城山三郎に突き付ける刃
投稿者 歯職人 投稿日 2015/11/29
『宿澤広朗 運を支配した男』を読み、著者の加藤仁さんに興味を持ち、加藤さんの著作リストの中から少しはなじみのある城山三郎さんを取り上げた本書を手にした。
本書は、休刊となった総合月刊誌『月刊現代』(講談社発行)の最後の2号(平成20年12月号、平成21年1月号)に発表された原稿に大幅に加筆されたものです。総合月刊誌という文化、『月刊現代』を発表の場としてきた作家、そして歴代の編集者にとって、意味のあるラインアップとなった号なのであろう。
ベストセラー作家としての城山三郎を取り上げた多くの書籍や記事のある中、直接面識のない立場の加藤さんが評伝に着手する迷いなどが、文章から滲み出ている。加藤さんは、大学を留年し生活の為に就職した出版社での知られざる城山さんとの縁から説き起こし、ご自分が書くことの意味を確認して行く。
そして、城山さんが遺した膨大なメモ類と蔵書や資料の書込みから、城山さんの人生を再構成し、その思考の流れに迫る。海軍特別航空隊での軍隊生活、経済学者として生活の糧を得る生活、経済小説と呼ばれる分野を切り拓く不安定な生活、それらの各時代が、丁寧に描かれていく。
そして、本書の圧巻は第十章勝負の時、第十一章「城山三郎」という作品、終章果てしなき戦いで繰り広げられる、加藤氏による城山三郎氏の晩年の仕事の質と生き方に対する問いかけ、いわば「過去に取り組んだ、重い仕事からの逃避」、さらには「ち密な取材行った「足軽作家」の放棄」を、大岡昇平氏と城山三郎の対比の中に描く。ある種目標とし、一つの壁とも見定めていたであろう城山氏に、トコトン切り込んで行く。
礼を失わない節度を持ちながらも、城山氏の内面に迫り、作品という結果に評論を加える。読み応えのある一冊です。
http://www.amazon.co.jp/%E5%9F%8E%E5%B1%B1%E4%B8%89%E9%83%8E%E4%BC%9D-%E7%AD%86%E3%81%AB%E9%99%90%E3%82%8A%E3%81%AA%E3%81%97-%E5%8A%A0%E8%97%A4-%E4%BB%81/dp/4062153416/ref=sr_1_14_twi_tan_2?ie=UTF8&qid=1448326927&sr=8-14&keywords=%E5%8A%A0%E8%97%A4%E4%BB%81
城山三郎伝 筆に限りなし
加藤 仁【著】
講談社(2009/03発売)
サイズ B6判/ページ数 310p/高さ 20cm
商品コード 9784062153416
NDC分類 910.268
内容説明
城山三郎は「経済」を恐れなかったが、「文学」を畏れていた―。1万2000冊の蔵書、無数のメモ、書簡、日記…段ボール300箱に収められた未発表資料をもとに描き尽くす、昭和と格闘した作家の生涯。
目次
最後の取材旅行
城山メモ
「商い」の父、「皇国」の息子
長き孤独
作家への道
波紋と代償
文壇初年兵
烈しき怒り
疾風怒涛の季節
アメリカに求めた糧
勝負のとき
「城山三郎」という作品
果てしない戦い
著者紹介
加藤仁[カトウヒトシ]
昭和22年、愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、ノンフィクション作家として独立。以来、評伝、ドキュメント、ルポルタージュなどを手がけ、生活者の視点から取材執筆活動をつづける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
1万2000冊の蔵書、無数のメモ、書簡、日記……段ボール300箱に収められた未発表資料をもとに描き尽くす、昭和と格闘した作家の生涯。