あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

いつも君の傍に(SQ2)

2008年02月26日 | 世界樹の迷宮2関連


















崩れ落ちる黒狼に少女は覆い被さるように泣いた。
次から次へと零れ落ちる涙は、動かない狼の満足気な表情を浮かべた顔を濡らした。
大粒の涙は閉じて二度と開かない瞼の上へと伝い、まるで彼が泣いているかのように見えた。
少年達は何も言わず、その場にずっと立ち尽くしていた。
森に慣れた壮年のガンナーが太い幹を持って帰って来た。そして泣き続ける少女の華奢な肩に、そっと手を置く。
少女は涙に濡れた顔を上げた。

「彼を葬ってやろう。森の獣達に荒らされないように土の奥深く埋めてやろう。彼の主人の遺品と共に。分かるな?シャス。フロースガルもきっと、それを望んでいる」

シャスは溢れる涙を拭う事もせず黙って頷いた。
ハイ・ラガード公国でも有名なギルド「ベオウルフ」の聖騎士フロースガルとその忠実なる相棒クロガネは、仲間達の忠義の為、たった二人で百獣の王キマイラに挑み、その短過ぎる命を散らせたのだ。
初心者の冒険者達にアドバイスや忠告をくれるなど、フロースガルは親切で情の厚い男だった。
危険と隣り合わせな迷宮の中、彼と出逢う事で何度気持ちを和ませた事だろう。フロースガルはそんな優しい青年だった。
しかし彼はもうこの世には居ない。この迷宮の中、二度と出逢う事はないのだ。










<いつも君の傍に>





ギルドメンバーが多く滞在している「フローズの宿」の一室。
足許の大きな毛の塊にシャスは朝一番に転ぶのが日課になっていた。
華奢で軽いシャスが転がり身体の上に覆い被さって来ても、水色狼のジャスパーは全く気にも止めていない。
大欠伸をして顔を上げると、其処にあるシャスの顔に「おはよう」のペロペロをする。
シャスは掌ほどの舌で舐め回されてぐっしょりと濡れた顔を洗面器で洗う。毎朝これを繰り返している。
ジャスパーは世界樹の迷宮の5階でクロガネを葬って、ハイ・ラガード公宮に報告した後に立ち寄った冒険者ギルドで出逢った。
クロガネより遥かに大きな体躯の水色狼はハイ・ラガード公国でも数少ない種だと言う。
傷を負った大型の獣を保護した後、どう処理していいか分からず、冒険者ギルドに預けられたという。
シャスはすぐに飼い主になると名乗り出た。
仔牛ほどの大きさもある水色狼は金から朱に変わる瞳の色からジャスパーと名付けられ、小さなシャスの部屋で同居する事になった。
初めは飼えるかどうか不安もあったが、ジャスパーは思いの他、主人であるシャスに忠実で、拾ってくれた恩義に報いるかのように良く仕えた。
人間の言葉が分かるかのようにシャスの言う事は何でも良く利いた。
果ては世界樹の迷宮探索まで共に出るようになり、疲れたシャスを背に乗せて帰るまでにもなった。
シャスのいる処には必ずジャスパーがいる。小柄なメディックと大型獣のジャスパーが街中を歩く。
ハイ・ラガード公国では、この光景を当たり前のように受け入れつつあった。そんなある日の事だった。



