S山のどうしようもないこと・北海道犬添え

北海道犬のコイチと飼い主「S山」のどうしようもないあれこれ。主に田舎暮らし。

寒さにあらがう歌。冬ソングは、なんといっても「雪の進軍」

2017-01-24 | 雑文
 冬ソングの定義を、おのおのの主観でよいとするならば…

 この「冬ソングといえば?」というお題。私の答えは「雪の進軍」です。
明治28年に永井建子の作詞作曲によって生まれた軍歌で、作者は軍楽隊に属していた軍人です。
 日本の冬の描写ではなく、山東省近傍での従軍時に見聞したものを、もとにしているらしい。
2拍子の軽快なリズムと明るい曲調に対して、「辛辣な」というか、自虐的かつ、
どことなく反戦的な歌詞が、特徴的な日清戦争時を代表する軍歌となっています。
最終番の4番の歌詞には変遷の歴史もあります。

 雪の進軍4番

命捧げて出てきた身ゆえ 死ぬる覚悟で突喊すれど
 
武運拙く討死せねば 義理にからめた恤兵真綿
 
そろりそろりと首絞めかかる どうせ生かして還さぬつもり

なかなか難解な部分です。たぶん意訳すると、こんな感じではないかと。

(主語) 国に命を捧げて、兵隊になったのだから
(主語) 「死ぬ」のも覚悟で戦っているのだけれど
(主語) 戦いの運もつきて、死ななければならない 
そんな義理にとりつかれた哀れな兵の首には真綿が巻き付いているのも同じことだ
静かにゆっくりその真綿は首を絞めていくのだ 
(主語) どんなことになっても生きて国へ帰す気はないのだから

 あくまでこれは私の個人的な解釈です。そして私は古典が苦手ですので悪しからず。
(主語)と入れたのは、なんとなく意味が通らない気がするからです。
おそらくは、作詞をされた、永井建子氏自身が感じたことでしょうから、
「私は」という兵隊自身が主語になると、考えるべきかと思います。
しかしそうすると、最後の主語が「私は」ではちょっとおかしくなります。
最後は「司令部の連中は」とか「部隊長は」とかが入るんですかねぇ。

 もっと深く考えると、永井氏自身は軍楽隊員。しかも司令部付ですので、
敵弾飛び交う前線の兵と、命令を下す司令部の両方を見ながら作ったのかもしれませんね。
 司令部目線で(主語)を「兵たちは」にすると、前述の「私は」を主語にしたときと、意味合いが変わります。
そして最後の主語が「我々司令部は」となると、なかなか壮絶です。

歴史的には最後の歌詞が修正されています。
「どうせ生かして還さぬつもり」を「どうせ生きては還らぬつもり」に変更され、
終戦間際には、「戦意が下がる」という理由で歌唱が禁止されたという噂もあります。
 軍歌の多面性を示す例として、よく取り上げられる楽曲です。

 さてさてどうしてこれが「冬ソング」なのか?
 それは単純です。「雪」は「冬」だからです。
もちろん「春雪」といって。岩手の沿岸、このへんでは、浜に降る重く湿った、ドカ雪を「春雪」といい、
「もうすぐ春だなぁ」と季節のうつろいを感じるものもあります。そうはいっても雪は、やはり冬の象徴でしょう。
 私の暮らす、岩手の沿岸部は雪が少ない地域です。それでも、毎年2から3回は積もります。
積もった雪は朝日を浴びて、それはきれいなものです。
しかし、早朝からの除雪。重みによるハウスの倒壊など、大変なこともあります。
そして、あの冷たく、重たい、白い魔物は、ふとした瞬間に命の危機をあおることもあります。
真っ暗な夜闇に、自分の進みたい道も分からなくなるほどの、大きな雪の粒。
そして、いつ止むともしれない吹雪。
瞬く間に厚みを増し、除けるものを阻むかのごとく溜まる豪雪。
湿った雪は木々に、はりつき、その重みはやがて、枝を折り。
時には大木を根元から転ばし、鈍い音を山々に響かせることもあります。
そんな時、雪は畏怖の対象にもなります。命を奪う恐ろしさを雪は持っています。
 もっと平凡なところでは、雪道は歩きにくいものです。
ましてや、畑の土室に埋めた大根を、掘り上げに行くときなど、
新雪には埋もれ、自分が歩いた後は、その足跡に、足を取られます。
大根を入れたカゴは、持ち上げて歩くのも、引きずるのも大変です。
 そんな恐ろしさや、苦しさを目の当たりにした時こそ「雪の進軍」は威力を発揮します。

