アジアの医療の産業化の動向から日本の医療の明日を考察, 2012/9/24
By 歯職人
タイトルは「医療が日本の主力商品となる 」とあるが、著者の本意とはやや離れているのではないだろうか。
著者の真野俊樹氏は、世界の医療提供体制の歴史を振り返り、更に著しい発展を遂げる西南アジアから東南アジアの病院企業・医療産業の動向から、日本の医療の発展の方向性を探る。
いわゆる「国民皆保険制」の「縛り」から自由な国々の現時点における動向の紹介に多くのページが割かれている。国としての経済発展を背景に、財閥等の集積した資本をテコに、意思決定のダイナミズムが高度医療を導入した医療産業の確立を図る描写は、日本の超高齢化した社会にも似た医療経営体の動向との対比を強く印象付ける。
著者は、「医療と経済の合流点」を探りながら、「産業としての医療」と「医療にもマネジメントが必要」をキーワードに、ここ数年語られる「医療崩壊」論に対論を提出している様にも思う。
歴史と文化、国民意識を背景とする医療制度・医療提供体制の変更は容易なものではないが、人口動向と経済成長力という否応の無い力を前に日本の医療の明日を考える上で、参考となる一冊と思われる。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4799312235/ref=cm_cr_mts_prod_img
医療が日本の主力商品となる
真野俊樹
ディスカヴァ-・トゥエンティワン (2012/09 出版)
ISBN: 9784799312230
価格: ¥1,050 (税込)
著者からのメッセージ
日本の医療制度は世界的に優れたものであったし、それは多くの医療者の献身的な努力によって、世界最高水準を維持してきたものだ。しかしこれが、精神論にのみ支えられているものであってはいけない。
本書ではまず、日本の医療の欠点として何があるのかを洗い出してみたい。さらに、産業という視点で日本の医療の問題を眺めてみたい。
医療問題を、私たちの生活の一部として考えていただけたなら幸いである。
商品の説明
日本には「医は仁術」という道徳観念があるが、医師がいくら誠実にやる気を出してみても、最新の医療設備、治験制度やITインフラで遅れをとってしまっては、国内外の富裕層は、韓国やシンガポールなどの医療先進国で治療を受けるようになるだろう。国民皆保険制度という手厚い医療制度がある日本が、適切かつ競争力のある医療産業を実現するためには、経営力が必要となり、マネジメントの手法が確立されなければならない。
本書は、日本における医療と経済の合流点を見据え、医療は産業であり、商品であるという視点から、新たな成長戦略の道を探る。また、そのためには、医療側だけでなく個々人に何ができるのかも考察していく。
書籍キャッチコピー
医を仁術にとどめてはいけない。日本の医療を主幹産業とするには、どうすればいいのだろうか?
目次
はじめに
第1章 なぜ日本の医療は遅れをとったのか
日本医療の現状を見てみる
「病院」の語源としての無私の献身
皆保険制度の始まりはドイツ
日本を脱出する患者たち
老化とライフコース
高齢者の海外渡航
老後は海外で暮らしたい
医療界にもビッグバンが起こる?
脱出した人は幸せにすごしているか
文化の上に成り立つ医療制度
なぜ日本の医療は遅れをとったのか
ガラパゴス化しうる日本医療
医療の進歩は技術の進歩と並行する
医療におけるグローバル化、標準化
電器産業やIT産業で起きた孤立化
岐路に立つ製薬企業
製薬会社の思惑、医療機器産業の現実
日本は基礎医学研究ではまだ強いか?
治験を素早く行うために
ドラッグラグ、デバイスラグとは?
ラグが起こる理由とは?
新薬が市場に出るために残された課題
「制度」が国の医療を方向づける
「キュア」から「ケア」へ
第2章 混迷しながらも成長する世界の医療
皆保険導入を選ばなかった米国
米国にとっての自由という価値観
なぜ米国は医療費が高いのか?
