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歯科技工士・岩澤 毅

滝上 宗次郎 (著) 厚生行政の経済学―病院経営・医薬品・有料老人ホーム (勁草 医療・福祉シリーズ)

2010年12月29日 | amazon.co.jp・リストマニア
滝上宗次郎氏の介護保険導入をめぐる論争の軌跡, 2010/12/29

By 歯職人

 旧三菱銀行調査部で産業分析の手法を習得し、87年に34歳で諸般の事情で老人ホームの経営責任をを背負い、現場から高齢者介護の実態を観察し、銀行時代に習得した技術を用い、医療・福祉の政策を分析し、専門誌等に発表した論文により注目を集めた滝上宗次郎の論争の軌跡である。
 本書には、論争相手の論文出典、行政文書等々を効率よく紹介・掲載し、論争のあり様を読者に案内する。
 ゴールドプラン、介護保険が制度設計された時期の、老人福祉・介護を医療分野が担った歪んだ日本の政策の継続か転換かの岐路における論争の記録である。
 滝上宗次郎氏については、朝日新聞 2007年3月11日「補助線/「一人シンクタンク」の死」(編集委員辻陽明)に詳しい。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4326798858/ref=cm_cr_mts_prod_img

朝日新聞 2007年3月11日

編集委員 辻 陽明

補助線/「一人シンクタンク」の死

「シンクタンク」とは何か。米国の著名なシンクタンク「世界資源研究所」(WRI)の日本担当の黒坂三和子さんに聞いてみた。

「米欧では政府や企業から独立した民間の政策研究機関のこと。データに基づいて分析し政策の対案を示す。政府はそれらを活用し、政策決定に重要な役割を果たす」

 世界に例のない速さと規模で高齢化の進む日本。高齢者の医療・福祉は外国にモデルがない。健全な政策決定のためには、複数の対案が幅広く論議される必要がある。

 「一人シンクタンク」ともいえる人がいた。1月20日に54歳で亡くなった有料老人ホーム「グリー東京」の滝上宗次郎(たけがみそうじろう)社長。厚生労働省の政策を洞察し対案を示す稀有なエコノミストでもあった。

 東京青梅市の大地主の次男。一橋大経済学部から旧三菱銀行に入り、調査部で産業分析の手法を身につけた。87年に34歳で退社し、父親が経営していた羽村市のホームを引き継いだ。高齢者介護の実態を観察しつつ、医療・福祉の政策を分析し、専門誌に論文をどんどん書いた。注目されたのは95年、介護保険の導入議論が盛んになつた頃だ。著書や論文で介護保険の問題点を訴えた。

 当時の厚生省は、福祉に使う税金を抑え、特別養護老人ホームも十分つくらなかった。かわりに高コストでも医療保険で賄える「老人病院」に介護を担わせ、医療保険が財政難に陥っていた。厚生省は公的な介護の仕組みとして介護保険を打ち出し、「在宅介護の充実」をうたい文句にしながら、肝心の「介護」の中身を明らかにしないまま、メディアも使って推進の世論づくりを進めた。

 滝上さんは、医療保険を救い「老人病院」を温存するための新たな「財布」が介護保険なのだと看破し、専門家を驚かせた。在宅介護も費用がかさみすぎると指摘した。高齢になるほど、寝たきりや認知症になりやすく介護期間も延びるからだ。過酷な自宅での家族介護よりも福祉施設の充実を主張し、国民的な論議を避ける手法にも反発した。96年、旧経済審議会の医療・福祉作業部会座長としてまとめた報告書では、「老人病院」の解消も提言した。

 それから10年余。当初は黙殺された滝上さんの予想通りになった。介護保険は財政が悪化。昨春の改革で在宅介護の軽度のサービスが縮小された。「老人病院」は6年かけて廃止されることになった。

 滝上さんの「一人シンクタンク」は現場と分析力、独立を維持できる資産があったから可能だったともいえる。ただ、一人だったため知識やノウハウが継承されにくい。

 独立した組織のシンクタンクが日本に根づくには、志を持つ人材、資金、対案を尊重する政府が欠かせない。




コウセイギヨウセイノケイザイガク ビヨウインケイエイ.イヤクヒンユウリヨウロウジンホ-ム ケイソウイリヨウフクシシリ-ズ 52
勁草 医療・福祉シリーズ〈52〉
厚生行政の経済学―病院経営・医薬品・有料老人ホーム

滝上 宗次郎【著】
勁草書房 (1993/07/15 出版)

282p / 19cm / B6判
ISBN: 9784326798858
NDC分類: 498.1
価格: ¥2,520 (税込)

詳細
21世紀の高齢社会を目前に、「社会保障」と「市場メカニズム」という相反する理論体系の両立を目指す厚生行政に勝算はあるのか。
揺れ動く民間病院、薬業界、シルバー産業を産業経済的に分析し、あるべき姿を提言する。


第1部 病院経営の産業経済的側面
第2部 老人医療費の経済学的考察
第3部 産業政策としての薬務行政
第4部 比較劣位にあるシルバー産業

21世紀の高齢社会を目前に,揺れ動く民間病院,薬業界,シルバー産業を産業経済的に分析し,あるべき厚生行政の姿を提言。著者は経企庁などの高齢者問題研究委員会委員。

【目次】
総論

第一部 病院経営の産業経済的側面
 1  「医療法改正」後の病院経営
 2  淘汰の時代に入った民間病院
 3  不況下の企業経営

第二部 老人医療費の経済学的考察
 4  増大する老人医療費

第三部 産業政策としての薬務行政
 5  激変する医療品産業
 6  90年代後半の医療品産業
 7  地価下落からみた今回の景気変動

第四部 比較劣位にあるシルバー産業
 8  改正老人福祉法の意義
 9  シルバーマーク
 10  有料老人ホーム設置運営指導方針
 11  老人福祉における公私の役割分担
 12  公的福祉の充実が先決
 13  シルバー産業の国際化、自由化
 14  介護の重み

参考文献
掲載誌
あとがき   

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