先日受賞した「住まいの環境デザインアワード2010」の審査員を務めていた東利恵先生のご好意により、あの昭和の名建築「塔の家」を見学させていただく事が出来ました。
この建物は、建築をしている学生や建築家なら誰もが知っている都市型住宅の金字塔として位置づけられており、私も写真や図面で色々勉強し、外観も拝見させて戴いておりました。
しかし、この建物は約6坪の敷地に建つ5階建ての住宅をなんですね。
その為、写真等ではなかなかフレームに納まりきらずに、どのような内部構成なのかを図面と写真からイメージするしかなく、ず~~~と指をくわえて外から眺めていたのです。
地下1階、地上5階建ての塔の家は、各フロアがリビング、水廻り、主寝室、寝室、倉庫とワンフロアづつに用途が分かれながらも階段で全てが繋がった一体の空間。
”ワンフロアづつに用途が別れ”と説明すると誤解を招くかもしれないので、”様々な場が散りばめられた大空間”と説明した方が良いかもしれません。
最上階は娘さんの部屋。
建築家・東利恵さんの育った場所です。
この渋谷の町を眺めながらどんな夢を抱いて育ったのか?
なんか、この場にいると利恵先生の子供の頃の気持がなんとなく解る気がしました。
塔の家は階段でフロアは別れるものの、内部には扉が一つも無いのです。
ですからもちろん廊下も無い。
私も以前建坪8坪の住宅を設計したことがありますが、やはり狭小住宅は階段の位置づけがとても重要になります。
階段のあり方一つで家全体のコンセプトがガラッと変わるからです。
塔の家を語るときに「階段の中に住んでいる」という言葉を使う方がいますが、私は決してそうではないと思います。
階段が上手く空間に溶け込み、違和感無くそこにあるのです。
オブジェのように印象付けるものでもなく、”ある”そんな印象を受けました。
それは、襖のような緩く空間を仕切るもの。
閉じずに視線をコントロールし、プライバシーを確保する重要なもので、ただ単に階を跨ぐ為の昇降の場ではないという事です。
そして、私の中で特に印象的だったのが・・・
階段部分に絵や模型、コートなどが掛けられ生活の一部がはみ出て取り込まれているということ。
普通の住宅だったら、こんな風にコートを掛けてあったらおかしいけど、なんだかこの住宅だと腑に落ちるんですよね。
不思議な空間です。
延べ面積約20坪の住宅においてこの吹き抜けはとっても贅沢。
私だったら中間階を作って小屋裏収納とか造ってしまいそうなんですけど、東先生はそうしなかったんですね。
でも、見て納得。
正確な意図はわかりませんが、視線の抜けやリビングから空を見たときの気持ちよさは格別で、図面では解らない良さがここにありました。
水周りは仕切りが無く、シンプルな造り。
大げさな防水や、タイルや石などの華美な装飾も無いのですが、コレでいい。
そう思える空間です。
設備の配管なども全てむき出しなんですけど。。。
でも、全然違和感がないんですよね。
配管をも意匠に取り込む吊戸棚はとてもいい雰囲気でした。
築40数年の塔の家。
この当時はコンクリート打放しという概念が無く、今のような綺麗な型枠を使い、お化粧して仕上るような工事を行っていません。
ですから、天井の一部にはタバコのカスや、部分的に鉄筋が見えてしまったり、型枠が歪んでコンクリートが膨らんでいたりする個所があるんですね。
今でも、それらを補修してお化粧することなく住んでいるんですけど・・・
なんか、地層のように当時の建築の状況を訴えている感じで、とても感慨深かったです。
この建物はDOCOMOMO100選にも選ばれたとても価値のある作品。
是非、このまま後世にも語り継いで戴きたい建物です。
---
今回、この塔の家を見学させて戴き感じたのはコレこそ「建築の妙」だと言う事。
若干6坪に満たない土地に挑戦的に建てた住宅というだけではなく、そこに住む家族がとても幸せにここで生活していたんだなっていう私の求める建築の姿がココにあったように思うのです。