中国の経済成長と医療の現実
中国の病院の実情
モデル村としての華西村での試み
中国医療の影
発展を続けるインドの医療
アポロ・ホスピタル・グループ
インドのクリニックと無料の病院
スウェーデンの堅牢な国民性と医療
ITを活用したスマート経営
ビスマルクに始まる社会保険制度
韓国の方向転換とシンガポールの成功
韓国の医療の背景にある財閥
日米から学んだ韓国の保険制度
医療法の改正とメディカルツーリズム
財閥系病院の現状
医師会による包括払いへの反対
医療サービスの質にシビアなシンガポール
医療保障制度と、優遇される富裕層
オープンシステムをとる民間病院
大病院と医療頭脳の輸入
マレーシアが危惧する中所得国のワナ
マレーシアの公的医療と民間医療の役割
新経済モデルとしてのメディカルツーリズム政策
マレーシア・マイ・セカンド・ホーム(MM2H)政策
第3章 日本の医療の進むべき道
産業としての医療という視点
医療の産業政策とは何か
医師はいかに産業政策と融合するか
TPPが医療におよぼす影響
医療を成長産業とする第三の道
英国のNICEとHTA
医療という労働
医療従事者のストライキ
医師の「自立」と「自律」
医療機関の「自立」と「自律」
医療にもマネジメントを!
日本の医療が迫られる改革
医療への経営学の応用の難しさ
消費者から見た評価の位置づけ
医療はプロフェッショナル・サービス
医療戦略と官僚組織
医療とIT、データ戦略
増大する公的所得再分配のウェイト
社会保険と民間保険の違い
民間保険が医療の費用を補償できるか
医療と経済の合流点を探る
今、求められる「正・徳・善」の経済学
医療者には徳の重視ができるのか
第4章 医療が生活の一部になる今、我々に何ができるのか
医療のために、一個人はどうすればいいのか
健康を考えるのは健康な時
企業がなぜ福祉に関与するようになったのか
成熟化の時代を迎えた企業福祉
第5章 生き方・死に方を考える時
高齢者とは誰のことか
社会の担い手としての高齢者
多死時代をどう乗りきるか
国民と医療者が一緒に考える
おわりに
参考文献
著者
真野俊樹
一九八七年名古屋大学医学部卒。医師、医学博士、経済学博士、日本内科学認定会専門医、MBA。臨床医を経て、一九九五年九月コーネル大学医学部研究員。
以後、製薬企業のマネジメント、大和総研主任研究員などを経て、多摩大学統合リスクマネジメント研究所教授。
同時に行政刷新会議規制・制度改革に関する分科会ライフイノベーションワーキンググループ委員、NEDO、経済産業省などの委員を行い、
現在、日本医師会病院委員会委員長、厚生労働省独立行政法人評価委員会(審議会)委員、日本小児科医会国際委員等を兼務。
By 歯職人
タイトルは「医療が日本の主力商品となる 」とあるが、著者の本意とはやや離れているのではないだろうか。
著者の真野俊樹氏は、世界の医療提供体制の歴史を振り返り、更に著しい発展を遂げる西南アジアから東南アジアの病院企業・医療産業の動向から、日本の医療の発展の方向性を探る。
いわゆる「国民皆保険制」の「縛り」から自由な国々の現時点における動向の紹介に多くのページが割かれている。国としての経済発展を背景に、財閥等の集積した資本をテコに、意思決定のダイナミズムが高度医療を導入した医療産業の確立を図る描写は、日本の超高齢化した社会にも似た医療経営体の動向との対比を強く印象付ける。
著者は、「医療と経済の合流点」を探りながら、「産業としての医療」と「医療にもマネジメントが必要」をキーワードに、ここ数年語られる「医療崩壊」論に対論を提出している様にも思う。
歴史と文化、国民意識を背景とする医療制度・医療提供体制の変更は容易なものではないが、人口動向と経済成長力という否応の無い力を前に日本の医療の明日を考える上で、参考となる一冊と思われる。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4799312235/ref=cm_cr_mts_prod_img
医療が日本の主力商品となる
真野俊樹
ディスカヴァ-・トゥエンティワン (2012/09 出版)
ISBN: 9784799312230
価格: ¥1,050 (税込)
著者からのメッセージ
日本の医療制度は世界的に優れたものであったし、それは多くの医療者の献身的な努力によって、世界最高水準を維持してきたものだ。しかしこれが、精神論にのみ支えられているものであってはいけない。
本書ではまず、日本の医療の欠点として何があるのかを洗い出してみたい。さらに、産業という視点で日本の医療の問題を眺めてみたい。
医療問題を、私たちの生活の一部として考えていただけたなら幸いである。
商品の説明
日本には「医は仁術」という道徳観念があるが、医師がいくら誠実にやる気を出してみても、最新の医療設備、治験制度やITインフラで遅れをとってしまっては、国内外の富裕層は、韓国やシンガポールなどの医療先進国で治療を受けるようになるだろう。国民皆保険制度という手厚い医療制度がある日本が、適切かつ競争力のある医療産業を実現するためには、経営力が必要となり、マネジメントの手法が確立されなければならない。
本書は、日本における医療と経済の合流点を見据え、医療は産業であり、商品であるという視点から、新たな成長戦略の道を探る。また、そのためには、医療側だけでなく個々人に何ができるのかも考察していく。
書籍キャッチコピー
医を仁術にとどめてはいけない。日本の医療を主幹産業とするには、どうすればいいのだろうか?
