新聞『クイント』2003年3月10日 第87号10頁
■~道内外から歯科技工士が集う~
多田 尚彦(北海道帯広市/歯科技工士)
「歯科技工士討論集会」札幌にて開催
二月九日(日),札幌市生涯学習センター「ちえりあ」において「歯科技工士討論集会」が開催され,道内外から多くの熱心な参加者が集まった(発言者:伊集院正俊/伊集院ポーセレン研究所,岩澤毅/みなと矯正義歯工房,近藤敏博/近藤デンタルラボラトリー,以上敬称略).
今回なぜ討論集会を開催したのか述べてみたい.海外製歯科補綴物問題が,マスコミにも取り上げられる中,昭和六三年に出された「七:三大臣告示」は,昨年四月,中西茂昭日本歯科技工士会会長により,「歯科医院と歯科技工所の個々の取引に対し拘束力はない」という見解が出された.そして今度は,点数の明示化を求めるという.拘束力のない大臣告示に,点数の明示化を求めて,いったい何の意味があるのだろうか?
今我々は,大きな閉塞感に包まれて,将来に対する不安感に襲われている.そこで現実的な新しいプランを考え,歯科技工士の皆さんと共に討論していきたいとの思いから討論集会を開催するに至ったのである.
2003年3月10日 第87号10頁
■「中間業者を指示書の指導で排除できない」
「孫受け,営業ラボも技工行為をした技工所が指示書に記載されていれば良い」
歯科技工の海外委託
岩澤氏の講演「歯科技工士法の構造」では,氏が厚生労働省の公式サイトから偶然見つけたという二つの通知が興味を引いた.「厚生省健康政策局歯科衛生課長通知」(歯第四号)と「厚生省健康政策局長通知」(健政発一九八号)(平成八年三月一四日の同日発)である.特に(歯第四号)には,「今回の改正による歯科技工指示書の記載事項の追加は,集配専門業者の介在や子請け,孫請けといった近年の歯科技工物の流通形態及び歯科技工所の運営形態の変化の中で,歯科医師と歯科技工士の密接な連携を確保しようというものであるが,こうした流通形態自体を規制する趣旨ではない」とある.つまり中間業者,営業ラボの運営の規制を否定しており,海外補綴に関する輸入代行業の存在や歯科医師の直接発注(医療裁量権),広域ラボの営業行為もすべてこの行政通知により正当化される恐れがあるのである.
また,岩澤氏は厚生労働省医政局歯科保健課から重要な回答を得ている.自由診療における歯科技工物の海外からの輸入等については厚生労働省内でも課題とされており,「これについては通知レベルではなく法律レベルの問題なので,立法行為が必要である」とのことである.国の側からそのように促されている中で,日本歯科技工士会(以下,日技)がどのように対応していくのか注目される.私の知る限り,日技は海外から輸入することは法律違反であるとの見解を出している.もう少し細かく言うと,歯科技工所による歯科技工の海外委託は,歯科技工士法及び関係法令上違反である,との見解を出しているが本当だろうか?
医政局歯科保健課からは,「課長通知において,歯科技工物の作成に関する責任の所在を明確にするために,指示書の写しに氏名を記載し歯科技工物を添えて納品することを推奨するものです.孫受け,営業ラボ等の流通形態についても,歯科技工行為のあった歯科技工所が記載されていれば構いません.ただし,歯科医師が把握していない歯科技工所で歯科技工行為が行われた場合,その責任の所在は記載された歯科技工所にあるものとします」との回答を得ている.
「中間業者を指示書の指導で排除できない」「孫受け,営業ラボも技工行為のあった歯科技工所が指示書に記載されていれば良い」.これが現時点での答えのようだ.歯科技工士法や薬事法に抵触するとの指摘もあるが,あくまで国内法であり,取締りの根拠にはならない.法の整備が現実に追いついていないのが実情のようである.
昨年三月,小泉純一郎内閣総理大臣により出された小泉答弁書をご存知だろうか.この中に重要な答弁がある.それは,「保険医療機関等が療養の給付に関し保険者に請求できる費用の額の算定方法を定めるものであり,保険医療機関等が補綴物等の製作技工等を委託する際の委託費の額を拘束するものではない」とういうものである.これに対し中西会長は,昨年四月の記者会見で,小泉答弁書を追認して拘束力なしと発言した模様だ.私としてはこれで七:三問題の決着がついたものと理解していたが,小泉答弁書に対し異議を唱える声もある.日技は「業務委託されている実態」の法的根拠と行政判断を覆すために行政訴訟の道を求めるべきである,という意見だ.
繰り返すが,中西会長は大臣告示に法的拘束力なしとの見解を示している.「日技は直ちに行政訴訟の道を求めるべき」とする主張もあるようだが,そのためには直ちにその主張に沿った日技会長及び代議員が誕生しなくてはならない現実性に疑問を感じる.
