(原告らの主張の要旨)
ア 被告の行為の違法性の有無
(ア) 法律上又は条理上の義務の有無
a 歯科技工士法は, 無資格者が歯科技工を行うこと及び指示書によらずに歯科技工を行うことを禁止し, 指示書の保存義務を定めて歯科技工所を規制する規定を設けているところ,こうした要請は,当該歯科技工が行われるのが国内である場合と海外である場合とで異ならない。 また,歯科技工士法が,歯科技工所の開設に,その所在地の都道府県知事への届出を必要とし, 都道府県知事の指導監督を及ぼそうとしていることによれば, 同法は, 歯科技工が国内で行われることを前提としている。こうした点にかんがみれば,歯科技工士法又は条理上,海外委託及び輸入使用は禁止されていると解すべきである。
のみならず, 歯科技工士法が, 歯科医師又は歯科技工士でなければ業として歯科技工を行つてならなぃとし(同法17条),かつ,歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃとしてぃる(同法18条)ところ,歯科技工の海外委託は,上記指示書の交付がされないまま行われていることによれば, 歯科医師が, 海外で歯科技工を行わせることも禁止されていると解されるべきである。そして, 社団法人東京都歯科技工士会が, 繰り返し海外委託及び輸入使用の問題点を指摘し, その改善を求めているいることによれば, 被告は, 海外委託及び輸入使用の実態を調査し, これを規制するよう指導すべきである。
b 本件通達によれば, 被告は, 国外で作成された補てつ物等について,使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく, 国内の有資格者による作成でないことが考えられることや, 国内の歯科技工士の知職及び技術の水準より劣位にあるものが国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃとしており, 国内の公衆衛生上問題があることを把握しているのであるから, 補てつ物等の輸入使用の実態について調査をすべき作為義務があった。
c また, 前記のとおり, 歯科技工士法は, 日本国内に設置された歯科技工所においてのみ歯科技工を認め, それ以外の場所での歯科技工は禁止する趣旨であることからすれば, 海外での歯科技工は, 資格の有無を問わず,禁止されるべきである。したがって,被告としては,海外で歯科技工が行われている実態が把握できたならば, 速やかに, それを規制するよう指導すべき義務を負っていた。
d さらに,前記のとおり,歯科技工士法によれば,国の内外を問わず,無資格者が歯科技工を行うことは認められてぃなぃし, 無資格者に歯科技工を行わせることも認められない。 したがって, 被告は,無資格者が歯科技工を行ったり, 無資格者に歯科技工を行わせている実態が把握されたならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。
e 前記のとおり, 歯科技工士法によれば, 歯科技工を行う場合には歯科医師の指示書が必要であるから, 指示書がないまま歯科技工を行うことは認められていないし, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせることも認められない。 したがって,被告は,海外において指示書なしで歯科技工を行ったり, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせている実態を把握したならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。
(イ) 法律上又は条理上の義務違反の有無
a 被告は, 海外委託及び輸入使用について, 国外で作成された補てつ物等について使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確ではなく,我が国の有資格者による作成でないことや,国内の歯科技工士の知的i及び技術の水準より劣位にある者が国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃことなど, 国民の公衆衛生上問題があることは認識している。しかしながら,被告は,海外委託及び輸入使用の実態を把握しておらず, これに係る十分かつ正確な情報を収集するっもりはなぃ態度を示している。
b また,被告は,本件通達において,各都道府県衛生主管部(局)長に対して, 「患者に対する十分な情報提供を行い, 患者の理解と同意を得るとともに,良質かつ適切な歯科医療を行うよう努める」ように歯科医師を指導するよう指示し, それを同省のインターネットホームページに掲載しただけであり,.それ以外の指導は行つていなぃ。
(ウ) 憲法14条違反の有無国は, 無資格者が歯科技工を行うことについて国内では厳しく規制しているのに対し,海外ではこれを許容しているが,こうした差別に合理的な理由はない。このような区別は,窓法14条に違反する。
イ 原告らの損害の有無
(ア) 歯科技工士法は,歯科技工士の歯科技工士業務の独占を認め,歯科技工士としての法的地位の確立向上を図るとともに, 国民の公衆衛生の確保を図ろうとしているが, これは被告の上記の義務違反により脅かされており, これにより, 個々の原告らも, 自らの生活基盤である業務独占が完全に崩壊するのではないかとの不安を抱かざるを得ない状況に置かれるようになっており,精神的苦痛を受けている。
また, 海外委託及び輸入使用に対して何らの規制も及ばないとするならば, 無資格者による粗悪な補てつ物等が歯科医療の用に供されるおそれがあるところ, これは, 国民の公衆衛生を害するおそれがあるものであり, 歯科技工士である原告らにとって耐え難い苦痛である。 原告らは繰り返し被告に対し是正を求めてきたが, 現在に至るまでに是正されていない。 このことは原告らの苦痛を更に増大させている。
(イ) 被告は, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償の要件である旨主張するが, 国家賠償法は, 単に違法性を要件とする旨定めているだけであり, 「職務上の法的義務」 を要件とすべき根拠はない
(ウ) 仮に, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償請求の要件であったとしても, 被告は歯科技工に関して指導監督する権限と責任を有しているので (厚生労働省設置法3条1項, 4条9号, 10 号, 12号, 13号, 81号),被告は,歯科技工士法上ないし条理上, 海外委託及び輸入使用について調査し, その実態を把握した上で, 海外委託及び輸入使用を禁じている歯科技工士法ないし条理に適合するように, 海外委託及び輸入使用を止めるように指導すべき義務を負っており, この義務は, 歯科技工士としての資格を有する個々の原告ら個人に向けられたものである。
(被告の主張の要旨) .
