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歯科技工士・岩澤 毅

鹿島俊雄君 [057/057] 26 - 参 - 社会労働委員会公聴会 - 1号

1957年03月25日 | 国会議事録
[057/057] 26 - 参 - 社会労働委員会公聴会 - 1号
昭和32年03月25日

○委員長(千葉信君) ただいまから社会労働委員会公聴会を開会いたします。
 委員会を代表して、公述人の各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 皆様にはお忙しいところ御出席下さいまして、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。御承知の通り、当委員会におきましては、目下健康保険法の一部を改正する法律案の審査中でございまして、その審査に資するために、本日公聴会を開きまして、広く各方面の御意見を拝聴することとなった次第でございます。この際、それぞれのお立場から、隔意ない御意見を御発表いただきまして、公聴会を開きました趣旨を貫きたいと存ずる次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、これより公述人の御意見をお述べ願うのでありますが、時間の都合もございますので、公述人お一人の御意見発表時間は約二十分以内とし、後刻委員の質問にお答え願うことにいたしたいと存じます。この点あらかじめ御了承をお願いいたします。
 次に、委員各位にお諮りいたします。時間の都合上・午前中の公述人の意見発表が全部終了しましてから御質疑を願うことにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○委員長(千葉信君) 御異議ないと認めます。
 それでは、東京歯科大学付属市川病院顧問鹿島俊雄さんからお願いいたします。

○公述人(鹿島俊雄君) 私は東京歯科大学の評議員並びに付属市川病院の顧問であります。病院関係を統括指導もいたしておりまして、この角度から私は公述をいたします。
 今回の御審議中になっております健康保険法あるいは関係諸法の一部改正に対しまして、われわれ医育機関の関係ある立場の者といたしましても、今回の改正案につきましては反対の意思表示をせざるを得ないわけであります。その理由といたしまして御承知のごとく、全国の医師、歯科医師諸君も今回のこの法律案の改正に関しましては、すべてこれに対して反対の意思を表しております。われわれも立場上、これを見ました場合に、この考え方あるいは反対の理由はまごとにうなずけるものがあるのであります。その理由といたしましては、現在の社会保険機構というものは非常に何と申しまするか、不合理性の蓄積ともいうべき点が多いのであります。創立当初の健康保険法の精神は次第に没却せられまして、最近においては、長期療養給付がその大きな幅を占めるというような段階に達しておりまして、従いまして、目的の短期疾病の療養というものにつきましては、はなはだ欠けるところが多いのであります。また、一面に経済上の理由あるいは多年の何と申しまするか、不合理性の蓄積によりまして著しく医療担当者側に犠牲が課せられておる。かようなことが放置せられておるといっても過言でないと考えられます。従いまして、これらの総合的な改革を行うことによって初めて政府の企図せられるような社会保険機構の改善ができるものと確信いたしておるものでありまして、これらの点を放置して、糊塗的な改革が行われる、しかも今回の改正法律案を見ますると、多分に医療担当者側に対しまする圧力あるいは医師、歯科医師といたしましての立場の最も重要である人格というものも多くじゅうりんせられるというようなきらいがあるのであります。また、一面には医療内容の低下を来たすような面がどうもあることが看取せられるのでありまして、これらの点を具体的に二、三列挙してみますると、まず、最近におきまして発生しておりまする健康保険の経済上におきます赤字、これらは当然国が医療保障の一環といたしまして、この健康保険経済に対しては当然定率の国庫負担をなすべきである、かようなことが医療給付の中に何ら行われておらない。かようなことをまず行うことが義務であり、先決であると私は信ずるものであります。これらがまず放置せられておる。続いて、単価等の問題でありまするが、これまた、昭和二十六年以来六年間以上にわたってこれが放置せられたままになっております。あらゆる角度からこれを考えまして、はなはだ不合理と言わざるを得ないのでありまして、これでは完全な医療が安んじて医療担当者において行い得ないということに尽きるかと考えるのであります。とにかく、これらの医療担当者の犠牲において今日までやってきておる、経済の一部を医療担当者の犠牲においてまかなっておるといっても過言でないのであります。