久しぶりの記事の投稿です。再開です。すでに3つの原稿の下書きがありましたが、読み直しまずは投稿します。
◇横走する エゾノタチツボスミレ2
権威ある文献によるとエゾノタチツボスミレは A.花は紫色または白色。B.地上茎がある。D.地上匐枝はふつうでない。F.葉は円心形。(佐竹他 1982)と、検索記述があるが、ここ「スミレ雑種研究所」の研究員らは横走するエゾノタチツボスミレを観察研究対象にしてる。気になる記述としては、茎はふつう叢生し、直立するが、高地のものでは横にたおれる(橋本1978a)。どこの高地なのかの記述や形態の詳細は無く、日付も不明なのが残念である。多分、花期が過ぎて、支えきれなくて倒れることを指しているのかもしれない。エゾノタチツボスミレかスワタチツボスミレかいずれにしても、この地の横走する個体群は多くの野外観察や文献資料のどこにも記述が無いことは確かである。
開花期に横走して生長することはこの個体群(関東地方の標高1015mの落葉樹林)だけの特異な性質なのかもしれない。
また、タチツボスミレとの雑種であるスワタチツボスミレの可能性も考えられる。
時期的な形態変化も考慮しつつ、現在も継続観察して真相を探求したい。
◇エゾノタチツボスミレの仲間と考えられる国内種について
国内種の仲間①~③については野外観察記録・文献・栽培歴より簡単な説明、外国種となると栽培歴と少ない文献からの説明になる。(外国種は次回とする。)
エゾノタチツボスミレ類※はタチツボスミレによく似ていて、タチツボスミレ節のなかの1小群で、この仲間は北半球の寒冷な地域に広く分布する(橋本、1978b)。花柱の上部に突起毛が生えることや、唇弁の距にはりあわせた跡のようなすじが入る(距の裏側の溝)ことなどで、同じグループとしてまとめられている。国内種は①エゾノタチツボスミレ、②アイヌタチツボスミレ、③シマジリスミレの3種(いがり2004c)が知られている。
①エゾノタチツボスミレ V.acuminate
比較の為、エゾノタチツボスミレをスワタチツボスミレの隣で栽培したら、この株は直立して生育した。
①
撮影日①2015.04.19
前回で記述しなかった茎と根について、地上茎は立ち上がらず3方向に分岐して横に伸びる(写真①)。地下茎は木質化して節が密生している。花期終了後に直立はしなかった。
②アイヌタチツボスミレ V. sacchalinensis
② ③
撮影日 ②③2014.03.24
数株の野外観察(北海道道東、2011年7月上旬)は開花期後半で地上茎は高さ25cmぐらいで直立していたのを観察した(写真は無し)。2012年にその種子を蒔いて、2013年発芽し2014年開花数日前、やや斜めに生長した(写真②)。1973年5月30日北海道天塩で撮影された開花期の白花品の写真はやや斜上している(原 1976)。地上茎無毛で、斜上またはやや倒れる(浜、2002a)。茎は直立ぎみに斜めに立ち上がる(松下2003)。写真③はアイヌタチツボ(右)とアポイタチツボ(左)
②の変種 ②´アポイタチツボスミレ V. sacchalinensis f.alpina
④ ⑤
撮影日 ④⑤ 2015.05.15
野外観察(北海道アポイ岳、1982年6月)では開花期で地上茎は高さ3~5cmぐらいで地上茎の伸びはみられなかった。その後、知人より入手した種子を2011年に蒔いて、2013年に発芽し2014年開花した苗である。2015年は18cmぐらい地上茎が伸長し始めた(写真④)。針金で固定栽培していたら地上茎が伸び、その先で開花した(写真⑤)。④⑤は③の成長株。
④シマジリスミレ V. okinawensis
若い個体は開花後も地上茎が出ないが、翌年の開花後、地上茎が長さ5cmぐらい伸長、先端で開花結実する。
花期の草丈は8~12cmになる。地上茎をはわせて、その先に新株をつくる性質があるが、地上茎をもたず、根もとからたくさんの葉をロゼット状にだしている個体も多い(いがり、2004d)。
葉は光沢があり、卵形心臓形~円状系心臓形、基部は心脚で側辺部が重なって巻き込んでいるものが多い。花色は淡紫色から白色、柱頭は円柱形で、先端は有毛。限定された2カ所に分布し、2か所とも個体数は少ない。近くに建築計画(自衛隊体育館)があり、生育環境が悪化している。沖縄県固有種。絶滅危惧ⅠA類(横田、2006)。
スミレ類の分子系統学解析が進んで、核DNAの解析では、ウラジロスミレ節のオキナワスミレは、ウラジロスミレ節のオリヅルスミレやテリハオリヅルスミレは単一のクラスターを形成せずに、タチツボスミレ節のシマジリスミレと単一のクラスターを形成した(横田、2005)。とあり、オキナワスミレは柱頭の形態などからウラジロスミレ類とされることが多く、一方でシマジリスミレはその外見も局限された生育環境からもまったくオキナワスミレそのもののように見えるが、柱頭の形態などからエゾノタチツボスミレ類とされることがある。この両者は同一分類群との結論、また、系統的位置はエゾノタチツボスミレ類に入った(植田、2005)。今後のスミレ類の系統解析が楽しみとなる。
次回には外国産のエゾノタチツボ類について述べる。
<一言、貴重な種の保存について>スミレ愛好家や野外観察中心で活動する方々の中には栽培することを不服とする方々もいることを承知で、掲載します。栽培しないとわからないことも多々あり、探求の為の採取は種子のみ・葉ざし・根ふせ等の本体への負荷を最小限にしている。今まで、それが原因で姿を消したものは無く、株全体を持ち込む(いわゆる盗掘)ことはしない。例えば、根ふせ用に根を2㎝採取した個体は翌年も翌々年も野外での生存を確認しているし、根を数cm採取した個体へのダメージよりも、著しい環境の変化の方がよりダメージを受けてきていることを数十年間の野外活動で多々確認してきた。自分の栽培技術を過信することもなく、自分の力量を承知して行っている。最近は減ったが、お目当てのスミレを楽しみにしていたのに、根こそぎなくなって嫌な思いもしたこともある。なので、経年観察している個体が無くならないように、いつも祈ってる。
引用文献 :
いがり まさし ( 2004d) 増補改訂日本のスミレ. 山と渓谷社 94
今井 建樹, 伊東 昭介 ( 2004) 信州のスミレ. ほおずき書籍 154
佐竹義輔他(1982)日本の野生植物Ⅱ、平凡社 245
田淵 誠也 (2005) すみれを楽しむ. 栃の葉書房 P.71
原 秀雄 ( 1976) 北海道の高山植物. 創土社 P.179
橋本 保 (1978a) 日本のスミレ 橋本保 P.152
橋本 保 (1978b) 朝日百科 世界の植物3種子植物Ⅲ. 朝日新聞社 P.749
横田昌嗣(2006) 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 P.118
横田昌嗣(2005) 琉球列島依存固有植物の系統地理学的解析 研究成果報告書 P.7
浜 栄助 (1975a) 原色日本のスミレ. 誠文堂新光社 69
浜 栄助 (1975b) 原色日本のスミレ. 誠文堂新光社 81
松下和江(2003) 根室地方スミレハンドブック ニムオロ自然研究会 34