ア 被告の行為の違法性の有無
(ア)法令上又は条理上の義務違反の有無
歯科技工士法が禁止しているのは, 本邦において歯科医師又は歯科技工士以外の者が業として歯科技工を行うことであって, 歯科医師が診療中の患者に対し自らの責任において海外で作成された補てつ物等を用いることを禁止するものではない。 歯科医師が海外で製作された補てつ物をその歯科医療行為に使用するのは, 歯科技工士法2条だたし書にいう「歯科医師がその診療中の患者のために自ら行う行為」 に当たり, 同法の適用を受けないことは, 同法上も明らかである。歯科医師が, 国外で作成された補てつ物等を輸入して患者に提供する場合は, 歯科技工士法上は, 歯科医師自らが歯科技工を行う場合に属する問題であって, 患者を治療する歯科医師が歯科医学的知見に基づき適切に判断し, 当該歯科医師の責任の下, 安全性に配慮した上で実施されるべきものである。こうした歯科医師の診療行為は,歯科医師法等により規制されるのであり, 歯科技工士法による規制を受けるものではない。
(イ) 憲法14条違反の有無
歯科技工士法は, 国内における歯科技工に関して不当な規制ないし取扱いをしているものではなく, 海外による無資格者による歯科技工の問題について, いかなる規制を行うかは立法府の裁量の範囲内に属する事柄である。 補てつ物等の作成に係る制度は国によって様々であり, また国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準も様々であるため, 国外で作成された補てつ物等を用いることのみをもって, 直ちに国内の歯科技工士との間において, 不合理な扱いが認められるものではない。
イ 原告らの損害の有無
(ア) 国家賠償法上の違法が認められるためには, 公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。 そして, この権利利益の侵害の有無については, 権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係で, 職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり, 職務上の法的義務であっても, 専ら公益的なものや行政の内部的な義務等, 個別の国民に対して負担する義務でなぃものにっいては, 国家賠償法上の違法の判断の対象とならなぃとぃうべきである。しかしながら, 原告らは, 海外委託及び輸入使用が国民の公衆衛生を害するおそれがあることによる苦痛をいうにすぎず, 結局, 国民一般が有する地位に基づいて主張するものであって, 個別の国民が有する具体的な法的利益を主張するものではない。 本件では, 海外委託及び輸入使用について, 歯科技工士制度を維持し, 国民の公衆衛生の確保に資するとの観点から適正な規制が求められるとしても, それは国民一般との関係で広く求められる事柄であって, そのことから直ちに, 原告らに向けられた職務上の権限を行使すべき法的義務を観念することはできない。
(イ) なお, 歯科医師が行う歯科診療行為以外の歯科技工は歯科技工士法の適用を受けるところ, 歯科技工の業が歯科医業を補足する性質のものであり, できれば歯科医師自らが歯科医療行為の一環として行うことが本来の姿であることからすると, 同法17条1項は, 歯科医師についても業として歯科技工を行うことができる旨定めたものと解することができる。 このように,歯科技工士法が歯科医師が行う歯科技工を含む歯科診療行為を規制の対象から除外しているのであるから, 同法が, 歯科技工士による業務独占及びこれによる経済的利益を保障するものであるとぃうことはできなぃ。
第3 当裁判所の判断
1 歯科技工士法の規制の趣旨等について
(1) 歯科技工士法は, (:f)①歯科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とし(同法1条),②歯科技工の業務にっき,その主体を歯科医師又は歯科技工士 (厚生労働大臣の免許を受けた者) に限定し, その実施を歯科医師の指示書又は直接の指示による場合に限定した上で (同法2条2項, 17条1項, 18条1項),病院,診療所又は歯科技工所の管理者に上記指示書の一定期間の保存を義務付け(同法19条),これらの規制の違反に対しては刑事罰の制裁を設けるとともに, ③都道府県知事に,(a)歯科技工所の開設者又は管理者に対し, 必要に応じて報告を命じ, 清潔保持の状況, 構造設備又は指示書その他の帳簿審類の検査を実施する権限を付与した上で, (b)歯科技工所の構造設備又はその作成等に係る補てつ物等が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その構造設備にっき改善命令を発し, その違反に対しては歯科技工所の使用禁止命令を発する権限を付与しており, Cイ)他方で, 歯科技工士が国に対し上記t「)②の規制に係る措置にっき何らかの請求等をすることを認めた規定は存しない。そして, 歯科医師法は,歯科医師につき, 歯科医療及び保健指導を掌ることによって, 公衆衛生の向上及び増進に寄与し, もって国民の健康な生活を確保することをその任務として定めている。