東利恵先生のお話を聞いていると、この家をとても愛しているという事。
そして、きさくで愛らしい人柄はこの家があってこそ育まれたのではと思ったからです。
もちろん、住む中での問題は大なり小なりあったかと思いますが、この大空間の中で家族三人で暮らす。
扉の無い、緩やかなつながりを持った距離感が家族の人生にも影響を与えたのではないかと思うのです。
この住宅は、今の家に全てをすぐに当てはめて考える事は出来ません。
その当時の状況や、建築の技術、そういう社会的背景をないがしろにして語るべきではなく、ただ、その時間軸を飛び越えて空間の大胆さや、そこで育まれた家族の絆はやはり賞賛に値するものだと確信いたしました。
ほんと、ほんとに勉強になりました。
玄関には東孝光の表札が当時のまま残されていました。
住民が代わっても、そのまま父の名を家の顔として残している。
ほんと、父の仕事を尊敬し、利恵先生は建築家として活躍しているのだと思いました。
---
東利恵先生は「東 環境・建築研究所」を主催し、軽井沢の「星のや」をはじめリゾート施設や住宅など数多くの建築を手掛けている建築家でいらっしゃいます。
今回は、特別に塔の家の内部を見学させて戴きとても感謝しております。
次の結婚記念日は「星のや」と思いつつ子供が出来て訪れていないもので・・・
いつか「星のや」に宿泊してレポートさせて戴きたいと思っています。
→東 環境・建築研究所のHPはこちらからご覧下さい
※この記事はご東利恵先生のご好意により掲載させていただいております。
内容・写真は転載、無断使用なさらないようにお願いいたします。
この建物は、建築をしている学生や建築家なら誰もが知っている都市型住宅の金字塔として位置づけられており、私も写真や図面で色々勉強し、外観も拝見させて戴いておりました。
しかし、この建物は約6坪の敷地に建つ5階建ての住宅をなんですね。
その為、写真等ではなかなかフレームに納まりきらずに、どのような内部構成なのかを図面と写真からイメージするしかなく、ず~~~と指をくわえて外から眺めていたのです。
地下1階、地上5階建ての塔の家は、各フロアがリビング、水廻り、主寝室、寝室、倉庫とワンフロアづつに用途が分かれながらも階段で全てが繋がった一体の空間。
”ワンフロアづつに用途が別れ”と説明すると誤解を招くかもしれないので、”様々な場が散りばめられた大空間”と説明した方が良いかもしれません。
最上階は娘さんの部屋。
建築家・東利恵さんの育った場所です。
この渋谷の町を眺めながらどんな夢を抱いて育ったのか?
なんか、この場にいると利恵先生の子供の頃の気持がなんとなく解る気がしました。
塔の家は階段でフロアは別れるものの、内部には扉が一つも無いのです。
ですからもちろん廊下も無い。
私も以前建坪8坪の住宅を設計したことがありますが、やはり狭小住宅は階段の位置づけがとても重要になります。
階段のあり方一つで家全体のコンセプトがガラッと変わるからです。
塔の家を語るときに「階段の中に住んでいる」という言葉を使う方がいますが、私は決してそうではないと思います。
階段が上手く空間に溶け込み、違和感無くそこにあるのです。
オブジェのように印象付けるものでもなく、”ある”そんな印象を受けました。
それは、襖のような緩く空間を仕切るもの。
閉じずに視線をコントロールし、プライバシーを確保する重要なもので、ただ単に階を跨ぐ為の昇降の場ではないという事です。
そして、私の中で特に印象的だったのが・・・
階段部分に絵や模型、コートなどが掛けられ生活の一部がはみ出て取り込まれているということ。
普通の住宅だったら、こんな風にコートを掛けてあったらおかしいけど、なんだかこの住宅だと腑に落ちるんですよね。
不思議な空間です。
延べ面積約20坪の住宅においてこの吹き抜けはとっても贅沢。
私だったら中間階を作って小屋裏収納とか造ってしまいそうなんですけど、東先生はそうしなかったんですね。
