件名 歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問主意書
提出回次 164回 提出番号 80
提出日 平成18年 6月14日
提出者 櫻井充君
備考
その他
転送日 平成18年 6月16日
答弁書受領日 平成18年 6月22日
質問主意書
質問第八〇号
歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成十八年六月十四日
櫻 井 充
参議院議長 扇 千 景 殿
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歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問主意書
歯科医療を取り巻く環境は、過去の診療報酬改定に伴い、その都度厳しい状況にさらされてきていたと言っても過言ではない。
特に、平成十八年度診療報酬改定においても医療全体では改定率マイナス三・一六%と示されているが、実際、歯科医療に関する部分ではマイナス一〇%程度まで達するという推計もあり、さらに悪化の一途を辿っている。今回の改定は現場を無視した非現実的なものとなっており、特に患者への各種の文書提供や明細領収書発行等により大きな混乱をもたらしている。
本来、歯科医師と患者が向き合い、会話することは問診票には表せない病歴や家族歴などが詰まっている最も大切な情報である。しかし、今回の文書提供によりその会話を行う時間や治療時間が削減され、国民に良質な歯科医療を提供するどころか歯科医療そのものが崩壊する危機的状況にあると言わざるを得ない。
そこで、以下質問する。
一 高齢者の「八〇二〇(八十歳になっても二十本以上自分の歯を保とうとする運動)」達成率が上昇すると、高齢者の医療費が大幅に減少するというデータや論文が、過去に何度も発表されている。このデータや論文を基に考えると、今回の歯科診療報酬改定は、歯牙、歯髄、歯質の保存に対して点数を下げ包括化するなど、実態として「八〇二〇」達成率を上げる方向での評価方法にはなっていない。なぜ、歯や歯髄、歯質を保存すればするほど経営を圧迫するような改定を行ったのか。政府の明確な見解を示されたい。
二 医療全体の改定率マイナス三・一六%を前提とした平成十八年度診療報酬改定における歯科医療に関する部分が、現場において全く不適切な低い評価になっており、現場に混乱をもたらしているので、二年に一度の定期的な診療報酬改定を待つことなく、緊急措置で改めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三 患者一人当たりの治療時間が明らかに短縮されるにもかかわらず、文書提供により診療内容の説明を行うことが可能であるとする根拠は何か。例えば、一日十人程度の診療であればもっと患者の話を聞いて、説明時間を増やしながら運営していくことが可能である。しかし、一日三十人以上の患者を抱えている診療所において、しかも歯科医師一人で診療を行っている場合であっても、可能な制度であると考えているのか。
四 今回の改定で保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)も改正され、歯科医師には費用ごとに区分記載した領収証の発行が義務付けられた。しかし、民法第四百八十六条では「弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。」とされ、無条件の領収証の発行義務は規定していない。領収証の発行義務を療担規則で制定できる法的根拠はどこにあるのか。
五 厚生労働省の研究班が平成十七年度に行った「医療安全に関するコスト調査」(主任研究者・今中雄一京都大学教授)では、「歯科の医療安全対策費を『患者一人一回当たり』で見ると(中略)平均値は三百五十円(中略)医科よりも重くなっている。」としている。
一方、感染防止対策費用は「再診料」の中に含まれているというのが、厚生労働省の見解であり、今回の改定ではその再診料が三十八点(三百八十円)に下がってしまい、このわずかな点数の中には、ある病名の診療継続中に罹患した別の病名の診断料などまでも含まれるとされている。
これによって、歯科医療の安全・感染防止対策は原価割れ(赤字化)の状態に陥っている。政府は、この点数で歯科において医療安全・感染防止対策を適切に行うことが可能であると考えているのか、根拠を示しつつ明確に答えられたい。また、このようなひどい状況を放置・容認するのか。
六 歯科疾患総合管理料においては、患者の署名が算定要件となっている。しかし、信頼関係が築かれていない初診もしくは数回程度の来院の患者の場合、署名を求めると不信がられたり、拒否されたりと、不必要な混乱を生じさせているのが実態である。このように署名を求めなければならない根拠は何か。
