短編⑭
薄暗い室内に、雨音が静かに響き渡る。窓辺に置かれた古いオルゴールは、かすかにメロディーを奏でている。その音色に誘われるように、少女はオルゴールの前に座り込んだ。
少女の名前はサキ。幼い頃から病弱で、外の世界を知ることはほとんどなかった。唯一の友人は、このオルゴールと、窓から見える景色だった。
ある雨の日、サキはオルゴールの音色に混じって、別の旋律を聴いたような気がした。それは、これまで聴いたことのない、美しいメロディーだった。
音色に導かれて、サキは窓辺へと向かう。雨に濡れたガラス越しに、一人の少年が立っているのが見えた。少年はサキと同じように、雨の中をじっと見つめている。
二人は言葉も交わさず、ただ互いを眺めていた。しかし、その視線には、言葉よりも深い理解と共感があった。
雨音が止み、空に虹がかかると、少年はそっと微笑み、サキに手を差し伸べた。サキは勇気を出して手を握りしめ、二人は初めて言葉を交わした。
その日から、サキと少年は親友となった。二人は雨の日になると必ず会って、オルゴールの音色を聴きながら、色々な話をした。
少年はサキに、外の世界の様々なことを教えてくれた。木々の香り、風の感触、太陽の光。サキは、これまで想像もできなかった世界に心を奪われた。
しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。少年は病に倒れ、遠くに旅立ってしまった。
サキは悲しみに暮れたが、少年との思い出を胸に、強く生きようと決意した。そして、少年が教えてくれたことを胸に、外の世界へと踏み出すことを決意した。
窓辺のオルゴールは、今でも静かにメロディーを奏でている。その音色は、サキにとって、永遠に大切な友人の存在を思い出させてくれる。
雨の日になると、サキはいつも窓辺に立ち、空を見上げる。虹がかかっていることを願って。そして、少年との約束を思い出す。
いつか、また会える日まで。