医学を、伝承技術から科学へ, 2013/11/24
By歯職人
著者の津田敏秀のさんの立場は、人を対象とした統計化を経た疫学を欠いた日本の医学教育とそこに育った医学者・医者・医療政策の担当者による弊害を立証し、「医学的根拠」の確立を図ることにあるようだ。
疫学や統計学の説明は他の著書や著者に譲り、本書では第1章の「医学の三つの根拠―直感派・メカニズム派・数量化派」を中心に、歴史的経過と事例の整理に注力している。
ややもすると視野狭窄に陥りがちな人の業がある中で、医学の教育・研究・臨床の中心の伝統と組織力学が、津田氏の言う「日本の医学部の100年問題」を温存しているかに見える。
5本のコラムとともに、読み易い一冊に仕上がっている。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4004314585/ref=cm_cr_mts_prod_img
岩波新書 医学的根拠とは何か
津田敏秀
価格 \756(税込) 岩波書店(2013/11発売)
サイズ 新書判/ページ数 1冊/高さ 18cm
商品コード 9784004314585
NDC分類 498
医学的根拠とは何か
津田敏秀著
(新赤版1458)
医師はなぜ判断を誤るのか
福島・水俣・薬剤データ改ざんの根は同じ
驚くべき話です。医学の基本について、日本での考え方がこれほど偏っているとは。
放射線被ばくによる発がんについて言われる「100ミリシーベルト」という数値、水俣病の判断基準、製薬会社に分析が外注され改ざんされた薬剤データ、大気汚染のPM2.5の健康影響など、いずれも基本的な考え方に問題があるのです。その大元となっているのが医学界における医学的根拠の混乱です。
本書ではそのもつれを明快に解きほぐします。公害などの事件でなぜ専門家が誤り被害が拡大したか、そもそも医学・医療の「根拠」についての世界での標準的な考え方とは何か、そしてなぜ日本ではそのように専門家が誤ってしまうのか。
福島県と水俣病以外にも、乳児突然死とうつぶせ寝の問題、O157食中毒への対応が詳しく紹介され、カネミ油症、ピロリ菌対策、医療放射線被ばくなどにも触れられます。
目次に示してあるコラムは基本的な問題です。ご覧になって1つでも「はい」と思われた方は必ず本書をお読みください。
(新書編集部 千葉克彦)
■著者紹介
津田敏秀(つだ・としひで)1958年生まれ。岡山大学医学部医学研究科修了。医師・医学博士。現在、岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。専攻は、疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学、食品保健、産業保健。
著書に、『市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで』(緑風出版)、『医学書院医学大辞典』(医学書院、共著)、『医学者は公害事件で何をしてきたのか』 『医学と仮説―原因と結果の科学を考える』(以上、岩波書店)、『食中毒の疫学講座』(日本食品衛生協会、共編著)。
■目次
まえがき
序章
問われる医学的根拠―福島・水俣・PM2.5
第1章
医学の三つの根拠―直感派・メカニズム派・数量化派
1 繰り返される三つ巴の論争
2 現代医学の柱は数量化、対象は人
●コラム1 病気のメカニズムがわからないと原因はわからない?
第2章
数量化が人類を病気から救った―疫学の歩み
1 数量化を始めた人々
2 疫学の現代化
3 病気の原因とは何か
●コラム2 タバコをやめるとがんのリスクが減るが、それは真の原因を取り除いているわけではない?
●コラム3 疫学でわかるのは相関関係であり、因果関係ではない?
第3章
データを読めないエリート医師
1 数量化の知識なき専門家
(1)なぜ100ミリシーベルトか―「有意差がない」と「影響がない」の混同
(2)O157による大規模食中毒事件
(3)メカニズム派のリスクコミュニケーション
2 水俣病事件
3 赤ちゃん突然死への対応を逸した研究班
●コラム4 食中毒事件において食品に関する営業停止処分や回収命令を出すには、その食品中に原因となる細菌あるいは毒物を検出しなければならない?
第4章
専門家とは誰か
1 進まない臨床研究
2 日本の医学部の100年問題
3 診察室でデータを作る時代
●コラム5 病気には遺伝要因が強いものと環境要因が強いものがある?