七 歯科疾患総合管理料においては、前医受診・算定の確認を現医に義務づける制度に改められた。しかし、この方法は患者が自由に医院を選択する(フリーアクセス)権利を侵害することにつながる。また、前医名について話したがらないことも度々あり、これを無理矢理聞き出すことは医学や治療の上での必要な問診行為を逸脱し、またプライバシーの権利という観点で人権上の問題がある。さらに当該医院が前医への問い合わせを行う時、その前医は問い合わせ元の身元が本当の医院なのかどうかを確認できないことが想定され、個人情報の不正取得の手段として悪用される可能性も十分考えられる。このように前医受診・算定の確認義務を現医に負わせる合理的な理由は全く見いだせないと考えられるが、政府の見解を示されたい。
八 歯科疾患総合継続指導料において、慢性疾患のみならず歯冠修復物脱離(他医院製作物を含む。)等突発的疾患も含める根拠は何か。また、あまりにも低い包括点数となっている計算根拠を示されたい。
九 歯科衛生士がスケーリングと診療補助としてのルートプレーニングを行うことができる根拠は、歯科衛生士法第二条第一項及び第二項であるとされている。しかし、都道府県の指導医療官ごとの解釈では歯科衛生士がスケーリングとルートプレーニングを行うことができるか否かについての見解が統一されていない。
このことにより、歯科衛生士がスケーリング及びルートプレーニングを行うことは、ある県では合法であるが、他県では違法であるというような実態になっているが、政府はこのことを認識しているか。例えば、スケーリング及びルートプレーニングが違法行為とされている県の場合、歯科衛生士学校等において教授している内容(スケーリング等の方法)を臨床現場で実践することができない上、歯科衛生士法第二条第一項及び第二項の規定も無視することになるが、これについて政府の見解を示されたい。
十 現在の歯科衛生士が行うことのできる行為について、過去に出された歯科衛生士の業務範囲についての疑義照会に対する厚生省(当時)の回答(昭和四十一年八月十五日付歯第二三号)のように、個別列挙で示されたい。なお、答弁に当たっては、昭和四十一年当時の回答から変化はないという趣旨ではなく、昭和四十一年以降の諸事情を考慮して、現状に適合した明確なものを示されたい。
十一 歯科衛生士の役割はますます重要なものとなっているが、政府は、歯科衛生士の業務についてどのような展望を持っているのか。歯科衛生士の業務範囲を狭めようとしているのか。
また、時代に合わなくなっている歯科衛生士法の抜本的改正も行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
十二 歯科診療報酬の低下や使用金属の高騰等により、歯科技工士を取り巻く環境の悪化に拍車がかかり、実態として彼らは長時間・低賃金労働を強いられている。また、安価で低質な海外の技工物を使用することによる国内の歯科技工技術の空洞化等も懸念されている。政府は、これらの緊急事態に対してどのような対応を予定しているのか。
十三 大学や日本歯科医師会における研究・調査によれば、日本の歯科医療は先進諸外国と同程度の水準でありながら、その診療報酬の金額は先進諸外国の約十分の一程度となっている。これでは日本の診療報酬の金額はあまりに安いのではないか。
また、各国で事情が異なることは理解できるが、政府は日本の歯科医療をどの程度のレベルにすることを求めているのか。歯科診療報酬や患者一人にかかる治療時間を含めて、見解を示されたい。
右質問する。
答弁書第八○号
内閣参質一六四第八○号
平成十八年六月二十二日
内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎
参議院議長 扇 千 景 殿
参議院議員櫻井充君提出歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員櫻井充君提出歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問に対する答弁書
一について
平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、歯牙、歯髄又は歯質の保存のための歯科診療行為について、難易度、必要な時間等を総合的に勘案して評価の見直しを行ったところである。具体的には、歯周疾患指導管理料の引下げ、歯周外科手術の包括化等の措置を講ずる一方、根管処置及び歯冠形成に係る歯科診療報酬の引上げ、歯周疾患指導管理料に係る機械的歯面清掃加算の新設等の措置を講じたところであり、厚生労働省においては、御指摘の「歯や歯髄、歯質を保存すればするほど経営を圧迫するような改定」を行ったものではないと考えている。
二について
