8020推進財団 会誌8020第16号 [2017年1月No.16] 62-63
【column】
歯科技工士の役割
おいしく食事をし、健やかに暮らすことは、世界共通の人々の願いです。
私たち歯科技工士は、お口と歯の健康を支えるため、失われた歯の一部分や歯の形や機能を回復し、見た目を損なわないようにする仕事、歯科補綴装置(入れ歯、歯の詰め物、被せ物)等を作る仕事を、歯科医師の指示のもと専門的に行っています。
(本文)
「明眸皓歯」(めいぼうこうし)
おいしく食事をし、健やかに暮らすことは、人類の共通の願いです。
私たち歯科技工士は、お口と歯の健康を支えるため、失われた歯の一部分や歯の形や機能を回復し、見た目を損なわないようにする歯科補綴装置(入れ歯、歯の詰め物、被せ物)等を作る仕事を、歯科医師の指示のもと専門的に行っています。歯科補綴装置等にも影響される歯の噛み合わせは、全身にも影響を与えると言われ、現在、本・公益財団法人8020推進財団を中心に、精力的に研究が進んでいます。
「明眸皓歯」(めいぼうこうし)という言葉があります。「美しく澄んだ目もとと、白く美しい歯並び」という意味ですが、もともとは非業の死を遂げた楊貴妃を偲んで唐の詩人・杜甫(とほ)が作った詩の中に出てくる言葉で、楊貴妃の美貌を形容したものだそうですが、「眸」は瞳、「皓」は白くきれいなことです。
この言葉からも、歯と歯並びが、人の印象を大きく左右する大切なものであり、また、その美しさは憧れの対象であったことが理解できるのではないでしょうか。
日本における歯科技工の歴史
日本における歯科技工の歴史は、森林資源が豊富な気候風土を背景に、木床義歯と呼ばれる技法の独自の発展を遂げたことが特徴とされています。この木床義歯は、木(黄楊(つげ),梅,黒柿)を用いて、義歯床と人工歯をノミや彫刻刀等で削って(木彫)作ったものです。
この義歯の技法の発明者や発明時期等の詳細は不明ですが、顎の印象に使う蜜蝋が7世紀に仏教とともに渡来し、その仏像の鋳造時の鋳型用に用いられたことや、仏像彫刻用のノミ等の器具が開発され、木彫仏が盛んに、大発展した平安朝の時期と一致していることや、その頃、僧侶やその関係者の使用した義歯が数多く発見されていることから、仏師によって始まったものと考えられています。皆様も、由緒あるお寺の仏像の表情豊かなお顔の口元等を思い出すことができるのではないでしょうか。
江戸時代に入ると、仏師にかわり入歯師と呼ばれる専業者があらわれ、木床義歯がより広く人々に普及しました。現存するわが国最古の木床義歯は、1538年(天文7年)ごろ、尼僧仏姫(ほとけひめ)(和歌山市願成寺)の用いた上顎、黄楊(つげ)の木で作られたものがあります。
その後、明治に入り、欧米よりゴム床(蒸和ゴムで作る)義歯等の技術が伝わり、明治、大正、昭和と発展を続け、産業としての基盤も広がり、戦後の復興期、国民皆保険制度での歯科補綴の給付を見据え、昭和30年制定の歯科技工法(現在の歯科技工士法)が制定されました。
この歯科技工法により、歯科技工士の資格と教育、業務等が定められました。
歯科技工士試験の全国統一と歯科技工士養成の課題
歯科技工士資格も創設から60年の歳月と紆余曲折を経て、他の医療職種と同様の全国統一試験として実施されるに至りました。
先に述べた、過去から続く歯科技工士の手作りの「匠」の技の蓄積の上に、現在ではデジタル技術の利活用が進み、歯科用CAD/CAMシステム等が実用段階を迎えています。それに伴い、歯科技工士教育の内容も基礎的なものからより実践的・発展的なものまで網羅すべく、学ぶべきものも増え、教育現場において教える側、学ぶ側双方に、限られた時間の中で負担が増してきています。
現在、歯科技工士教育を担う養成所・歯科技工士学校は、2年制の専門学校や4年制大学の学科等と複数のコースがあります。将来を見据え、養成所・歯科技工士学校の整備と基盤強化、整理も課題として浮上しています。
また、日本が人口減少社会に突入した現在、歯科医療の将来の需給分析・予測に裏付けられた歯科技工(士)の安定供給を推進する必要があります。何よりも人が資源である日本で18歳人口が著しく減少する中、歯科医療と歯科技工の発展に見合った、それを支える質量ともに適切で着実な歯科技工士養成が求められます。
○参考文献
1)歯科技工のおもしろさ-未来の歯科技工士へ-.公益財団法人日本歯科技工士会編.一般財団法人口腔保健協会.2015
2)歯科医療のおもしろさ-後輩たちに贈る28のドラマ-.橋本光二・升谷滋行・飯野文彦編.一般財団法人口腔保健協会.2013
●プロフィール
杉 岡 範 明(すぎおかのりあき) 日本歯科技工士会 会長
公益社団法人日本歯科技工士会会長、公益財団法人8020推進財団評議 員、公益財団法人国際医療技術財団評議員、一般財団法人歯科医療振興 財団理事。1978年岩手医科大学歯学部付属歯科技工専門学校卒、1955 年生まれ、北海道滝川市出身
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