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姿消す国鉄時代の「検測車と配給車」最晩年の記録

JR西「443系」「クル144・クモル145」の役目とは?
2021/09/10 04:30 (東洋経済オンライン)

姿消す国鉄時代の「検測車と配給車」最晩年の記録

列車に乗って移動していると、あまり見かけない車両に遭遇することがたまにある。代表的なのは、東海道・山陽新幹線を走る「ドクターイエロー」だろう。「走っている姿を見かけたら幸運になれる」という“都市伝説”もあるが、その本来の役目は列車が安全に走行できるよう、線路や架線、信号といった設備を検測するというものだ。ドクターイエローは新幹線用の検測車両だが、JRの在来線や一部の大手私鉄でも、同様の車両が活躍している。

国鉄が分割民営化してから30年以上が経ち、JRの検測車両は多くが世代交代を果たした。そして2021年、国鉄から引き継がれた検測車両がまた一つ、姿を消す。

国鉄特急型電車の外観

2021年8月のある日、大阪府吹田市にあるJR西日本吹田総合車両所の一角に、あずき色の車両が止まっていた。クモヤ443とクモヤ442からなる「443系」の2両編成で、かつて日本全国で見られた485系特急型電車などと同じく、運転台が高い位置にある。一方、側面の窓は急行電車や快速電車のように開閉が可能。さらに、板で塞がれた大きな開口部もあり、一部は板が撤去されて車内が見えていた。

この車両は、電気検測試験車と呼ばれる車両だ。走行しながら架線の状態を検測し、もし不具合があれば補修などの必要な措置を手配する。車内には計測用の機器が所狭しと配置され、屋根の部分には架線の状態を監視するためのドームも設けられていた。かつては検測スタッフがここから目視で確認していたが、後にカメラが設置され、映像データを残せるようになったことで、より詳細な検測やデータ管理が可能となった。

443系は、国鉄時代の1975年に2編成が登場。分割民営化後はJR東日本とJR西日本が1編成ずつ引き継いだが、JR東日本の車両は2003年に新型の検測車に置き換えられた。JR西日本に残ったこの第2編成は、以降も検測機器を最新のものに更新しながら現役を続行。直流区間と交流区間の双方を走れる強みを生かし、JR西日本の電化区間はもちろん、JR四国やJR九州、さらには一部の第三セクター鉄道でも検測を行っていた。まさに八面六臂の大活躍である。

だが、車内に入ると機器の一部は撤去されており、監視ドームのカメラもなくなっていた。実は、443系は前月に行われた九州・中国地方の“出張”を最後に現役を引退。長年所属していた吹田総合車両所京都支所を離れ、廃車のためにここまで回送されてきたのだ。

443系がこれまで担ってきた検測作業は、もちろん今後も何らかの形で行う必要がある。近い将来、バトンを受け取った新型の検測車両が、443系に代わって鉄路の安全を守ることだろう。

「クル144・クモル145」とは?

ところで、443系をはじめとする検測車両は「事業用車両」というカテゴリーに区分される。事業用車両というのは、人を運ぶ旅客車両や荷物を運ぶ貨物車両のように営業用に使うものではなく、鉄道会社が自社の業務用に使う車両を指す。

443系が所属していた京都支所には、他にも何形式かの事業用車両がいるのだが、この中にもう1つ、鉄道ファンの間で話題となっているものがある。それは、クル144とクモル145だ。

クル144とクモル145の最大の特徴は、その形状にある。正面から見ると、かつて首都圏でも見られた国鉄の通勤型電車・103系に似ているが、横から見た姿はまったく違う。なんと、車体の3分の2ほどが荷台になっているのだ。

まるで大型トラックのようなクル144とクモル145は、「配給車」と呼ばれている。



部品を運ぶ在りし日のクル144とクモル145=2015年4月(撮影:伊原薫)

その主な任務は、台車やモーター、クーラーといった車両の修理部品を運ぶというもの。なるほど、運搬先である工場や車両基地には当然ながら線路が通じているので、大きな部品をスピーディーに運びたいなら、自分たちの線路を使うのが確実である。

このクル144とクモル145は、1980年から1982年にかけて、101系通勤型電車を改造する形でそれぞれ16両が登場。旧形の配給車を置き換え、東京と大阪で活躍した。

荷台で吹奏楽コンサート

だが、列車本数の増加で配給車を運行する余裕がなくなってきたことや道路整備が進んだことにより、次第に出番が減少。JR東日本からは2008年に姿を消し、その翌年にはJR西日本でも2編成が廃車されて、1編成が残るのみとなった。この1編成も、本来の任務である部品輸送に使われたのは6年ほど前が最後で、現在は京都支所内で入れ換えや線路のさび取りに使われるだけだったが、ついに2021年度をもって引退することが決まった。



京都鉄道博物館での展示中、荷台で行われた吹奏楽コンサート(写真提供:吹奏楽団アニ×トレ)

クル144とクモル145は、一般向けの最後の公開として、2021年8月に京都鉄道博物館で特別展示を実施。初日に搬入イベントが行われたほか、8月14日には荷台を使った吹奏楽コンサートが行われ、多くの人が“最初で最後の音楽イベント”を楽しんだ。

展示最終日となった8月18日に行われたお別れセレモニーでは、DE10形ディーゼル機関車に牽引されたクル144とクモル145が、展示場所からの出発時に警笛を鳴らすなど、粋な演出も。鉄道ファンにとっても車両にとっても、思い出に残ったことだろう。

国鉄時代にデビューし、JRとなってからも長らく安全運行を支え続けた、2つの事業用車両。姿を消す彼らに、改めて「おつかれさま」の言葉を贈りたい。

著者:伊原 薫


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