また,証拠(甲2並びに乙1, 2及び7)によれば,①昭和30年の歯科技工士法の制定当時, 義歯等の補てつ, 充てん及び矯正に属する歯科治療技術の需要が高まったにもかかわらず, 歯科医師の数がこれを満たすには十分 でないため, 補てつ物等の作成, 修理又は加工を外部の技工者に委託する場合が多くなっていたが, これらの受託者については法的規制が加えられておらず, 職業教育を受けた者は少数で, 大部分は徒弟見習として習熟した者であるなどの実情にかんがみ, 歯科技工士の資格を定め, その資質の向上を図るとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し,歯科医師の業務の適正を補足させることによって, 歯科医療の普及と向上に寄与することが, 同法の法案の提案理由であったことが認められ, ②昭和30年10月12日厚生省発医第110号各都道府県知事宛て厚生事務次官通知(乙7) には,同法の制定の趣旨等について,(a)同法は,歯科技工士の資格を定めてその資質の向上を図るとともに, 歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医師の業務が適正に補足されることを目的とするものであること, (b)歯科技工の業務は高度の専門的技術が要求されるものであるにもかかわらず, それまで何らの規制が行われることなく放任されていたため, 粗悪な補てつ物等が作成され, 歯科医療に多くの支障を来した事情にかんがみ, 歯科技工の業務は歯科医師及び歯科技工士の業務独占としたものであること等が記されている。
(2) 以上の歯科技工士法及び関係法律の諸規定並びに制定の趣旨等に照らすと,歯科技工士法が歯科技工の業務の主体を歯科医師及び免許を受けた歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けたのは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 業務独占の結果として一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという経済的利益は, 上記目的に基づく当該規制の結果として随伴する事実上の利益にとどまり, 同法において個々の歯科技工士の個別的利益として保護された法律上の利益に当たるものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を請求する権利は認められていないものと解するのが相当である。 また, 国の所轄行政庁が当該規制にっき具体的な措置を行うに当たっても, その具体的な措置の方法・ 内容については, 公衆衛生の保持という公益的・公共政策的な観点から諸般の事情を総合考慮した上で決定されるべき性質のものであるから, その方法・内容は法令上一義的に定まるものではなく, 当該行政庁の合理的な裁量にゆだねられるものと解される。
(3) これに対し, 原告らは, 歯科技工士法が歯科技工士の業務独占を認めていることから, 同法が, 個々の歯科技工士に対し, 業務を独占的に受託して報酬を得る法的地位を付与しており, 原告らの歯科技工士としての上記地位を保全するために, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の禁止を求める権利がある旨主張する。しかしながら, 原告らが上記 「法的地位」 と主張するものが, 同法による業務独占の結果と して一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益にとどまり, 法的な権利又は利益と認め得るものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を求める権利は認められていないことは, 上記(2)に説示したとおりである。 .