第ニ階層の探索を始めた一行は、余りもの敵の強さと、相変わらず桁違いであるF・O・Eの強さに力不足を痛感していた。
6階でさえ先に進むのが困難になり、パーティのレベルアップと資金稼ぎの為、再度第一階層を入れ替わりで探索する事になった。
第一線のパーティとしてブシドーの雪之丞、ガンナーのヴィクトール、ペットのジャスパー、メディックのシャス、アルケミストのリュサイアの5人で磁界軸を通って第ニ階層へ上がり、5階に降りて来た。
森が燃えているような第ニ階層の雰囲気は何故か不安を感じさせるので、第一階層へ降りて来た途端、シャスは何故か安堵した。
横でジャスパーが鼻を鳴らし擦り寄って来る。主人の不安を敏感に感じ取ったのだろう。
自分の頭とほぼ同じ位置にある頬を寄せ、シャスはジャスパーの柔らかい毛の感触を確かめた。
ジャスパーの毛皮は敵と闘う際には、鋼鉄の刃を通さない程に硬くなる。
水色狼は選ばれた冒険者と共に闘う為、数々の特殊能力があるのだ。
レベルを幾つか上げ、実力確認の為に第ニ階層に再度上がる事になった。「アリアドネの糸」は持って来てある。
いざとなれば瞬時に街に戻る事が出来る。シャスはアムードの杖を握り締め、階段を昇って行った。
まるで雨のように、赤い葉が樹木から次々と舞い落ちている。まるで永遠に秋の森のようだ。
通常ならば綺麗だと紅葉を楽しめるほど美しい光景なのだが、シャスは何故か不安に思う。
まるで永遠に滅びの苦痛を味合わされているような気さえしてくるのだ。
しんと静まり返っている迷宮は、冒険者達を真っ向から拒否しているかのように黙している。シャスは小さく身震いした。

「ジャスパー。私の傍から離れちゃ駄目よ?」

まだ世界樹の迷宮に入るようになって間もないジャスパーは、無意味に啼く事もなく、耳をそばだて鼻を効かせ周囲を警戒している。
配置は前衛なのだが、不安そうに後衛から付いてくるシャスの影のように、ぴったりと脇についている。
他の3人もまるで一人と一匹だが親子のようだと目を細める。皆が気を抜いた、その一瞬の出来事だった。
ジャスパーが唸り大声で啼く。皆が周囲を警戒し武器を構える。しかし遅かった。

「シャス!避けろ!」

背後からカボチャのお化けのようなモンスターが襲い掛かってくる。間に合わない。
水色の炎を纏った姿は前回に来た際に見ている。F・O・Eだ。
メディックであるシャスの防御力では一発で即死だろう。シャスは杖を持った手で顔を庇い悲鳴を上げた。
殺される。
自分が死んでは探索を続けるのは困難だろう。また皆に迷惑が掛かる。
自分が死ぬという瞬間に、シャスはどうでもいいような事を色々思い浮かべた。
しかし雷のような大きな音がして足許に大きな塊が落ち、地響きがした。そして幾ら待っても自分への攻撃が来ない。
隣でリュサイアの声がした気がしたが、シャスは怖くて顔を上げられない。

「シャス!早くヒーリングを!ジャスパーが死んでしまう!」

シャスは我に返り、腕を下げ目を開けた。そして息を呑む。
足許に広がる血溜まり。
それはカボチャのF・O・Eの行く手を阻むように転がっているジャスパーから流れ出ていた。
シャスの脳裏に主人を思い、敵を取ってくれと西をじっと見詰めたまま動かなかったクロガネの姿が思い浮かぶ。
彼は主人であるフロースガルに百獣の王キマイラのいる場所が記された地図を託され、彼を残して闘いの場から逃がされたのだ。
身体中に傷を負い、血塗れになっても主人を思い、彼が死んだ場所を見詰め続けていたクロガネ。
彼はフロースガルが逝ってしまった事を知っていたのだ。
そしてキマイラが屠られたと知らされた時、自分もすぐに彼の許へ逝けると知っていた。シャスは悲鳴を上げた。

「ジャスパー!いやっ!…何で…!?何で庇うの!?何でよぉぉぉ!?」

シャスは横で苦戦するパーティの後ろで医療箱を開け、ヒーリングに必要な素材と薬品を取り出す。
しかし涙で手元が何度もぶれる。短い袖口で何度も目を拭い、か細い息しかしていないジャスパーに手を当てた。
名を呼ぶ主人の声にジャスパーは小さく啼いた。まるで「自分は大丈夫だよ」と言うかのように。

