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歯科技工士・岩澤 毅

二木 立(著)  TPPと医療の産業化 [単行本]

2012年12月06日 | amazon.co.jp・リストマニア
二木立教授が、TPPの医療への影響を考察, 2012/12/6

By 歯職人

 医療経済・政策学の日本福祉大の二木立教授(副学長)による、日本のTPP(環太平洋戦略的連携協定)参加と医療への影響の考察を中心にした、2011年後半から2012年前半を中心とした時評集である。
 読み易さ、論旨の整理、論理の明快さ、資料・出典等の提示と吟味に対する誠実さ等々、毎回のことながら二木立教授の手法に破たんが無く、学者・書き手としての作法においても範となるものだ。
 第1章「TPPと混合診療」の第4節「なぜ私はTPPに参加しても混合診療が全面解禁される可能性は低いと判断しているか?」が特に注目される。医療運動団体等にある「TPP参加で、国民皆保険制度崩壊、日本の医療崩壊」の「地獄のシナリオ」による運動の煽りに、「敢えて水を差す」論拠が、淡々と述べられ、二木氏の真骨頂と言ったところである。
 第4章「介護保険制度と保健・医療・福祉複合体」では、言わば二木教授のデビュー作である「複合体」研究その後を、韓国との比較を軸に、日本的特徴をまとめたものである。
 第5章「国民皆保険史研究の盲点」の第1節「国民皆保険50周年──「いつでも,どこでも,だれでも」という標語の来歴を探る」は、国民皆保険の理念とされる「いつでも、どこでも、だれでも」の用語法の始原を探る、探偵小説的な趣のあるものである。この節での手法は、同時代人の証言を傍証に得ながら、運動体の運動方針等の紙媒体を「捜索」するものでもある。第2節「吉村仁氏の「医療費亡国論」は幻か?──1980年代前半の「医療費適正化」政策の再検証」は、二木氏らしさの出た、吉村仁氏=「医療費亡国論」=「低医療費政策の張本人」の俗説を捨て置かない、誰に対しても「政治的配慮をしない」姿勢の表れと言えよう。
 国政選挙等の時期になるとと、プロパガンダの手法が学者や医療団体の世界にも容易に侵食し、地金を出す。政治家と見紛うばかりの「学者」や「運動家」が扇動家として登場する。本書を読むには、良い時期を迎えているのかもしれない。

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ティーピーピートイリョウノサンギョウカ TPPトイリョウノサンギョウカ
TPPと医療の産業化


二木 立【著】
勁草書房 (2012/05/07 出版)

222p / 21cm / A5判
ISBN: 9784326700738
NDC分類: 498.13

価格: ¥2,625 (税込)

詳細

混合診療は解禁される?
医薬品・医療機器の価格規制は廃止される?
公的保険外医療サービスに経済成長効果はあるのか?
TPP参加が日本の公的医療保険制度、医薬品産業、患者・保険財政に与える影響を詳細に検討。
医療政策の動向を最新の資料を用いて複眼的に分析・予測する。

内容説明

日本経済に大きな影響を与えた東日本大震災とTPP参入問題。これらは日本の医療政策にどのような影響を与え、この先どんな展開があり得るか。11年2月以降の医療政策の動向を最新の資料を用いて複眼的・批判的に分析、今後を予測する。社会的関心を呼んでいるTPPの医療への影響と医療の産業化を包括的に論じた初の書。

目次

はしがき

序章 あるべき医療・ある医療と東日本大震災
 第1節 「あるべき医療」と「ある医療」の相克──東日本大震災と福島原発事故後の医療政策を考える
 第2節 東日本大震災で医療・社会保障政策はどう変わるか?
 第3節 医療・社会保障・社会に対する国民意識の変化をどう読むか?
 第4節 東日本大震災・福島原発事故後の医療・社会保障について改めて考える

第1章 TPPと混合診療
 第1節 TPPと日本の医療
 第2節 TPPに参加するとアメリカは日本医療に何を要求してくるか?
 第3節 TPPへの参加が医療・医薬品産業に与える影響
 第4節 なぜ私はTPPに参加しても混合診療が全面解禁される可能性は低いと判断しているか?
 第5節 混合診療裁判の最高裁判決とその新聞報道等を改めて考える

第2章 医療産業化論の歴史的・理論的検討
 第1節 なぜ民主党政権で医療分野への市場原理導入論が復活したのか?
 第2節 医療への市場原理導入論の30年──民間活力導入論から医療産業化論へ
 第3節 「医療産業」・「医療の産業化」という用語の来歴
 第4節 日本の民間病院の「営利性」と活力
 第5節 医療ツーリズムの新種「病院輸出」は成功するか?
 第6節 民主党政権の「新成長戦略」・「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」の複眼的検討

第3章 社会保障と税の一体改革案
 第1節 集中検討会議「社会保障改革案」を読む
 第2節 「社会保障・税一体改革成案」をどう読むか?
 第3節 受診時定額負担・免責制は保険の原点か?──吉川洋氏の主張とその問題点
 第4節 厚労省「医療費等の将来見通し」で注目すべき3つのこと

第4章 介護保険制度と保健・医療・福祉複合体
 第1節 介護予防の問題点──医療経済・政策学の視点から
 第2節 日本の介護保険制度と保健・医療・福祉複合体──韓国社会福祉学会春季学術大会での報告
 第3節 日本の保健・医療・福祉複合体の最新動向と「地域包括ケアシステム」

第5章 国民皆保険史研究の盲点
 第1節 国民皆保険50周年──「いつでも,どこでも,だれでも」という標語の来歴を探る
 第2節 吉村仁氏の「医療費亡国論」は幻か?──1980年代前半の「医療費適正化」政策の再検証

初出一覧
あとがき
事項索引
人名索引

著者紹介

二木立[ニキリュウ]
1947年生。1972年東京医科歯科大学医学部卒業。代々木病院リハビリテーション科科長・病棟医療部長等を経て、日本福祉大学教授・副学長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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