2021年12月5日(日)。第13回目「市川荷風忌」が開催されました。2年ぶりでしたが、一席ずつ開けて用意された会場では、予定の席数を埋めてたくさんのお客様にお越し頂きました。世の中はまだまだ気の許せない状態ですが、それでも多くの方にご応募頂き、お越し頂いてとても嬉しかったです。また、市川方面での生徒さんからも「抽選に当たりました!」と当選ハガキの写真とともにラインが届き、大変ありがたく思いました。
朗読の演目は永井荷風「にぎり飯」「春雨の夜」です。
「にぎり飯」では、焼け跡となった市川を舞台に千代子と佐藤のドラマが展開されるのですが、荷風の筆は物語を通して、 "時代と人間"をくっきりと浮き彫りにしています。荷風先生は友人知人、親戚縁者の無事を確認するために、空襲に焼け焦げになった瓦礫の街を訪ね歩いたというお話を本で読みました。荷風先生の目に映った、戦争と人間、時代。物語は作られたものでも、このような人たちが大勢いたのでしょうね。子供を背負ったま焼き出された女性たち、家族と死に分かれてひとりで、なにか商売を始めながら生き抜いた人たち。私は当たり前のように現代に生きていますが、今の世に私たちが存在しているのは、この時代を生き抜いた方々のお陰さまなのだと、作品を読みながら改めて思いました。
「白魚の腕」
~ 春雨の夜 ~
「この白魚は大変うまい。おかわりを貰おうか。」
「どうぞ、沢山御座いますから。」
と老妻は給仕に座っている女中を見返って、「掻き回すと中のものが崩れますから丁寧によそっておいでなさい。」
「先代も晩年には白魚と豆腐がお好きであったな。老人になると皆そういうものかな。」
老人はそのなき父と母を思出す瞬間だけ老人はおのれの年齢を忘れて俄に子供になったような何ともいえぬ優しい心になる。けれどもそれは全くその瞬間のことだけのことである。老人はもう六十九、其の妻は五十九になった。
演目のひとつ「春雨の夜」の一節です。
一番末の男の子、虎雄は今朝米国へ留学に行った。昨日の夜まで、茶の間の膳は三つあったが、今夜からは二つ。夫婦は二人きりの暮らしになった、そんな夜のお話です。
印象深いのは、白魚の吸い物です。
白魚といえば、江戸の春をはこぶ風物詩。
<昔は隅田川にも姿をあらわせたのだそうですね>
白魚のかたちをきれいに碗に浮かべるには
丁寧な下ごしらえがいるのだそうです。
そういう手間のまめやかさをおもう、ひと碗です。
子どもたちが皆巣立ってゆき、老夫婦は二人きりになります。
がらんとした茶の間。寂しく穏やかな夜に、春の雨がしとしとと降る。
二人の晩年の暮らしの始まりを、感じます。
ごく、数頁の短編です。
なんともしみじみとした、春の宵。
この作品をはじめて読んだ時
___ とても語りたくなりました。
読んでいて、じみじみとした静けさと老夫婦の居住まいが、とても好きだったからです。
12月18日(土)、19日(日)には、同じく市川市文学ミュージアムの、こんどはベル・ホールで、朗読シネマとひとり語りの公演を予定しています。
→ 関連ブログページ
お近くの方(もちろん遠方の方も大歓迎です)、是非お越しください。
公演中にお話ししましたが、入場料も¥500ですので、お誘い合わせの上お越し頂きたいと思っています。皆さま、心よりお待ちしております。
__さて、プチガーデナーの私ですが、お庭にチューリップの球根を3つ植えました。
永井荷風「葛飾土産」にも出てきますが、その中では『チュリップ』と言われていました。
ニンニクではありませんよ。…お饅頭でもありません。
れっきとしたチュリップのお花が咲きます。
真っ赤なチュリップが、ぽかんと口を開けて、3輪咲きます。
春が楽しみです🌷🌷🌷
それまでに冬の庭で寂しくなるといけませんので、ガーデンシクラメンでリースをつくりましたが、これは別途ブログでご紹介させて下さいね💐
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
長浜奈津子🌹
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