目次
はじめに
第1章 なぜ日本の医療は遅れをとったのか
日本医療の現状を見てみる
「病院」の語源としての無私の献身
皆保険制度の始まりはドイツ
日本を脱出する患者たち
老化とライフコース
高齢者の海外渡航
老後は海外で暮らしたい
医療界にもビッグバンが起こる?
脱出した人は幸せにすごしているか
文化の上に成り立つ医療制度
なぜ日本の医療は遅れをとったのか
ガラパゴス化しうる日本医療
医療の進歩は技術の進歩と並行する
医療におけるグローバル化、標準化
電器産業やIT産業で起きた孤立化
岐路に立つ製薬企業
製薬会社の思惑、医療機器産業の現実
日本は基礎医学研究ではまだ強いか?
治験を素早く行うために
ドラッグラグ、デバイスラグとは?
ラグが起こる理由とは?
新薬が市場に出るために残された課題
「制度」が国の医療を方向づける
「キュア」から「ケア」へ
第2章 混迷しながらも成長する世界の医療
皆保険導入を選ばなかった米国
米国にとっての自由という価値観
なぜ米国は医療費が高いのか?
中国の経済成長と医療の現実
中国の病院の実情
モデル村としての華西村での試み
中国医療の影
発展を続けるインドの医療
アポロ・ホスピタル・グループ
インドのクリニックと無料の病院
スウェーデンの堅牢な国民性と医療
ITを活用したスマート経営
ビスマルクに始まる社会保険制度
韓国の方向転換とシンガポールの成功
韓国の医療の背景にある財閥
日米から学んだ韓国の保険制度
医療法の改正とメディカルツーリズム
財閥系病院の現状
医師会による包括払いへの反対
医療サービスの質にシビアなシンガポール
医療保障制度と、優遇される富裕層
オープンシステムをとる民間病院
大病院と医療頭脳の輸入
マレーシアが危惧する中所得国のワナ
マレーシアの公的医療と民間医療の役割
新経済モデルとしてのメディカルツーリズム政策
マレーシア・マイ・セカンド・ホーム(MM2H)政策
第3章 日本の医療の進むべき道
産業としての医療という視点
医療の産業政策とは何か
医師はいかに産業政策と融合するか
TPPが医療におよぼす影響
医療を成長産業とする第三の道
英国のNICEとHTA
医療という労働
医療従事者のストライキ
医師の「自立」と「自律」
医療機関の「自立」と「自律」
医療にもマネジメントを!
日本の医療が迫られる改革
医療への経営学の応用の難しさ
消費者から見た評価の位置づけ
医療はプロフェッショナル・サービス
医療戦略と官僚組織
医療とIT、データ戦略
増大する公的所得再分配のウェイト
社会保険と民間保険の違い
民間保険が医療の費用を補償できるか
医療と経済の合流点を探る
今、求められる「正・徳・善」の経済学
医療者には徳の重視ができるのか
第4章 医療が生活の一部になる今、我々に何ができるのか
医療のために、一個人はどうすればいいのか
健康を考えるのは健康な時
企業がなぜ福祉に関与するようになったのか
成熟化の時代を迎えた企業福祉
第5章 生き方・死に方を考える時
高齢者とは誰のことか
社会の担い手としての高齢者
多死時代をどう乗りきるか
国民と医療者が一緒に考える
おわりに
参考文献
著者
真野俊樹
一九八七年名古屋大学医学部卒。医師、医学博士、経済学博士、日本内科学認定会専門医、MBA。臨床医を経て、一九九五年九月コーネル大学医学部研究員。
以後、製薬企業のマネジメント、大和総研主任研究員などを経て、多摩大学統合リスクマネジメント研究所教授。
同時に行政刷新会議規制・制度改革に関する分科会ライフイノベーションワーキンググループ委員、NEDO、経済産業省などの委員を行い、
現在、日本医師会病院委員会委員長、厚生労働省独立行政法人評価委員会(審議会)委員、日本小児科医会国際委員等を兼務。