
朝日新聞 2013年11月22日 オピニオン
(私の視点)公益法人改革 小規模法人も担える改善を
歯科技工士 岩澤 毅
5年前に始まった公益法人の新制度により、新たに公益法人へと移行するための申請期間が11月末で終了し、一つの区切りを迎える。1898(明治31)年の民法施行以来、110年ぶりとなった抜本改革は、国や都道府県が公益性を認めた法人に税の優遇措置を盛り込むことで新たな公の担い手をつくる取り組みだったが、課題はなお多い。
この5年間、全国の2万数千を超える公益法人の役職員が「公益とは何か」に向き合った。私は全国の歯科技工士で組織する社団法人と地方にある同種の法人双方で役員として移行作業に関わり、全国にある傘下の法人の移行作業もモニターする立場にあった。
新制度では、移行を目指す法人の構成員が新制度を理解し、内部で合意形成をはかりつつ、自分たちの活動を見つめ直し、事業を簡潔に整理することが期待された。そして一般市民の目線に近い民間有識者の会議で活動内容を説明し、内閣府や都道府県の申請窓口に事業内容を伝え、理解を求める作業に追われた。
東京にある全国規模の法人は財政も豊かで、実務に明るい職員がいる。経験のある首都圏の多くの税理士なども相談相手となってくれた。しかし、地方の小規模法人は役員自身も実務経験に乏しい人が少なくない。申請作業をサポートしてくれるはずの税理士も少なく、少ない申請を分散して取り扱うこととなった。
私が申請した県の窓口の職員も実務経験を積む時間がないのが実情だ。窓口の県職員は少人数のうえ、人事異動も重なる。申請する法人にとっては、前任の職員と練り上げた作業が、後任の職員によって理由もわからずに否定されることもあった。窓口で「何もわざわざ手間のかかる公益法人に移行せず、一般法人でいいのではないか」と言われたケースもある。こうした事情から公益法人への移行を断念した法人も多い。
構成員の少額の会費という浄財に支えられる小規模法人にとって「公益目的事業比率50%以上」という移行要件も大きな壁だった。最低限の管理運営費のほか、会計などに携わる職員の教育訓練にも費用がかかるためだ。
今後は公益目的事業比率の計算方法を見直し、移行のための要件を緩和してほしい。小規模法人でも公益を担える、新しい法人類型をつくる検討も必要だろう。都道府県には、公益法人をサポートする専門知識と経験や熱意を持つ専門職員を育ててもらいたい。社会全体でも公益を担う日常業務や会計ができる人材を育てていくこともあわせて必要だと思う。
(いわさわつよし 歯科技工士)