また、医療内容の問題について申し上げますると、少くとも歯科医療に関しては、現在治療回数に制限があるのであります。少くとも医療の実態から見まして、治療の回数に制限があるということは当然考えられないのでありまして、世界各国から見ましても、はなはだこれは奇怪なことであるというようなそしりまで受けております。私はアジア歯科会議の副議長も勤めておりまするが、東南アジア圏におきましてもかような話を申し上げますると、はなはだおかしいということを皆申しております。少くとも列強に伍しまして発達いたしました日本の歯科医学の医療の面におきまして、治療回数の制限がある、疾病に対して治療回数の制限を行うということは当然考えられないことであります。現在歯科治療におきましては、大体根管等の治療に関しては五回を限度とする、特別の場合に七回を認める、従って、それ以上の診療を行いました場合には、当然担当歯科医師の犠牲によるものでありまして、診療のいわゆる請求権を放棄しておるのであります。かようなことが長い間行われております。かようなことによって完全な治療が果して行い得るかどうか。また、これをわれわれ医療人の立場から見ますと、回数制限があるという建前からこの診療を打ち切るということはできないのでありまして、はなはだしき場合には十回、二十回にわたって治療が行われる、これも大きな犠牲であります。かようなことは特に大学等の医育機関におきましては、特に学生の指導あるいは高度の医学の実施の殿堂といたしましてはまことに不合理を痛感するところでありまして、大学等におきましては、はなはだしい場合、三十回、四十回の治療を行い、そうして完全な治療をするという方針をとっております建前から、かような制限診療ということは大きな問題であろうと考えております。
 続いて、保険医の個人差の問題でありますが、現在学校で試験を通りました新しい開業医担当者も、二十年、三十年の経験を有します老練家も同じである。しかも、大学等におきましても、相当の権威ある教授級が診療を行なっても単価が同じである、かようなことは、実際今後保険医としましての立場から申しましても、勉強する意欲もなくなってくる。ひいては何と申しますか、医療の低下、日進月歩に進歩いたします歯科技術についていけないというような現象も招来するのでありまして、この点何といたしましても個人差をまず認めるというような線が痛切に感ぜられる次第であります。
 続いて、大学等におきまする医育関係の建前上、現在歯科の補綴に関しては特異な面がございます。というのは、歯科の補綴に関します特異な点と申しますのは、資材の性質によって多少この補綴の実質内容が変ってくる。この辺を簡単に申し上げますと、銀、金パラジゥム合金、金というような歯科金属がございますが、これらの金属の使用差によって内容も少し変ってくる。しかしながら、大体補綴の目的は達し得るものでありますが、高度の歯科補綴の要求する点は、何といたしましても物理化学的に完全な性状を持っております金を使用することが最も理想的である、また、かようなことが本体であります。また、これが大学教育の本質であります。従いまして、かような面も何とか調整をしていただかなければならぬ。そうでありませんと、大学院の設置までに至ります歯科医学の教育の進歩に対しましても何らついていけない。将来、皆保険というようなことが前提となります現代におきましては、特にこの点を深く考えなければいけない。そこでこの際、歯科の補綴に関しましては、差額徴収をどうしても認めていただかなければならぬ。この点につきましては、社会保障制度審議会等におきましても、歯科の補綴に関しては差額徴収を認めるべきであるというような答申すらなされておるのであります。これによって、高度の歯科医学技術が施し得る。また、差額徴収の実施は決して患者に対する強制でございません。これは被保険者の選択によるものでありますので、何らこれを実施いたしましても弊害はないと存ずるのであります。現在の被保険者層を見ますと、給仕さんから大会社の社長さんまでがこの被保険者の対象になっておる。従って、ある意味におきまして、この差額徴収を認めることは、被保険者の受診権の自由を認めるという形にもなり、また、一方におきましては、いわゆる高度の歯科技術が実施し得る道が開けるのでありまして、この点特に歯科の補綴に関しましては、差額徴収を認められなければならぬ、かように考えるわけであります。この点は大学等の医育機関は特にこれを要求し、私も顧問といたしまして日常これを特に痛感するところのものであります。