「シャス殿、まだ我々にはF・O・Eとの戦闘は無理だ。撤退する!」

雪之丞がアリアドネの糸を掴み逃走準備に入る。リュサイアとヴィクトールがジャスパーを護るように、その場に座り込んだ。
シャスも雪之丞の近くに寄る。アリアドネの糸が宙に舞い、5人を覆うように周囲を取り囲んでいく。
まるで結界のように金の光が5人を包み、F・O・Eは迷宮に入り込んだ冒険者達に手が出せず憤慨し周りの木々を薙ぎ倒していた。
やがて糸の先が街の方角へと伸びると、瞬時に5人はその場から消えた。



ジャスパーは一命を取り留めた。命に関わるような深い傷だったが、水色狼特有の回復力で順調に傷を治していった。
公国薬泉院の一室を借りて治療に専念させている。
冒険者ギルドに顔も出さず、ギルドマスターであるリュシロイに何も言わないまま、シャスは付きっ切りで看病していた。
このままではシャスの方が参ってしまうだろう。
リュサイアが見兼ねて公国薬泉院を訪れた。
個室のドアは開け放たれていて、ハイ・ラガード公国の穏かな優しい風が透き通ったカーテンを小さく揺らしていた。
入口に背を向けて座るシャスを、リュサイアはじっと見詰めたまま立ち尽くす。

「何で…この子達は、私達ヒトに其処まで尽くせるのかな」
まるで独り言を囁くかのようにシャスが呟く。リュサイアは何も答えない。

「クロガネも…、ジャスパーも…、自分が死んで哀しむ人がいるって分からないのかな」
膝の上で握り締めた拳に大粒の涙が次々と落ちる。小さな肩を震わせ泣くシャスにリュサイアは口を開いた。

「分かっている。哀しませたくないとも思っている」
「じゃあっ…、じゃあ何故!?何故あんな事をしたの!?私、ジャスパーが倒れているのを見た時、心臓が止まるかと思った!ジャスパーが死んじゃったらどうしようって思ったら、目の前が真っ暗になって…!!どうしていいか分からなくなったの!!!」
シャスがあの時の事を思い出したのだろう。脳裏から消え去って欲しいかのように頭を振り、堪え切れなく泣き叫んだ。
リュサイアはただ淡々と語り続ける。

「でも、きっと彼等は思うんだ。自分はどうなってもいい。主人を、君を護りたいって」
「リュシィ…」
シャスが涙に濡れた頬を上げ振り返ると、哀しそうにリュサイアが微苦笑していた。

「ジャスパーを責めないでやってくれ。彼は当然の事をしたんだ。命を粗末にした訳でもないし、君を哀しませたくてしたんじゃないんだ。それに…」
言い淀んで俯いたリュサイアにシャスは首を傾げる。仄かに頬を染め顔を背けたままリュサイアが囁く。

「君を護りたいと思っているのは…ジャスパーだけじゃない…」
お互い真っ赤になったまま何も喋れずにいる二人の間、ジャスパーが金色の目を開け、小さく鼻を鳴らした。



例え傷付き、肉体を失ってしまっても彼等は主人の許に寄り添い続けるのだろう。
「ずっと一緒にいるよ。ずっと此処に居るよ。いつも君の傍に居るよ」聴こえない程の小さな声で囁き続けるのだ。永遠に。



<了>



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フロースガルは美形で親切でいい聖騎士でした。
これからもっともっと知り合っていくと思っていたのに、たった5階でお亡くなりに。
彼の遺品(地図)をクロガネから受取り、敵を取った後にクロガネに逢いに行くと感謝の印(ペットを仲間にするためのアイテム)をくれ、其処で息を引き取るんです。
ムゴい。
実際ペットには仲間の傷を肩代わりするスキルがあるんです。
それを見た際に「とんでもない…」と思い妄想。
実際はあるスキルを取るために必須なんですが迷っています。動物ネタ。地雷ですよね。











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