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透明人間たちのひとりごと

ダ・ヴィンチの罠 仕様書

 レオナルド・ダ・ヴィンチの作品の中でも
『岩窟の聖母』「謎」の多い絵画
ですが、謎めいた作品というよりは、むしろ
彼が仕組んだ「罠」の見本のような存在で
あるとするほうが適切であり、そう呼ぶのに
相応しい仕掛けに溢れています。

 ★ 前回の「水面下」の記事では、

      

『岩窟の聖母』( Virgin of the Rocks)には、
ロンドンにあるナショナル・ギャラリー収蔵
のものとパリのルーヴル美術館に収蔵された
ものの2種類があって、パリ・ルーヴル版が
最初のヴァージョンだとされています。


    『岩窟の聖母』パリ・ルーブル版 &『岩窟の聖母』ロンドン・ナショナルギャラリー版

 と、いう書き出しから始まっていますが
、これまでほとんど人の目に触れることの
なかった3枚目の『岩窟の聖母』が突如
として出現したのです。

 この作品については、ダ・ヴィンチ本人
と彼の弟子たちによる作品であるとの解釈
(鑑定結果)となりました。

 この3枚目の絵は個人蔵のため、長らく
世間に知られる機会がなかったわけですが、
1990年に所有者がミラノでこの絵を修復に
出したことがキッカケで世に知られるよう
になったのです。

 この絵は他の作品と同様に、板に描かれ
ていたのですが、修復の際に、キャンバス
に描き替えられたものであるらしいという
ことが分かりました。

 しかもこれは、第3作目というものでは
なく、最初のヴァージョンである第1作目
のルーブル版の原型を精巧に模した第2作
(第2ヴァージョン)であるということが
判明しました。

 つまり、

 裁判の過程で描き直したものであって、
ダ・ヴィンチ自身と彼の弟子たちの作品で
ある可能性がかなり高いということです。

 さらには、最近、

 第3の『岩窟の聖母』が存在するとの
文書も見つかったようで、これが本当なら、
ロンドンにあるナショナル・ギャラリー版
岩窟の聖母』は第3作目ということ
になるのですが ・・・

レオナルド・ダ・ヴィンチ 第3の《岩窟の聖母》 @Bunkamura_b0044404_17173538.jpg
 個人所蔵の『岩窟の聖母』 cardiac.exblog.jp

 キャプションの紹介によると、本作品は
「上部のドーム状の部分や下部は切られて
現在の形になっている」との説明ですので
、何とも残念ですが、その分を割り引いて
比較してみると、以下のようになります。

 個人所蔵の3枚目の『岩窟の聖母』
構図は、ルーヴル版とほとんど同じですが
大天使ウリエルの表情や人差し指で幼児の
イエスを指差すポーズは、そのままで聖母
マリアにだけ光輪が描かれています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 第3の《岩窟の聖母》 @Bunkamura_b0044404_644088.jpg
        画像元:cardiac.exblog.jp

 さらに作品の中の植物も変えられている
ことからも裁判の過程において、ある程度
の描き直しをせざるを得なかった結果では
ないかということが推察できます。

 要するに、この時点での最大限の譲歩が
聖母マリアに光輪をつけることと、植物を
変更することだったのでしょう。

 しかしながら、

 マイナー・チェンジだけでは、依頼者側
が満足しなかったために、ロンドンにある
ナショナル・ギャラリー版のように、幼児
のイエスとヨハネのポジションを入れ替え
二人にも光輪を付け加え、アトリビュート
である十字の杖を幼児のヨハネにあてがい
、大天使ウリエルの指差しポーズをやめて
着衣のかたちや色彩を変更し、さらに植物
までを再度変更するといった大幅な妥協を
加えざるをえなかったと考えた次第です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 第3の《岩窟の聖母》 @Bunkamura_b0044404_644313.jpg
        画像元:cardiac.exblog.jp 

