映画評 「グレートウォール」: 米中合作の “お子様向け怪獣映画” にマット・デイモン?
お子様向け怪獣映画としては星4つ。 ★★★★☆
大人向け歴史物映画としては星2つ。 ★★☆☆☆
この映画はあまり乗り気がしなかったのだが、とにかく “マット・デイモン主演” ということで観ないわけにはいかなかった映画である。わたしは彼の出る映画はすべて観ているほとの彼のファンである。
映画の最初に、「万里の長城にはさまざまな伝説があり、この映画はそのうちの一つに基づいたものである」 という断り書きが、テロップで流れる。わたしはそれをしっかりと受け止めた上で、覚悟して最後まで観た。
はっきり言っておこう。この映画は “まともな大人が観るような歴史ものの映画” ではない。”子供向けの怪獣映画” として割り切って観るしかない映画である。
万里の長城がテーマだから歴史ものの映画だろうと思って見ると、詐欺に遭ったような気になるはずだ。
この映画の冒頭に、「万里の長城にはさまざまな伝説があり、この映画はそのうちの一つに基づいたものである」 という “断り書き” のテロップが流れるが、確かにこの “断り書き” なしにはとても公開できなかったような代物である。
たしかに金がかかっている映画である。ロケも1年以上かかったそうだ。しかし、“歴史物のスペクタクル巨編” とは、とても言えない作品である。その第一の理由は、史実に基づいたものではなく、ただの 「空想的伝説」 に基づいた、人間ではない 無数の恐竜のような怪獣が津波のように襲いかかるアニメチックな映画 だからである。
そもそも、万里の長城は遊牧民による侵略を防ぐために建造されたという定説がある。この定説はあながち間違っているとは言えない。いずれにせよ、とにかく外敵はあくまでも “人間” であるはずだ。
しかし、この映画では、“外敵” は人間ではなく、「ジュラシックパーク」 に出てくるトリケラトプスのような、四つ足の怪獣の群れなのである。その怪獣の群れが万里の長城を突破して都へ 「進軍」 するという話である。実は怪獣は2種類以上いるようだ。T-rex並みの大型のタイプも出てくる。
「万里の長城の歴史もの映画」 どころの話ではない。無数の怪獣が次々に襲いかかってくる、ただのパソコンゲームと同列のCGI 映像なのである。この怪獣たちも一応動物なのだが、解剖学的に言って、どうも体躯のプロポーションや顔の形や目の位置が不自然である。デザインの完成度が低い。
血液が緑色という設定もアニメならいいが、実写ではかなり無理がある。
劇場には、“万里の長城” の歴史ものの映画を期待して来ているようなご高齢のご夫婦もちらほら見かけたが、どんな感想を抱いて帰って行ったことか。
いくら “断り書き” が映画の最初にあろうとも、そもそもの設定からして、最初から大人の観客を相当馬鹿にしていると言える。
城壁の上からバンジージャンプで、壁を這い上がってくる怪獣たちの上に槍を持って飛びかかる場面は、馬鹿げているにもほどがあろうというものだ。ゴレンジャー並みの活躍である。
この映画は、中国・アメリカ合作ということもあって、特に膨大な人口を抱える中国における、ケタ外れな興行収入を見込んでいると思われる。そして、一般の中国人の知的レベルも事前に十分にリサーチしていたであろうことも推察できる。
一般の中国人は、この程度の “子供だまし” の映画で満足しているのであろうか?
中国人にとっては国民的プライドにもなっている “万里の長城” の、 初めての “映画化” がこんなもので、中国人は納得しているのであろうか?
この怪獣の目がどこにあるかというと、ほとんど肩のあたりである。四肢がどうも人間が四つん這いになっているように見える。
マット・デイモンにとっては、とにかく広大な中国市場で自分の名前が広く知られる千載一遇のチャンスであったであろう。オファーを拒絶する理由はまったく無かったであろう。わたしも彼の選択を責めようとは思わない。
この映画のロケのためにマット・デイモンは中国にしばらく家族ぐるみで転居までしている。国際的なハリウッド俳優として当然のことだろう。
万里の長城を這い登ってくる怪獣のシーンは、ブラッド・ピット主演の 「ワールドウォーZ」 でのゾンビーたちを彷彿とさせる。
「グレートウォール」
「ワールドウォーZ」
中国からのオファーを袖(そで)にする理由があろうか?彼の選択は正しいと思う。しかし、この映画はマット・デイモン出演作の中では随一の “駄作” である。
2カ月前に予告編を観た時から、そんな予感がしていたが、ほぼ予想通りであった。
マット・デイモンの顔と名前は中国では相当知られるようになったことであろう。
映画作品としての価値と、ビジネスとしての興行成績は別だという極端な例であろう。駄作でも金になれば作るのである。
ご指摘のように、エンターテイメントとしてはそこそこ成功していると思います。
ただ、わたしはマット・デイモンがハリウッドのソロバンの軍門に下っているのを見るのはちょっとつらいものがあるのです。
しかし、彼の名誉のために言っておきたいことがあります。
彼はこの映画の完成後に、中国や韓国における “犬食” を批判するキャンペーンに名を連ねています。
http://www.hollywoodreporter.com/news/matt-damon-rooney-mara-lead-904588
自分の中国を始めとしたアジア圏での知名度を、自分の主義主張のために “活用” しているところはさすがだと思います。