歯科技工管理学研究

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歯科技工士・岩澤 毅

岩澤毅 桜井充参議院議員「歯科技工士の技工料の決定方法に関する質問主意書」

2005年03月30日 | ごまめ・Dental Today
ごまめ34号原稿03

桜井充参議院議員「歯科技工士の技工料の決定方法に関する質問主意書」及び小泉内
閣「同答弁書」の研究

岩澤 毅(秋田市)

1.はじめに

 昭和63年5月30日付け大臣告示「おおむね7対3」を研究する上で、重要な資料とな
るのが桜井質問主意書と小泉内閣答弁書です。

 まず前提として質問主意書と内閣答弁書の役割を確認する必要があります。



2.前提

■ 「質問主意書」とは?
国会法に基づいて国会議員が会期中に国政一般について文書で内閣に質問をするもの
です。
国会法 第八章 質問
第七十四条 各議院の議員が、内閣に質問しようとするときは、議長の承認を要す
る。
2 質問は、簡明な主意書を作り、これを議長に提出しなければならない。
3 議長の承認しなかつた質問について、その議員から異議を申し立てたときは、議
長は、討論を用いないで、議院に諮らなければならない。
4 議長又は議院の承認しなかつた質問について、その議員から要求があつたとき
は、議長は、その主意書を会議録に掲載する。
第七十五条 議長又は議院の承認した質問については、議長がその主意書を内閣に転
送する。
2 内閣は、質問主意書を受け取った日から七日以内に答弁をしなければならない。
その期間内に答弁をすることができないときは、その理由及び答弁をすることができ
る期限を明示することを要する。

■ 「答弁書」とは?

http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/kakugi-2002031910.htmlから

[閣議案件のバックナンバー] 

287 平成14年03月19日(火)

参議院議員櫻井充(民主)提出歯科技工士の技工料の決定方法に関する質問に対する
答弁書については、国会提出案件に分類されている。

「国会提出案件」とは、法律に基づき内閣として国会に提出・報告するもの



首相官邸HPによれば

http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/index.html

注:閣議案件の区分は次のとおりです。

「一般案件」とは、国政に関する基本的重要事項等であって、内閣として意思決定を
行うことが必要なもの
「国会提出案件」とは、法律に基づき内閣として国会に提出・報告するもの
「法律・条約の公布」とは、国会で成立した法律又は締結された条約を憲法第7条に
基づき公布のための内閣の助言と承認を行うもの
「法律案」とは、内閣提出法律案を立案し、国会に提出するもの
「政令」とは、政令(内閣の制定する命令)を決定し、憲法第7条に基づき公布のた
めの内閣の助言と承認を行うもの
「報告」とは、国政に関する主要な調査の結果の発表、各種審議会の答申等閣議に報
告することが適当と認められるもの
「配布」とは、閣議席上に資料を配布するもの

内閣法
第五条 内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国
会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。
第六条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督
する。



この段階で、厚生大臣告示と内閣答弁書の行政上の位置の違いを理解する必要がある
と思います。端的に言えば、内閣答弁書により重みがある場合があると思われます。



3.内容

 桜井議員が如何なる経過で「歯科技工料」問題に関心を持ったかに関しては不知で
あるが、質問主意書を読むことで議員に対する資料提供者・問題提起者の考え(説明
内容)を推測ことができると考えます。

・ 大臣告示を、歯科医師と歯科技工士の「配分」と理解している

・ 大臣告示は、歯科技工士と歯科医師が、社会保険歯科診療報酬を、おおむね
七対三の割合で分けることが記されていると理解している

・ 歯冠修復及び欠損補綴料を、「技工料」と理解している

・ 現場では、この告示は守られていないと理解している

・ この告示は、(「技工料」としての)法的拘束力を持つべきと理解している
 



対して小泉内閣答弁書(少なくとも厚生労働省・事務次官会議、更には内閣法制局が
事前に了承していると思われる)は、以下を前提としている。

・ 「健康保険法に規定する療養に要する費用の額の算定方法」と、大臣告示の
根拠法を明らかにし

・ 「算定告示は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十三条ノ九第二
項に基づき、保険医療機関等が療養の給付に関し保険者に請求できる費用の額の算定
方法を定めるものであり」と、保険医療機関等と保険者の二者関係(正しくは窓口で
一部負担金を支払う被保険者を含む三者関係と思われる)と示す