 この個人蔵の『岩窟の聖母』の登場も
ダ・ヴィンチが仕掛けた「罠」の一環で
あって、彼のシナリオにおけるプロットの
ひとつなのかもしれません。

 それというのも、

 この絵は近景や中間の背景がルーブル版
に比べ暗い感じで、手前の植物はほとんど
見えませんが、逆に遠景は明るく、人物も
スポットライトが当たったようにハッキリ
としたコントラストで描かれています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 第3の《岩窟の聖母》 @Bunkamura_b0044404_17183656.jpg
        画像元:cardiac.exblog.jp

 大天使ウリエルのマントも赤黒い割には
色鮮やかですし、またウリエルの顔が一番
明るく、自然と視線がそちらに向くように
誘導したうえで、一種異様な気味の悪さを
その顔に漂わせています。 

 しかも、

 幼児のイエスを指差す右手が、その顔と
比べやけに大きく、また右足の指もあえて
3本だけ目立つように浮き上がらせていて
ここにも何かを訴え掛けようとする意図の
存在を感じます。

 多分、恐らくは こういうことでしょう。 

 それは、イエスの出生にかかわる秘密と
そこに介在した特殊な輩たちの謎について
「罠」なのですが、『岩窟の聖母』
の制作依頼に応じた1483年は、ローマ教皇
シクストゥス4世が無原罪の御宿りの教義
を受け入れないものはカトリックから破門
すると宣言した年でもあり、ダ・ヴィンチ
が、聖母マリアにだけ光輪を付けて修正版
とした裏には、そのことへの大いなる皮肉
が塗り込められていたのかもしれません。

 いずれにしても、

 個人所蔵版の解説には相応以上の紙幅が
必要になりそうですので、今日のところは
割愛とさせてください。

     

 第3の『岩窟の聖母』における「罠」
については、後日あらためて述べることに
して、祭壇画の制作に対する契約書に添付
されていた「仕様書」の内容に関する
解説に移りたいと思います。

 さて、

 「仕様書」によると、指定された人物は、
① 聖母マリア ② 幼児イエス ③ 天使の一団
④ 2人の預言者(ダビデとイザヤとされる)
で、聖母とイエスのまわりを2人の預言者
と天使たちの一団が取り囲むといった構図
で、左右に置かれるサイドパネルには4人
の歌う天使のパネルと楽器を奏でる天使の
パネルが置かれるはずでした。

 また、祭壇画の上部を飾る半円形をした
ルネット部分には父なる神と聖母と馬小屋
レリーフが配される予定で、レリーフの
人物像には鮮やかな彩色がなされ、金箔が
貼られることになっていました。

 その他にも、聖母の一生を表現した多く
のレリーフの制作が指定されており、主要
な箇所の色使いや金箔使用量などが契約書
に詳しく記載されているわけです。

 しかしながら、実際には、聖母マリアと
イエスは描かれているものの、天使の一団
は大天使ウリエルひとりに、二人の預言者
は幼児ヨハネ(実質的にはイエス)が聖母
マリアのケープに抱かれるような姿の構図
に描き変えられているわけで、

 
        『岩窟の聖母』ルーブル版と左右の天使 

 左右のパネルもそれぞれに異なる楽器を
奏でる単独の天使に留められています。

 
『 ヴァイオリンの緑の天使』 ja.wikipedia.org 『リュートの赤い天使』 www.meisterdrucke.jp

 祭壇画の制作契約が結ばれると、1483年
5月1日に手付金として100リラが支払われ、
その後、1483年7月から1485年2月まで毎月
40リラの合計800リラが支払われています。

 当初の契約では無原罪の御宿り祝典の日
にあたる1484年12月8日が納期限で、作品
の完成と搬入をもって最終代金と引き換え
が行われることになっていました

 ウィキペディア(Wikipedia)によると、

 1490年から1495年にかけて、レオナルド
とアンブロージオは無原罪の御宿り信心会
に、契約書では祭壇画の中央パネルだけで
800リラの代金になっているとして、残りの
パネルやレリーフの制作代金としてさらに
1200リラの支払いを求めますが、この要求
に対する無原罪の御宿り信心会からの返答
は、残代金として 100リラのみを支払うと
いうものでした。