 次に、現在の監査、検査等の状況でありますが、大学等におきましても随時、監査、検査を行う。また、現在の方式で何らわれわれは欠陥がないと信じております。しかるに、今回この検査権、監査権を非常に強化して、場合によっては出頭に応じない、あるいは質問に応じない場合は指定を取り消すというようなことすら考えられておられます。かようなことは、将来学校を巣立ちまして保険医として立つ学生に対しまする立場から見ましても、非常に歯科医師を容疑者的な立場にどうも置かれるような気分が濃厚でありまして、さようなことは非常に重大であります。従って、われわれの人格を主体といたしまする歯科医師にとってはこれは非常な屈辱である、かような事柄につきましては、歯科医師の人格を信じ、その自主性にまつものを多く認めていただかなければならぬ、かように考えるわけであります。従って、これをより一そう強化するというようなことは、将来の運営上何らプラスの線を招来せられないのではないかということを申し上げた次第でございます。
 そのほか、現行の単価の低さの問題であるとか、いろいろ欠陥がございます。しかも、そのほかに点数の問題になって参りますと、非常にアンバランスな点がありまして、特に歯科医師に関しましては、一般医科に対し非常に低率な線にこの点数が置かれております。大体平均的に概略申しますと、一般医療に比較いたしまして、歯科医師は大体平均三〇%程度低いということがはっきりいたしております。厚生省の過般発表いたしました新医療費体系実施に伴いまする案としての際の資料に、これがはっきりと出ておるのでございます。さような事柄も大いに考えていただきませんと、完全な医術教育もできない。被保険者を主体といたしまする関係上これに支障を生ずるのであります。参考にこの点数について申し上げますと、これは引例のはなはだ不適当な線かとも考えられますが、獣医師諸君の現行の点数を調べてみますと、要するに、馬等の場合、皮下注射を行いますると八点である。先般厚生省の新医療費体系の実施に伴いまする考え方を見ますると、われわれの場合は一点である。馬が八点で人間は一点であるというような、はなはだ不合理な線が現われております。これは獣医師諸君といたしましても、おそらく現行点数においても、なおかつ賛成しておられぬだろうと、かように考えております。かような獣医師、歯科医師の大きな開きのあることについては多少の議論もあろうと思いますが、少くとも注射の技術においては、馬であろうと人間であろうと、実態はかわらない、この点が技術上どうしてそういう差があるのかということも大きな一つの矛盾の現われでありまして、こういうことも十分各委員におかれまして御認識をいただきたい。抜歯等に例をとってみますと、われわれの場合におきましては、先般の発表では大体十点を厚生省は考えておる、馬の場合は三十二点であるというふうに言うのでありまして、かようなことも大きな点数構成上の不合理を露呈しておる。まあ、この監督官庁の所管が違うということはわかっておりますが、かようなことも大いに不満とするところであります。そこで、今回実施せられます一部負担のいわゆる拡大徴収、増大徴収等につきまして申し上げますと、とにかくわれわれの歯科医師に関係のあるものとしては、早期治療ということが最も重大であるのであります。初診時における負担率の増大によって、あるいは一部の受診率の低下を来たす、支払いの不可能というような階層が現にあるということははっきりいたしております。どうもおおい得ない事実であります。かような場合が起りました場合には、当然早期診療というものが妨げられまして、これは将来逆に社会保険経済の上にあるいは大きな赤字を発生させるものではないか、いわゆる歯科治療におきましては、特に早期治療というものは非常に治療効果が上るものでありまして、この点から考えましてもこれは逆行である。また、この一部負担の徴収は、医療担当者に対しまする保険料の代理取り立てと言っても過言ではないのであります。われわれが代理取り立てをする、一部の誤まった世論によりますると、この百円――今回の案でありまする百円が医師、歯科医師に対する特別のこれは何と申しまするか、収入になるというような誤まりさえ伝えられております。この点ははなはだ遺憾でありまして、われわれは代理取り立てをさせられる。しかももし、この徴収が不能の場合には、われわれの負担となってかかってくるものであります。また一部に、もしこの百円の受診時におきまする負担がし得ない患者があった場合にこれをどうするか。この場合は、これを診療いたしますと担当規程違反になるのであります。しかし、われわれ医療人といたましては、この場合に被保険老の立場を考えてみますと、この負担がし得ないという理由によって診療を拒否し得るものかどうか。今のところ、拒否しなければ担当規程違反である。かようなことははなはだ不合理であります。われわれといたしましては、勢いこの場合は診療をして差し上げなければならぬ。また、被保険者は一面受診権を持つものでありまして、この点も大きな不合理性をはらむものであります。従いまして、われわれはこの際には、当然診療をする。従って、一面におきましては担当規程違反を犯すというようなことにもなるのであります。この場合に、もしこれを拒否した場合はどうするか、また、監督官庁あたりの話を聞いてみますと、当然これは断わっていいのだというようなことも言っております。かようなことはわれわれ医療担当者といたしまして、われわれ医育担当者といたしましてはなかなか重大な問題だろうと考えております。
