしユジンはどうしても誰かにはなしてしまいたいことがあった。

「サンヒョクがね、聞いてきたの。ミニョンさんのどこが好きだったのかって。」

「、、、そう。で、なんて答えたの?」

「答えられなかったの。どこがいいなんて言葉では表せられなくて。」

「ユジン、、、」

穏やかな顔で話すユジンを、チンスクも穏やかな表情で見つめていた。


「チュンサンを見てるとね、急に心ごと吸い込まれるような気がしたの。私の心がチュンサンに向けて吸い込まれて落ちていく感覚。ああこれがこれが恋なんだ、これが運命なんだって思ってた。チュンサンが死んでからはきっと2度とそんな感覚はないだろうって思ったけど、ミニョンさんに会ってからある時、ふってまた吸い込まれて落ちていった、、、、。顔が似てるからじゃないの、本当にドキドキして胸が苦しくなる感覚を思い出したのよ。まるでチュンサンといるときみたいに、心があったかくなる感覚をミニョンさんは思い出させてくれた。本当に不思議なんだけど、二人は確かに別人なのに、ミニョンさんに同じようなことを感じるのよ。なぜだかわからないけど、私の心は2人がおんなじ人だと感じているの」

チンスクはユジンの独り言のような胸の内を静かに聞いていた。チュンサンに対するユジンの深い思いを初めて聞いたのだった。しかし、ふたりともユジンの直感が真実を言い当てているとはつゆほども思わなかった。


ユジンとチンスクは夕食を終えるとアパートの前までやってきた。チンスクは酔いが回ってチェリンの悪口を話している。ユジンは苦笑しながら友人の話を聞いていた。すると、アパートの階段に打ちひしがれた様子のサンヒョクが座っていた。驚く二人を目の前に、サンヒョクは何も言わずにユジンを抱きしめた。チンスクは奥ゆかしいサンヒョクらしくもないと目を真ん丸にして、ユジンは驚きと恥ずかしさで固まってしまった。サンヒョクにはそんな二人の様子は全く見えていなかった。考えることはただ一つ、ユジンを失う恐怖だけだったのだ。

コメント一覧

kirakira0611
@samsamhappy さま、ありがとうございます😊
暑い一日でしたね💦
認知症はご家族にとってお辛いでしょうね。本当に人格が壊れてしまうというのは優しかったお母様をご存知なので、悲しいと思います。

3人のお子様がいらっしゃるのですね。
時々ご家族のお話が出ていましたが、お年は知らなくて教えていただいてありがとうございます😊
子育てっていつまでだってもいろいろあるのですね。うちも今はかわいいけど、大きくなったらどうなるのかなぁと時々思います。仕事をしていたり、ご家庭を持っていたり、幸せに暮らしていらっしゃると良いですね。真ん中の息子さんは自分らしく生きていらっしゃるのかしら?SNSというのが今時ですね。samsamhappyさまもいろいろおありなんだなと思いました。
きっと親としてはいくつになっても心配なんだろうなぁとつくづく感じました。率直なご意見ありがとうございました😊
samsamhappy
こんにちは。
ありがとうございます😊
認知症は口で言ってもわかって貰えないから
厄介ですよね。
人格が変わっちゃいますものね。
自分の母親だとは思えなくなっちゃいます。
まるで解離性障害のような感じです。

子供が3人おりました。
ほとんど年子の様な
この夏28になる者、早生れで今年28になった者
この秋30になる者。
下と上は家庭を持ち、真ん中は独身を貫く宣言をして行方をくらましました(笑)
連絡先は携帯番号のみ。
上の娘だけは時々連絡もあり
帰省もしますが男2人は一切音信不通。
下は婿の様になっているので
恐らくもう帰ってはこないでしょう。
真ん中は、SNSで夫が見つけました。
親に言い出せない様な転身ぶり。
いない者と思う事にしました。