平成十八年度の診療報酬の改定の実施の状況については、中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)の公益を代表する委員が検証を行うこととしており、厚生労働省においては、現時点では、御指摘のような緊急措置を講ずることは考えていない。
三について
平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、患者への情報提供を促進する観点から、病状、治療計画、指導内容等について、患者に説明を行うとともに、これを文書により患者に情報提供することについて、歯科診療報酬上評価を行ったところである。厚生労働省においては、この情報提供については、保険医療機関の負担も考慮しつつ、適切な算定要件を設定していると考えている。
四について
健康保険法(大正十一年法律第七十号)第七十条第一項において、保険医療機関は、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならないこととされており、平成十八年度の診療報酬の改定に際し、この規定に基づき、保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号)第五条の二の二において、保険医療機関は、患者から費用の支払を受けるときは、正当な理由がない限り、個別の費用ごとに区分して記載した領収証を無償で交付しなければならない旨を規定したところである。
五について
厚生労働省においては、御指摘の歯科における医療安全・感染防止対策に要する費用を含め、歯科医業経営に必要な費用については、医療経済実態調査の結果を踏まえた中医協における議論を経て、歯科診療報酬において総合的に評価しているところであり、今後とも、賃金及び物価の動向、歯科医療機関の経営状況、保険財政の状況等を踏まえつつ、適切に評価してまいりたい。
六及び七について
御指摘の歯科疾患総合管理料とは、歯科疾患総合指導料のことを指すものと思われるが、平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、歯科疾患総合指導料を新設し、患者に総合的な指導を行うことについて、患者に対する十分な説明と患者の同意を確実に確認するために、患者の署名を得ることを算定要件としたところである。
また、歯科疾患総合指導料は、総合的な治療計画の立案及び継続的な指導管理を評価したものであるが、特定の期間中に、患者の一連の治療について二以上の保険医療機関が重複して治療計画の立案及び継続的な指導管理を行うことは想定していないことから、歯科疾患総合指導料を算定しようとする保険医療機関において、患者等に対して照会を行うこと等により、他の保険医療機関において歯科疾患総合指導料を算定していないことを確認することを算定要件としたところである。
八について
御指摘の歯科疾患総合継続指導料とは、歯科疾患継続指導料のことを指すものと思われるが、平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、当初の治療計画に基づく治療が終了した患者に対して、歯科医師が症状が安定期にあることを確認し、継続した治療の必要性を認めた場合における、継続治療計画に基づく総合的な継続指導を評価した歯科疾患継続指導料を新設したところである。
歯科疾患継続指導料は、必要に応じて症状の維持安定のために歯周基本検査、スケーリング等を行った上で口腔内すべてに係る総合的な継続指導を行うことを評価しているものであることから、御指摘の歯冠修復脱離の場合を含めた特掲診療料に係る費用は、歯周基本検査、スケーリング等に係る費用を除き、これに含まれるものとしている。なお、継続治療計画に基づかない外傷等の突発的な疾患については、当該疾患に係る処置の費用について、併せて算定できる取扱いとしているところである。
また、一般に、歯科診療報酬点数については、医療経済実態調査の結果を踏まえた中医協における議論を経て、総合的に評価しているところであり、今後とも、賃金及び物価の動向、歯科医療機関の経営状況、保険財政の状況等を踏まえつつ、適切に評価してまいりたい。
九について
スケーリング及びルートプレーニングが、歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)第二条第一項の歯牙及び口腔の疾患の予防処置又は同条第二項の歯科診療の補助に該当するか否かは、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるものであり、歯科衛生士学校等においてスケーリング及びルートプレーニングに関する教育が行われることは必要であると考えている。
御指摘の指導医療官ごとの解釈の実態については承知していないが、不適切な解釈を行っている事例があれば、地方社会保険事務局等に対し、適切な解釈を周知してまいりたい。
十について