 なお、一部負担の拡大実施に関しては、受益者負担というような考え方が表われるように聞いております。これはわれわれといたしましては全く納得のいかないところでありまして、少くとも疾病にかかった者は、この疾病の治療のほかに、なお一般状態の何と申しまするか、回復に努力をする、非常に負担のかかるものであります。従って、疾病にかかった者は、受益者負担であるというような考え方につきましては、全く納得のいかないところでありまして、かようなことをもし強行するということになりますれば、むしろすっきりとこの保険の成り立ち、相互扶助という精神からいきましても、これは保険料の料率の引き上げを行う方がまだ妥当性があるのじゃないかという考えすら持つものであります。もちろんわれわれは、私は保険料の料率の引き上げに賛成するものではございません。むげに賛成するものではございませんが、さような理論さえ成り立つわけであります。以上が一部負担の拡大実施に関しまする点の私の考え方であります。
 続いて、機関指定に関しましては、大体今後学校を出て参りまする学生諸君が保険医となり、自己資本によって医院を開設し、相当の犠牲を払って参ります。しかしながら、今回のようなこの機関指定が制定せられますると、何といたしましても三年ごとの更改契約期間がある。しかも先ほど申し上げましたような検査あるいは質問、出頭に応じないというような理由によって直ちにこの指定を取り消されてしまうというようなことは、まことにわれわれが開業いたしましても不安定な線に追い込まれ、しかも、現行におきまして個人の開業医が保険業務を行なっておりますが、何らこれに対しては支障がないはずであります。特に私どもの歯科医療面に関しましては、大多数が個人開業医である。従って、これに二重指定をする理由がはなはだ薄弱である。むしろ必要ないという見解を持つものであります。従いまして、この点はわれわれに、私は何といたしましても納得のいかぬところである。今回衆議院におきまする付帯決議によりますると、個人に関しては何分の措置が講ぜられるというようなことが言われておりまするが、この内容については、はなはだまだ不明瞭である、不分明でありまするので、この点現段階におきましては、特に個人開業医に関しては十分にわれわれは考慮を練らなくちゃならないと考える次第であります。
 続いて、再三触れて恐縮でありまするが、この検査権等に関しての強化でありまするが、少くとも人格をわれわれの主体とする医療人として非常にこれは屈辱である。また、今回の改正がもし乱用せられますると、非常にわれわれは圧迫と、また、危険にさらされるわけでありまして、とにかく出頭に応じないで、また、質問に応じないという理由をもって直ちに指定を取り消すというようなことはあり得ないのでありまして、他のいかなる世界を見ましてもあまりにこれは苛酷である、こういうようなことは、医療機関に関係いたしまする私たちといたしましても、はなはだ納得のいかないところでありまして、むしろ一部におきまする不心得な医療担当者に関しては現行の規定によりましても十分にこれは取締りができるはずでありまして、かようなことも大いに考えていただかなければならない点であろうと考える次第であります。以上が具体的な点でございます。
 結論といたしましては、少くともこれから国民皆保険に突入する段階におきましては、医療担当者は今後ともある程度の犠牲はやはり忍ばなければならない段階にあることは明瞭であります。従って、国も、被保険者も医療担当者も、真にお互いにその立場を自覚し、そうしてこの保険機構を盛り立てるというところになければならないと考えるのでありまして、従って、もっと一歩進めまして、先ほど申し上げましたような不合理の線を総合的にこの際十分に検討し、医療担当者側の意見も十分に徴されまして、あらためて根本的な方策を立てられることが、私どもは医療保険の百年の大計を立てるゆえんであると考えるのであります。従いまして、この際、この参議院の良識におかれまして、今回の法律案が一応これはたな上げせられまして、あらためて総合的施策のもとに出発をせられるよう、格別なお取り計らいを私はこいねがうものでありまして、また、さような線が出まする際には、医療機関はもちろん、全医療担当者におきましても、必ずこの総合施策に関してはきん然御協力をするであろうということも私は申し上げる次第であります。
 以上をもって公述を終ります。


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