「社会外之社会」その2
〈解説〉
公娼制度肯定論者の中江兆民も嘆く現実の公娼制
己れも金の欲しさに、公娼運動は遣ツて見たけれど、今の社会の堕落を慷慨するのは貴様と同じコツちや。
己れの実の量見を言ツて見よふなら、日本の公娼制度を廃して仏国の公娼の様にしたいのだから、今の日本の様に社会が公娼を公認して、総べての客が白昼公然と大手を振ツて遊廓に出入するのは宜しくないと思ふのだ。
ナニ仏国の公娼はドンな風だと、そふさ、欧州は流石に社会の制裁と云ふ者が強いから、女郎屋と云者は、皆社会の裡面に隠くれて遣ツて居る、女郎買ひに往く客はコソコソで往く、其巣を知らない者は誰れか案内者を頼まねば往かれない。
市街の中に女郎屋が有ツても、客が之を他の人に尋ねて往くワケに参らぬから、女郎屋の門札だけは、他の普通の人の門札よりも少しく大きくして有る、ソレも其道の通人でなければ分らない様にして有ツて、又女郎の多くは自前で有るから、女郎自身の自由と云ふ者も有る。
日本の女郎は「出るに出られぬ籠の鳥」で、全く一種の奴隷で有る上に、之を買ひに往く客は後押し綱曳きで大ピラに出かける。
晩景万世橋より上野、金杉に至り、浅草橋より雷門から吉原の所謂土手八町へかけて、人車の雑閙と云ふ者は、実に恐ろしい者で、車夫のかけ声、振り立てたる提灯の景気と云ふ者は、実に凄さまじい勢で有る。
是れは日本の社会が、未だ恥を知らない証拠で己れ共の甚だ慨嘆する所で有る。(出典 谷川健一編『近代民衆の記録3 娼婦』新人物往来社 1971年6月10日 139-140頁)
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