
どうしてだろう、死にたい気持ちが首をもたげて襲ってくる。面倒ごとが後を絶たない。
息子の嫁が同じ職場の男に傷物にされてしまった。
嫁と言っても人間の女性ではない。小さい頃から憧れていた車を手に入れた息子。理想のお嫁さんとして心に描いていたセーラームーン美少女戦士の1人の名前を付けていつもそわそわと外に出て行っては車の世話を焼いていた。
息子は知的障害重複の自閉症と三歳の頃に診断を受けた。しかし、その頃既にひらがなは読めたし、アルファベットも認識でき身の回りに存在した単語の綴りも覚えていた。
記号の類いが大好物だったが自分で文章を組み立て意味を成す言葉を話す様になる気配は無かった。
そんな息子に対して車に関心を持つように仕組んだのは私自身だ。
自分の弟は怪獣図鑑が大好物で全ての怪獣を記憶していたが成人した弟は全く出来損なっていたので怪獣やヒーローものではなく実用的な車を男の子の教材として選択したのだ。
彼はチラシから切り抜いた車から色や形の名前を学んでいった。会話らしい会話は無かった。
周りに会話が出来る人間がほぼいなかったことも原因だと思う。ナルシストの父親とその母で子育ては自分の両親と妹達に丸投げしていた農家の跡取り娘だった同じくナルシストの祖母、私がステージ3の乳癌で入院していた約4ヶ月の間息子はこの二人に託さなくてはならなかった。親戚だらけの過疎地域、一番近いお隣が200メートル離れた姑の従兄弟の家。一人暮らしの自宅に押し入られ結婚を押し切られるまで私はその土地の地名すら知らなかった。
何かとお騒がせのあの麻生太郎の出身地がある筑豊地方の一画がそのナルシスト親子の住処だった。田舎だけあって親戚が寄り合ったり、姑の妹達も頻繁に出入りはしたが常に一歳にも満たない息子に話し掛けてくれるはずもなく常に自分優先の父と祖母との4ヶ月間は愛情欠陥障害を引き起こすには十分すぎる状況だった。
私の母や姉妹弟も癌で入院していた間、一度も見舞いにさえ来なかった。勿論息子の顔を見に来ようとも考えなかっただろう。
姑が母からの電話を受けたらしいが内容は伝え聞いてはいないし姑自身からは一言もその話は聞いてはいない。
まるで境界型人格障害者に取り憑かれたみたいに孤立化が進んでいった。
人口が少ない土地で育つと一般的な常識も身につきにくいのかも知れない。
高校で初めて他の地区の生徒と一緒になったときに山猿呼ばわりされたのが悔しかったとクズが口にしたのを聞いたが、実際他人の住まいに招かれもしていないのに勝手に上がり込むのは人としての常識を弁えない山猿の所業ではないかと心の中で思ったものだ。
世の中には色んなクズが存在する。
息子の嫁(車)に傷を負わせた男も昔はヤンキー好みの車に乗っていたと言うから障害を持つ息子が新車を手にしたのを見て妬んだのかも知れない。
ここまで来るには普通の人には想像すら出来ないほどの障壁を乗り越えてきた。
まさに障害だらけの人生だ。
息子は普通の進学は諦め高校から高等技術専門校に進み自動車整備士を目指し、見事にストレートで二級の自動車整備士資格試験にも合格した。
驚いたことにマニュアルの運転免許も筆記も実技も一度のチャレンジでで合格取得した。
まさに好きこそ物の上手なりって感じだ。
しかし、息子が世間知らずなのを良いことにこのままうやむやにして済まそうという腹が見えていて歯がゆくて仕方がない。
職場の敷地内での事故だが警察に通報したのかも定かではない。
息子は自分の車が被害に遭ったことを加害者から聞いたのではなく加害者から連絡を受けた社長から聞かされたらしい。
加害者が加入している保険会社の話も出ていない。
事故から二週間が経とうとしているのに未だに修理の日程も聞かされてはいない。
本当に死にたくなるが、子供達のことを考えるとどうにも死ぬわけにはいかなくなるので仕方なくまた今日もこの地上に転がったまま呼吸を続けている次第である。