The Blog of a2pro

オリジナルのショートストーリーやイラスト。近隣・旅先の写真や簡単なガイドなどを紹介しています。

『ボビー・コールドウェルを聴きながら』

2022-01-28 10:15:10 | ショートストーリー

カランカランカラン。
木製の扉を開けて、店内へ入る。

コツコツコツとヒールの音をさせながら、
一枚板のカウンター席に、
まるで当然の如く、スッと座る。

程なくマスターが正面に現れる。

「いらっしゃいませ。」
「いつものを。」と言葉少なめに注文する。

週末のバーは、程よく人が入っている。
午後六時、待ち人はまだ来ていない。

コトッと小さな音がして、
カウンターにボトルが置かれる。

目の前に置かれたそれは、
溶けだしたような赤いキャップがついた、独特な、
少々ずんぐりむっくりとしたデザインの瓶だった。

メーカーズマーク。
ケンタッキー原産のバーボンウイスキー。

それからマスターは、
アイスピックを起用に使い、
氷を丸く削っていく。

暫くの間、
カツカツカツという、
小気味良い音だけが、耳を打つ。

綺麗に丸くなった氷を、
江戸硝子のロックグラスに入れる。

そして瓶を手に取ると、
一度ラベルをこちらに見せ、
頷くと、キュッと音を立てて、キャップを開ける。

メジャーカップにワンフィンガー分量ると、
ロックグラスに、トクッとウイスキーを注ぎ入れる。

それを静かにマドラーで一回かき混ぜる。
「お待たせしました。」

スッとコースターが二枚、カウンターに並べられ、
其々にオンザロックと、チェイサーが置かれる。

「ありがとう。」
と礼を言うと、グラスに手を伸ばす。

カランと静かな音で、氷が鳴る。

口元に近付けると、
メープルシロップのような、
華やかな香りが、鼻先をくすぐってくる。

思わず喉が鳴る。

トロッとした琥珀色の液体を、
舐めるように口に含む。

一瞬、強烈なパンチに、噎せそうになる。

さすがは、アルコール度数45パーセント。
すかさず、チェイサーに口を付ける。

この作業を何度か繰り返していくと、
急に、しっくりと馴染む瞬間が訪れる。

これぞ、酒飲みの醍醐味だ。

若い頃は、かなり格好悪い飲み方もしたけれど、
こんな風に、チビチビと、時間をかけて、
お酒を楽しむのも、良いものだ。

それに、このスタイルに落ち着いてから、
悪酔いしなくなった。

格好良い言い方をすると、
お酒とお喋りする。とでもいうのだろうか。

待ち人が多少遅くても、酔わずに待っていられる・・・

カランカランカラン。

「ごめん。遅くなって。」
「大丈夫。お疲れ様。」
「いらっしゃいませ。同じもので、よろしいですか?」

「お願いします。」
「私は、おかわりを。」
「わかりました。どうぞ、ごゆっくりと。」

そんな、どこにでもありそうな日常が、
今は苦しくなっている。

あれから二年、行けていないバーのマスターとは、
年賀状くらいでしか、繋がっていない。

誰が悪い訳でもなく、
そして、皆が、頑張っている。

せめて、家で。
メーカーズマークのオンザロックと、
ボビー・コールドウェルを聴きながら・・・。


a2pro


イラストを描いてみました。

2022-01-21 16:44:07 | イラスト

今週はイラストを描いてみました。

今回はコピックマーカーを使い手書きでキャラクターを描き、スキャナーで取り込んだ後、背景などをデジタル加工で追加処理しました。

今後も昔の手法やら、新しい技術などを試行錯誤しながらイラストを追加していきたいと思います。

 

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