終章
医学の“開国”を
あとがき
参考文献
By歯職人
著者の津田敏秀のさんの立場は、人を対象とした統計化を経た疫学を欠いた日本の医学教育とそこに育った医学者・医者・医療政策の担当者による弊害を立証し、「医学的根拠」の確立を図ることにあるようだ。
疫学や統計学の説明は他の著書や著者に譲り、本書では第1章の「医学の三つの根拠―直感派・メカニズム派・数量化派」を中心に、歴史的経過と事例の整理に注力している。
ややもすると視野狭窄に陥りがちな人の業がある中で、医学の教育・研究・臨床の中心の伝統と組織力学が、津田氏の言う「日本の医学部の100年問題」を温存しているかに見える。
5本のコラムとともに、読み易い一冊に仕上がっている。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4004314585/ref=cm_cr_mts_prod_img
岩波新書 医学的根拠とは何か
津田敏秀
価格 \756(税込) 岩波書店(2013/11発売)
サイズ 新書判/ページ数 1冊/高さ 18cm
商品コード 9784004314585
NDC分類 498
医学的根拠とは何か
津田敏秀著
(新赤版1458)
医師はなぜ判断を誤るのか
福島・水俣・薬剤データ改ざんの根は同じ
驚くべき話です。医学の基本について、日本での考え方がこれほど偏っているとは。
放射線被ばくによる発がんについて言われる「100ミリシーベルト」という数値、水俣病の判断基準、製薬会社に分析が外注され改ざんされた薬剤データ、大気汚染のPM2.5の健康影響など、いずれも基本的な考え方に問題があるのです。その大元となっているのが医学界における医学的根拠の混乱です。
本書ではそのもつれを明快に解きほぐします。公害などの事件でなぜ専門家が誤り被害が拡大したか、そもそも医学・医療の「根拠」についての世界での標準的な考え方とは何か、そしてなぜ日本ではそのように専門家が誤ってしまうのか。
福島県と水俣病以外にも、乳児突然死とうつぶせ寝の問題、O157食中毒への対応が詳しく紹介され、カネミ油症、ピロリ菌対策、医療放射線被ばくなどにも触れられます。
目次に示してあるコラムは基本的な問題です。ご覧になって1つでも「はい」と思われた方は必ず本書をお読みください。
(新書編集部 千葉克彦)
■著者紹介
津田敏秀(つだ・としひで)1958年生まれ。岡山大学医学部医学研究科修了。医師・医学博士。現在、岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。専攻は、疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学、食品保健、産業保健。
著書に、『市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで』(緑風出版)、『医学書院医学大辞典』(医学書院、共著)、『医学者は公害事件で何をしてきたのか』 『医学と仮説―原因と結果の科学を考える』(以上、岩波書店)、『食中毒の疫学講座』(日本食品衛生協会、共編著)。
■目次
まえがき
序章
問われる医学的根拠―福島・水俣・PM2.5
第1章
医学の三つの根拠―直感派・メカニズム派・数量化派
1 繰り返される三つ巴の論争
2 現代医学の柱は数量化、対象は人
●コラム1 病気のメカニズムがわからないと原因はわからない?
第2章
数量化が人類を病気から救った―疫学の歩み
1 数量化を始めた人々
2 疫学の現代化
3 病気の原因とは何か
●コラム2 タバコをやめるとがんのリスクが減るが、それは真の原因を取り除いているわけではない?
●コラム3 疫学でわかるのは相関関係であり、因果関係ではない?
第3章
データを読めないエリート医師
1 数量化の知識なき専門家
(1)なぜ100ミリシーベルトか―「有意差がない」と「影響がない」の混同
(2)O157による大規模食中毒事件
(3)メカニズム派のリスクコミュニケーション
2 水俣病事件
3 赤ちゃん突然死への対応を逸した研究班
●コラム4 食中毒事件において食品に関する営業停止処分や回収命令を出すには、その食品中に原因となる細菌あるいは毒物を検出しなければならない?
第4章
専門家とは誰か
1 進まない臨床研究
2 日本の医学部の100年問題
3 診察室でデータを作る時代
●コラム5 病気には遺伝要因が強いものと環境要因が強いものがある?
終章
医学の“開国”を
あとがき
参考文献