ザウルスの法則

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しかし、受け容れられない者には不快である。
ザウルスの法則

「白鯨との戦い」: 小説「白鯨」の背景を見事に3Dドラマ化 ★★★★☆ (ネタバレ満載)

2016-02-27 22:48:29 | 映画批評

「白鯨との戦い」 小説「白鯨」の背景を見事に3Dドラマ化

 ★★★★☆ 4.6  (ネタバレ満載)

この映画は別の映画を見に行って、映画館でこちらを知って“衝動観”した作品である。正解であった。実にマイナーな映画で平日の昼ごろに10人くらいの観客で、自分も含めてオジサンが中心。

まず、わたしは小説「白鯨」を最後まで読んでいないという負い目がある。これがこの映画を選んだ動機の一つだと白状しよう。これを観れば一応全体像を知ったことになるだろうという考えがあったのだ。

「ハーマン・メルヴィルによる名著「白鯨」に隠された衝撃の真実を描いた「復讐する海―捕鯨船エセックス号の悲劇」がベース。船乗りを襲った衝撃の真実を活写、圧倒的な映像美で描かれる海の恐ろしさと荘厳さが見る人の魂に突き刺さる。」 という宣伝コピーである。

映画館では、この映画は2D と 3D とがあったのだが、わたしは迷わず 3D を選んだ。初めての3D映画体験を堪能したが、3D映画は侮れないと思った。今後 選択できる場合は3D版を選ぶべき だと思う。

さて、関連サイトからストーリーを紹介しよう。

【ストーリー】
舞台は19世紀。当時は鯨から取れる油、“鯨油"が生活に欠かすことのできない貴重な資源だった。鯨を狩る“捕鯨"は、年単位の長い航海と、様々な危険が隣り合わせではあったが、多くの人間がかかわる一大産業となっていた。

1819年、“エセックス号"の乗員達も、船いっぱいの鯨油を手にするべく、アメリカのナンタケット港を出港。大量の鯨を求めて進んだ太平洋沖4800kmの海域で誰も見たことのないような白い巨大なマッコウクジラに出会い、激しい戦いを繰り広げるものの、圧倒的な巨体に攻め立てられて船を沈められてしまう。

わずかな食料と飲料水をかき集め、3艘のボートで広大な太平洋に脱出した彼らを待ち受けていたのは、水も食料も存在せず、自分たちがどこにいるかも分からない絶望的な漂流生活。1人1人と仲間が倒れていく中、何としても生き延びるために彼らが下す“究極の決断"とは?そして、彼らを試すように幾度も立ちはだかる“白鯨"との戦いの行方は?

【詳細】
白鯨との闘い (原題:In the Heart of the Sea)
公開日:2016年1月16日(土)
監督:ロン・ハワード
脚本:チャールズ・レビット
製作:ポーラ・ワインスタイン、ジョー・ロス、ウィリアム・ウォード
出演:クリス・ヘムズワーズ、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィー、ベン・ウィショー、ブレンダン・グリーソン

 

ネット上でこの作品をメルヴィルの不朽の名作「白鯨」Moby Dick と比べてコキおろす批評家がいるのには、開いた口がふさがらない。そもそも小説の映画化ではないし、この映画の原題は In the Heart of the Sea であり、どこにも Moby Dick とは出ていないし、そういった触れ込みは皆無なのである。この作品はむしろ 小説の “背景” をドラマ化している のであり、これはこれで十分に成功していると思う。この批評家はたまたま「白鯨」を読んだことがあったらしく、それをひけらかしたくてコキおろしているのではないかと突っ込みたくなる。たしかにアメリカ人でもこの国民的古典を読破している人間は少ないのだ。

アメリカにおける捕鯨の歴史、ハーマン・メルヴィルの執筆の動機、当時の社会状況、捕鯨船の乗組員たちの等身大の生活などを描くことによって、「白鯨」の周辺と背景を浮かび上がらせている。

この映画はたしかに “海洋もの” であるが、それ以前に “歴史もの” である。こうした“海洋もの+歴史もの” を当時の捕鯨船の乗組員の視点から、船上の溢れるようなディテールを通して、しかも 3D で描いた功績を称えたい。

 

難破したエセックス号の生き残った乗り組員たちが救命ボートの上で漂流する。そしてついには食べ物がなくなり、クジを引いてハズレを引いたものが残りの者に食べられるというエピソードがあり、わたしは特にこれに興味をそそられた。エドガー・アラン・ポーがまさにそういった話を小説化していることを知っていたからである。このエセックス号の生存者の話は当時噂話で相当広がっていたに違いない。ポーもメルヴィルも同時代のアメリカ東部の作家で、二人の年齢差は10歳そこそこである。ただ二人が知り合いであったかどうかは不明である。

 

 

 

 

 

 

Herman Melville     Edgar Allan Poe

 

 当の小説の表紙、いちばん下に出版年 1838 年 とある。

 

 しかし、ポーの場合、話は非常にトリッキーである。というのは、彼の書いた小説中でハズレくじを引いて食べられてしまった年若い船員の名前は Richard Parker なのだが、この小説が書かれてから45年後に実際にある船が遭難して、非常によく似た状況で食べられてしまった17歳の少年がいたのだ。そしてこの実在の少年の名前も Richard Parker だったのである。つまり、ポーの場合、小説が先で、事件が後なのである。これが稀有な偶然の一致なのか、ポーのたぐいまれな予言、透視の結果なのか今日でも議論は尽きない。しかし、小説の出版と45年後の事件の発生は動かしがたい事実で誰にでも検証できるが、今日に至るまで誰も否定できていない。以下に関連年表を掲げておく。

 

1809   ポー、Boston に生まれる。

1819    メルヴィル、New York に生まれる。

1838   ポー30才、  彼の唯一の小説 The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket 出版。この小説中で Richard Parker が殺されて食べられる。

1849  ポー 死去 40才

1851    メルヴィル 32才、「白鯨」 Moby Dick を出版

1884  ポーの小説の出版から45年後(ポーの死後35年後) 、英国を出てオーストラリアに向かったMignonette 号という船が太平洋で遭難、ポーの小説と同様の状況で Richard Parker がハズレくじを引いて食べられる。この事件は同年イギリスで スキャンダラスな人肉食の事件 として話題になり、しかも裁判にもなって、その裁判記録も残っている。この裁判はウィキペディアにも出ている。食べた船員たちは死刑を宣告されたが、結果的には6か月の懲役刑ですんだ。https://en.wikipedia.org/wiki/R_v_Dudley_and_Stephens

 1891   メルヴィル 死去 72才 

 

以下の写真はすべて実際の Richard Parker の人肉食事件に関わるものである。

 

 事件を報じる新聞記事   食べられた Richard Parker 本人     彼の慰霊碑     

 

      遭難した船                     事件の起きた救命ボート

 

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