 そこで、レオナルドとアンブロージオは、
レオナルドのパトロンでもあったミラノ公
ルドヴィーコ・スフォルツァに、この問題
に関して自分たちに有利になるような仲裁
をしてくれるように依頼します。

 これによって、祭壇画は改めて専門家に
よる評価を受け、無原罪の御宿り信心会が
支払った価格よりも価値があると判断され
たものと考えられていますが、

 レオナルドとアンブロージオは、支払い
問題が合意に達しない場合には、祭壇画の
うちの中央パネル以外の装飾を取り除くと
していたようですね。

(以上、Wikipedia より適宜引用しました)

  なるほど! かなりエキサイティングな
   
 裁判劇が展開されていたようですが 、

 畢竟するに、

 ルーヴル・ヴァージョンは洗礼者ヨハネ
が真のキリストであることが主題であって
、幼いヨハネによるイエスの洗礼と祝福が
そのモチーフとして採用されています。

 一方のロンドン・ヴァージョンの主題に
なっているのは、幼児イエスが幼い洗礼者
ヨハネを祝福する、換言すれば、イエスを
ヨハネが礼拝するテーマ(かたち)に変更
されているのです。

 ところで、『ダ・ヴィンチの罠』では、

 彼の作品のすべてはひとつのベクトルに
向かって描かれているという推測のもとに
組み立てられています。

 その理由(わけ)は、画題の選出方法に
一貫したつながりがないことで、あまりに
脈略のないテーマにバラバラ感が満載です。

〝聖母子〟がやたらと多く、そこに洗礼者
ヨハネが絡む作品ばかりで、『旧約聖書』
の物語は皆無だし、ギリシャ神話にしても
『レダと白鳥』のみです。

 そうかと思えば、4世紀末のキリスト教
の教父や奇抜なデザイン性に富んだ人体図
だったり、名もない音楽家に『新約聖書』
の物語の中のワンシーンといった具合で、


 『聖ヒエロニムス』 1480-82年 バチカン美術館蔵

 あとは、個別に依頼を受けたのだろうと
思われる女性の肖像画と自画像などを含む
いわくつきの男性の肖像画と壁画の類です。

 然は然りながら、

 それらの作品をカテゴライズしてみると
意外にも 4つずつのグループに分類わけが
できることがわかりました。

(詳しくは過去記事を参照してください)

 つまり、一見では整合性のない作品が
特定のベクトルによって統合されている
ことが判明したわけです。

 ただし、

 こちらの「仕様書」については、
まだ上手く纏められていないのですが、


           「仕様書」 tech-blog.rakus.co.jp 

 ダ・ヴィンチの支離滅裂的な作品には
一定の法則があって、ひとつの方向性に
統一された「罠」が実在しています。

 そんな「罠」の発見方法のひとつが
コミュニケーションに欠かせないツール
やビジネスの基本的なフレームワークに
必須の「5W1H」で問うて(疑って)
みることです。


           「5W1H」 tech-blog.rakus.co.jp

 「5W1H」は、正確な情報伝達や業務
の円滑化、業務の質の向上など、多くの
ビジネスシーンでも役立っています。

   
  「When(いつ)」、「Where(どこで)」

   
  「Who(だれが)」、「What(なにを)」

 
  「Why(なぜ)」、「How(どのように)」

 ・・・ と、言えば、

 
  明日は「バレンタイン」じゃのぅ。

 このオチにまつわる怪しさや危うさが、
バレずに持ち堪えられるんじゃろうか!?

  
           マジで・・・

      「バレん堪えん」なんちゃって、


        なんでやねん!

   
      なんだかなあ❓

       今回はリリスの出番がありませんでしたが、

         
          『Lilith』 ジョン・コリア 作

        
    次回以降のどこかの時点での登場機会を待ちしましょう!

    

     … to be continued !!

コメント一覧

小吉
3枚目の岩窟の聖母……。

むう。
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