(4) 以上を前提として,以下,本件確認の訴えの適法性等(争点(1))及び本件賠償請求の成否(争点(2))について,順次検討する。
ア 被告の行為の違法性の有無
(ア) 法律上又は条理上の義務の有無
a 歯科技工士法は, 無資格者が歯科技工を行うこと及び指示書によらずに歯科技工を行うことを禁止し, 指示書の保存義務を定めて歯科技工所を規制する規定を設けているところ,こうした要請は,当該歯科技工が行われるのが国内である場合と海外である場合とで異ならない。 また,歯科技工士法が,歯科技工所の開設に,その所在地の都道府県知事への届出を必要とし, 都道府県知事の指導監督を及ぼそうとしていることによれば, 同法は, 歯科技工が国内で行われることを前提としている。こうした点にかんがみれば,歯科技工士法又は条理上,海外委託及び輸入使用は禁止されていると解すべきである。
のみならず, 歯科技工士法が, 歯科医師又は歯科技工士でなければ業として歯科技工を行つてならなぃとし(同法17条),かつ,歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃとしてぃる(同法18条)ところ,歯科技工の海外委託は,上記指示書の交付がされないまま行われていることによれば, 歯科医師が, 海外で歯科技工を行わせることも禁止されていると解されるべきである。そして, 社団法人東京都歯科技工士会が, 繰り返し海外委託及び輸入使用の問題点を指摘し, その改善を求めているいることによれば, 被告は, 海外委託及び輸入使用の実態を調査し, これを規制するよう指導すべきである。
b 本件通達によれば, 被告は, 国外で作成された補てつ物等について,使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく, 国内の有資格者による作成でないことが考えられることや, 国内の歯科技工士の知職及び技術の水準より劣位にあるものが国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃとしており, 国内の公衆衛生上問題があることを把握しているのであるから, 補てつ物等の輸入使用の実態について調査をすべき作為義務があった。
c また, 前記のとおり, 歯科技工士法は, 日本国内に設置された歯科技工所においてのみ歯科技工を認め, それ以外の場所での歯科技工は禁止する趣旨であることからすれば, 海外での歯科技工は, 資格の有無を問わず,禁止されるべきである。したがって,被告としては,海外で歯科技工が行われている実態が把握できたならば, 速やかに, それを規制するよう指導すべき義務を負っていた。
d さらに,前記のとおり,歯科技工士法によれば,国の内外を問わず,無資格者が歯科技工を行うことは認められてぃなぃし, 無資格者に歯科技工を行わせることも認められない。 したがって, 被告は,無資格者が歯科技工を行ったり, 無資格者に歯科技工を行わせている実態が把握されたならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。
e 前記のとおり, 歯科技工士法によれば, 歯科技工を行う場合には歯科医師の指示書が必要であるから, 指示書がないまま歯科技工を行うことは認められていないし, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせることも認められない。 したがって,被告は,海外において指示書なしで歯科技工を行ったり, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせている実態を把握したならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。
(イ) 法律上又は条理上の義務違反の有無
a 被告は, 海外委託及び輸入使用について, 国外で作成された補てつ物等について使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確ではなく,我が国の有資格者による作成でないことや,国内の歯科技工士の知的i及び技術の水準より劣位にある者が国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃことなど, 国民の公衆衛生上問題があることは認識している。しかしながら,被告は,海外委託及び輸入使用の実態を把握しておらず, これに係る十分かつ正確な情報を収集するっもりはなぃ態度を示している。
b また,被告は,本件通達において,各都道府県衛生主管部(局)長に対して, 「患者に対する十分な情報提供を行い, 患者の理解と同意を得るとともに,良質かつ適切な歯科医療を行うよう努める」ように歯科医師を指導するよう指示し, それを同省のインターネットホームページに掲載しただけであり,.それ以外の指導は行つていなぃ。
(ウ) 憲法14条違反の有無国は, 無資格者が歯科技工を行うことについて国内では厳しく規制しているのに対し,海外ではこれを許容しているが,こうした差別に合理的な理由はない。このような区別は,窓法14条に違反する。
イ 原告らの損害の有無
(ア) 歯科技工士法は,歯科技工士の歯科技工士業務の独占を認め,歯科技工士としての法的地位の確立向上を図るとともに, 国民の公衆衛生の確保を図ろうとしているが, これは被告の上記の義務違反により脅かされており, これにより, 個々の原告らも, 自らの生活基盤である業務独占が完全に崩壊するのではないかとの不安を抱かざるを得ない状況に置かれるようになっており,精神的苦痛を受けている。
また, 海外委託及び輸入使用に対して何らの規制も及ばないとするならば, 無資格者による粗悪な補てつ物等が歯科医療の用に供されるおそれがあるところ, これは, 国民の公衆衛生を害するおそれがあるものであり, 歯科技工士である原告らにとって耐え難い苦痛である。 原告らは繰り返し被告に対し是正を求めてきたが, 現在に至るまでに是正されていない。 このことは原告らの苦痛を更に増大させている。
(イ) 被告は, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償の要件である旨主張するが, 国家賠償法は, 単に違法性を要件とする旨定めているだけであり, 「職務上の法的義務」 を要件とすべき根拠はない
(ウ) 仮に, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償請求の要件であったとしても, 被告は歯科技工に関して指導監督する権限と責任を有しているので (厚生労働省設置法3条1項, 4条9号, 10 号, 12号, 13号, 81号),被告は,歯科技工士法上ないし条理上, 海外委託及び輸入使用について調査し, その実態を把握した上で, 海外委託及び輸入使用を禁じている歯科技工士法ないし条理に適合するように, 海外委託及び輸入使用を止めるように指導すべき義務を負っており, この義務は, 歯科技工士としての資格を有する個々の原告ら個人に向けられたものである。
(被告の主張の要旨) .