・ 「保険医療機関等が補綴物等の製作技工等を委託する際の委託費の額を拘束
するものではない」と、保険医療機関等が補綴物等の製作技工等を委託する際の対価
を「委託費」と規定している

・ 「委託費の額を拘束するものではない」と、補綴物等の製作技工等を委託す
る際の対価への非拘束を明らかにする

・ 「歯冠修復及び欠損補綴料については、歯科医業の経営の実態、歯科医療技
術の進歩を踏まえて適切に設定しているところである。」と、行政の権能を示してい
る(誇示している)



4.分析

 桜井議員の善意によって、歯科技工料問題が質問主意書の提出という形で国政上に
浮上したことは大変ありがたく、関係者のご努力には、幾重にも感謝するものです。

 しかしながら、資料提供者・問題提起者の健康保険法(算定告示)に対する誤解
が、質問主意書に影響していると考えます(健康保険法、算定告示、7:3、技工料理
解等)。

 私がここで注目するのは、行政側の体質です。行政(この場合厚生労働省)は、自
分に降りかかる火の粉は払いながら、抜け目無く自己宣伝し自己存在を示し、尚且つ
議員に対しては最低限の知識しか与えない事を良しとし、現状(自己の政策)を肯定
することを第一としていると思えるのです。

・ 「なお、平成十四年度の診療報酬の改定においては、義歯等の製作に関する
診療報酬の引き上げを行うこととしている。」⇒自己宣伝

・ 「現行の診療報酬体系においては、補綴物等の製作管理及び製作技工は相互
に密接する一連の行為であるため、一体的に評価することが適切であると考えてい
る。」⇒自己肯定。行政は常に正しい



5.結論

 この質問主意書と内閣答弁書の欠落部分は、何故「補綴物等の製作技工の委託を円
滑に実施する観点から、製作技工に要する費用と製作管理に要する費用の標準的な割
合を示し」す必要があったのか?「通則」の5は、何を意味しているかです。

 質問主意書のタイトルを、「歯科技工士の技工料の決定方法」とした時点で、健康
保険法と算定告示が直接形作る制度範囲からの逸脱は、明らかだったと思います。

 なお、このタイトルの選択が、「歯科技工士の技工料の決定方法」を国政上の課題
とし押し上げ、現状を解明するための一手法として敢えて選択したものであれば、こ
れもまた方法と思います。



6.雑感

 この桜井議員の質問主意書と内閣答弁書、更に第154国会・第155国会 衆議院厚生
労働委員会の金田誠一議員の歯科技工に関わる部分の議事録を読むと、行政・官僚の
国会議員に対する態度に以下の感想を持ちます。

・議員に知識を与えない官僚の行動原則。

⇒与党議員の場合、法案の通過のためには、協力が必要であるが、政治家に官僚利権
に介入される恐れがあるため、議員には知識を与えない。

⇒野党議員の場合、国政と官僚の裁量部分に介入させないため議員には知識を与えな
い。



 道路公団・社会保険庁に関わるマスコミ報道と合わせて考えると、行政・官僚の体
質のなかに「議員に知識を与えない官僚の行動原則」があるものと疑いを持ちます。

 また、一部歯科技工士の健康保険法の無理解。ことに診療報酬点数制度と通則の曲
解、あえて言えば空想論的願望系解釈は、法制定半世紀の歴史を誇る職業人として残
念でなりません。