歯科衛生士は、歯科衛生士法第二条の規定により、歯牙及び口腔の疾患の予防処置、歯科診療の補助及び歯科保健指導を業とすることができるが、ある行為が歯科衛生士が行うことができるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるため、個別に列挙してお示しすることは困難である。
なお、御指摘の疑義照会に対する回答については、個別の照会に対して、当該照会内容から把握できる事実の範囲内でお答えしたものであり、歯科衛生士が行うことができる行為を個別に列挙したものではない。
十一について
厚生労働省においては、歯科疾患を予防し、口腔衛生の向上を図る観点から、歯科衛生士の果たすべき役割は重要であり、引き続き、質の高い歯科衛生士を養成し、良質かつ適切な歯科医療を提供していく必要があると考えている。なお、「歯科衛生士の業務範囲を狭めようとしている」ということはない。
また、御指摘の「時代に合わなくなっている歯科衛生士法」の意味が必ずしも明らかではないが、厚生労働省においては、現時点では、歯科衛生士法の抜本的改正が必要であるとは考えていない。
十二について
国外で作成された補てつ物等については、使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく、また、日本の歯科技工士免許を有する者が作成したものではないことが考えられることから、厚生労働省においては、「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」(平成十七年九月八日付け医政歯発第○九○八○○一号厚生労働省医政局歯科保健課長通知)により、各都道府県に対して、国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し、患者に供する場合の留意事項を示しているところである。
なお、歯科技工士が「長時間・低賃金労働を強いられている」という実態については、承知していない。
十三について
歯科診療に係る医療提供体制及び医療保険制度は国により異なっていることから、我が国の歯科診療報酬点数の水準を単純に他の国と比較することは困難であると考えている。
また、厚生労働省としては、患者一人当たりの歯科医療に要する時間や歯科診療に係る費用等の科学的データを収集し、中医協の議論を経て、適切な歯科診療報酬を設定することにより、国民に対し、良質かつ適切な歯科医療を効率的に提供する体制の確保に努めているところである。
提出回次 164回 提出番号 80
提出日 平成18年 6月14日
提出者 櫻井充君
備考
その他
転送日 平成18年 6月16日
答弁書受領日 平成18年 6月22日
質問主意書
質問第八〇号
歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成十八年六月十四日
櫻 井 充
参議院議長 扇 千 景 殿
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歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問主意書
歯科医療を取り巻く環境は、過去の診療報酬改定に伴い、その都度厳しい状況にさらされてきていたと言っても過言ではない。
特に、平成十八年度診療報酬改定においても医療全体では改定率マイナス三・一六%と示されているが、実際、歯科医療に関する部分ではマイナス一〇%程度まで達するという推計もあり、さらに悪化の一途を辿っている。今回の改定は現場を無視した非現実的なものとなっており、特に患者への各種の文書提供や明細領収書発行等により大きな混乱をもたらしている。
本来、歯科医師と患者が向き合い、会話することは問診票には表せない病歴や家族歴などが詰まっている最も大切な情報である。しかし、今回の文書提供によりその会話を行う時間や治療時間が削減され、国民に良質な歯科医療を提供するどころか歯科医療そのものが崩壊する危機的状況にあると言わざるを得ない。
そこで、以下質問する。
一 高齢者の「八〇二〇(八十歳になっても二十本以上自分の歯を保とうとする運動)」達成率が上昇すると、高齢者の医療費が大幅に減少するというデータや論文が、過去に何度も発表されている。このデータや論文を基に考えると、今回の歯科診療報酬改定は、歯牙、歯髄、歯質の保存に対して点数を下げ包括化するなど、実態として「八〇二〇」達成率を上げる方向での評価方法にはなっていない。なぜ、歯や歯髄、歯質を保存すればするほど経営を圧迫するような改定を行ったのか。政府の明確な見解を示されたい。
