2 本件確認の訴えの適法性等(争点(1))について
(l) 法律上の争訟性の有無について
ア 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 に限られるところ, ここにいう 「法律上の争訟」 とは, 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, 法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ(最高裁平成10年(行ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁参照),このような具体的な紛争を離れて抽象的に法令の解釈又はそれに基づく 行政庁の運用の当否の判断を求めることは許されないと解するのが相当である。
イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 歯科技工士である原告らの上記法的地位が侵害されているので, 原告らに 「海外委託による歯科技工を禁止することによって, 歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 があることの確認を求める本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たる旨主張する。
しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると,・上記事項の確認を求める本件確認の訴えは, 要するに, 歯科技工士法の解釈 (同法自体の解釈又は憲法14条に則した合意的解釈)として,歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈を採るべきことの確認を求めるに帰するものというべきであり, 原告らが 「歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 と主張するものも, 上記のような解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の存在を観念し得るものではなく, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく法令の適用自体によって終局的に解決し得る事柄でもない以上, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たらないと解するのが相当である。
(2) 確認の利益の有無について
ア 確認の訴えにおける確認の利益は, 判決をもって法律関係の存否を確定することが, その法律関係に関する法律上の紛争を解決し, 当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められ(最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第二小法廷判決・判例時報1890号46頁参照),確認の利益があるといえるためには, 確認の対象とされた事項が法律関係の存否に係る適切な内容のものであり, かつ, 当事者間で当該事項を確定することにっき当該訴えを提起した者が法律上の利益を有することが必要であって, 単なる事実上の利益では足りないと解するのが相当である。
イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 被告が発出した本件通達が, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科医師の裁量にゆだねる内容のものであったため, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用が増加し, 歯科技工士の上記法的地位が侵害され, 独占的に業務を受託して報酬を得る地位も脅かされていることから, 上記法的地位の確認を求める利益がある旨主張する。
しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると, 原告らが上記「法的地位」 及びその 「地位が保全されるべき権利」 と主張するものは, 要するに, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する法律上の紛争の存在を観念し得るものではなく, 仮に被告との間で上記事項を確認したとしても, 原告らの主張に係る危険が, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく直ちに除去されるものでもない以上,上記事項は確認の対象として適切な内容のものとはいえず, 被告との間で上記事項を確認することにっき原告らが主張する利益は, 事実上の利益にとどまり, 法律上の利益に当たるものではないと解されるので, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 確認の利益を欠くものと解するのが相当である。
(3) 以上によれば,本件確認の訴えは,法律上の争訟性を欠き,かつ,確認の利益を欠くものといわざるを得ず, その余の点について判断するまでもなく, 不適法であるというべきである。
3 本件賠償請求の成否(争点(2))について
(l)ア 原告らは,被告が,歯科技工士の資格を有する個々の原告らに対し,歯科技工士法上ないし条理上, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の実態について調査し, その結果に基づいてこれらを止めるように指導すべき義務を負っているにもかかわらず, その調査及び指導を行わず, かえって, 本件通達を発出し, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容しており, これにより,原告らは, 生活基盤である業務独占の崩壊の危険について不安を抱かざるを得ない状況に置かれ, 精神的苦痛を受けている旨主張する。
イ 国家賠償法1条1項は, 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公 務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務、に解 しで当該国民に損害を加えたときに, 国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものであり, したがって,同項にいう「違法」とは,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいうものと解するのが相当である
(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。
ウ そこで, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有
無等について検討するに, 前記1において説示したとおり, 歯科技工士法は, 歯科技工の業務の主体を歯科医師及び歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けているが, これは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益を認めているものではなく, 国に対し当該規制に係る措置にっき何らかの請求等をし得る権利を認めてぃるものでもない。 したがって, 一般に, 業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果, 歯科技工士法上又は条理上, 所轄行政庁においてその違反の有無について調査し, その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められるとしても, それは, 所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務に当たるものではなく, したがって,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地はないものとぃうぺきである。
エ 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は憲法14条に違反する旨主張するが, 歯科技工の業務独占の規制につき所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務の存在が認められない以上,所論の当否にかかわらず,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地のないことは,上記ウと同様である。
(2)ア また, 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 国民の公衆衛生が害されるおそれがあり, このことも歯科技工士である原告らに精神的苦痛を与えている旨主張する。
イ しかしながら, 上記の事柄は, 原告ら自身の権利又は利益に関わるものではない以上, ①このような一般公衆への影響についての抽象的な懸念に係る主観的な感情は, そもそも金銭賠償をもって慰謝すべき損害に当たらないというべきであるし, ②上記の事柄を考慮しても, 歯科技工士法において, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益が認められているものではなく, 国に対し業務独占の規制に係る措置につき何らかの請求等をし得る権利が認められているものでもないことに変わりはないから, 上記主張は, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有無に関する上記(1)ウ及びエの判断を左右するものでもない。
(3) 以上によれば, 本件賠値請求は, その余の点について判斷するまでもなく,理由がなぃとぃうぺきである。
4 よって, 本件訴えのうち, 本件確認の訴えは, いずれも不適法であるから却下することとし, その余の訴えに係る請求は, いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61 条, 65条1項本文を適用して, 主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 岩 井 伸 晃
裁判官 本 間 健 裕