ア 被告の行為の違法性の有無
(ア)法令上又は条理上の義務違反の有無
歯科技工士法が禁止しているのは, 本邦において歯科医師又は歯科技工士以外の者が業として歯科技工を行うことであって, 歯科医師が診療中の患者に対し自らの責任において海外で作成された補てつ物等を用いることを禁止するものではない。 歯科医師が海外で製作された補てつ物をその歯科医療行為に使用するのは, 歯科技工士法2条だたし書にいう「歯科医師がその診療中の患者のために自ら行う行為」 に当たり, 同法の適用を受けないことは, 同法上も明らかである。歯科医師が, 国外で作成された補てつ物等を輸入して患者に提供する場合は, 歯科技工士法上は, 歯科医師自らが歯科技工を行う場合に属する問題であって, 患者を治療する歯科医師が歯科医学的知見に基づき適切に判断し, 当該歯科医師の責任の下, 安全性に配慮した上で実施されるべきものである。こうした歯科医師の診療行為は,歯科医師法等により規制されるのであり, 歯科技工士法による規制を受けるものではない。
(イ) 憲法14条違反の有無
歯科技工士法は, 国内における歯科技工に関して不当な規制ないし取扱いをしているものではなく, 海外による無資格者による歯科技工の問題について, いかなる規制を行うかは立法府の裁量の範囲内に属する事柄である。 補てつ物等の作成に係る制度は国によって様々であり, また国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準も様々であるため, 国外で作成された補てつ物等を用いることのみをもって, 直ちに国内の歯科技工士との間において, 不合理な扱いが認められるものではない。
イ 原告らの損害の有無
(ア) 国家賠償法上の違法が認められるためには, 公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。 そして, この権利利益の侵害の有無については, 権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係で, 職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり, 職務上の法的義務であっても, 専ら公益的なものや行政の内部的な義務等, 個別の国民に対して負担する義務でなぃものにっいては, 国家賠償法上の違法の判断の対象とならなぃとぃうべきである。しかしながら, 原告らは, 海外委託及び輸入使用が国民の公衆衛生を害するおそれがあることによる苦痛をいうにすぎず, 結局, 国民一般が有する地位に基づいて主張するものであって, 個別の国民が有する具体的な法的利益を主張するものではない。 本件では, 海外委託及び輸入使用について, 歯科技工士制度を維持し, 国民の公衆衛生の確保に資するとの観点から適正な規制が求められるとしても, それは国民一般との関係で広く求められる事柄であって, そのことから直ちに, 原告らに向けられた職務上の権限を行使すべき法的義務を観念することはできない。
(イ) なお, 歯科医師が行う歯科診療行為以外の歯科技工は歯科技工士法の適用を受けるところ, 歯科技工の業が歯科医業を補足する性質のものであり, できれば歯科医師自らが歯科医療行為の一環として行うことが本来の姿であることからすると, 同法17条1項は, 歯科医師についても業として歯科技工を行うことができる旨定めたものと解することができる。 このように,歯科技工士法が歯科医師が行う歯科技工を含む歯科診療行為を規制の対象から除外しているのであるから, 同法が, 歯科技工士による業務独占及びこれによる経済的利益を保障するものであるとぃうことはできなぃ。
第3 当裁判所の判断
1 歯科技工士法の規制の趣旨等について
(1) 歯科技工士法は, (:f)①歯科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とし(同法1条),②歯科技工の業務にっき,その主体を歯科医師又は歯科技工士 (厚生労働大臣の免許を受けた者) に限定し, その実施を歯科医師の指示書又は直接の指示による場合に限定した上で (同法2条2項, 17条1項, 18条1項),病院,診療所又は歯科技工所の管理者に上記指示書の一定期間の保存を義務付け(同法19条),これらの規制の違反に対しては刑事罰の制裁を設けるとともに, ③都道府県知事に,(a)歯科技工所の開設者又は管理者に対し, 必要に応じて報告を命じ, 清潔保持の状況, 構造設備又は指示書その他の帳簿審類の検査を実施する権限を付与した上で, (b)歯科技工所の構造設備又はその作成等に係る補てつ物等が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その構造設備にっき改善命令を発し, その違反に対しては歯科技工所の使用禁止命令を発する権限を付与しており, Cイ)他方で, 歯科技工士が国に対し上記t「)②の規制に係る措置にっき何らかの請求等をすることを認めた規定は存しない。そして, 歯科医師法は,歯科医師につき, 歯科医療及び保健指導を掌ることによって, 公衆衛生の向上及び増進に寄与し, もって国民の健康な生活を確保することをその任務として定めている。