 「通則」理解のために、「通則」全文の通読と、更には健康保険法の考察が必要と
考えます。



「子曰、民可使由之、不可使知之 子の曰わく、民はこれに由らしむべし。これを知
らしむべからず。」(論語-泰伯第八の九)を超えて

「そして、あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする」(ヨハネによ
る福音書 第8章32節)

2005.03.30記

 参考

http://www.dr-sakurai.jp/03/q-h140219.htm

■歯科技工士の技工料の決定方法に関する質問主意書
(平成14年2月19日)


 医療保険制度改革が叫ばれ、国民医療費の抑制と患者負担の増加が求められ
ている。特に国民医療費の抑制に関しては、歯科医療の推進が効果的であることが指
摘され始めている。
  すなわち、噛合わせの改善によって寝たきり高齢者の身体機能が回復した
り、痴呆症状が改善したりと、歯科医療の推進が国民医療費の削減につながるのであ
る。このような観点から、今後我が国において、歯科医療を重視することが非常に重
要であると考えている。
  例えば、歯科医療物(補てつ綴物)の製作の分野では、良質な歯科医療物
の提供のために、現在の歯科技工士の厳しい労働条件を改善することが必要条件であ
る。

 そこで、以下質問する。

一 昭和六十三年五月三十日に告示された「健康保険法の規定による療養に要
する費用の額の算定方法の一部を改正する件(厚生省告示第百六十五号)」におい
て、歯冠修復及び欠損補綴料(以下「技工料」という。)は、歯科技工士と歯科医師
が、おおむね七対三の割合で分けることが記されている。しかし現場では、この告示
は余り守られていないばかりではなく、法的拘束力も持っていない。この告示は、な
ぜ法的拘束力を持たないのか、その理由を明らかにされたい。

二 このような現状を招いたのは、そもそも技工料が低いからだと思われる。
なぜなら、患者の自己負担増による歯科患者の減少と現在の不況があいまって、歯科
医師は厳しい経営を強いられており、技工料の取決めを守れないような状況に追い込
まれているからである。よって、この告示に実効力を持たせるためには、技工料その
ものを見直すことが重要であると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 今後は、明確な役割分担に基づくチーム医療を進めるため、歯科医師、歯
科衛生士及び歯科技工士などの歯科関係者がそれぞれ自立することが重要である。そ
の意味では、技工料が歯科の枠内で設定されている現状は、歯科医師と歯科技工士の
間に実質的な上下関係を形成してしまうため、適切でないと言える。よって、今後は
技工料を歯科医師と明確に分離すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

■歯科技工士の技工料の決定方法に関する質問に対する答弁書


一について
 健康保険法に規定する療養に要する費用の額の算定方法(平成六年三月十六
日厚生省告示第五十四号。以下「算定告示」という。)別表第二第二章第十二部通則
においては、歯冠修復及び欠損補綴料に含まれる費用のうち、補綴物等の製作技工に
要する費用の割合はおおむね七割であり、補綴物等の製作管理に要する費用の割合は
おおむね三割である旨を記載しているが、これは、補綴物等の製作技工の委託を円滑
に実施する観点から、製作技工に要する費用と製作管理に要する費用の標準的な割合
を示したものである。
 しかしながら、算定告示は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十
三条ノ九第二項に基づき、保険医療機関等が療養の給付に関し保険者に請求できる費
用の額の算定方法を定めるものであり、保険医療機関等が補綴物等の製作技工等を委
託する際の委託費の額を拘束するものではない。

二について
 歯冠修復及び欠損補綴料については、歯科医業の経営の実態、歯科医療技術
の進歩を踏まえて適切に設定しているところである。なお、平成十四年度の診療報酬
の改定においては、義歯等の製作に関する診療報酬の引き上げを行うこととしてい
る。

三について
 診療報酬体系については、今後、医療保険制度等の改革の中で見直しを行う
こととしているが、現行の診療報酬体系においては、補綴物等の製作管理及び製作技
工は相互に密接する一連の行為であるため、一体的に評価することが適切であると考
えている。

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