二 医療全体の改定率マイナス三・一六%を前提とした平成十八年度診療報酬改定における歯科医療に関する部分が、現場において全く不適切な低い評価になっており、現場に混乱をもたらしているので、二年に一度の定期的な診療報酬改定を待つことなく、緊急措置で改めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三 患者一人当たりの治療時間が明らかに短縮されるにもかかわらず、文書提供により診療内容の説明を行うことが可能であるとする根拠は何か。例えば、一日十人程度の診療であればもっと患者の話を聞いて、説明時間を増やしながら運営していくことが可能である。しかし、一日三十人以上の患者を抱えている診療所において、しかも歯科医師一人で診療を行っている場合であっても、可能な制度であると考えているのか。
四 今回の改定で保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)も改正され、歯科医師には費用ごとに区分記載した領収証の発行が義務付けられた。しかし、民法第四百八十六条では「弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。」とされ、無条件の領収証の発行義務は規定していない。領収証の発行義務を療担規則で制定できる法的根拠はどこにあるのか。
五 厚生労働省の研究班が平成十七年度に行った「医療安全に関するコスト調査」(主任研究者・今中雄一京都大学教授)では、「歯科の医療安全対策費を『患者一人一回当たり』で見ると(中略)平均値は三百五十円(中略)医科よりも重くなっている。」としている。
一方、感染防止対策費用は「再診料」の中に含まれているというのが、厚生労働省の見解であり、今回の改定ではその再診料が三十八点(三百八十円)に下がってしまい、このわずかな点数の中には、ある病名の診療継続中に罹患した別の病名の診断料などまでも含まれるとされている。
これによって、歯科医療の安全・感染防止対策は原価割れ(赤字化)の状態に陥っている。政府は、この点数で歯科において医療安全・感染防止対策を適切に行うことが可能であると考えているのか、根拠を示しつつ明確に答えられたい。また、このようなひどい状況を放置・容認するのか。
六 歯科疾患総合管理料においては、患者の署名が算定要件となっている。しかし、信頼関係が築かれていない初診もしくは数回程度の来院の患者の場合、署名を求めると不信がられたり、拒否されたりと、不必要な混乱を生じさせているのが実態である。このように署名を求めなければならない根拠は何か。
七 歯科疾患総合管理料においては、前医受診・算定の確認を現医に義務づける制度に改められた。しかし、この方法は患者が自由に医院を選択する(フリーアクセス)権利を侵害することにつながる。また、前医名について話したがらないことも度々あり、これを無理矢理聞き出すことは医学や治療の上での必要な問診行為を逸脱し、またプライバシーの権利という観点で人権上の問題がある。さらに当該医院が前医への問い合わせを行う時、その前医は問い合わせ元の身元が本当の医院なのかどうかを確認できないことが想定され、個人情報の不正取得の手段として悪用される可能性も十分考えられる。このように前医受診・算定の確認義務を現医に負わせる合理的な理由は全く見いだせないと考えられるが、政府の見解を示されたい。
八 歯科疾患総合継続指導料において、慢性疾患のみならず歯冠修復物脱離(他医院製作物を含む。)等突発的疾患も含める根拠は何か。また、あまりにも低い包括点数となっている計算根拠を示されたい。
九 歯科衛生士がスケーリングと診療補助としてのルートプレーニングを行うことができる根拠は、歯科衛生士法第二条第一項及び第二項であるとされている。しかし、都道府県の指導医療官ごとの解釈では歯科衛生士がスケーリングとルートプレーニングを行うことができるか否かについての見解が統一されていない。
このことにより、歯科衛生士がスケーリング及びルートプレーニングを行うことは、ある県では合法であるが、他県では違法であるというような実態になっているが、政府はこのことを認識しているか。例えば、スケーリング及びルートプレーニングが違法行為とされている県の場合、歯科衛生士学校等において教授している内容(スケーリング等の方法)を臨床現場で実践することができない上、歯科衛生士法第二条第一項及び第二項の規定も無視することになるが、これについて政府の見解を示されたい。
十 現在の歯科衛生士が行うことのできる行為について、過去に出された歯科衛生士の業務範囲についての疑義照会に対する厚生省(当時)の回答(昭和四十一年八月十五日付歯第二三号)のように、個別列挙で示されたい。なお、答弁に当たっては、昭和四十一年当時の回答から変化はないという趣旨ではなく、昭和四十一年以降の諸事情を考慮して、現状に適合した明確なものを示されたい。
十一 歯科衛生士の役割はますます重要なものとなっているが、政府は、歯科衛生士の業務についてどのような展望を持っているのか。歯科衛生士の業務範囲を狭めようとしているのか。