■~道内外から歯科技工士が集う~
多田 尚彦(北海道帯広市/歯科技工士)
「歯科技工士討論集会」札幌にて開催
二月九日(日),札幌市生涯学習センター「ちえりあ」において「歯科技工士討論集会」が開催され,道内外から多くの熱心な参加者が集まった(発言者:伊集院正俊/伊集院ポーセレン研究所,岩澤毅/みなと矯正義歯工房,近藤敏博/近藤デンタルラボラトリー,以上敬称略).
今回なぜ討論集会を開催したのか述べてみたい.海外製歯科補綴物問題が,マスコミにも取り上げられる中,昭和六三年に出された「七:三大臣告示」は,昨年四月,中西茂昭日本歯科技工士会会長により,「歯科医院と歯科技工所の個々の取引に対し拘束力はない」という見解が出された.そして今度は,点数の明示化を求めるという.拘束力のない大臣告示に,点数の明示化を求めて,いったい何の意味があるのだろうか?
今我々は,大きな閉塞感に包まれて,将来に対する不安感に襲われている.そこで現実的な新しいプランを考え,歯科技工士の皆さんと共に討論していきたいとの思いから討論集会を開催するに至ったのである.
2003年3月10日 第87号10頁
■「中間業者を指示書の指導で排除できない」
「孫受け,営業ラボも技工行為をした技工所が指示書に記載されていれば良い」
歯科技工の海外委託
岩澤氏の講演「歯科技工士法の構造」では,氏が厚生労働省の公式サイトから偶然見つけたという二つの通知が興味を引いた.「厚生省健康政策局歯科衛生課長通知」(歯第四号)と「厚生省健康政策局長通知」(健政発一九八号)(平成八年三月一四日の同日発)である.特に(歯第四号)には,「今回の改正による歯科技工指示書の記載事項の追加は,集配専門業者の介在や子請け,孫請けといった近年の歯科技工物の流通形態及び歯科技工所の運営形態の変化の中で,歯科医師と歯科技工士の密接な連携を確保しようというものであるが,こうした流通形態自体を規制する趣旨ではない」とある.つまり中間業者,営業ラボの運営の規制を否定しており,海外補綴に関する輸入代行業の存在や歯科医師の直接発注(医療裁量権),広域ラボの営業行為もすべてこの行政通知により正当化される恐れがあるのである.
また,岩澤氏は厚生労働省医政局歯科保健課から重要な回答を得ている.自由診療における歯科技工物の海外からの輸入等については厚生労働省内でも課題とされており,「これについては通知レベルではなく法律レベルの問題なので,立法行為が必要である」とのことである.国の側からそのように促されている中で,日本歯科技工士会(以下,日技)がどのように対応していくのか注目される.私の知る限り,日技は海外から輸入することは法律違反であるとの見解を出している.もう少し細かく言うと,歯科技工所による歯科技工の海外委託は,歯科技工士法及び関係法令上違反である,との見解を出しているが本当だろうか?
医政局歯科保健課からは,「課長通知において,歯科技工物の作成に関する責任の所在を明確にするために,指示書の写しに氏名を記載し歯科技工物を添えて納品することを推奨するものです.孫受け,営業ラボ等の流通形態についても,歯科技工行為のあった歯科技工所が記載されていれば構いません.ただし,歯科医師が把握していない歯科技工所で歯科技工行為が行われた場合,その責任の所在は記載された歯科技工所にあるものとします」との回答を得ている.
「中間業者を指示書の指導で排除できない」「孫受け,営業ラボも技工行為のあった歯科技工所が指示書に記載されていれば良い」.これが現時点での答えのようだ.歯科技工士法や薬事法に抵触するとの指摘もあるが,あくまで国内法であり,取締りの根拠にはならない.法の整備が現実に追いついていないのが実情のようである.
昨年三月,小泉純一郎内閣総理大臣により出された小泉答弁書をご存知だろうか.この中に重要な答弁がある.それは,「保険医療機関等が療養の給付に関し保険者に請求できる費用の額の算定方法を定めるものであり,保険医療機関等が補綴物等の製作技工等を委託する際の委託費の額を拘束するものではない」とういうものである.これに対し中西会長は,昨年四月の記者会見で,小泉答弁書を追認して拘束力なしと発言した模様だ.私としてはこれで七:三問題の決着がついたものと理解していたが,小泉答弁書に対し異議を唱える声もある.日技は「業務委託されている実態」の法的根拠と行政判断を覆すために行政訴訟の道を求めるべきである,という意見だ.
繰り返すが,中西会長は大臣告示に法的拘束力なしとの見解を示している.「日技は直ちに行政訴訟の道を求めるべき」とする主張もあるようだが,そのためには直ちにその主張に沿った日技会長及び代議員が誕生しなくてはならない現実性に疑問を感じる.