2002年構造改革路線への異議申し立て/人間回復の日本, 2008/8/18
By 歯職人
サッチャー、レーガン、中曽根そしてその亜流に引き継がれた「新自由主義」経済路線に根本的な対案として提示された20002年の財政学者神野直彦の著作です。
本書において神野が展開するのは、財政社会学の始祖ゴルトシャイトの思想を継承するものとして、アメリカ主流経済学とその俗流理解による「合理的経済人仮説」の限界を、ドイツ財政学やフランス社会経済学の潮流を援用し、その人間理解の限界と底の浅さを指摘し、人間の信頼と自己実現に基礎を置く社会観・人間観の上に立つ『人間回復の経済学』を構想する。
日本においては、小泉・竹中政権によって、この『人間回復の経済学』とは真反対の構造改革路線が有権者の熱狂的な支持と、当時の野党民主党執行部の「小泉政権との改革競争」路線のもと、推し進められた。
2008年現在、あからさまな格差社会の出現と日本社会からの希望消滅が露になってきている。しかし、世論調査によれば今だ小泉待望論が存在するという。
ホモサピエンスとして立ち止まり、2002年時点を振り返り、今後のアプローチを考える際に貴重な示唆を与える一冊といえる。
(ニンゲンカイフクノケイザイガクイワナミシンショ )
岩波新書
人間回復の経済学
ISBN:9784004307822 (4004307821)
194p 18cm
岩波書店 (2002-05-20出版)
・神野 直彦【著】
[新書 判] NDC分類:331 販売価:735(税込) (本体価:700)
好況時は過重労働、不況時はリストラ。
私たちはまるで経済に従属して生きているかのようだ。
これは本来の姿なのか?現在の閉塞状況は「構造改革」で打開できるのか?いまこそ人間に従属する経済システムをつくる絶好の機会であり、それが閉塞打破のカギにもなる。
社会、政治、経済の三者のあるべき形を提案する、斬新な経済社会論。
1 経済のための人間か、人間のための経済か
2 「失われた一〇年」の悲劇
3 行きづまったケインズ的福祉国家
4 エポックから脱出できるのか
5 ワークフェア国家へ
6 経済の論理から人間の論理へ
7 人間のための未来をつくる
過重労働にリストラ….人間は経済に従属して生きているかのようだ.いまこそ人間のための経済をつくる絶好の機会であり,それが閉塞打破につながる.社会,政治,経済のあるべき関係を提案する,斬新な経済社会論.
新聞書評
人間回復の経済学 神野 直彦著
構造改革に対する、批判の書である。
著者は、構造改革の背後理念の主流派経済学が俗流経済学に堕したと指摘する。人間は利己心に基づいてのみ行動するという「経済人仮説」を機械的に適用し、人間の喜びや悲しみなどを捨象している、というのがその理由だ。
弱肉強食の市場原理を追求する構造改革に対して、著者は、財政社会学的アプローチを対峙(たいじ)させる。「共感」という人間の本性を認め、経済システムだけでなく政治・社会システムも含めて人間社会を捕らえるべきだと訴える。
具体例として上げているのがスウェーデン経済だ。スウェーデンは人間の知識を高めて生産性を向上させる「知識社会」を目指し、中央政府による現金給付型のケインズ型福祉政策ではなく、地方政府による対人サービス給付を所得再分配と連帯の中心に置いている。著者はそこにあるべき変革を見る。人間至上主義が出過ぎた感もあるが、傾聴に値する警告の書であることは間違いない。
評者・伝川幹(本社論説委員) / 読売新聞 2002.06.30
神野直彦[ジンノナオヒコ]
1946年埼玉県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学助教授などを経て、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。専攻は財政学。人が平等に生きられる社会のための財政という立場に立ち、公共サービスを切り捨てようとする「財政改革」を批判する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
By 歯職人
サッチャー、レーガン、中曽根そしてその亜流に引き継がれた「新自由主義」経済路線に根本的な対案として提示された20002年の財政学者神野直彦の著作です。
本書において神野が展開するのは、財政社会学の始祖ゴルトシャイトの思想を継承するものとして、アメリカ主流経済学とその俗流理解による「合理的経済人仮説」の限界を、ドイツ財政学やフランス社会経済学の潮流を援用し、その人間理解の限界と底の浅さを指摘し、人間の信頼と自己実現に基礎を置く社会観・人間観の上に立つ『人間回復の経済学』を構想する。
日本においては、小泉・竹中政権によって、この『人間回復の経済学』とは真反対の構造改革路線が有権者の熱狂的な支持と、当時の野党民主党執行部の「小泉政権との改革競争」路線のもと、推し進められた。
2008年現在、あからさまな格差社会の出現と日本社会からの希望消滅が露になってきている。しかし、世論調査によれば今だ小泉待望論が存在するという。
ホモサピエンスとして立ち止まり、2002年時点を振り返り、今後のアプローチを考える際に貴重な示唆を与える一冊といえる。
(ニンゲンカイフクノケイザイガクイワナミシンショ )
岩波新書
人間回復の経済学
ISBN:9784004307822 (4004307821)
194p 18cm
岩波書店 (2002-05-20出版)
・神野 直彦【著】
[新書 判] NDC分類:331 販売価:735(税込) (本体価:700)
好況時は過重労働、不況時はリストラ。
私たちはまるで経済に従属して生きているかのようだ。
これは本来の姿なのか?現在の閉塞状況は「構造改革」で打開できるのか?いまこそ人間に従属する経済システムをつくる絶好の機会であり、それが閉塞打破のカギにもなる。
社会、政治、経済の三者のあるべき形を提案する、斬新な経済社会論。
1 経済のための人間か、人間のための経済か
2 「失われた一〇年」の悲劇
3 行きづまったケインズ的福祉国家
4 エポックから脱出できるのか
5 ワークフェア国家へ
6 経済の論理から人間の論理へ
7 人間のための未来をつくる
過重労働にリストラ….人間は経済に従属して生きているかのようだ.いまこそ人間のための経済をつくる絶好の機会であり,それが閉塞打破につながる.社会,政治,経済のあるべき関係を提案する,斬新な経済社会論.
新聞書評
人間回復の経済学 神野 直彦著
構造改革に対する、批判の書である。
著者は、構造改革の背後理念の主流派経済学が俗流経済学に堕したと指摘する。人間は利己心に基づいてのみ行動するという「経済人仮説」を機械的に適用し、人間の喜びや悲しみなどを捨象している、というのがその理由だ。
弱肉強食の市場原理を追求する構造改革に対して、著者は、財政社会学的アプローチを対峙(たいじ)させる。「共感」という人間の本性を認め、経済システムだけでなく政治・社会システムも含めて人間社会を捕らえるべきだと訴える。
具体例として上げているのがスウェーデン経済だ。スウェーデンは人間の知識を高めて生産性を向上させる「知識社会」を目指し、中央政府による現金給付型のケインズ型福祉政策ではなく、地方政府による対人サービス給付を所得再分配と連帯の中心に置いている。著者はそこにあるべき変革を見る。人間至上主義が出過ぎた感もあるが、傾聴に値する警告の書であることは間違いない。
評者・伝川幹(本社論説委員) / 読売新聞 2002.06.30
神野直彦[ジンノナオヒコ]
1946年埼玉県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学助教授などを経て、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。専攻は財政学。人が平等に生きられる社会のための財政という立場に立ち、公共サービスを切り捨てようとする「財政改革」を批判する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)