夏休み。
7月の終わりにある大会を最後に3年生が引退していった。
その引退と同時にようやく僕達はただひたすら走るだけの地獄から抜け出しまともに練習に参加出来ることとなった。
ワクワクが止まらない。
ようやくみんなとボールが蹴れる。
そう思っていたのもつかの間、いざ練習が始まると先輩達のレベルの高さに衝撃を受けた。
一人一人がみんなうまい。
当たり前のように簡単にプレーしていることが僕には出来ない。あんなにワクワクしながら練習に参加したのに途中からはオドオドしたプレーになっていた。
そして何よりショックだったのが同級生の存在だった。
スポ少でずっとやってきていたメンバーのほとんどが、基本的なことは最初に衝撃を受けた先輩達と変わらないくらい出来ていた。
それを見て先輩達がうまいなと感じることよりも比較にならないくらいショックを受けていた自分がいた。
入部前はあれだけ自分のサッカーに自信をもっていたはずだった。
小学生の時にみんなで集まってやるサッカーでは毎回当たり前のように主役だった。
年上の人が来て一緒にサッカーをやっても問題なく主役だった。
それなのにいざ部活での練習が始まると自分自身の存在は主役どころか脇役にすらさせてもらえない。それくらい他のみんなとの差があった。
みんなが普通に出来ているプレーが僕には出来ない。
誰の目から見ても明らかに「出来ない組」だった。
やっぱりサッカー未経験者だからたいしたことなかったな。
そんな風に思われていたかは分からないが、そんな風に思われてしまったと勝手に決めつけてしまうくらい悔しくそして自信を失った初日の練習だった。
「出来ない組」
実際には誰もそんな区別はつけていないのかもしれない。
でもある程度自信をもって挑んだものがいとも簡単に打ち破られる。
これほど悔しく情けないことはない。
初日の練習後は疲れもあったが、それ以上に悔しさが上回り晩飯も喉を通らなかった。
明らかに僕はサッカー部の中で一番下の存在。
そう考えれば考えるほど悔しさがどんどんこみ上げてくる。
一瞬サッカーなんて向いてないから辞めようかな。。
そんなことも頭をよぎったりもしたが、すぐにそれを頭から打ち消していく自分もいた。
誰も区別はしていないとしても今の自分自身は間違いなく「出来ない組」。
まずはそこを受け入れる。そしてこれから絶対にうまくなる。這い上がる。
初日の夜には頭を切り替え必ず成長することを自分の中で決めていた。
夏休みの部活は地獄だった。
練習中の休憩は全くないし、今の時代だと考えられないが水分補給も全くさせてもらえない。口の中がカラカラな状態でいつ誰が倒れてもおかしくないような状態の中、それでもボールを追い走らされる。
夏休みにある部活は午前練か午後練のどちらかだった。午前練もきついが、午後練は暑さも更に増すため余計にきつい。
その余計にきつい午後練のほうが多かった夏休みの練習は本当に辛かった。
新チームになったばかりのため夏休みは全く練習試合もなかったためひたすら練習の毎日。そんな辛い毎日ではあったが、僕は少しでも早く成長したい。そんな気持ちを忘れることなく練習出来ていたからか、この夏休み期間だけでも少しは成長出来た実感もあった。
同級生や先輩達のプレーにも少しずつ慣れてきていたし、自分の中でも出来るプレーが少しずつ増えている、そんな実感もあったからだ。
このまま練習を続けていけばそのうちみんなと変わらないくらいには引退するまでにはなれているかもしれない。
でもそんなことを考える自分が歯がゆくて悔しかった。その程度で納得していていいのか。納得出来るはずもなかった。
僕は夏休みのきつい部活の練習がある日も部活以外の時間はほとんど全てをボールを蹴る時間にあてた。これまでみんなが練習してきた日々を考えると僕の練習量は圧倒的に足りない。みんなと同じ練習をしているだけでは絶対に追いこせはしない。今思えばプライドが高かっただけかもしれないが、この時の負けず嫌いの気持ちがあったからこそ一人でやる自主練も頑張れていた気がする。
これまでサッカーをする時にきちんと練習メニューを考えて練習をしたことは一度もなかった。
ただこの夏休みからは悔しい思いをしたせいか自然と考えて練習をするようになっていた。
こういったプレーが出来るようになりたい。じゃあそのプレーを出来るようになるにはどんな練習をしたらいいか。きっと無駄な練習もあったと思う。それでも考えながらプレーするという習慣はこの時期から身につき始めたためそこに関しての無駄は一切なかったと思う。
大切なことはまず基本的な技術を身に付けること。
どんなプレーにしても基本が身に付いていなければ実際の試合では通用しない。だからそこを徹底して自主練の中の課題とし必死に練習をした。
この自主練は中学でサッカー部を引退した後も続け卒業するまでやりとげ、自分自身の中での生活の一部のように日課となっていた。
特に一番悔しい気持ちを味わった中一の夏休みは一番長い時間自主練に励んでいた。
続