また、時代に合わなくなっている歯科衛生士法の抜本的改正も行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
十二 歯科診療報酬の低下や使用金属の高騰等により、歯科技工士を取り巻く環境の悪化に拍車がかかり、実態として彼らは長時間・低賃金労働を強いられている。また、安価で低質な海外の技工物を使用することによる国内の歯科技工技術の空洞化等も懸念されている。政府は、これらの緊急事態に対してどのような対応を予定しているのか。
十三 大学や日本歯科医師会における研究・調査によれば、日本の歯科医療は先進諸外国と同程度の水準でありながら、その診療報酬の金額は先進諸外国の約十分の一程度となっている。これでは日本の診療報酬の金額はあまりに安いのではないか。
また、各国で事情が異なることは理解できるが、政府は日本の歯科医療をどの程度のレベルにすることを求めているのか。歯科診療報酬や患者一人にかかる治療時間を含めて、見解を示されたい。
右質問する。
答弁書第八○号
内閣参質一六四第八○号
平成十八年六月二十二日
内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎
参議院議長 扇 千 景 殿
参議院議員櫻井充君提出歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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参議院議員櫻井充君提出歯科医療に係る診療報酬点数等に関する質問に対する答弁書
一について
平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、歯牙、歯髄又は歯質の保存のための歯科診療行為について、難易度、必要な時間等を総合的に勘案して評価の見直しを行ったところである。具体的には、歯周疾患指導管理料の引下げ、歯周外科手術の包括化等の措置を講ずる一方、根管処置及び歯冠形成に係る歯科診療報酬の引上げ、歯周疾患指導管理料に係る機械的歯面清掃加算の新設等の措置を講じたところであり、厚生労働省においては、御指摘の「歯や歯髄、歯質を保存すればするほど経営を圧迫するような改定」を行ったものではないと考えている。
二について
平成十八年度の診療報酬の改定の実施の状況については、中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)の公益を代表する委員が検証を行うこととしており、厚生労働省においては、現時点では、御指摘のような緊急措置を講ずることは考えていない。
三について
平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、患者への情報提供を促進する観点から、病状、治療計画、指導内容等について、患者に説明を行うとともに、これを文書により患者に情報提供することについて、歯科診療報酬上評価を行ったところである。厚生労働省においては、この情報提供については、保険医療機関の負担も考慮しつつ、適切な算定要件を設定していると考えている。
四について
健康保険法(大正十一年法律第七十号)第七十条第一項において、保険医療機関は、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならないこととされており、平成十八年度の診療報酬の改定に際し、この規定に基づき、保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号)第五条の二の二において、保険医療機関は、患者から費用の支払を受けるときは、正当な理由がない限り、個別の費用ごとに区分して記載した領収証を無償で交付しなければならない旨を規定したところである。
五について
厚生労働省においては、御指摘の歯科における医療安全・感染防止対策に要する費用を含め、歯科医業経営に必要な費用については、医療経済実態調査の結果を踏まえた中医協における議論を経て、歯科診療報酬において総合的に評価しているところであり、今後とも、賃金及び物価の動向、歯科医療機関の経営状況、保険財政の状況等を踏まえつつ、適切に評価してまいりたい。
六及び七について
御指摘の歯科疾患総合管理料とは、歯科疾患総合指導料のことを指すものと思われるが、平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、歯科疾患総合指導料を新設し、患者に総合的な指導を行うことについて、患者に対する十分な説明と患者の同意を確実に確認するために、患者の署名を得ることを算定要件としたところである。