裁判官 倉 澤 守 春
(l) 法律上の争訟性の有無について
ア 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 に限られるところ, ここにいう 「法律上の争訟」 とは, 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, 法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ(最高裁平成10年(行ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁参照),このような具体的な紛争を離れて抽象的に法令の解釈又はそれに基づく 行政庁の運用の当否の判断を求めることは許されないと解するのが相当である。
イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 歯科技工士である原告らの上記法的地位が侵害されているので, 原告らに 「海外委託による歯科技工を禁止することによって, 歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 があることの確認を求める本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たる旨主張する。
しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると,・上記事項の確認を求める本件確認の訴えは, 要するに, 歯科技工士法の解釈 (同法自体の解釈又は憲法14条に則した合意的解釈)として,歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈を採るべきことの確認を求めるに帰するものというべきであり, 原告らが 「歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 と主張するものも, 上記のような解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の存在を観念し得るものではなく, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく法令の適用自体によって終局的に解決し得る事柄でもない以上, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たらないと解するのが相当である。
(2) 確認の利益の有無について
ア 確認の訴えにおける確認の利益は, 判決をもって法律関係の存否を確定することが, その法律関係に関する法律上の紛争を解決し, 当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められ(最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第二小法廷判決・判例時報1890号46頁参照),確認の利益があるといえるためには, 確認の対象とされた事項が法律関係の存否に係る適切な内容のものであり, かつ, 当事者間で当該事項を確定することにっき当該訴えを提起した者が法律上の利益を有することが必要であって, 単なる事実上の利益では足りないと解するのが相当である。
イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 被告が発出した本件通達が, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科医師の裁量にゆだねる内容のものであったため, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用が増加し, 歯科技工士の上記法的地位が侵害され, 独占的に業務を受託して報酬を得る地位も脅かされていることから, 上記法的地位の確認を求める利益がある旨主張する。
しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると, 原告らが上記「法的地位」 及びその 「地位が保全されるべき権利」 と主張するものは, 要するに, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する法律上の紛争の存在を観念し得るものではなく, 仮に被告との間で上記事項を確認したとしても, 原告らの主張に係る危険が, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく直ちに除去されるものでもない以上,上記事項は確認の対象として適切な内容のものとはいえず, 被告との間で上記事項を確認することにっき原告らが主張する利益は, 事実上の利益にとどまり, 法律上の利益に当たるものではないと解されるので, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 確認の利益を欠くものと解するのが相当である。
(3) 以上によれば,本件確認の訴えは,法律上の争訟性を欠き,かつ,確認の利益を欠くものといわざるを得ず, その余の点について判断するまでもなく, 不適法であるというべきである。
3 本件賠償請求の成否(争点(2))について
(l)ア 原告らは,被告が,歯科技工士の資格を有する個々の原告らに対し,歯科技工士法上ないし条理上, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の実態について調査し, その結果に基づいてこれらを止めるように指導すべき義務を負っているにもかかわらず, その調査及び指導を行わず, かえって, 本件通達を発出し, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容しており, これにより,原告らは, 生活基盤である業務独占の崩壊の危険について不安を抱かざるを得ない状況に置かれ, 精神的苦痛を受けている旨主張する。
イ 国家賠償法1条1項は, 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公 務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務、に解 しで当該国民に損害を加えたときに, 国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものであり, したがって,同項にいう「違法」とは,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいうものと解するのが相当である
(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。
ウ そこで, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有
無等について検討するに, 前記1において説示したとおり, 歯科技工士法は, 歯科技工の業務の主体を歯科医師及び歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けているが, これは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益を認めているものではなく, 国に対し当該規制に係る措置にっき何らかの請求等をし得る権利を認めてぃるものでもない。 したがって, 一般に, 業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果, 歯科技工士法上又は条理上, 所轄行政庁においてその違反の有無について調査し, その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められるとしても, それは, 所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務に当たるものではなく, したがって,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地はないものとぃうぺきである。
エ 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は憲法14条に違反する旨主張するが, 歯科技工の業務独占の規制につき所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務の存在が認められない以上,所論の当否にかかわらず,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地のないことは,上記ウと同様である。
(2)ア また, 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 国民の公衆衛生が害されるおそれがあり, このことも歯科技工士である原告らに精神的苦痛を与えている旨主張する。
イ しかしながら, 上記の事柄は, 原告ら自身の権利又は利益に関わるものではない以上, ①このような一般公衆への影響についての抽象的な懸念に係る主観的な感情は, そもそも金銭賠償をもって慰謝すべき損害に当たらないというべきであるし, ②上記の事柄を考慮しても, 歯科技工士法において, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益が認められているものではなく, 国に対し業務独占の規制に係る措置につき何らかの請求等をし得る権利が認められているものでもないことに変わりはないから, 上記主張は, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有無に関する上記(1)ウ及びエの判断を左右するものでもない。
(3) 以上によれば, 本件賠値請求は, その余の点について判斷するまでもなく,理由がなぃとぃうぺきである。
4 よって, 本件訴えのうち, 本件確認の訴えは, いずれも不適法であるから却下することとし, その余の訴えに係る請求は, いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61 条, 65条1項本文を適用して, 主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 岩 井 伸 晃
裁判官 本 間 健 裕
裁判官 倉 澤 守 春