雪の進軍1番

 雪の進軍氷を踏んで どれが河やら道さえ知れず

 馬は斃れる捨ててもおけず ここは何処ぞ皆敵の国

 ままよ大胆一服やれば 頼みすくなや煙草が二本

 不確かさ。どうしようもなさ。得体の知れなさ。自棄。心細さ。そういった感情が歌詞には含まれています。
しかし、この曲はそれを高らかに、ヨナ抜きのなじみやすい旋律で歌い上げるのです。
今、自分が置かれている苦しさや、冷たさなんかは、屁でもない!そんな空元気が湧いてくるのです。
 
 映画にも時々顔を見せる名曲?

 昨年、7回も劇場に足を運んだ映画「劇場版ガールズ&パンツァー」。
劇中ではチハタン学園のテーマソングのような形で、この「雪の進軍」がBGMとして使用されています。TVシリーズではキャラクターが歌唱するシーンもあり、雪の進軍1番から4番までの全番を歌う「スノーウォー」だったか?そんなOVAも作成された。
他にも、「八甲田山」で歌唱シーンがある。岩木山を背景に真っ白な田のあぜ道を、歩調をそろえて歌唱行進するシーンは、どこか牧歌的でいて、悲哀に満ちているように、私の目には映りました。

 最後に「冬ソング」とは関係ないけど前々から妄想していることがあります。
雪の進軍の3番の歌詞です。

 着のみ着のまま気楽なふしど 背嚢枕に外套かぶりゃ

 背の温みで雪解けかかる 夜具の黍殻しっぽり濡れて

 結びかねたる露営の夢を 月は冷たく顔覗き込む

この中の「夜具の黍殻」とは?いったい何キビだったのか?という疑問です。
1つ目の可能性は、昔話の「桃太郎」が腰につけている「きびだんご」の原料となるキビです。
これは「イナキビ」とか、この辺では「コッキミ」と呼ばれる黍です。
ヨーロッパ、インド、日本でも縄文時代から栽培されており、多くの古代文明を支えた、穀物の一つです。
次に考えられるのは、コウリャン、ソルガム、などと呼ばれる「タカキビ」です。満州を代表する穀物だと勝手に思っていますが、原産地はアフリカのようです。イナキビにくらべ背が高く、粒も大きいです。岩手岩泉ではこっちがキビ団子の原料です。
もう一つは「唐黍」こと「トウモロコシ」です。しかしこれには「殻」が無いような気がします。しかし、「黍殻」が実は「黍柄」だったら?トウモロコシの可能性もありますね。
 日清戦争の戦域は、おおよそ朝鮮半島から満州の奉天までと考えることができます。
植物の性質上イナキビ、タカキビ、トウキビの、どれも栽培可能でしょう。普及度合いを考えても三者とも譲らずというような気がします。
また、「夜具」という使い道を考えると、イナキビはコメの籾殻にあたる部分と胚乳がくっついているため、籾摺りと精米の作業を分けることができませんので、きっとすごい粉っぽい夜具になったでしょう。タカキビはよく登熟していれば、籾殻分が剥離しやすいので、割と夜具向きかもしれません。しかし、結構硬いので寝心地はどうでしょう?。トウキビは俵の周りについている皮はやわらかで、保温性もよさそうです。わら布団があるくらいですから、もしかしたらあり得る話かもしれませんね。
 この謎はしばらく解けそうにないので、ゆっくりかみしめて、味わいたいと思います。

 


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