また,証拠(甲2並びに乙1, 2及び7)によれば,①昭和30年の歯科技工士法の制定当時, 義歯等の補てつ, 充てん及び矯正に属する歯科治療技術の需要が高まったにもかかわらず, 歯科医師の数がこれを満たすには十分 でないため, 補てつ物等の作成, 修理又は加工を外部の技工者に委託する場合が多くなっていたが, これらの受託者については法的規制が加えられておらず, 職業教育を受けた者は少数で, 大部分は徒弟見習として習熟した者であるなどの実情にかんがみ, 歯科技工士の資格を定め, その資質の向上を図るとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し,歯科医師の業務の適正を補足させることによって, 歯科医療の普及と向上に寄与することが, 同法の法案の提案理由であったことが認められ, ②昭和30年10月12日厚生省発医第110号各都道府県知事宛て厚生事務次官通知(乙7) には,同法の制定の趣旨等について,(a)同法は,歯科技工士の資格を定めてその資質の向上を図るとともに, 歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医師の業務が適正に補足されることを目的とするものであること, (b)歯科技工の業務は高度の専門的技術が要求されるものであるにもかかわらず, それまで何らの規制が行われることなく放任されていたため, 粗悪な補てつ物等が作成され, 歯科医療に多くの支障を来した事情にかんがみ, 歯科技工の業務は歯科医師及び歯科技工士の業務独占としたものであること等が記されている。
(2) 以上の歯科技工士法及び関係法律の諸規定並びに制定の趣旨等に照らすと,歯科技工士法が歯科技工の業務の主体を歯科医師及び免許を受けた歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けたのは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 業務独占の結果として一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという経済的利益は, 上記目的に基づく当該規制の結果として随伴する事実上の利益にとどまり, 同法において個々の歯科技工士の個別的利益として保護された法律上の利益に当たるものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を請求する権利は認められていないものと解するのが相当である。 また, 国の所轄行政庁が当該規制にっき具体的な措置を行うに当たっても, その具体的な措置の方法・ 内容については, 公衆衛生の保持という公益的・公共政策的な観点から諸般の事情を総合考慮した上で決定されるべき性質のものであるから, その方法・内容は法令上一義的に定まるものではなく, 当該行政庁の合理的な裁量にゆだねられるものと解される。
(3) これに対し, 原告らは, 歯科技工士法が歯科技工士の業務独占を認めていることから, 同法が, 個々の歯科技工士に対し, 業務を独占的に受託して報酬を得る法的地位を付与しており, 原告らの歯科技工士としての上記地位を保全するために, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の禁止を求める権利がある旨主張する。しかしながら, 原告らが上記 「法的地位」 と主張するものが, 同法による業務独占の結果と して一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益にとどまり, 法的な権利又は利益と認め得るものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を求める権利は認められていないことは, 上記(2)に説示したとおりである。 .
(4) 以上を前提として,以下,本件確認の訴えの適法性等(争点(1))及び本件賠償請求の成否(争点(2))について,順次検討する。