透明人間たちのひとりごと

火垂 

 夜中。玄関を開けたら緑色の光が見えた。
 ほんの3ミリくらい。ドアにぽつんとした光があった。
 なにか、例えば廊下にあるセンサーで反応する照明の待機ランプみたいなものがドアに反射しているのかなと思った途端、その光は消えた。

 あれ、なんだろう。

 首を傾げていたらまた同じ場所で緑の光が点いた。

 記憶が蘇る。

 それは「大学の近くにある田んぼだらけの土地にある川」であったり「キャンプ場」であったり、「静岡新聞のコラム」であったり、「ドロップ」だったりした。

 淡い緑色の小さな光が瞬いている。

 夜、車を運転していて、対向車や、後ろからくるヘッドライトがまぶしかったりする。
 その、「まぶしい」というのは、綺麗な女の人をみて目を細めてしまうようなまぶしさなどではまったくなく、苛立ちと嫌悪のまざった「まぶしさ」。
 夜、部屋の電気をつけても、一個だけこわれていて点かない。
 薄暗くて、文字も見づらくて、きっと目も悪くなるんだろうなって思いながらもとりあえずほっといている。
 有り難いはずの光が、なんだかうざったく感じていたのかもしれない。

 そういうことを、その点滅する緑の光を見ながら改めて思った。

 玄関でぽつんと光る緑色は、余計な押し付けもなく、薄暗さもなく、ただ「何かのために」控えめに瞬いていた。

 わずか一週間くらいの光。
 彼らは人間のことなんて見向きもしていない。
 人間は、他人事なのに、どうして蛍の光を見たいと思うのだろう。

 客寄せで蛍を集めてくる人に聞いたら、分かるだろうか。
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