長倉幸男の短編書庫

オリジナル短編を気ままに掲載してます。

短編⑭

2024-07-24 | 日記

長嶋幸助は静岡市に住む会社員で、彼の心を動かすイベントの一つが清水七夕まつりだ。仕事の合間に少しの自由時間を見つけ、今年もこの美しい祭りを楽しみに訪れることにした。

七月の夜、幸助は清水駅に降り立ち、駅前の通りを歩き始めた。通りは色とりどりの七夕飾りで埋め尽くされ、提灯の柔らかな光が周囲を幻想的に照らしていた。幸助は心地よい夏の夜風を感じながら、屋台の間を歩いていた。

「焼きそばにたこ焼き、何を食べようか」と幸助は独り言をつぶやきながら、出店の並びを見渡していた。すると、昔の同僚である宮田一郎が目に入った。

「一郎、久しぶりだな!」と幸助が声をかけると、一郎も驚いたように振り返った。

「幸助!まさかここで会うとは思わなかったよ。元気だったか?」

「おかげさまでね。仕事はどうだ?」

「忙しいけど、なんとかやってるよ。お前は?」

「俺も同じさ。でも、こうして祭りに来るとリフレッシュできるんだ」

二人は昔話に花を咲かせながら、屋台で買った焼きとうもろこしを片手に、通りを歩き続けた。

「ところで、一郎。七夕まつりには何か特別な思い出でもあるのか?」と幸助が尋ねると、一郎は少し照れくさそうに答えた。

「実は、ここで初めてデートした相手と結婚したんだよ。だから、毎年必ず来るようにしてるんだ」

「それは素敵だな。じゃあ、今夜も奥さんと一緒なのか?」

「いや、今日は彼女が実家に帰っててね。独りで来たんだ」

幸助は笑って、「じゃあ、今日は二人で祭りを楽しもう」と言い、一郎を連れて歩き回った。

二人はさまざまな屋台で食べ物を買い、飾り付けられた通りを眺め、笹に願い事を掛けたりした。そして、最も美しい場所を探して七夕飾りの写真を撮った。

「幸助、ありがとうな。久しぶりに心から楽しめたよ」と一郎が感謝の言葉を口にした。

「俺もだよ。一緒に来て良かったな」と幸助も応えた。

夜が更け、祭りの喧騒が少しずつ静かになってきたころ、二人は再会を約束して別れた。幸助はその後も一人で少し歩き回り、夜空に輝く星を見上げながら、心地よい疲労感に包まれていた。

「また来年も来よう。そして、今度は誰か特別な人と一緒に…」幸助はそう思いながら、清水七夕まつりの夜を心に刻んだ。静岡の夏の夜は、彼にとって忘れられないものとなった。