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歯科技工士・岩澤 毅

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (単行本) 田中森一 (著)

2007年08月14日 | amazon.co.jp・リストマニア
元特捜検事が描く、バブル経済、裏経済と表経済の交錯、国家権力中枢, 2007/8/14

By 歯職人

 本書の構成は、前後半の二部に大別できる。
 長崎県の離島・隠れキリシタンの存在した平戸の貧しい漁民の家に生を受け、義務教育終了後、家業の半農半漁を継ぐことを義務付けられていた少年が、些細な偶然の積み重ねを手掛かりとして、司法試験を突破し、更に難関の大阪地検特捜部検事、東京地検特捜部検事と進み、行政官庁としての法務省・検察庁との衝突を描く前半部分。
 更に、弁護士開業後、バブル経済の時代に関西を中心とする闇経済の紳士との交わり。そして、検察中枢との対決により自身が被告の身となる後半部分。 
 バブル経済の渦中に身を置いた著者の、淡々した記述に真実が覗かれる。著者の田中森一が、検察庁中枢の指揮により逮捕起訴と進む直接の容疑となる許永中事件については、更なる時間の経過が必要かもしれない。
 現在に続く日本の社会成分分析としても貴重な一冊である。宮崎学、佐藤優のデビュー作を凌ぐ。

実名で登場する皆さん
許永中、安倍晋太郎、竹下登、山口敏夫、末野謙一、山口組五代目渡辺芳則、山口組若頭宅見勝、「光進」代表小谷光浩

実名で登場する団体
平和相互銀行、住友銀行、イトマン、三菱重工、文部省、法務省、検察庁

反転
闇社会の守護神と呼ばれて

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ISBN:9784344013438 (4344013433)
・田中森一 幻冬舎 2007/06出版
20cm 410p
[B6 判] NDC分類:289.1 販売価:1,785(税込) (本体価:1,700)

伝説の特捜エース検事はなぜ、「裏」世界の弁護人に転向したのか。


新聞書評

反転
闇社会の守護神と呼ばれて
反転 田中森一

バブルの蜜と辛酸を象徴

 「国策捜査」。外務省起訴休職中で、いまや一流ノンフィクション作家になった佐藤優氏の著書『国家の罠(わな)』に登場して一躍有名になった言葉だ。佐藤氏が逮捕された際、検事が「時代のけじめをつけるのに必要」なのがこの捜査だと語ったという。国策に沿わない“危険人物”に的を絞り、逮捕・起訴して葬り去る。そんな意味で検察庁内で使われている。

 著者が東京地検に逮捕された事件も、確かに国策捜査の一つかも知れない。ただし、著者はあまりに派手にやり過ぎたのではないか。市民感覚とかけ離れた行状に、“天罰”が下った、と受け止める向きが多いと聞く。

 著者は、長崎県の離島で生まれ、小さいときから家業の漁業を手伝った。家が貧しく、苦学して定時制高校から大学に進学した。そして最初の受験で難関の司法試験に合格する。「おしん」のような、泣かせる出世物語だ。

 1971年の検事任官後は、撚糸工連事件などで辣腕(らつわん)を振るったが、捜査方針を巡って上司と衝突、87年に辞職し弁護士に転身した。それにしても、検事にはこんな役得もあるのか。佐賀地検の新米検事時代、ふるさと・平戸に向かう際、自衛隊から提供されたヘリコプターを使ったという。そう堂々と書いている。今なら公私混同として、辞表提出ものだ。

 弁護士開業は、日本がバブルの絶頂に向かう時期だ。すぐに金銭感覚がおかしくなった。開業の祝儀が合計6000万円にもなった。企業からの顧問料も破格だった。節税対策に自家用のヘリコプターまで買ってしまう。やがて暴力団や総会屋、株の仕手集団ら、闇の勢力と親密に付き合うようになる。ついに手形詐欺事件で許永中被告らとともに逮捕された。1、2審で実刑判決を受け、現在最高裁に上告中だ。

 ジェットコースターのような著者の人生は、この間、日本経済が味わった蜜(みつ)の味と辛酸を象徴しているようにも思えてくる。

評・榧野信治(本社論説委員)/ 読売新聞 2007.08.06

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