冬ソナを観ていて、もちろん一人前の大人
なのでしょうが
やはり、親が知っているなら
ガツンと言ってやりたいところありますね😅
また、親のエゴじゃなく味方になって応援してあげたいとも思いますが
登場する親たちは、酷いなぁ🫢
kirakira0611
@samsamhappy さま、ありがとうございます😊
息子さんたち、二十代後半ぐらいなんですか?
今日のブログをみて考えさせられました。
なんていうんでしょう。本当に大変だなぁと思いました。気分転換をされてよかったです。

サンヒョク、本当に残念な役回りですね。美味しいところを全部ミニョンに持っていかれてしまう💦わたしもこの土下座はずるさばかり際立ってあんまり好きじゃないです。結局独りよがりな恋と相手を想う愛ではまるで次元が違うから、勝ち目はないんでしょうね、なんて思いました。
お母様のこと大変です。
ご自愛くださいませ。
samsamhappy
キラキラさんこんにちは。
ご無沙汰しております。

サンヒョクに厳しい目で観れば
彼は結局自分が好きなんですね。
ユジンと一緒にいる自分、両親に愛されている自分、ラジオ局のPDとしての自分。
死んだやつなんか、忘れてしまえよ!
と思っていても言えずに10年ユジンに執着してきて、いよいよ自分のものに、という時にミニョンが登場。大きな挫折だったでしょうね。
死ぬに死ねず、取り戻したのにミニョンが天敵のチュンサンだったなんて、酷いことを言ってチュンサンを諦めさせたいけど、チュンサンの混乱ぶりをみて、すがるしかないと土下座にシフトチェンジ!ウチの息子たちと同年代。一歩間違えれば今の時代ならストーカーにもなりそうな😅サンヒョクです。自分の幸せよりユジンの幸せを祈ってほしいですね。

暑さきびしくなりますね。
上手く息抜きなさってください。
kirakira0611
@usagimini さま、ありがとうございます😊
いつも解説してくださってありがとうございます。嬉しいです。
韓国ドラマの感情表現て激しくて、びっくりするやら面白いやら、たまに呆れてもいて、文化の違いを感じます。
サンヒョク膝付き土下座は、なんだか哀れというか、姑息な感じに思えてしまいます。当時は確かに新鮮で感動したような気がします。
初恋はまだ観てないんです、、、。親を敬うところはステキですね。

あと、ヨン様の涙シーンもすごく新鮮です。良くも悪くも感情表現が豊かなんだなぁと感心して見ています。
韓国も20年前と違って、今ではあまり儒教的な良さが薄まってきてる気がします。良いところなので、大切にしてほしいなと思ってしまいますが。なんとなく経済の発展からそこが取り残してしまったような。
日本もとうに忘れたことかもしれませんね。
ありがとうございました‼️
usagimini
こんばんは。kirakira0611さんのお陰で久しぶりにまた冬ソナに出会えてうれしいです。

出ましたね~、サンヒョクの土下座シーン。
韓国の方は礼儀がきちんとされている印象ですね。儒教の教育だとか。。。前にも書かせていただきましたっけ。。。?
ヨン様とチェジウssiが初共演の「初恋」というドラマでは、親に対してのお辞儀(チョル)の仕方がすごく丁寧、ユジンのお父さんの法事の作法です。韓国では、親を敬い、先祖を敬う気持ちが深いようですね。親は絶対なんですね。

そういう礼儀の観点から、以前も書かせていただきましたけど、土下座をするのは、最高敬意ですね。
ただ、演出でサンヒョクの気持ちの表現としては、それほどユジンが好きなんだと、見えますけど、サンヒョクだからなぁ…どこまで本当の愛か、ただミニョン/チュンサンに取られたくないだけの土下座、とも思っちゃいますね。

そして出演者の感情表現が豊かに見えるのは、日本人が感情を抑えて奥ゆかしさを美徳としたからでしょうか?
でも、ヨン様が素直に涙を流すシーンで、男が泣いた、男も泣いていいんだ、男の泣くシーンって素敵だと、2004~5年当時は、そこに男性からも女性からも感動の声が上がりました。日本では男は泣くなという感覚ありますものね。

