透明人間たちのひとりごと

黒影の手下

 お風呂に入る前、歯を磨こうと洗面台に立ったら「黒影の手下」を発見した。
 洗面台と洗濯機の間に潜んでいたのだ。

 忍としてはまだ若い。体つきからして中学生くらいだった。
 彼は慌てて逃げ出した。

「どうしようか」
 これではのんびり風呂にもに入れない。
 風呂に入っている間はいいが、裸で出てきた時に上から奇襲を掛けられたり、あるいは顔を洗っているときに足元に現れるかもしれない。
「やるか」

 僕は武器を探しにいった。
 しかし、武器がありそうなところを見渡してみても、肝心の物がなかった。

 仕方なく、新聞紙を丸めて脱衣場に戻った。

「逃げた、か、また、潜んでいるのか」

 しかし、このままでは…。
 夜も遅いから、遊んでいる暇もなかった。
 
 そのとき、飼い猫のマイケルが現れた。

 よく、僕が風呂に入ろうとすると突然起きてきて体をすりよせてくるのだ。
 時間があったら遊んでから風呂に入る。
「マイケル、いいところにた! 黒影の手下を倒すのを助けてくれ」
 目で合図を送った。
 マイケルの表情が変わった。

 洗濯機の下や、流しの下をマイケルはじっと見つめた。
 そして僕のほうを見て、脱衣場から出ていった。

「おい! マイケル! いつもは駄々をこねてなかなか出ていかんくせになんで今日に限ってすぐ出ていってまうんや!」
 そういえば、以前マイケルが冷蔵庫の上に上っているときに「黒影の手下」を発見したらしく、驚いて逃げたことがあった。

 役に立たない猫だった。

 仕方なく、僕は丸めた新聞紙を左手に持ちながら服を脱いだ。
「大丈夫、ただの忍びだ、たとえやられたとしても生きていける」
 裸になり、風呂に入った。

 あたりをきょろきょろしながら体を洗ったり髪を流したりした。

 黒影について考える。

 確か僕は中学校のとき表向きはサッカー部だったものの「裏部活同」では忍者部だった。
 しかし、黒影の手下があらわれるようになったのはもっとずっと前だったような気がする。

 一番恐かったのは空を飛んだときだった。
「飛べるのかこいつは!」
 見られているとも知らずに壁に張り付いていたからふざけて輪ゴムをとばしたら見事命中してそらを飛んだのだった。
 あのときは本当に恐かった。
 基本的に「黒影の手下」は全国に潜んでいるらしい。

 関西のほうは少し小柄なのが多くて、
 関東は体つきもでかいやつが多かったように思う。

 北海道には出ないらしい。

 俺はいままでどれだけの手下に出会ってきたのだろうか。
 本当はほっといてもいいのだが、「領土」に侵入してきたからには「敵」になってしまうのだ。

 人はそれを「運命(さだめ)」と名づけた。

 さっき見たやつはまだ若い。
 でも、少ししたらりっぱな大人になってまた姿を現すのだろう。
 そうなったら少しやっかいだ。

 次、見たら一発でとどめをさしてやる。

 そう決意し、風呂をあがった。


 僕はまだ、親分である「黒影」をみたことがない。




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