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歯科技工士・岩澤 毅

教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書) 竹内 洋 (著)

2008年09月12日 | amazon.co.jp・リストマニア
日本型教養「風」主義への鎮魂歌, 2008/9/12

By 歯職人

 かつて存在したという旧制高等学校的教養主義の発生と展開、そしてその没落を記すことにより、正に「引導を渡す」。正しく成仏させんとする試みが成功した一冊です。
 総合月刊誌『現代』等の廃刊の報道が続いているが、かつてあった総合月刊誌が必要とされる公共空間、定期購読することにより雑誌を支えた人々の生態、何を望み読者となったのか、岩波書店の『世界』の役割と刊行物、『世界』をリードした人々の個人史・成育史と『世界』にリードされた人々の群像等々まで踏み込んだに日本型教養「風」主義への鎮魂歌である。
 帝大における文科・文科大学の位置づけ、文科の学生の出身階層と彼らの前に立ちふさがった将来展望等々を、多数の統計資料を裏付けにしながら、各世代の文科出身者の叙述から、教養主義の母胎と限界を解き明かす。
 文科が決して「エリート学生」では無い逆説は、巧妙である。
 「人格の完成」との見果てぬ夢に灯火を見出した時代が確かに存在したかに思える。教養主義への愛憎の中、書籍と雑誌を仮想として必要とした時代の終わりの鐘を鳴らす一冊です。
 新たな時代の教養の指針は、今だ存在しない。しかし、それは喜ばしいことだろう。教養が必要とされるものならば、必ずや新たな指針は築かれるのだから。

(キョウヨウシュギノボツラクカワリユクエリートガクセイブンカチュウコウシンショ )
中公新書
教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化
ISBN:9784121017048 (4121017048)
278p 18cm
中央公論新社 (2003-07-25出版)

・竹内 洋【著】
[新書 判] NDC分類:377.9 販売価:819(税込) (本体価:780)

一九七〇年前後まで、教養主義はキャンパスの規範文化であった。
それは、そのまま社会人になったあとまで、常識としてゆきわたっていた。
人格形成や社会改良のための読書による教養主義は、なぜ学生たちを魅了したのだろうか。
本書は、大正時代の旧制高校を発祥地として、その後の半世紀間、日本の大学に君臨した教養主義と教養主義者の輝ける実態と、その後の没落過程に光を当てる試みである。

序章 教養主義が輝いたとき
1章 エリート学生文化のうねり
2章 五〇年代キャンパス文化と石原慎太郎
3章 帝大文学士とノルマリアン
4章 岩波書店という文化装置
5章 文化戦略と覇権
終章 アンティ・クライマックス

新聞書評
中公新書
教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化

教養主義の没落 竹内洋著

豊かな読書 裏に劣等感

 最近の若い人はまともな本を読まない、読むのはマンガとハウ・ツー物ばかり……。まあその通りかもしれないが、昔の人はなぜあんなにりっぱな本ばかり読んでいたのか。著者はそんな疑問に実にあざやかな答えを示す。
 昭和10年代の大学生の2~3割は『中央公論』などの総合雑誌を購読していたとか、昭和30年の京大生の7割はゲーテの『若きウェルテル』を読んでいたとか。なるほど今とは大違いだが、著者の鋭い視線はそのさらに先をえぐる。昔の豊かな読書をささえてきたのは、本を読めばりっぱな人になれるという教養主義であるが、その舞台裏には気持ちの悪いものが流れていた。
 例えば、大正期以降、ほぼ10年おきに本の流行が右顧左眄(さべん)する無節操さ。教養の核をになう文学部生が、経済的にも出身階層でも法学部や工学部より下で、劣等感や被害者意識をぬぐいきれない2流のエリートでしかなかったこと。そういう格差感覚を商売のタネにする出版社文化。妙にうすっぺらで、うわすべりなのだ。
 そんな貧乏くささへの反発が教養主義の破壊者、石原慎太郎のカッコよさをうんだともいえるが、それも石原家の、いわば貧しさの遠い記憶に対する反抗ではなかったかと著者は示唆する。この辺の切り込みは特に見事で、教養主義崩壊にいたる道筋も説得的である。
 ただ一つ気になった。私も地方出身の文学部生だったから、劣等感や被害者意識もよくわかるが、それは好きなことを職業にできる後ろめたさでもあったように思う。本が好き、読むのが楽しい。他にもいろいろ読む理由はあるが、読書の核心はやはりそこで、教養主義の貧しさも結局それを忘れたからではないか。人格形成だのヴァイタリズムだのいう以前に、楽しいから本を読むんだよと誰も素直にいえなかった。そこに私は教養のみならず、日本の貧しさの根源を見る思いがした。

評者・佐藤俊樹(東京大学助教授) / 読売新聞 2003.09.07

竹内洋[タケウチヨウ]
1942年(昭和17)、新潟県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。京都大学大学院教育学研究科教授を経て、関西大学文学部教授、京都大学名誉教授。96年に『日本のメリトクラシー』(東京大学出版会)で第三九回日経経済図書文化賞を受賞。歴史社会学・教育社会学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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