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時には目食耳視も悪くない。

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苦悩の天才音楽家にかけられたスパイ疑惑。

2020年04月06日 | 本の林
 今年はベートーヴェンLudwig van Beethoven(1770-1827)の生誕250年にあたります。
 日本ではすっかりおなじみの作曲家ですので、特に記念の年だからということと関係なく、毎年、毎月のようにコンサートで作品が演奏されています。

 ですから、今さらベートーヴェンについて新たな発見をしようというには無理があるかもしれません。
 一方で、研究しつくされている事物ほど、突拍子もない仮説が唱えられるということが、しばしば見受けられます。

 たとえば、奥の細道で有名な江戸時代の俳人松尾芭蕉が政府の密偵だったという説や、テレビの時代劇でおなじみの水戸黄門が全国を行脚して世直しをしたという説。
 水戸黄門が実際に旅をしたという証拠は何一つないので、ドラマでの活躍は完全なるフィクションですが、松尾芭蕉の場合、彼自身や弟子、友人・知人たちが残した記録から、行動範囲、移動に要する日数などを計算すると、尋常ではない行動力だということが指摘されています。

 ですが、以前から何度か書いていることですが、当時は印刷技術が未熟だったため、コピーは全て手書きで写していました。
 芭蕉自身が思い違いをして日付を書いた可能性も否めませんし、資料が模写される過程で、誤写や写し忘れなどの欠落がなかったとも言い切れません。

 果たして、本当に芭蕉がスパイ活動をしていたのかどうか。仮説はあくまでも仮説にすぎません。

 ところで、ベートーヴェンにも実はスパイ疑惑があります。
 ベートーヴェンが20代半ばから難聴に悩まされ、晩年にはすっかり聴力を失ってしまったということは有名な話ですが、実は、それは全くの嘘で、耳が聞こえないフリをして当時のメッテルニヒ政権の監視から逃れていたのではないかという説があるのです。

 その証拠として、ベートーヴェンが聴力を失ったとされる後も弟子たちのレッスンを続けていたことや、彼の身の回りの世話をしていた女中の発言に対して激怒したというエピソードが挙げられています。

 彼の最高傑作とも言われる交響曲第九番《歓喜の歌》Sinfonie Nr.9 d-moll op.125(1824)の初演の際、演奏が終わっているにもかかわらず、指揮をし続けたというエピソードがあります。

 この話ですが、本当は後世の作り話かもしれません。
 曲を作った本人ならば、実際に音は聞こえていなくても、演奏者の手の動きなどを見れば、どこを弾いているのかぐらい分かるはずです。

 ベートーヴェンほどの作曲家ならば、演奏者が弾き終わっているのに、曲が終わったことに気がつかないなんてありえない、と音楽畑にいる私は思ってしまいます。
 ですから、もしこのスパイ疑惑が本当だとしたら、ベートーヴェンがわざとそうしたとも考えられるのです。

 自分の耳が完全に聞こえないのだというフリをするために、曲が終わってもなお指揮をし続けたのだとしたら、とんだ食わせ者です。
 彼が1802年に書いた手紙、いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」として有名なベートーヴェン直筆の書簡もまた、難聴に苦しむ告白記になっているのですが、これもまたお芝居なのかと、疑いたくなってきます。

 学校の音楽室の壁に飾られていたベートーヴェンの肖像画はとても不機嫌で、怖い印象を受けましたが、実際にはサロンでピアニストとして活躍していた頃には、何人もの女性と浮き名を流していたようですし、『不滅の恋人』への熱い恋心をラブレターにして書き残すほどロマンティックな一面もあります。
 人は見かけによらないものです。。。


 研究者の中には、ベートーヴェンが書いた書簡こそがスパイ活動の証拠だと狙いを定めて、手紙に残された謎を解こうと日夜研究を続けている人もいるそうです。

 当時のヨーロッパは、今のように国の政権が安定しておらず、当局が政府を脅かす反乱分子に神経質になっている時代でした。
 言葉を使わなくても交流のできる音楽家たちの国際的な交友関係が、外交的観点から危険なものとして政治家たちの目に映ったでしょうし、事実、歴史的に音楽家が反逆者と見なされて、国外追放になることも少なくなかったとのことです。

 ベートーヴェンは作曲する際、構想を得るためによく散歩をして、あまりに没頭して歩くあまり、不審者として逮捕されたり、人生の中で60回以上も引っ越しをするなど、奇行が目立つ人でもありました。

 芸術家は変わり者が多いという見方もありますし、難聴の程度も症状もきちんとは把握されていません。
 日によっては、聞こえやすい体調の時もあったでしょうし、作曲の神経疲労で耳鳴りがしたり、全く聞こえなくなる時もあったかもしれません。

 いずれにしろ、今となっては真実は誰にも分かりません。
 今、私の脳裏には、ざまあみろと言わんばかりに盛大にアカンベーをしたベートーヴェンの肖像画が浮かんでいます。

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