また、歯科疾患総合指導料は、総合的な治療計画の立案及び継続的な指導管理を評価したものであるが、特定の期間中に、患者の一連の治療について二以上の保険医療機関が重複して治療計画の立案及び継続的な指導管理を行うことは想定していないことから、歯科疾患総合指導料を算定しようとする保険医療機関において、患者等に対して照会を行うこと等により、他の保険医療機関において歯科疾患総合指導料を算定していないことを確認することを算定要件としたところである。
八について
御指摘の歯科疾患総合継続指導料とは、歯科疾患継続指導料のことを指すものと思われるが、平成十八年度の歯科診療報酬の改定においては、当初の治療計画に基づく治療が終了した患者に対して、歯科医師が症状が安定期にあることを確認し、継続した治療の必要性を認めた場合における、継続治療計画に基づく総合的な継続指導を評価した歯科疾患継続指導料を新設したところである。
歯科疾患継続指導料は、必要に応じて症状の維持安定のために歯周基本検査、スケーリング等を行った上で口腔内すべてに係る総合的な継続指導を行うことを評価しているものであることから、御指摘の歯冠修復脱離の場合を含めた特掲診療料に係る費用は、歯周基本検査、スケーリング等に係る費用を除き、これに含まれるものとしている。なお、継続治療計画に基づかない外傷等の突発的な疾患については、当該疾患に係る処置の費用について、併せて算定できる取扱いとしているところである。
また、一般に、歯科診療報酬点数については、医療経済実態調査の結果を踏まえた中医協における議論を経て、総合的に評価しているところであり、今後とも、賃金及び物価の動向、歯科医療機関の経営状況、保険財政の状況等を踏まえつつ、適切に評価してまいりたい。
九について
スケーリング及びルートプレーニングが、歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)第二条第一項の歯牙及び口腔の疾患の予防処置又は同条第二項の歯科診療の補助に該当するか否かは、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるものであり、歯科衛生士学校等においてスケーリング及びルートプレーニングに関する教育が行われることは必要であると考えている。
御指摘の指導医療官ごとの解釈の実態については承知していないが、不適切な解釈を行っている事例があれば、地方社会保険事務局等に対し、適切な解釈を周知してまいりたい。
十について
歯科衛生士は、歯科衛生士法第二条の規定により、歯牙及び口腔の疾患の予防処置、歯科診療の補助及び歯科保健指導を業とすることができるが、ある行為が歯科衛生士が行うことができるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるため、個別に列挙してお示しすることは困難である。
なお、御指摘の疑義照会に対する回答については、個別の照会に対して、当該照会内容から把握できる事実の範囲内でお答えしたものであり、歯科衛生士が行うことができる行為を個別に列挙したものではない。
十一について
厚生労働省においては、歯科疾患を予防し、口腔衛生の向上を図る観点から、歯科衛生士の果たすべき役割は重要であり、引き続き、質の高い歯科衛生士を養成し、良質かつ適切な歯科医療を提供していく必要があると考えている。なお、「歯科衛生士の業務範囲を狭めようとしている」ということはない。
また、御指摘の「時代に合わなくなっている歯科衛生士法」の意味が必ずしも明らかではないが、厚生労働省においては、現時点では、歯科衛生士法の抜本的改正が必要であるとは考えていない。
十二について
国外で作成された補てつ物等については、使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく、また、日本の歯科技工士免許を有する者が作成したものではないことが考えられることから、厚生労働省においては、「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」(平成十七年九月八日付け医政歯発第○九○八○○一号厚生労働省医政局歯科保健課長通知)により、各都道府県に対して、国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し、患者に供する場合の留意事項を示しているところである。
なお、歯科技工士が「長時間・低賃金労働を強いられている」という実態については、承知していない。
十三について
歯科診療に係る医療提供体制及び医療保険制度は国により異なっていることから、我が国の歯科診療報酬点数の水準を単純に他の国と比較することは困難であると考えている。
また、厚生労働省としては、患者一人当たりの歯科医療に要する時間や歯科診療に係る費用等の科学的データを収集し、中医協の議論を経て、適切な歯科診療報酬を設定することにより、国民に対し、良質かつ適切な歯科医療を効率的に提供する体制の確保に努めているところである。