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歯科技工士・岩澤 毅

安川 寿之輔 (著) 福沢諭吉のアジア認識―日本近代史像をとらえ返す [単行本]

2010年09月24日 | amazon.co.jp・リストマニア
史料批判、史料吟味能力の欠如が論争を呼び込んだ書, 2010/9/24

By 歯職人

 本書読後、安川の「福澤諭吉を批判したい」「福澤諭吉を断罪した」「先行研究者の丸山真男、羽仁五郎他を批判したい」「司馬遼太郎は嫌いだ」との底意と安川が信奉するイデオロギーが見えてしまう作りの一冊です。スターリン全盛期のソ連、文化大革命期の中国もかくあったのかと想像させる憑依した文体が読む者を疲れさせます。本書は、後述の平山洋氏より論破されるために生まれてきた書と言ったところです。平山洋氏の主張は後に『福澤諭吉の真実』(文春新書 2004/08)にまとめられている。
 安川の本書と平山本を比較し、各版(福澤自身によるものと、福澤没後のもの)の『福澤諭吉全集』他初出紙誌史料に対する吟味の姿勢、史料批判能力から、判定は平山の技ありを思わせる。
 史料の吟味能力を鍛えず、福澤生前の『全集』と後の編纂による『全集』の差異の意味を考えそれに気付き、他の資料にもあたる基本的な動作の忘却が、大きな汚点を呼び込み、一躍「著名」となった一例です(安川・平山論争)。全集編纂者・先行研究者の負の遺産に安易に追従した安川の責任は、指弾されてしかるべきでしょう。
 己の論の根拠とした資料が砂上の楼閣であった時、研究者はどのように対処すべきか、その身の振り方を含め難儀な問題です。
 さて、潔い安川を見たいが、2010年現在(参照:『週刊金曜日』8月27日号■安川寿之輔・名古屋大学名誉教授に聞く/虚構の「福沢諭吉」論と「明るい明治」論を撃つ /歴史を歪めた丸山眞男と司馬遼太郎の「罪」)も無理な模様です。
 次に企画される『福澤諭吉全集』は、慶應義塾等の手により福澤自身による『福澤諭吉全集』に回帰すると思われます。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4874982506/ref=cm_cr_mts_prod_img

第9回:『時事新報』論説をめぐって(1) ~論説執筆者認定論争~
http://www.keio-up.co.jp/kup/webonly/ko/jijisinpou/9.html

第10回:『時事新報』論説をめぐって(2) ~「我輩」は『時事新報』である~
http://www.keio-up.co.jp/kup/webonly/ko/jijisinpou/10.html

敵から見たら(佐高 信) 2010/9/10
http://www.kinyobi.co.jp/backnum/data/fusokukei/data_fusokukei_kiji.php?no=1354

『福沢諭吉の戦争論と天皇制論』の逐語的註
http://blechmusik.xrea.jp/d/hirayama/h29/

フクザワユキチノアジアニンシキ ニホンキンダイシゾウヲトラエカエス
福沢諭吉のアジア認識―日本近代史像をとらえ返す

安川 寿之輔【著】
高文研 (2000/12/08 出版)

321p / 19cm / B6判
ISBN: 9784874982501
NDC分類: 289.1
価格: ¥2,310 (税込)

詳細
『福沢輸吉全集』21巻から、朝鮮・中国に関する発言を洗いだし、そこに貫流する蔑視と偏見、帝国主義的指向を直視することにより、丸山真男はじめ先行研究がつくりだした“福沢神話”を根底から打ち砕く問題作。


序章 福沢諭吉研究の七不思議(帝室「政治社外」論と“天皇の海外出陣”提案;定式「一身独立して一国独立する」の誤読 ほか)
第1章 初期啓蒙期の福沢諭吉の国際関係認識―丸山真男「福沢諭吉論」を検討する(「傍若無人」「切捨」御免「無情残刻」「パワ・イズ・ライト」の国際関係;初期啓蒙期の国際紛議―台湾出兵と江華島事件 ほか)
第2章 中期の福沢諭吉=保守思想の確立―壬午軍乱・甲申政変・「脱亜論」(保守思想への過渡期―『通俗国権論』と『民情一新』;保守思想の確立―『時事小言』と『帝室論』 ほか)
第3章 日清戦争期の福沢諭吉―朝鮮王宮占領・旅順虐殺事件・閔妃殺害・台湾征服戦争(福沢諭吉の戦争キャンペーン―居留人民の保護という口実;再び「文明史観」による侵略の合理化 ほか)
終章 アジア太平洋戦争への道のり―福沢諭吉に敷設された「暗い昭和」への軌道(最晩年の福沢諭吉;アジア太平洋戦争への道のり―「明るくない明治」から「暗い昭和」への道 ほか)
資料 福沢諭吉のアジア認識の軌跡

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