短編⑬
長嶋幸助は静岡に住む普通の会社員だ。毎年夏になると、地元で開催される安倍川花火大会を楽しみにしている。今年も例外ではなく、花火の夜を心待ちにしていた。
その日、幸助は仕事を早めに切り上げ、会場に向かうことにした。夕暮れ時に到着し、川沿いに広がる屋台を見て回ることにした。屋台の並びはまるでお祭りのようで、焼きそばやたこ焼き、かき氷などが所狭しと並んでいた。
「今年も賑わってるな」と幸助がつぶやくと、隣にいたおばさんが声をかけてきた。
「毎年これを楽しみにしてるんですよ。ここで食べる焼きとうもろこしは最高ですから、ぜひ試してみてください」
おばさんの勧めに従って、幸助は焼きとうもろこしを買った。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、一口かじるとその甘さと香ばしさに驚かされた。
「これは美味しいですね。お勧めありがとうございます」と幸助が言うと、おばさんは嬉しそうに笑った。
「どういたしまして。良い場所を見つけて花火を楽しんでくださいね」
幸助は礼を言い、良い場所を探して川沿いを歩いた。人混みの中、彼はふと一人の若い女性に目を留めた。彼女は一人で花火を待っているようで、どこか寂しげな表情をしていた。
「すみません、一緒に花火を見ませんか?」と幸助が声をかけると、彼女は驚いた様子で振り向いた。
「あ、はい。一緒に見てもいいんですか?」
「もちろんです。一人で見るより、誰かと一緒の方が楽しいでしょう?」
彼女の名前は里見彩香で、東京から一人旅で静岡に来ていた。花火大会のことを知り、急遽訪れることにしたが、一人で見ることに少し不安を感じていたという。
「花火大会は初めてなんですか?」と幸助が尋ねると、彩香は頷いた。
「はい、実は初めてなんです。静岡には来たことがなかったので、どうしても見たくて」
二人は話しながら良い場所を見つけ、花火の開始を待った。やがて夜が訪れ、花火大会が始まった。打ち上げ花火の音が響き渡り、夜空に美しい花が咲き誇る。彩香の目には大きな驚きと喜びが映し出されていた。
「すごいですね。本当に綺麗です」と彩香が感嘆すると、幸助も同感の意を示した。
「ええ、何度見ても飽きないですね。これが地元の誇りです」
花火が次々と打ち上がる中、二人はその美しさに感動し、心地よい時間を過ごした。
「幸助さん、今日は本当にありがとうございます。一人で見るつもりだったけど、一緒に見られて本当に良かったです」と彩香は感謝の気持ちを伝えた。
「こちらこそ、一緒に見られて楽しかったです。来年もぜひ見に来てください。その時はまた一緒に見ましょう」と幸助は微笑んだ。
「はい、ぜひそうします」と彩香も笑顔で答えた。
花火大会が終わり、二人は連絡先を交換し、また会うことを約束した。幸助の心には、美しい花火と新たな友人との素敵な思い出が深く刻まれた。彼にとって、今年の安倍川花火大会は特別なひとときとなった。