台湾では、お葬式に「泣き女、泣き屋」を頼んで泣いてもらう風習があるとか。お国柄によって感情表現が様々で興味深いところですね。

余計なことをつらつら…すみません。
お体にご無理のないように…お大事に。
kirakira0611
@breezemaster さま、いつもありがとうございます😊
パズルがステキな使い方をされていて、そこかしこに伏線が張られてますね。わたしも冬のソナタをかつて大好きだった方々に教えていただいていろいろ知りました。
ユジンの素直な気持ちを聞く場面がないので、そう言うことなんだなぁと納得した次第です。
ありがとうございました😊
kirakira0611
素晴らしい風景さま、いつも素晴らしい風景をありがとうございます。
人間関係図まで見ていただいてありがとうございます。
見たことない方にも分かりやすいように気をつけて書きますね。次の次でなんでチュンサンがいなくなってしまったか書きました。長過ぎてわかりにくいと思ったので、一応ダイジェストしてみました。
読んでいただいてありがとうごさいます。
breezemaster
おはようございます^^
小舟が浮かぶ洋風画のパズル、この絵を見たいた時のユジンは
何を考えていたんでしょう~
書かれている、彼女はパズルの最後のピースを拾ってはめた
パズルが意味を持っているのを感じさせていただきました(@_@)

そして、急に心ごと吸い込まれるような気がしたの
チンスクとの会話に、チュンサンを思う女心、
ユジンの素直な思いが、伝わってきますね。

山あり谷ありなんですが、ドキドキしながら、
進んでいく冬のソナタ、記録に残るドラマの一つですよね
ji1hid (素晴らしい風景)
こんばんは!
体調が回復されたようで何よりです。
でも、まだ無理は禁物かと思いますので、ご自愛ください。
私は人間関係が複雑なのは苦手なのですが、相関図を見ながら読ませて頂いております。
ありがとうございます。
kirakira0611
@hananoana1005 さま、いつも温かいコメントありがとうございます😊
サンヒョク膝付き写真を忘れてたので入れてみました。韓国の方って泣き叫ぶ、ひざついて懇願する、泣き崩れるなどリアクションが大きいな、と思ってしまいました。
ミニョンさん、だんだんかわいそうな感じになってますね。
ありがとうございました😭
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、ありがとうございます😊
本当に、キム次長が出てくるとほっとします。
あと、ユジンのこのセリフ、好きです。ユジンにとっては本音は初めから最後までこれなんでしょうね。なんやかんやでユジンは初志貫徹の人で基本はブレないなぁと思います。

あら、大きな決断は会社だったんですね。
大丈夫です。今回の異動で若くなくて仕事を変えるのは大変だとよーく分かりました。毎日毎日ほんと大変です💦でもようやく慣れました。だいたいヘルニアの人を雇うところもありませんし。だから大丈夫です。子どももいるので、そこはシビアに考えてます。兎に角生活の糧はついえないように頑張ります。
心配してくださってありがとうございます😊
hananoana1005
キラキラ✨さん~早速の更新、ありがとうございます。
 
「う~ん!」唸ってしまいました~
サンヒョク、ミニョン、ユジン、それぞれの複雑な心境を見事に捉え表現されていて・・感服しました!
81sasayuri1018
こんばんは。

>私の心は2人がおんなじ人だと感じているの

魂の部分で響き合うのですね~~
ここ凄く共感したところです。

そしてキム次長はいつも冷静ですね。このドラマに無くてはならない役どころだといつも思うのです。

そうそう!大きな決断(*^^*)
気持ちが落ち込んでいる時には感情的になりがちですから正しい判断ができません。
会社を辞めるなんてことの無いようにでした。
腰やら不調はいずれ直るので、大変すぎの時は休職くらいでと。

でも、ずいぶんお元気そうになられてホッとしております♡
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