でも、見て納得。
正確な意図はわかりませんが、視線の抜けやリビングから空を見たときの気持ちよさは格別で、図面では解らない良さがここにありました。
水周りは仕切りが無く、シンプルな造り。
大げさな防水や、タイルや石などの華美な装飾も無いのですが、コレでいい。
そう思える空間です。
設備の配管なども全てむき出しなんですけど。。。
でも、全然違和感がないんですよね。
配管をも意匠に取り込む吊戸棚はとてもいい雰囲気でした。
築40数年の塔の家。
この当時はコンクリート打放しという概念が無く、今のような綺麗な型枠を使い、お化粧して仕上るような工事を行っていません。
ですから、天井の一部にはタバコのカスや、部分的に鉄筋が見えてしまったり、型枠が歪んでコンクリートが膨らんでいたりする個所があるんですね。
今でも、それらを補修してお化粧することなく住んでいるんですけど・・・
なんか、地層のように当時の建築の状況を訴えている感じで、とても感慨深かったです。
この建物はDOCOMOMO100選にも選ばれたとても価値のある作品。
是非、このまま後世にも語り継いで戴きたい建物です。
---
今回、この塔の家を見学させて戴き感じたのはコレこそ「建築の妙」だと言う事。
若干6坪に満たない土地に挑戦的に建てた住宅というだけではなく、そこに住む家族がとても幸せにここで生活していたんだなっていう私の求める建築の姿がココにあったように思うのです。
東利恵先生のお話を聞いていると、この家をとても愛しているという事。
そして、きさくで愛らしい人柄はこの家があってこそ育まれたのではと思ったからです。
もちろん、住む中での問題は大なり小なりあったかと思いますが、この大空間の中で家族三人で暮らす。
扉の無い、緩やかなつながりを持った距離感が家族の人生にも影響を与えたのではないかと思うのです。
この住宅は、今の家に全てをすぐに当てはめて考える事は出来ません。
その当時の状況や、建築の技術、そういう社会的背景をないがしろにして語るべきではなく、ただ、その時間軸を飛び越えて空間の大胆さや、そこで育まれた家族の絆はやはり賞賛に値するものだと確信いたしました。
ほんと、ほんとに勉強になりました。
玄関には東孝光の表札が当時のまま残されていました。
住民が代わっても、そのまま父の名を家の顔として残している。
ほんと、父の仕事を尊敬し、利恵先生は建築家として活躍しているのだと思いました。
---
東利恵先生は「東 環境・建築研究所」を主催し、軽井沢の「星のや」をはじめリゾート施設や住宅など数多くの建築を手掛けている建築家でいらっしゃいます。
今回は、特別に塔の家の内部を見学させて戴きとても感謝しております。
次の結婚記念日は「星のや」と思いつつ子供が出来て訪れていないもので・・・
いつか「星のや」に宿泊してレポートさせて戴きたいと思っています。
→東 環境・建築研究所のHPはこちらからご覧下さい
※この記事はご東利恵先生のご好意により掲載させていただいております。
内容・写真は転載、無断使用なさらないようにお願いいたします。
可愛らしい雰囲気の方ですよね~好きでした。
いつも先生を見る度に「塔の家の中、どうなってるの?」と聞いてみたくなるものの、ろくな学生では無かったので聞けずじまい(笑)
なので思わぬところで内部の写真を見れてかなり嬉しいです!!
予想以上に荒々しいコンクリートに驚きましたが、余計なものを削ぎ落して何を残したのか、雰囲気だけでも伝わってきました。
ありがとうございます~。
あら、そうなんですねぇ~。
でも、写真ではやはり伝えきれない良さがあって、コレでもかなり広角のレンズで撮影しているのでいいほうだとは思うのですが、レンズを通して語るのはちょっと難しい建物ですね。
撮り方次第で全然違う印象を与えかねない・・・
うまく伝わっていると良いのですが。
ほんと、利恵先生は素敵な方で学生時代に一度授業を受けてみたかったなと思いました。
羨ましいなぁ~。